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第1章  学校施設のバリアフリー化等に関する基本的視点

  背景
 学校施設は、多くの児童生徒が一日の大半を過ごす学習・生活の場である。したがって、児童生徒等の健康と安全を十分に確保することはもちろん、快適で豊かな空間として整備することが必要である。また、学校施設は、地域住民にとって最も身近な公共施設として、まちづくりの核、生涯学習の場としての活用を一層積極的に推進するとともに、地域の防災拠点としての役割が求められており、児童生徒、教職員、保護者、地域住民等の多様な人々の利用を考慮し、そのバリアフリー*1化を積極的に推進する必要がある。
 一方、平成6年6月に「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(以下「ハートビル法」という。)が公布、同年9月に施行され、不特定かつ多数の者が利用する建築物の整備に関して、バリアフリー化の努力義務が課せられた。
 その後、高齢者、身体障害者等の生活環境整備の必要性に対する意識が向上し、これらの人々に配慮した取り組みは、すべての人々の生活を豊かにさせるものでもあるという認識が広まってきたことなどから、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築を一層促進するため、平成14年7月にハートビル法が一部改正され、翌年4月から施行された。この改正により、特定建築物の範囲が、不特定でなくとも多数の者が利用する建築物にも拡大され、学校施設が新たにバリアフリー化の努力義務の対象として位置づけられた。加えて、地方公共団体が、その地方の自然的社会的条件の特殊性により、条例で特定建築物を特別特定建築物に追加したり、利用円滑化基準に必要な事項を付加できることなどが規定された。
 また、政府は、「障害者基本法」に基づき、平成15年度を初年度とする10年間に講ずべき障害者施策の基本的方向として「障害者基本計画」を平成14年12月に閣議決定した。本計画では、基本的な方針として、ユニバーサルデザイン*2の観点から、すべての人にとって生活しやすいまちづくり、ものづくりを推進することが示され、教育・療育施設において、障害の有無にかかわらず様々な人々が、適切なサービスを受けられ、また、利用する公共的な施設であるという観点から、施設のバリアフリー化を推進することが盛り込まれた。
 さらに、本計画の前期5年間において重点的に実施する施策等を定めた「重点施策実施5か年計画」(平成14年12月障害者施策推進本部決定)においては、小・中学校等の施設のバリアフリー化の参考となる指針を策定するとともに、計画・設計手法等に関する事例集を作成することが盛り込まれた。
 他方、文部科学省では、近年の障害のある児童生徒の教育をめぐる諸情勢の変化等を踏まえて、今後の特別支援教育の在り方について検討するため、特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議を平成13年10月に設置し、平成15年3月に「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」を取りまとめた。本報告では、従来の特殊教育の対象となる児童生徒数が増加傾向にあること、障害の多様化が進行していること等の現状を踏まえ、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、その一人一人の教育的ニーズを把握して適切な教育や指導を通じて必要な支援を行う「特別支援教育」の考え方が提唱された。
 また、社会のノーマライゼーション*3の進展や教育の地方分権の観点から、障害のある児童生徒一人一人の特別な教育的ニーズに応じた適切な教育が行われるよう、就学手続を弾力化するため、平成14年4月に学校教育法施行令が改正された。本改正において、盲学校、聾学校又は養護学校の就学基準に該当する児童生徒であっても、その障害の状態に照らし、就学に係る諸事情を踏まえて、小・中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると市町村教育委員会が認める場合には、小・中学校に就学させることができることとされた。

  学校施設のバリアフリー化に関するこれまでの施策
 これまで、文部科学省においては、学校施設整備の基本方針及び計画・設計上の留意点を具体的に提示した「学校施設整備指針*4」に、施設のバリアフリー化に関する基本的な事項を提示するとともに、平成6年のハートビル法の制定及び平成15年の一部改正に伴い、各都道府県等に対し、施設のバリアフリー化の促進の必要性について、周知を図ってきたところである。
 また、公立及び私立学校施設については、障害のある児童生徒等の利用に配慮した整備に係る経費の一部を国庫補助の対象としている。一方、国立学校施設については、新築、改修等の事業に併せて、バリアフリー対策を実施している。

