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情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて


(2) 学校における情報通信ネットワークの整備について
        〜  インターネットを中心として  〜

i インターネットの教育利用

  1. 平成10年度からのインターネットの整備計画を着実に進める必要がある。また,平成14年度からの新しい教育課程への移行,各学校における活用状況や接続率の推移等を勘案しながら,状況に応じて計画の早期実現を検討する必要がある。 
  2. インターネットの確実な定着を図るため,教育におけるインターネットの活用法や様々な課題等に関する実践的な研究を積極的に推し進め,有効な活用法,教育効果及び留意事項についての成果の普及に努める必要がある。 
  3. 今後の多様な学習活動に対応するため,光ファイバーなどの高速回線を活用した実践研究を進める必要がある。また,学校向け料金割引制度の創設が望まれる。 

(インターネット接続計画)
○平成9年末に文部省においては,学校をインターネットに接続する計画を発表した。それによると,平成10年度から平成13年度(西暦2001年)までの4年間ですべての中学校,高等学校,特殊教育諸学校を,同じく平成15年度(西暦2003年)までの6年間ですべての小学校をインターネットに結ぶこととして,そのために必要となる通信料,インターネット利用料等を地方交付税で措置することとしている。

○平成10年3月の調査では,公立学校のインターネット接続率は,小学校 13.6%,中学校 22.7%,高等学校 37.4%,特殊教育諸学校 21.9%,全体では 18.7%であり,初めて調査された平成9年5月時点の約2倍となっている。初等中等教育段階におけるインターネットの利用はまだ始まったばかりであるが,この伸び率から想定すると,かなり急速に伸びるものと思われる。今後は,「教育改革プログラム」において示された平成14年度からの新しい教育課程への移行,各学校における活用状況や接続率の推移等も勘案しながら,状況に応じて接続計画のより早期の実現を検討する必要がある。

(実践研究の必要性)
○今後計画的に整備を進め,インターネットの確実な定着を図るため,国においては,教育におけるインターネットの活用法や様々な課題等に関する実践的な研究を積極的に推し進め,有効な活用法,教育効果及び留意事項についての成果の普及に努める必要がある。
  また,インターネットは,従来の放送あるいは通信に情報処理機器としてのコンピュータの機能が融合したものである。こうした観点から,学校間交流での活用の発展型としての高等学校の学校間連携の一形態,あるいは通信制課程の一形態となりうるかどうか,また,不登校児や病気療養児に対する補充指導の一形態としての有効性について,今後,さらに研究を進めていく必要がある。

○また,文部省においては,学校図書館にコンピュータやソフトウェアを整備し,学校図書館の情報化について研究を行う「学校図書館情報化・活性化推進モデル地域」指定事業を実施してきており,今後,この成果を踏まえながら学校図書館のコンピュータをインターネットに接続できるよう必要な措置等を講ずるべきである。

(高速回線の活用と学校向け料金割引制度)
○学校のように一斉に複数のコンピュータからインターネットに接続する場合には,より高速・大容量の通信回線が望ましい。このため,光ファイバーなどの高速回線を活用した実践研究を進め,光ファイバーの活用方法やその有効性について検討を進める必要がある。
  なお,文部大臣と郵政大臣とが協力して開催した「教育分野におけるインターネットの活用促進に関する懇談会」から,本年6月に,学校等がインターネットを利用する際の料金割引制度等の創設について提言されている。関係機関等において検討が促進され,できるだけ早期に実現されることを強く望みたい。

ii インターネット利用に伴う留意事項

○インターネットの教育利用にあたって,子供たちの人権や情報モラルに係る留意事項が考えられ,ガイドラインの作成やフィルタリング技術の活用などの対応策が必要となる。これらに関して,国は,学校や教育委員会に情報提供するとともに今後も積極的に調査研究等を進め,インターネットの利用環境の整備に努めるべきである。

