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(2) 具体的方策
1 制度の改善
a) 学級編制の仕組みの改善
 公立義務教育諸学校の学級編制については、現在、国が定める標準に基づき、都道府県教育委員会が学級編制に係る基準を設定し、市町村教育委員会が都道府県教育委員会の同意を得て学級編制を行うこととなっている。これは、公立義務教育諸学校の教職員の人事や給与負担については、その円滑な実施を期して都道府県が行うこととなっており、教職員の定数管理と深く関係する学級編制について都道府県教育委員会に権限を与え、責任を重くしているものである。
 しかしながら、今後は学校現場の判断により地域や学校の実情に合わせた指導形態・指導方法や指導組織とする必要があるため、現行制度を見直し、学級編制に係る学校や市町村教育委員会の権限と責任を強化する必要がある。
 例えば、義務標準法による教職員の標準定数について都道府県ごとの算定から市町村ごとの算定に改めることや、学校や市町村教育委員会の判断で学級編制が弾力的に実施できるようにするなど現行の学級編制の仕組みの見直しについて検討を行うべきである。また、現行制度上、国は40人を学級編制の標準と定めた上で、都道府県教育委員会が児童生徒の実態を考慮して特に必要があると認める場合には、40人を下回る学級編制が可能となっている。現在、45道府県で少人数学級が実施されていることや、学校現場の判断で少人数学級編制を可能とすることが求められていることなどから、これまで例外的な措置とされていた40人を下回る学級編制が自由に選択できる制度とすることについて検討を行うべきである。

b) 義務教育の教育条件整備における連携協力
 義務教育の質の向上を図るためには、国・都道府県・市町村が互いに協力し、それぞれの役割を確実に果たしていく必要がある。
 国は、全国的な見地から、義務教育の質が全国的に維持されるために必要な制度的枠組みを整備するとともに、必要な財源を確保するという役割を担っている。また、都道府県は、全県的な見地から、市町村ごとに教育格差が生じないよう必要な措置を講ずるとともに、都道府県ごとの実情を踏まえた特色ある取組みを展開するという役割を担っている。これらの国と都道府県の役割は、学校の設置者である市町村が自主的・自律的に学校運営に取り組めるよう支援するものであり、市町村は、あくまでも学校の設置者として、地域や学校の実情に合った教育を展開するという役割を担っている。
 今後の学級編制の実施に当たっては、このような考え方に基づき、国・都道府県・市町村がそれぞれの役割を果たすことが必要となるが、その場合においては、
教職員の人事、給与負担、定数管理について責任を有する都道府県との緊密な連携が円滑な学級編制の実施に不可欠であること
少人数学級をはじめとした少人数教育の推進が都道府県の努力で行われており、学校教育の質の向上のためには、都道府県の協力が今後も必要であること
  などから、これまで以上に市町村教育委員会と都道府県教育委員会の連携協力が必要となる。

2 教職員定数の改善
a) 改善の方向性
 教職員定数の改善に当たっては、児童生徒の「生きる力」を育むため、これまで進めてきた少人数指導をはじめとして少人数教育を充実させる必要がある。その際、教育上の諸課題に対応しつつ個に応じたきめ細かな指導が徹底できるような規模であって、学校現場の判断による指導形態・指導方法や指導組織が最大限の効果を発揮できるような規模の教職員定数の改善を図る必要がある。その際、各地域が抱える課題に効果的に対応できるよう、専門的な職員を配置し、学校間を巡回するなど学校を越えた取組みが可能となる仕組みについても検討する必要がある。
 また、教職員定数の改善に当たっては、各学校はもとより各地域ごとに抱える課題や取組みの進度などが異なっていることなどを踏まえ、これまでと同様、加配定数注釈の改善を基本とすることが適当である。
注釈 加配定数: 少人数指導を行う場合や災害復興支援のために教育的配慮を行う場合などにおいて、学校数や学級数に応じて算定される基礎定数に加算される定数。