  ユニバーサルデザインと学校施設のバリアフリー化
 近年、ノーマライゼーションの理念が広がりつつあるなか、ユニバーサルデザインの考え方が提唱されている。
 ユニバーサルデザインとは、ユニバーサルデザインセンター(ノースカロライナ州立大学)の提唱によれば、「すべての人にとって、できる限り利用可能であるように、製品、建物、環境をデザインすることであり、デザイン変更や特別仕様のデザインが必要なものであってはならない。」とされており、「ユニバーサルデザイン7原則*5」が示されている。
 官庁施設については、国土交通省において、官庁施設のユニバーサルデザイン検討委員会を設置し、ユニバーサルデザインの考え方に基づいた具体的対応策に関する検討を実施している。また、一部の地方公共団体においても公共施設の整備等に際しては、ユニバーサルデザインのまちづくり等の施策に基づく整備が検討されている。
 このように、様々な場において、ユニバーサルデザインの考え方に基づく整備について、種々検討がなされている状況にある。
 学校施設については、児童生徒の学習・生活の場であるとともに、地域住民の生涯学習の場、地域のコミュニティや防災の拠点としての役割を果たすことが求められることから、ユニバーサルデザインの考え方を踏まえて、多様な人々の利用にも配慮した施設として整備することを考慮する必要がある。加えて、施設を利用する児童生徒等の特性によっては、個別の対応が必要となる場合があるため、施設、設備の付加や運営面でのサポート体制等にも配慮する必要がある。
 また、このような配慮の下に整備された学校施設は、障害のある児童生徒や高齢者などとの交流、地域住民の学校教育への参加や生涯学習の場としての利用を促進することにより、児童生徒が障害者に対する理解を深めたり、地域の人々が障害のある子どもに対する正しい理解と認識を深めたりする効果を期待できる。したがって、学校施設のバリアフリー化に関する情報やその利用の促進について、家庭や地域住民に積極的に広報することも考慮すべきである。
 これらのことから、今後の学校施設の整備に当たっては、ユニバーサルデザインの観点から、多様な人々の利用に配慮して計画・設計するよう努めることが重要である。

  学校施設のバリアフリー化等の推進に関する基本的な考え方
 学校施設の整備においては、施設を利用する児童生徒等の特性を把握した上で、運営面でのサポート体制との連携を図りつつ、多様な人々が安全かつ円滑に利用できる計画とすることが重要である。
 したがって、新たに学校施設を整備する際には、あらかじめ、多様な人々が利用しやすいように、ユニバーサルデザインの観点から計画・設計するよう努めることが重要である。一方、既存施設においては、ユニバーサルデザインの考え方を念頭に、児童生徒等が安全かつ円滑に施設を利用する上で障壁となるものを取り除くための方策等について十分に検討し、必要に応じて段階的な整備を行うなど、計画的にバリアフリー化を推進することが重要である。

  (1)  学校施設のバリアフリー化等の視点
  1 障害のある児童生徒等が安全かつ円滑に学校生活を送ることができるように配慮
 社会におけるノーマライゼーションの考え方の進展や、従来の特殊教育の対象の児童生徒が増加傾向にあり、今後、小・中学校で障害のある児童生徒が一層増加することが想定されることを踏まえ、障害のある児童生徒等が安全かつ円滑に学校生活を送ることができるように、学校施設において個々のニーズに応じた対策を実施することが必要である。
 なお、障害のある児童生徒に配慮した対策は、児童生徒のみならず、教職員、保護者、地域住民等の多様な人々が施設を安全かつ円滑に利用するための対策としても有効である。

  2 学校施設のバリアフリー化等の教育的な意義に配慮
 バリアフリー化された学校施設は、その利用を通じ、児童生徒に対して障害者に対する理解を深める学習効果が期待できるものであり、関連する教科等において具体的に活用することも有効である。
 また、小・中学校の学習指導要領において、小学校、中学校、盲学校、聾学校及び養護学校などとの間の連携や交流を図るとともに、障害のある児童生徒や高齢者などとの交流の機会を設けることを規定している。このため、学校施設の整備においては、これらの交流活動が円滑に実施できるように、障害のある児童生徒や高齢者が安全かつ円滑に利用できる計画とすることが必要である。

  3 運営面でのサポート体制等との連携を考慮
 小・中学校の学習指導要領において、障害のある児童生徒については、実態に応じ、指導内容や指導方法について工夫することを規定している。障害のある児童生徒に対しては、教材・教具の工夫はもちろん、安全かつ円滑に教室への出入りや便所等の利用ができる教室を提供するなど、ハード面での配慮や、施設の運営・管理、人的支援等のソフト面との連携などについて考慮することが必要である。また、学習面だけでなく生活面においても個々の状況に応じ、人的サポートが必要となる場合があるため、学校施設の整備においては、これらのサポート体制と連携した計画とすることが必要である。

