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1エル・ネットの経緯及び活用の取組と課題

1. エル・ネットの設置の経緯
   「エル・ネット(spanel-Net:Education and learning Network)」は「教育情報衛星通信ネットワーク」として、全国規模での教職員研修の充実や、青少年問題等の緊急性の高い教育上の課題に対応するとともに、学校週5日制の完全実施に向けて土曜日を中心に子どもたちの興味を引く各種講座等のプログラム等を送信し学校外活動の充実を図ることを目的に、衛星通信を使って全国の学校、社会教育施設等に教育情報を発信するネットワークとして、平成11年7月から運用が開始された。
 この数年前から、時間的・空間的な制約を超えて多数の人々に学習の機会を提供できる衛星通信の活用に大きな期待が寄せられており、文部省(当時)においても平成7年度から衛星通信を活用した教員研修プログラムや、へき地学校を対象にした衛星通信活用の研究開発事業等、8年度からは「衛星通信利用による公民館等の学習機能高度化推進事業」が実施されていた。このような経緯から文部省として衛星通信のネットワークを整備することが期待され、10年の補正予算を契機にエル・ネットが整備された。
 また、「衛星通信を活用した教育情報通信ネットワークの在り方に関する調査研究協力者会議」(平成9年設置)の同10年「教育関係職員の研修における衛星通信の活用の推進について」の中で、エル・ネットの具体的な活用方策について提言がなされた。
 さらに、平成10年生涯学習審議会答申「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」において、エル・ネットを活用した「全国規模の社会教育事業の実施や社会教育職員研修の充実」への期待が提言されたのをはじめ、11年同審議会答申「学習の成果を幅広く生かす」においては衛星通信を活用した公開講座について提言がなされ、次いで12年同審議会答申「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の推進方策について」においてもエル・ネットの活用方策について提言がなされるなど、関係各方面から有効な活用が期待されていた。

2. エル・ネットのしくみ
   エル・ネットは、通信衛星スーパーバードB2号機(運用開始当時はB号機)を使用し、VSAT(Very Small Aperture Terminal)というシステムを活用することより、回線の制御を国立教育政策研究所のHUB局で行っている。このシステムでは、送信機能を持つVSAT局に通常必要とされる無線従事者は不要である。VSAT局は文部科学省や教育関係機関をはじめ、全国の教育センター等に設置されている(資料1-3参照)。
 エル・ネットは、広域性・同報性に優れた衛星通信の特性を利用し、平成17年12月現在、送受信局(VSAT局)35箇所、受信局2,044箇所を結ぶネットワークとして発展してきた。

3. エル・ネットの活用の取組と成果
   エル・ネットを活用し、教育、科学技術・学術、文化、スポーツに関する情報を、全国の教育委員会、社会教育施設、学校等に放映している。具体的には行政上の喫緊の課題に対する取組の説明、地方単独では実施できない教職員研修の講座、大学等の公開講座、地域での先進的な学習活動事例の紹介などを放映している。

 
(1) 教育情報の発信についての取組と成果
   エル・ネットの活用により、文部科学省の行政情報を地域において直接視聴したり、教職員研修を地域で受講したりすることが可能となるなど、国等の情報を地域にいながらにして入手・活用することが可能となった。

(2) 生涯学習コンテンツの活用の取組と成果
   エル・ネットで放映される生涯学習コンテンツは、単に番組を放映・視聴するのみではなく、各受信局の主催事業の中で活用されることにより、生涯学習の内容を豊かにし、学習機会の選択の幅を広げるなど、生涯学習の振興によい効果を生み出している。
 
1 「子ども放送局」
   「子ども放送局」は、「学校の休業土曜日等に、全国の公民館、図書館、博物館等の受信先に、スポーツ選手等のヒーロー・ヒロインや第一線の科学者などが発信会場から直接語りかけるなど、子どもたちに夢と希望を与える番組を提供する」ことを目的に、平成11年度から文部省の主催事業として開始され、13年4月以降独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター(以下「国立青少年センター」という。)の主催事業として実施されている。ものづくりや科学の実験などをスタジオと一緒に体験できる「チャレンジ教室」や、テレビ電話を通じて直接出演者と対話できる「夢スタジオ」など、工夫を凝らした事業が展開されている。各受信局で事業に組み込まれるなど、子どもの体験活動事業に有効に活用されている。
2 エル・ネット「オープンカレッジ」
   エル・ネット「オープンカレッジ」(以下「オープンカレッジ」という。)は、質の高い大学等の公開講座を広く全国に提供し、各地で生涯学習のための講座として活用されることを目的に、平成11年から開始された。その後6年間において、延べ234大学、726講義を収録・放映してきており、生涯学習機会の拡大の取組が展開されてきた。
3 社会教育情報番組「社研の窓」
   「社研の窓」は、各地域における社会教育の振興や事業計画の企画立案に資することを目的に、平成15年度から国立教育政策研究所社会教育実践研究センター(以下「社会教育実践研究センター」という。)の事業として実施されている。全国の特色ある実践事例の紹介や、社会教育実践研究センターにおける研究セミナーや調査研究の成果等の最新情報が提供され、地域における社会教育事業の実施に活用されている。

