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2社会環境の変化に即した今後の方向性と考慮すべき点

 前述のエル・ネットに関する諸課題等(内的要因)に加え、様々な社会環境の変化(外的要因)によっても、現在のエル・ネットについて検討すべき時期が到来していると考えられる。

1. エル・ネットを取り巻く情勢
 
(1) 生涯学習を取り巻く環境の変化
 
1 「生涯学習」の広がり
   「今後の生涯学習の振興方策について(平成16年3月中央教育審議会生涯学習分科会「審議経過の報告」)」(以下「審議経過の報告」という。)において、「国民一人ひとりの学習ニーズを生かした、広い視野に立った多様な学習の展開等」として、「個々人が利用しやすく、学習意欲が高まるような学習機会の提供等を図っていくことが必要」と指摘されている。
 また、「生涯学習に関する世論調査」(平成17年7月内閣府政府広報室)(以下「生涯学習世論調査」という。)において、「生涯学習」という言葉を聞いたことがあるかどうか聞いた結果によると、前回の調査結果(平成11年・20歳以上、以下同)と比較すると、「聞いたことがある」者の割合が上昇(74.0パーセントから80.7パーセント)し、「聞いたことがない」者の割合が低下している。また、今後「生涯学習」をしてみたいか聞いた結果をみると、「してみたいと思う」者の割合が63.9パーセント、「してみたいとは思わない」者の割合が26.6パーセントとなっているなど、「生涯学習」に期待を寄せる者が着実に増えてきていることが分かる。
 さらに、経済社会構造の変化等に対応し、多くの人々が生涯を通じて学び続けることが必要と考えるようになっており、生涯学習に対する意欲は高まっていると考えられる。
2 ITの活用による「生涯学習」の変化
   「審議経過の報告」においては、「情報通信技術の急速な発展を踏まえ、ITの活用を大幅に拡充することにより、時間的・空間的な制約を越えて、いつでも、どこでも、誰でも学べる生涯学習社会の実現に向け、大きな発展を図る」ことが期待されている。
 また、「生涯学習世論調査」において、どのような生涯学習の機会が増えればよいと思うか聞いたところ、「公民館などにおける都道府県や市町村などの自治体の講座や教室を充実する」を挙げた者の割合が最も高く(37.9パーセント)、次いで「パソコン、インターネットを活用した学習機会を充実する」が2番目に高く(21.2パーセント)なっており、期待される生涯学習機会の提供形態が、ITの普及によっても変化してきていることがうかがえる。

(2) 情報通信分野の著しい変化
   近年の情報通信分野における著しい変化によっても、情報を伝達するための最適な手段に変化が生じてきている。
 
1 インターネットの飛躍的な普及
   平成10年末においては、インターネット利用人口は1,694万人、人口普及率は13.4パーセントであったが、その後の普及により、16年末においては利用人口7,948万人、人口普及率は62.3パーセントとなり、近年インターネット利用が着実に進展してきている(資料2-1(1))。また、インターネット接続方法に関しても、12年末においては自宅におけるパソコンからの接続方法は電話回線によるダイヤルアップ接続が5割以上を占めていたが、16年末にはDSL(Digital Subscriber Line:デジタル加入者回線)や光ファイバー等の回線を使ったブロードバンド接続の使用が6割を占めるなど、大容量・高速化が著しく進展している(資料2-1(3))。これらインターネットの飛躍的な普及、ブロードバンド化の急速な進展により、「いつでも・どこでも・誰でも」手軽に情報の提供や学習サービスの支援を受けられることが可能な環境が整備されてきたと言える。
 なお、インターネットを活用した生涯学習の取組として、「富山インターネット市民塾」の取組などが広がってきている(事例紹介1)。また、府中市生涯学習センターにおいては、パソコンを活用できるボランティアの取組が広がっている(事例紹介2)。
2 ブロードバンド料金の低廉化
   ブロードバンド料金の国際比較によると、我が国は国際的に最も低廉な料金となっている。(資料2-3)

(3) その他の社会的な情勢変化−市町村合併等
   現在、行政規模の拡大と効率化を図り、行財政基盤を強化する目的から、全国で市町村合併が進められている。平成11年3月31日に3,232あった市町村(一部事務組合等を除く)数は、17年12月5日時点で2,143となっており、さらに、今後は18年3月31日までに1,821以下となることが確定している(平成17年12月19日現在)。これらが社会教育行政の在り方に影響を与えることとなり、新たに広域的な行政サービスの提供が必要となり、中央公民館のサービス対象エリアの拡大や、従来中央公民館として位置づけられていた公民館が分館化するなどの状況が見られる。
 併せて、地方分権や規制緩和の流れの中において、平成15年9月の地方自治法の一部改正により指定管理者制度が導入されたことに伴い、公民館や青少年教育施設等の社会教育施設等においては専任職員が削減となる施設が増えていることなどにより、今後さらにエル・ネット機器の活用が困難になる施設が増えることが予想される。