  4 地域住民の学校教育への参加と生涯学習の場としての利用を考慮
 小・中学校の学習指導要領において、地域や学校の実態等に応じ、家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深めることを規定している。このため、学校の教育活動へ地域の人材を受け入れるなど、様々な人々の学校教育への参加を考慮して計画するとともに、地域住民が生涯学習の場として利用することを考慮した計画とすることが必要である。

  5 災害時の応急避難場所となることを考慮
 小・中学校施設は、地震等の災害発生時には地域住民の応急的な避難場所としての役割も果たすことから、地域住民が利用することを考慮した計画とすることが必要である。

  (2)  既存学校施設のバリアフリー化の推進
 現在、我が国における小・中学校施設は、約3万5千校あり、何らかのバリアフリー対策を実施すべき施設は相当数に達する。社会的な背景等を踏まえると、今後、学校施設のバリアフリー化を一層推進していくことが重要であり、そのためには、既存学校施設の積極的なバリアフリー化の推進が必要である。

  1 関係者の参画と理解・合意の形成
 既存学校施設のバリアフリー化を計画的に推進するためには、当該地方公共団体における全体的な中・長期の行政計画やバリアフリー化整備計画等の上位計画との整合を図りつつ、学校、家庭・地域、行政(教育委員会、営繕部局、都市計画部局、財政部局、防災部局)等の参画により、幅広く関係者の理解・合意を得ながら、既存学校施設のバリアフリー化に関する整備計画を策定することが重要である。

  2 バリアフリー化に関する合理的な整備計画の策定
 地方公共団体等の設置者は、これまで述べた学校施設のバリアフリー化等に関する基本的な考え方を踏まえ、第2章で述べる計画・設計上の留意点を参考として、既存学校施設のバリアフリー化に関する整備計画を早急に策定し、計画的にバリアフリー化を推進していくことが重要である。
 既存学校施設のバリアフリー化に関する整備計画を策定するには、まず、所管する学校施設のバリアフリー化の現状を調査し、障害のある児童生徒等の安全かつ円滑な利用に対する障壁を把握する。その後、それらの障壁を取り除くための整備方法を検討するとともに、必要となる経費を試算するなど全体の事業量を把握する。さらに、将来動向の推計も含めた障害のある児童生徒の在籍状況等を踏まえ、各学校施設のバリアフリー化に関する整備目標を設定し、所管する学校施設に係る合理的な整備計画を策定することが重要である。
 なお、バリアフリー化に関する整備計画の策定に際しては、運営面でのサポート体制と連携して、段階的な整備目標を設定することも有効である。

  3 計画的なバリアフリー化に関する整備の実施
 設置者は、所管する学校施設に係る整備計画に基づき、計画的に学校施設のバリアフリー化に関する整備を実施することが重要である。
 なお、障害のある児童生徒等が安全かつ円滑に学校施設を利用するために障壁を取り除くという観点からは、円滑に利用できる便所の整備、校内を円滑に移動するためのスロープやエレベーター等の設置が重要である。さらに、個々の障害に応じた適切な整備を実施する必要があることを考慮して、バリアフリー化に関する整備を実施することが重要である。
 また、学校施設の耐震化や防犯対策に係る整備等と併せてバリアフリー化に関する整備を実施するとともに、小修繕や既製品を用いる等により対応することも有効である。



*1  バリアフリー:障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、もともと住宅建築用語として使われ始めた。段差等の物理的障壁の除去をいうことが多いが、より広く障害者の社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去という意味でも用いられる。
*2  ユニバーサルデザイン:バリアフリーは、障害のある人が社会生活をしていく上で障壁となるものを除去するとの考え方であるのに対し、ユニバーサルデザインはあらかじめ、能力の如何、年齢、性別等にかかわらず多様な人々が利用しやすいように都市や生活環境をデザインする考え方。
*3  ノーマライゼーション:障害者を特別視するのではなく、一般社会の中で普通の生活が送れるような条件を整えるべきであり、共に生きる社会こそノーマルな社会であるとの考え方。
*4  学校施設整備指針:「幼稚園施設整備指針」、「小学校施設整備指針」、「中学校施設整備指針」は平成15年8月に、「高等学校施設整備指針」は平成16年1月に、「盲学校、聾学校及び養護学校施設整備指針」は平成11年4月に改訂。
*5  ユニバーサルデザイン7原則:1誰にでも公平に利用できること、2使う上で自由度が高いこと、3使い方が簡単ですぐわかること、4必要な情報がすぐに理解できること、5うっかりミスや危険につながらないデザインであること、6無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できること、7アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること。


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