b) 諸課題への対応
 前述のとおり、現在、これまでの教職員定数改善計画の策定の時期にはなかった今日的な教育課題が生じている。学校教育の充実を図るためには、これらの課題に迅速かつ的確に対応する必要がある。また、教育上の諸課題は全国の学校で一律一様に発生するものではなく、地域や学校によって必要な体制も異なっている。今後、学校・市町村・都道府県が教職員配置をはじめとした教育条件の整備に自主的・自律的に取り組み、それぞれに課題を克服することが求められる。
 全国的な見地から考えられる教育上の諸課題及び対応方策としては、以下のようなものが考えられる。
ア. 学習指導の充実
 今後、学習指導における少人数教育を一層充実させ、児童生徒に対する個に応じたきめ細かな指導が徹底される体制づくりを行う必要がある。
 具体的には、第7次公立義務教育諸学校教職員定数改善計画の完成により、基本3教科において20人程度の学習集団を構成・指導することが可能となっているが、この取組みを一層進め、より多くの教科において少人数指導等が可能となるようにすべきである。
 また、生活環境や学習環境が著しく変化する小学校低学年において、しっかりと生活習慣や学習態度を身につけさせることがその後の学校生活に大きな影響を与えるということが指摘されており、このようないわゆる「小1プロブレム」などの課題に焦点を絞った対応が必要である。実際、小学校低学年の場合、学級とは別に学習集団を作るよりも、基本的な生活習慣や学習態度の育成のために生活集団と学習集団を一体として少人数化を図ることが効果的と考えられる。このため例えば35人学級などの少人数学級編制や副担任など教員の複数配置による指導などが可能となる教職員配置とすべきである。
 さらに、新学習指導要領の下に導入された総合的な学習の時間については、学校現場の判断により様々な取組みが可能となり、各学校の児童生徒の実情に応じたきめ細かな指導が可能になったという評価がある。その一方で、校外における社会体験、見学や調査、地域の人材活用など渉外を伴う準備に教員が不慣れであったり、総合的な学習の時間に対する準備に教員の負担感は大きなものがあるとの声も上がっている。総合的な学習の時間がその目的を十分に果たして有効に活用されるよう、総合的な学習の時間についての総合的な企画・調整を担う教職員の配置を可能とすべきである。

イ. 特別支援教育の充実
 現在、盲・聾・養護学校及び小・中学校の特殊学級等に在籍する幼児児童生徒は約22万5千人(全体の約1.4パーセント)であり、このうち、義務教育段階では約17万9千人(全体の約1.6パーセント)となっている。
 また、小・中学校においては、LD・ADHD・高機能自閉症等により学習や生活の面で特別な教育的支援を必要としている児童生徒が約6パーセントの割合で通常の学級に在籍している可能性が示されている。一方、本年4月から施行されている発達障害者支援法においては、発達障害のある児童生徒等に対する支援体制の整備についての国の責務が定められている。しかしながら、現行制度においては、LD・ADHDについては、通級による指導の対象とされておらず、新たな喫緊の課題となっている。
 このような中、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに適切に対応し、適切な指導及び必要な支援を行う「特別支援教育」の理念の実現に向け、小・中学校については、LD・ADHDの児童生徒を通級による指導の対象とし、関係機関等と連携した校内支援体制の整備の在り方について検討がなされている。
 また、盲・聾・養護学校については、障害の重度・重複化を踏まえ、障害種別を超えた学校制度とするとともに、特別支援教育等に関する相談・情報提供機能などのセンター的機能を担うことについての検討が進められている。
 このため、小・中学校においては、LD・ADHDの児童生徒について、新たに通級による指導の対象とするとともに、盲・聾・養護学校がセンター的機能を十分に発揮するため、必要な教職員の配置を充実させる必要がある。併せて、学校外の関係機関等と連携し、校内支援体制整備の牽引役となる特別支援教育コーディネーターの役割を担う教職員の配置を可能とするなど、各地域における特別支援教育の推進体制を整備する必要がある。