2. 今後の方向性と考慮すべき点
 
(1) 今後の発信・提供の方向性
   前述のとおり、機器・設備の老朽化をはじめとする諸課題等により、数年後には現状のエル・ネットの継続が事実上困難な状況となることが予測されるとともに、これまでの活用状況をめぐる課題をみると、運用管理コストや操作性の面における課題を解決しながら、必要な情報を発信・提供する情報提供へ移行することが望ましい。
 このため、今後は、エル・ネットから、インターネットを活用した情報提供へと移行していく必要がある。
 なお、インターネットを活用した情報提供には、専用の高速ネットワーク経路を整備する占有型ネットワークと、一般的なオープン型のいわゆる商用利用のインターネット環境が考えられる。今後のシステムには技術の進展に対応した柔軟性や効率性が必要なことを鑑みると、占有型ネットワークを構築することは困難であるため、一般的なオープン型のインターネット環境の活用を前提とした情報提供とすることが考えられる。
 なお、インターネットの活用の検討に当たっては、以下の課題が存在することから、移行猶予期間、並存期間等を考慮する必要がある。

(2) インターネット環境における課題
   インターネットは前述のとおり広く普及してきている一方、全国に一律に情報を発信するためには、地域間格差など解決すべき課題が残されている。
 
1 デジタル・ディバイド
   デジタル・ディバイド(インターネット利用環境による格差)は一般に地域格差、所得格差、年齢格差が主要因とされる。
 都道府県別ブロードバンドサービス提供市町村の普及状況は、大都市圏においては FTTH(光ファイバーによるインターネット接続サービス)が提供されている自治体が多いが、まだ何らかのブロードバンドサービスが提供されていない自治体がある(資料2-2(1))。また、人口規模別ブロードバンドサービスの普及状況は、人口規模が5万人を超える自治体においてはADSLサービス(DSLサービスの一つ)、FTTH等が普及しているが、一方で人口規模が5千人以下の自治体においては、ADSLは50パーセント、FTTHは3パーセント程度しか普及していない(資料2-2(2))。今後は、地上回線が届かない地域への伝達方法等が課題となる。
 なお、年代別にみたインターネット利用率については、60歳代以上が著しい伸び率を見せているなど(資料2-1(2))、年齢的なディバイドは克服されていく傾向にある。
2 通信容量と通信速度の関係の課題
   インターネット上においては一地点の通信が混雑もしくは低速の場合、その前後のネットワークの速度が高速にかかわらず通信速度の最大値が混雑している一地点の速度に抑えられてしまう(これを「ボトルネック」という。)ことから、学習者の規模にもよるが、一度にアクセスした場合に、円滑に情報が入手できない場合が生じる。
3 回線使用の利用料金及び安定性の課題
   エル・ネットは国が衛星回線使用料を負担していたが、インターネット環境においては発信側、受信側それぞれにコストが生じる。また、現在のインターネット環境では発信側、受信側の環境に左右され、回線が不安定でトラブルが発生することもある。
4 著作権に係る課題
   インターネットによる情報伝達においては著作権の取扱に解決すべき課題が多く残されている。エル・ネット「著作権システム」ではエル・ネットの枠を超えた番組の活用について著作権者の事前了解をとることが想定されておらず、インターネットによる情報伝達にかかる著作権の権利処理方式については新たに確立する必要がある。その際には制作者側への著作権処理に関する意識啓発が必要となるが、併せて情報活用側においても著作物の利用に関する意識啓発が必要となる。さらに、活用側にとって利便性のある形としていくことが望ましい。

5 コンテンツ作成・二次利用に関する課題
   インターネット環境下でのコンテンツ加工・作成はできるだけ効率的に行うため、簡易ソフト等を活用したコンテンツ作成等のノウハウを蓄積し、その取組についても共有化することが望まれる。なお、インターネット環境下では長時間の番組の配信・視聴は困難であるため、短時間ごとの構成とすることや、情報活用者が視聴しやすい画面構成とすることが求められる。
 なお、「オープンカレッジ」などで蓄積された優良なコンテンツは、インターネット上でも視聴可能とすることにより、学習機会の選択肢を広げ、地域住民に幅広く情報提供が行われることが望ましい。その際は、個別に真にインターネット配信が必要かどうか合理的に判断するとともに、また、上述のとおり著作権処理を十分に行う必要がある。

(3) メディアの活用による生涯学習の振興の取組の継続
   生涯学習の振興を図るためには、メディアの持つ教育機能を活かし、学習への動機づけを効果的に行ったり、学習内容を興味深く理解しやすい形で解説したり、最新の情報や資料を提供するなど、時間的・空間的な制約を克服して多数の人に提供することが望ましい。このため、これまでエル・ネットの活用により培われた、学習機会の拡大のための取組、各地域間で教育・学習情報を共有化する取組等の成果については、情報を媒体するメディアが移行しても、次へつなげていくことが望ましく、今後も生涯学習の振興に寄与していくことが望まれる。
 なお、今後の情報提供のシステムについては、「今後は、近年の情報通信技術の発展に適切に対応」し、「学習を振興する施策を講じる」ことにより、「生涯学習社会を飛躍的に進化・発展させることが必要」である旨が指摘されている「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の振興方策について」(平成12年生涯学習審議会答申)の考え方を活かすことが望ましい。


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