 これらをはじめとする講座等の提供により、生涯学習の機会を拡大し、生涯学習の内容を高度で豊かにするとともに、県民カレッジや市民カレッジにおいて遠隔講座を活用する取組、コンテンツ提供側と学習者をつなぐボランティア等の支援による事業展開、番組のライブラリー化による学習者支援などの取組が展開されてきた。
 さらに、衛星通信とインターネットの併用による取組として、「子ども放送局」は平成15年度から「インターネットTV」として、「社研の窓」は16年度からインターネット上での動画配信の取組を実施してきている。また「オープンカレッジ」においても一部のコンテンツを実証実験的にインターネット上で提供している。

(3) 生涯学習分野における双方向性を持った取組
   各地での学習効果を上げることなどを目的に、講師等に直接質問等をする機会を確保する双方向性を取り入れた事業が実施されてきた。「オープンカレッジ」においては、モデル事業としてVSAT局の講師との質疑応答をはじめ、実験的に携帯電話によるテレビ電話との組み合わせによる取組が実施された。
 また、「子ども放送局」においては、毎月「チャレンジ教室」や「夢スタジオ」の番組で、副会場となった受信局にテレビ電話を貸し出す方法により比較的容易に双方向性を確保し、全国各地で子どもたちが直接体験を共有できる参加型・体験型の事業が展開されてきた。

(4) 地域の教育情報の共有化の取組と成果
   地方自治体に設置された29箇所のVSAT局(以下「地方VSAT局」という。)からの情報発信機能を活用して、地方自治体が主催する教職員研修講座や生涯学習講座を広く放映することが可能となった。各地においては、全国に放映することで研修成果発表等のモチベーションの向上が図られるとともに、他地域の取組を直接入手・活用することにより、教育効果の向上に資する取組として活用されている。
 地方VSAT局から定期的に放映された取組として、「教職員研修講座(北海道立教育研修所)」、双方向学習番組「ぴぁねっと岩見沢(岩見沢市自治体ネットワークセンター)」、岩手県立生涯学習推進センター主催の公開講座「いわて学講座(岩手県立総合教育センター)」、教員研修番組「晴れの国おかやまアワー(岡山県教育センター)」などがあり、各地域で情報発信のノウハウが蓄積されるとともに、全国で有効に活用が図られてきた。
 さらに、学びを通じた地域再生・まちづくりのための生涯学習機会の拡大が期待されていることを受け、平成17年度からは地域の教育情報の共有化の促進を目指し、各地域で制作した学習コンテンツを全国に発信し、活用する「地域における教育情報発信・活用促進事業」が開始された。

(5) 「著作権システム」の運用をはじめとする発信・活用ノウハウの蓄積
   さらに、独自の著作権システムの運用を含め、番組を収録・編集・発信し、活用する際のノウハウが各地で蓄積されてきた。
 エル・ネット「著作権システム」は、エル・ネットの番組を一般のテレビ放送とは異なり、あらかじめ番組の著作権処理を行い、受信局において録画・貸出等の活用レベルを設定することにより広く活用することを前提としたシステムであり、これにより幅広い活用がなされるとともに、著作権契約・処理におけるノウハウの蓄積の観点においても大きな成果が得られた。

4. エル・ネットをめぐる課題
   上述のとおり、エル・ネットの活用により、全国での学習活動の活性化が進むなどの一定の成果を収めてきた一方で、種々の課題が生じてきた。