ウ. 児童生徒への支援(心のケアを含む)
 児童生徒の暴力行為、いじめ、不登校等の問題をはじめとして児童生徒を取り巻く生徒指導上の課題は多い。これらの問題の解決のためには、豊かな人間性の育成に取り組むとともに、不登校や問題行動などの早期発見、早期対応を基本として児童生徒のメンタルヘルス等の観点から、カウンセリングの充実や生徒指導体制の充実を図る必要がある。教職員全てが協力してきめ細かな生徒指導を行うことができるよう、その専門的能力を高めるとともに、スクールカウンセラー等も含めた学校全体での児童生徒や保護者への支援に取り組むことが求められている。
 このため、児童生徒の心身の健康についての総合的な企画・調整を担う養護教諭の配置の充実や児童生徒支援担当教員の配置など、学校全体で心のケア、不登校対策など生徒指導に取り組むことができる体制づくりを行う必要がある。

エ. 食育の充実
 食生活を取り巻く社会環境の変化などに伴い、子どもについても偏った栄養摂取など食生活の乱れ、肥満傾向の増大、過度の痩身等様々な食環境をめぐる問題が顕在化している。学校教育の早い段階から、学校の教育活動全体を通じて正しい食事のとりかたや望ましい食習慣を身につけ、食事を通して自らの健康管理ができるようにすることが重要であり、食育は、「健康・体力」を培い「生きる力」を育成する上での重要な課題となっている。
 食に関する指導の重要性が指摘される中、平成16年、学校教育法等の改正により新たに栄養教諭制度が整備された。また、平成17年6月に食育基本法が制定され、食育の指導にふさわしい教職員の配置、教職員等の意識啓発その他の食育に関する指導体制の整備が国及び地方公共団体の責任であることが明記されている。
 このため、栄養教諭、学校栄養職員等の配置の充実を図り、食に関する指導などを通じて、食に関して児童生徒に対する個に応じたきめ細かな指導が徹底される体制づくりを行う必要がある。

オ. キャリア教育の充実
 フリーターが約213万人、いわゆるニートが約64万人と増加している中、若者の勤労観・職業観や職業人としての基礎的・基本的な資質をめぐる様々な課題が取り上げられるようになった。現在、このような新たな社会的課題の解決のために政府一丸となった対策が講じられており、学校教育の段階においても、教育活動全体を通じて、児童生徒の発達段階に応じ、組織的・系統的なキャリア教育を推進していくことが求められている。
 キャリア教育を一層推進するためには、全ての教職員がキャリア・カウンセリングを通じた指導・援助を行うことができるようになるための専門的能力を向上させる必要がある。また加えて、キャリア教育の指導内容・方法の開発、職場体験などを充実させるための地域・企業等とのシステムづくり、家庭との連携・協力など新たな課題に対応できるようなキャリア教育を推進するための条件整備が必要である。
 このため、キャリア教育についての総合的な企画・調整を担う教職員の配置を可能とするなど、児童生徒の一人一人の勤労観・職業観を育成するためにきめ細かな指導が徹底される体制づくりを行う必要がある。

カ. 読書活動等の支援
 これからの学校教育においては、児童生徒の主体的な学習活動やよりよく問題を解決する能力、豊かな感性や情操、思いやりの心などを育んでいくことが重要である。このため、学習指導要領においては、各学校における教育課程全体の配慮事項として、「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童(生徒)の主体的、意欲的な学習活動や読書活動を充実する」ことが盛り込まれている。
 しかしながら、児童生徒の読書離れや「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2003)」の調査結果に示されているように読解力の低下が指摘されており、今後学校図書館の役割はますます重要となることが予想される。
 こうした中、平成13年、子どもの読書活動の推進に関する法律が制定され、子どもの読書活動の推進に関する国及び地方公共団体の責務が明らかにされるとともに、平成17年、文字・活字文化振興法が制定され、国及び地方公共団体に対し、司書教諭等の充実を図るなど学校教育における言語力の涵養に資する環境の整備充実が義務づけられている。
 このため、小学校・中学校・高等学校を通じて、学校における児童生徒の読書活動等を充実させる観点から、司書教諭定数を措置するとともに学校図書館に関する事務体制の充実を図るなど個に応じたきめ細かな指導が徹底される体制づくりを行う必要がある。