(ガイドライン等の作成)
○インターネットの特徴の一つは情報の発信が容易な点である。ホームページや電子掲示板,電子メール等を使って学校の概要,学習の成果などについて,保護者や地域,あるいは世界に向かって情報を発信することができる。こうした機能を効果的に使うことにより,自ら情報を積極的に発信する「開かれた学校」になっていくことが期待される。
  ただし,インターネットを通じた学校からの情報発信は,インターネットの特性を理解した上で,目的や対象を明確に意識して行う必要がある。例えば,子供たちによるホームページ作りを学習活動に取り入れていく場合には,単に他人の情報を切り貼りして発信することにならないか注意するとともに,目的によっては,学校の外にオープンにする情報と,学校内限りにとどめておく情報とを区分しておくことも必要である。また,個人に関する情報をホームページに掲載する場合などには,特に子供の場合は個人が特定されないように,名前や顔写真などの扱いに配慮することが必要である。インターネット利用の初期段階においては,いきなり外部との交流を始める前に,教室内等において電子メールのやりとりをするなど,インターネットの特徴を踏まえた慣らし運転期間が必要であると考える。
  インターネット上の情報を利用する観点からは,作成者に対する配慮など利用の際のモラルや著作権に対する意識も高める必要がある。

  以上のような留意点を踏まえ,各学校や教育委員会においては,インターネットを利用する際のガイドライン等を作成することが必要と考える。また,国においては,実践研究などを通じてガイドラインに関する情報提供に努めるべきである。

○なお,個人情報保護に関連する問題として,一部の地方自治体で各団体が定めている個人情報保護条例に抵触するため,学校がインターネットに接続できないという事態が起きている。住民登録などによって得られた情報を各団体がコンピュータで管理するようになった昭和50年代初め頃から,こうした情報の入ったコンピュータをオンラインで外部と接続することを禁止する条例が制定されるようになり,この規定が学校がインターネットに接続する場合にも適用されると解釈されるためである。この問題については,まずそれぞれの地方自治体及び教育委員会がインターネットの教育利用に関する明確な方針を持ち,上述のガイドラインを策定するなどした上で,インターネットが,条例の制定以後新たに登場した情報技術であることをも踏まえた,適切な対応を求めたい。

(フィルタリング技術の活用) 
○インターネット上には,子供たちの健全な発達に好ましくない不適切な情報(いわゆる有害情報)が溢れている。教育に不適切な情報への対応に関しては,現状では,フィルタリング技術を活用する方法が一般的である。
  フィルタリング用ソフトウェアは,接続制御をかける場所(学校の個々の端末,学校又は教育センター等のサーバ等)と,その方法(ホワイトリスト方式,ブラックリスト方式)によってメリット,デメリットがある。いずれの場合も情報の発信元が無数にあり,常に居場所を変更したり,新たに登場したりするので頻繁にリストの更新が必要になる。リストの更新は,個々の学校で行うことは経済的,技術的負担が大きく,センター的な場所で一元的に行えばより効率的である。

  教育に不適切な情報に関する技術的対応は,決定的な有効策がないのが現状であり,国においては,フィルタリング技術などに関する研究状況や実践事例などに関する情報収集を進め,教育委員会や各学校に情報提供を行う必要がある。

  このことに関し,教育関係者からは,指導の際に予め教員が準備した接続先のみを利用するなど教員の指導の下に適切に利用している限り問題にならないのではないかという意見もある。むしろ電子メールや電子掲示板などを使った個人攻撃などを問題とする意見が多い。さらに,一般的に有害とされる情報でも特定の目的に教材として使いたいという場合もあり,フィルタリングについては,教員が必要に応じて簡単に接続制御を解除することが可能となるような技術的対応を望む声がある。

iii ネットワークの拠点の整備

  1. 各都道府県等の教育センター等を学校等をつなぐ地域の教育用のネットワークの拠点とするため,先進的なコンピュータ整備や高速回線でのインターネットへの接続衛星通信の受発信設備等の整備を行い,その機能を充実していく必要がある。 
  2. 地域を越えた共同学習や海外との交流の支援,ネットワークを利用したカリキュラムや教材の開発,教育に不適切な情報や著作権への対応などを全国レベルで行う中核的なセンター機能の整備が必要である。 