 
(1) 通信機器(ハード)をめぐる課題
 
1 機器・設備の老朽化にかかわる課題
   HUB局の機器・設備の老朽化等が進んでおり、平成16年度中には、約100件の故障が報告されている。通信設備における機器耐用年数は10年が目安とされるが、耐用年数経過後において設備を更新していくことは、財政的負担も大きく困難が予想される。
 また、多くのVSAT局・受信局は、耐用年数の目安である6年経過後も、メンテナンスを行うことにより活用されているものの、VSAT局においては財政事情が厳しさを増す中で経費の確保が非常に困難な状況にある。
 このような状況から、受信局においては老朽化等の理由により活用を希望しない施設が出てきており、平成16年度末においては無償貸与されていた約1,000施設のうち約180施設から受信設備の返却申請があった。(資料1-6)
 さらに、エル・ネット関連機器メーカーにおいては、平成18年3月をもって、VSAT局設備及び受信設備の販売を終了することが決定された。したがって、今後は、新規導入が不可能な状況であるとともに、エル・ネットシステム機器が他の通信システムにそのまま転用できないことから、エル・ネットのネットワークを発展させていくことは事実上不可能となった。
 
2 衛星通信システムの課題
   平成10年当時は時間的・空間的制約等を緩和するための手段として他のツールより優位であった衛星通信であるが、現時点においては、運用管理コストや操作性の点においてもインターネットが優位になっている。なお、国全体で見た場合には、衛星通信システムは耐災性という特性を活かした災害対策向けが中心となりつつある。

(2) 各受信局・VSAT局での活用状況をめぐる課題
 
1 受信局での活用状況をめぐる課題
   受信局においては、番組を活用し生涯学習に関する講座の充実等の取組が見られた。一方で、活用が促進されなかった受信局もあり、その主な理由として以下の点が指摘されている。
 
(ア) 設置箇所等の課題
   受信設備が十分に普及しなかったことにより、視聴希望者がいる地域に受信設備が設置されていなかったり、受信局に足を運ばなければ視聴することができないなど、十分な視聴希望に応えることができなかった。地方の町村部等においては学習者のために受信局までの交通手段の確保が必要なところもあった。
 さらに、一般地域住民に対する広報活動等について課題があった。
(イ) 活用上の課題
   受信設備のある施設においても放映・視聴のためのスペース確保が容易ではなく、利用頻度の高い公民館にあっては、視聴場所の確保が困難な場合があった。
 受信機器(チューナ)から接続可能なテレビモニターが施設の事務局内にしか設置されておらず、当初から一般利用者が視聴することが物理的に困難な場合や、図書館においては音量を上げることができない場所に設置されている場合があった。これらは、受信機器(ハード)設置の段階において、どのようなコンテンツ(ソフト)が放映されるか未定であったことなどが原因と考えられる。
 また、社会教育と学校教育との連携が不十分であり、受信設備が設置された学校等における活用方策が十分に検討されなかったことが考えられる。さらに、受信局には双方向性が確保されていないことについても課題であった。
(ウ) 機器操作の課題
   放映時間に併せて録画・視聴しなければならないため、多忙な施設職員は対応できない場合があったことや、機器操作や配線接続が難しく、円滑に行えない場合があったことも活用が促進されない一因となった。

 これらの課題を解決するために、利用者自身による学習情報へのアクセスを容易にしていくことが必要である。
2 VSAT局における活用の課題
   VSAT局設備についても、汎用的でないエル・ネットのみに対応する機器が使われているため、各地方VSAT局の活用が促進されない部分があった。
 また、VSAT局の双方向機能を生かし、独立行政法人教員研修センター(以下「教員研修センター」という。)が実施する教員研修講座においては副会場から講師との質疑応答の機会として有効に活用されてきた一方で、事前準備、機器の調整、リハーサル等、担当者の負担が大きいことが課題となっている。さらに、運用・維持管理のための人的・予算的負担が非常に大きいことがシステムとしての根本的な課題であったと考えられる。

(3) 発信すべき教育・学習情報の課題
   エル・ネットにおいては、利用者の意見等を十分把握することができなかったこと、適時に評価が行われなかったこと等も活用が低い水準にとどまっている原因の一つと考えられる。今後は、それぞれの情報内容について、目的を達成するためにどのようにすべきかを精査し、多様性を確保する必要がある。
 各番組において、情報の内容自体や番組の時間の長さなどの制作の仕方も含めて、情報提供の在り方に課題があるものもあった。例えば、「オープンカレッジ」に関しては、質の高い大学等の公開講座を広く全国に提供することを目的としていたため、「講座をそのまま収録し放映する」形式としており、調査研究としての成果が得られた一方で、受信局の情報活用の目的や学習者のニーズに必ずしもマッチしていないなどの指摘もあった。


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