キ. 学校事務処理体制の充実
 学校事務職員については、総務、財務、管財、経理、渉外等の事務に従事し、学校運営が円滑に実施されるために重要な役割を果たしている。国際化、情報化が進展するなど社会環境が大きく変化するとともに、子どもを取り巻く課題が複雑化・多様化する中、学校事務の内容も以前とは大きく変わってきている。特に、現在、新学習指導要領により体験的な学習や問題解決的な学習が進められているが、これらの学習活動が円滑に進められるためには地域社会との調整が不可欠である。また、家庭・地域・学校の連携協力、生徒指導上の外部機関との連携協力などを推進する中で様々な渉外業務が発生している。さらに、学校運営協議会や学校評議員制度の導入、学校評価の導入、学校現場の権限拡大など諸改革の実施に伴い、学校事務は複雑化・多様化し、業務量も増加するものと考えられる。
 このため、事務処理の効率化・集中化を図るための事務の共同処理を推進するとともに、教員が子どもの教育に専念できるような環境を整備するため、学校事務職員の配置の充実など学校における事務処理を充実させるための体制づくりを行う必要がある。

ク. 外国人児童生徒への支援
 国際化の進展に伴い公立義務教育諸学校には、多数の外国人児童生徒が在籍するようになっており(約6万人(うち日本語指導を要する者が約1.8万人))、今後もその増加が見込まれている。外国人児童生徒については、日本人児童生徒と同一の教育を受ける機会を保障するため、外国人児童生徒の日本語能力の向上や学校生活への適応を着実に図るとともに、児童生徒相互の国際理解を深める観点からも、その受け入れ体制の充実が必要となっている。
 このため、日本語指導等に対応する教員の配置の充実や外国人児童生徒支援等についての総合的な企画・調整を担う教職員の配置を可能とするなど、外国人児童生徒への支援や国際理解・異文化理解の推進のための体制づくりを行う必要がある。

ケ. 高等学校教育の充実
 高等学校においては、生徒の多様な能力・適性、興味・関心、進路希望等に対応し、生徒それぞれの個性を最大限に伸長させるため、特色ある学校・学科づくりや選択中心のカリキュラム編成など高等学校教育の個性化・多様化が進んでいる。
 また、スーパーサイエンスハイスクールやスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールなどにより、高等学校が学校の特色化を図ろうとする機運が全国的に高まっており、今後一層、高等学校教育の個性化・多様化が進むことが予想される。
 一方、中途退学や暴力行為など、生徒指導上の問題が大きな課題となっており、きめ細かな指導や教育相談を行うことができるよう、各教職員の専門的能力を高めるとともに生徒指導の体制の充実が求められる。
 また、中途退学の問題と併せて、就職状況の問題、高卒者で就労しているものの約半数が3年以内に離職しているという早期離職の問題や、いわゆるニートの問題等があり、高等学校においても、生徒一人一人の勤労観・職業観を育てるとともに学ぶことの意義を教えることが重要な課題となっている。このため、生徒が高等学校生活を通じて人生の目的を見つけ、自分の生き方を適切に選択できるようにするため、教育活動全体を通じたキャリア教育の一層の推進を図る必要がある。
 このため、第6次公立高等学校教職員定数改善計画を踏まえつつ、高等学校教育の特色化・多様化や上記に述べたような課題への対応を図る観点から、少人数教育や生徒指導の充実など個に応じたきめ細かな指導が一層進められるような体制づくりを行う必要がある。

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