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生涯学習社会とは |
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生涯学習社会とは、生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価され、様々な形で活用できる社会である。
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この社会が実現すれば、一度の選択だけでその後の生き方が決まることなく、自らのライフデザインの下、転職したり、学習したり、育児に専念したりといった様々な経験を主体的に選択し、次の活動に繋げることが可能となる。
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生涯学習の出発点は、個人の主体的選択である。このため、自らのライフデザイン、キャリアビジョンを持つとともに、環境や自分自身の変化に柔軟に対応して、主体的に自分の生き方を考え、選択し、社会で生きていく力の育成が重要である。
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(2) |
キャリア形成における生涯学習の役割 |
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社会の急激な変化に伴い、日本的雇用形態が十分機能しなくなってきたこと等により、生涯を通じて職業生活等に必要な知識、技術を身に付けることが不可欠であり、生涯学習の必要性が一層高まっている。
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人生80年時代を迎え*7、価値観の変化も激しい社会において、自分の生涯設計を行うに当たっては、学校教育中心の考え方を転換し、生涯学習を通じて、個人による主体的な能力開発により、社会の変化、自分自身の変化に柔軟に対応していくことが求められる。
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また、「学び」は、それを契機に、実際の活動に繋がったり、活動の中から学習テーマが浮かび上がってきたりといった作用を持つとともに、学習や活動を通して得た経験を「教える」側でも生かす等、個人を成長させる力を持つと考えられる。
さらには、就労においても、受け身でなく経験を生かして自らが積極的に動くことで、例えば、自ら事業を起こしたり、地域の学習や活動のリーダーとなる等、新たな動きをつくりだしていく可能性も秘めている。
このような意味で、生涯学習は個人のキャリア形成を後押しする役割を果たす*8。
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生涯学習機関で提供されている学習内容については、今後は、職業的な知識や技術の向上に関するもの、若年層のニーズが反映されたもの、フリーター等を対象とした「自分探し」に関わるもの等多様なニーズに応じたものを充実するとともに、学習情報を総合的、体系的に集約し、多様な学習機会を個人のニーズに応じて弾力的に提供できるようにする必要がある*9。
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(3) |
「見えない価値」の転換装置 |
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近年、企業では学歴に偏らず、取得した資格や経験、実績等個人の様々な資質や能力を多面的に評価するようになってきているが、子育て経験、地域活動等の「見えない価値」については、社会的に見て評価されにくく、次の活動に繋げることが難しかった。
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このため、「見えない価値」も含んだ多様なキャリアを持つ人を後押しする転換装置として、個人の主体的な学習や活動を支え、その成果を社会で適切に評価し、様々な形で活用できるような新しい仕組み、すなわち、生涯学習システムの構築が求められている。
このシステムの中で、個人は、自ら主体的に選択した活動に関連する知識や技術、能力を伸ばしていくことができるとともに、そうした活動が適切に評価されることによって、「見える価値」と「見えない価値」の双方の垣根を取り払うことができるようになる。
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評価の仕組みとしては、学習や活動の成果を公的に認証する方法、地域社会等の中で行政、大学、NPO、企業等が共通の基準を定めて評価する方法等が考えられるが、評価にとどまらず、社会全体として、評価された学習や活動の成果を次の活動に繋げるための後押しをすることが重要である。
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地域社会の活性化 |
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近年の地域社会は、都市化や過疎化の進行等により、地縁的なコミュニティとしての機能が衰退し、地域の教育力の低下が憂慮されること等から、特色ある地域社会の再生が重要な課題となっている。
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また、地域には、環境保護や介護、福祉等、誰にとっても切実な課題が多く、住民自らが学習し主体的に参画していくことによって、行政やNPO等と連携して課題解決に取組むことが求められている。
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生涯学習を推進することは、これまで地域活動を行ってきた人々に自らの活動への自信と誇りを持たせ、さらに、そこで培った経験を生かして、新たな活動にも積極的に取組むことを後押しすることで、地域社会の課題の解決の一助にもなり得る。
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また、生涯学習は、地域社会との接点を持たずにいた地域の人々に地域活動の重要性について考える機会を与えるのみならず、ネットワークを通じて、そうした人々に例えばまちおこしのための新たな企画、講演会や講座等についての参加を呼びかけ、巻き込んでいくための有効な手段となり得る。
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こうした生涯学習が地域の人々に与える影響は、ひいては、地域社会の活性化にも寄与するものと考える。
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生涯学習機関としての大学の役割 |
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大学は、 知的活動の中心拠点として、社会の各分野で活躍できる優れた人材の養成・確保や 知的資産の継承と新しい知の創造等を通じ、 社会の発展や 文化創造への貢献という重要な役割を果たしている。
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近年においては、産業構造の転換や技術革新の進展に伴い、職業人が変化に対応できるように、大学院等の高等教育機関において継続的に教育を受け、生涯にわたり最新かつ高度の知識・技術を修得することが重要になっている。
また、自由時間の増大や高齢化等、社会の成熟化に伴い、心の豊かさや生きがいのための学習需要も増大しており、あらゆる年代の人々の多様な意欲に応え、個人の主体的な選択に基づく様々な学習機会を提供していくことが一層求められている*10。
このように、大学が、生涯学習機関として、多様な背景を持つ人々を受け入れ、外部と柔軟に出入りできる体制整備を図ることは重要な課題である。また、そのことは、大学における教育研究自体の多様化・活性化に寄与するものと考える。
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各大学等においては、科目等履修生制度の活用、社会人特別選抜制度の導入、昼夜開講制、夜間大学院、通信制大学・大学院、大学院修士課程における一年制コース・長期在学コースの設置等、学びやすい環境の整備が進められている。また、大学の教育研究機能を広く社会に開放する取組みとして、例えば、学内に生涯学習を推進するための組織体制が整備されているといった場合もあり、公開講座等の企画・運営、大学等における学習関連情報の収集・提供等が実施されている*11。
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今後は、大学がその知的資源等をもって積極的に社会の発展に貢献していく「開かれた教育機関」となり、様々な形態による社会人の受け入れや公開講座をはじめとして、地域社会との連携・交流を積極的に推進し、地域社会の活性化や学習力の向上に貢献していくことが求められる。 |