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2.諸外国のバウチャーに関する状況について
(1) |
アメリカの制度
アメリカの教育バウチャー(制度名として「バウチャー」とは呼ばれていない)は、
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低所得者対象 |
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質の低い公立学校からの生徒の転校機会の提供 |
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障害のある生徒対象 |
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公立学校不足の地域の生徒が私立や学区外に通う際の学費補助 |
の4タイプに整理され、全国6地域で実施されているが、その評価は賛否両論様々である。
地域 |
開始 |
対象 |
ウィスコンシン州
ミルウォーキー市 |
1990〜91年度 |
低所得者 |
オハイオ州
クリーブランド市 |
1996〜97年度 |
低所得者 |
ワシントンD.C. |
2004〜05年度 |
低所得者 |
フロリダ州 |
1999年 |
質の低い公立校からの生徒の転校機会 |
2000年 |
障害のある児童・生徒 |
バーモント州 |
1869年 |
非宗教系の私立学校、
学区外の公立学校 |
メイン州 |
1954年 |
非宗教系の私立学校、
学区外の公立学校 |
バウチャーの導入によって、学力が向上した(注1)という報告や、学力向上は見られなかった、あるいは一部学力低下が見られた(注2)、という報告が両方存在し、定まった結果は得られていない。また、親の満足度が上昇したとの報告がある一方で、バウチャーを受給できなかった親からの苦情が発生する(注3)等の問題が生じたとの報告もされている。
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(注1) |
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Gardner, John, How School Choice Helps the Milwaukee Public School, American Education Reform Council January, 2002 |
(注2) |
Witte, John F., et al., The Milwaukee Parental Choice Program Private and Public Education I Wisconsin -Implications for the Choice Debate , 1995, Greene et al., Lessons From the Cleveland Scholarship Program, 1997 |
(注3) |
教育バウチャー制度に関する報告書,株式会社日本総合研究所,2005 |
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(2) |
イギリスの制度
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保育バウチャー(廃止)
義務教育就学前年の子ども(4歳児)を対象に、試験的に実施した制度。1996年4月に導入したが、1997年5月の総選挙にて、かねてから制度に反対していた労働党が政権を取り、直ちに廃止を決定(実際の廃止時期は1999年6月)。
施設間の競争激化と事務コストの増大が廃止理由(注)。
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(注) |
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The Secretary of State for Education and Employment and The Secretary of State for Social Security and Minister for Women by Command of Her Majesty, Meeting the Childcare Challenge, 1998. |
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補助学籍制度(Assisted Places Scheme)(廃止)
優秀だが経済的余裕のない家庭の子どもに対して、私立校の授業料を負担した制度。1981年に導入したが、導入当初から一貫して反対していた労働党が1997年に政権を取り、直ちに廃止。
一部の生徒に特権的な教育を与えるもので、社会的公正に反する(労働党の見解)とされたことが廃止理由。 |
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(3) |
ニュージーランドの制度
1989年、当時の労働党政権下において決定された「明日の学校」(注1)計画の下で、1991年に通学区を廃止し、私立校も含めた全国的な学校選択制を導入(注2)。また、学校教育費のうち、運営費を生徒数に応じて配分する等、学校予算を生徒数にリンクさせる制度も併せて導入。
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(注1): |
学校への権限委譲等を推進する教育法の制定を中心とした教育システム全般にわたる改革に関する計画 |
(注2): |
1975年の統合政策により、同国の私立校はほとんど準公立化されている。 |
親の教育・所得レベル等から構成される社会経済状況指標(ニュージーランド教育省による。以下「SES」という。)と人種構成により、学校を分類し分析を行ったところ、初期時点で、親の教育・所得レベル等が低く少数民族比率などが高かった学校と、親の教育・所得レベル等が高く少数民族比率などが低かった学校とで、生徒数、SES、学業成績等に関する格差が拡大した(初期条件の差が競争結果の差に直結した)(注)と報告されている。
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(注) |
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Ladd, Helen F. and Edward B., The Uneven Playing Field of School Choice: Evidence from New Zealand, 2001 |
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(4) |
チリの制度
1981年、当時のピノチェト政権下において進められた民営化改革の一環として、在籍生徒数に生徒一人当たり支払額を乗じた額を公立学校、私立学校ともに同一方式で配分する全国的なバウチャープログラムを導入。
公立学校における成績優秀者が特に私立学校にシフトする傾向があり、この傾向は特に都市部において顕著であった(いわゆるソーティング(階層化)の結果)。このような地域格差は、都市部とそれ以外の地域における私立学校在籍者比率を拡大させており、公立学校における学業生成績の下降を招いている、という報告がされている(注1)。また、バウチャープログラム導入の結果として、テストスコアなどで測られた平均的な教育成果が改善したとの結果は見いだせなかったとも報告されている(注1)。
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(注1) |
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Hsieh, Chang-Tai and Miguel Urquiola, When Schools Compete, How Do They Compete? - An Assessment of Chile's School Voucher Program, 2003. |
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