(接続方法)
○インターネットに接続する場合には,学校用のメールサーバ,ウェブ・サーバ,ドメイン・ネーム・サーバを置く必要があり,以下の機関等に設置することが考えられる。設置する場所等は,地域や各学校の実情に応じて選択されている。

  • 地方自治体・教育センター等を接続拠点とする 
  • 拠点の学校に設置(周辺の学校をサポートする場合も含む) 
  • 各学校で独自に設置 
  • 民間プロバイダを利用 
  • 周辺の大学等を利用 
  • (プロバイダ接続)
    ○民間プロバイダとの接続においては,契約によって契約料及び利用料などを支払ってインターネットに接続する。最近は大体の地域において市内通話料金の範囲内に営業している民間プロバイダがあり,比較的簡単に利用できる。契約の内容によって学校のホームページを運営している場合もあるが,民間のプロバイダ接続の場合は,通常は特に学校用に設計されたネットワークではないため,学校独自の要求には応じられないか,応じてもそれだけの経費が必要となる。

    (教育センター接続)
    ○教育センター等を拠点として学校をつなぐ方法は,一旦地域ネットワークを形成し,教育センターを経由してインターネットに接続する方法である。この方法は,教育センターが出入りする情報の通過点になり,教育に不適切な情報に対する防御を一括して行うことができる。また,教育に必要な情報の蓄積や各学校のサポートなどもしやすいなどのメリットが大きい。ただし,教育センターから遠い学校は割高の通信料金がかかったり,接続する学校数が多くなればなるほどセンターの物理的,技術的負担が大きくなるなどのデメリットがある。

    (教育用ネットワークの拠点の整備)
    ○今後,学校教育においてインターネットを本格的に活用していくにしたがって,学校関係者が使いやすい,安全で効率的な教育用のネットワークが必要となる。そのためには,各都道府県等の教育センター等の役割が重要になってくる。教育センター等は,学校等をつなぐ地域の教育用のネットワークの拠点,情報の拠点として機能し,学習に必要な情報や教員の研修に必要な情報をデータベース化し活用できるようにする必要がある。このため,各都道府県等教育委員会は,教育センター等に先進的なコンピュータを整備し,高速回線でのインターネットへの接続や衛星通信の受発信設備等を整備することが緊急課題である。
      また,新しい教育課程の実施によりネットワークの教育利用が日常的になってくると,地域を越えた共同学習や海外との交流の支援,ネットワークを利用したカリキュラムや教材の開発,教育に不適切な情報や著作権への対応などを全国レベルで行う中核的なセンター機能の整備が必要になってくると考える。

    ○教育センター等の職員やハードウェア資源だけで,管内の小学校,中学校,高等学校等全体のネットワークを維持管理していくことは,ネットワークの規模が大きくなればなるほど,人材的にも,技術的にも困難になっていくと思われる。したがって,将来的には,外部の専門的組織や民間のプロバイダなどに,運用の技術的管理を委託していくことも考えられる。この場合も,扱う情報について教育的配慮を必要とする場合があること,また,教育情報を流通させることにより,情報化に即した新しいタイプの学習が発展することなど,教育情報の特性に配慮した教育用ネットワークが発展的に構築されていくよう,技術的あるいは運用的な問題を解決していくことが必要である。

    (学校用ドメイン名)
    ○インターネットに接続する場合には,インターネット上の識別記号であるドメイン名が必要となる。(例えば,文部省のドメイン名は, monbu.go.jpとなっており,「go」は政府機関等に付与される第2レベルのドメイン名)
      今後,学校のインターネット接続を計画的,円滑に推し進め,かつ,目的・用途に即応したより使いやすいネットワークを形成するために,共通のドメイン名(例えば,ed.jp)が新設されるよう関係機関の検討を期待したい。また,これに伴い,ドメイン名の付与に係るガイドラインの策定や,ドメイン名の登録・変更手続き等に係る公的教育関係機関等(例えば,国立教育会館など)による支援,各学校の負担軽減などの方策について適切な対応が必要と考える。


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