ここからサイトの主なメニューです

第1章 大学施設のコストマネジメントの現状と課題

1.大学施設の特性

  大学の特性の存在
 
   大学施設のマネジメントを行うとき、大学施設には事務所ビル、工場、商業施設等と異なる特性があるため、それに対応する手法を採用する必要がある。

  大学施設利用者の特性
 
   企業や行政機関等では組織運営効率化のために、組織の長から下部への命令系統を明確にして権限も階層化するのが通常であるのに対し、大学の研究組織では各研究者の自律性が尊重され、トップダウンの単線的な組織形態がなじまない面もある。
 施設マネジメントにおいても、利用者の意思を取りまとめたり、利用者に協力を要請する際にはこのことに配慮が必要である。
   学生は入学金、授業料を支払って教育を受けるという点に着目するとサービスの購入者であるが、大学院生等が教員の指導の下、研究の一部を担うなどの点で、大学運営に参画する構成員であるとも考えられる。また、生活の拠点である寄宿舎や自主的活動のための課外活動施設を提供するなど他のサービス産業に見られない関係が大学と学生間に存在する。
 そのため、他のサービス産業の顧客では施設マネジメントへ参加を求めることは困難であるが、学生にはそれが期待できる。
   大学では公開講座など一般市民を対象とする行事を行っており、施設について不特定多数の利用に配慮しなければならない。敷地内の通行は自由にできるキャンパスが多く、都市緑地の一部として周囲の住民から親しまれている例もあるなど、公共性に配慮することが求められる。

  研究エリアごとに高い独立性
 
   学部・研究科校舎等の研究施設は、同一テーマで研究するグループごとにまとまったエリアを持ち、それがグループの数だけ集合するという構成が多い。
 グループのエリアにはリーダーの教員研究室や共同研究者の研究室、指導を受ける大学院生の研究室、演習室、実験室などが含まれる。
 知的財産管理の必要性等もあるためグループごとの独立性は高く、エリアの継続的な使用により、それが更に強まる傾向にある。
 このような構成は、商業施設にテナントが入居するのに類似しているが、各室での活動内容が、より多様であり、このことが大学施設のマネジメントを複雑化している。例えば一斉で大規模な改修を行う必要があって、研究組織を移転させる場合、事務組織の移転と比較にならないほどの調整と準備を要する。
 また、実験室ごとに様々な方法で取得した実験機器が設置され、研究者ごとの光熱水の使用状況の把握が困難な場合も多い。

  断続的・部分的かつ無休・終日利用
 
   研究施設内に居室を持つ教員、学生であっても、講義、フィールドワーク、共同研究等があれば席を離れるため、各室の使用は同一日においても断続的になる。
 大学院生の研究室は多人数室が一般的であるが、広い部屋の一部をわずかに使用する状況が発生する。
 また、実験等の都合により、夜間、土曜日、日曜日を問わず部分使用され、夏期休暇期間に校舎を完全に立ち入り禁止にすることも困難が伴う。
 このような施設の使用パターンは他に例が少ないと思われ、オフィス等を対象にした施設マネジメント手法の適用では十分な効果が得がたい。

  研究の流動性への対応
 
   研究者の流動性向上は、柔軟で競争的な研究開発環境の実現のための重要課題のひとつであり、また、研究者の流動性向上は、研究者の養成及び研究機関の活性化のため重要である。
 研究者にとって、他の研究機関に移って研究を行う場合の重要な条件として施設・機器の充実が挙げられる。
 大学施設が研究者の流動化を支えるためには、実験室を使用する研究者の流動に伴って変わる研究内容への対応が必要である。
 RI施設、遺伝子組換施設、動物実験施設などは施設設備に多額のコストが掛かり、集約化と汎用の兼ね合い等の観点で様々に設定できる選択肢の中から最も効率的な施設形態と運営方式を選択することとなる。

  多種多様な施設を保有
 
   大学の施設の大部分は教育・研究施設であるが、その他に附属病院、事務庁舎、図書館、体育施設、食堂・売店、課外活動施設、学生寮・職員宿舎等の居住施設、小中学校等の附属学校などの施設を保有している。
 超高層の大型建物は少なく、規模の大きい大学では数百棟の建物を保有する。また、団地が分散している大学も多い。
 建物ごとに異なる多様な教育研究のニーズへの対応、老朽状況が一様でない施設のマネジメントは個別にきめこまやかに行う必要があり、効率的なマネジメント手法の導入が求められる。


ページの先頭へ

2.ランニングコストの実態

  大学の経常的経費に占める施設関連コスト
 
   平成15年度実績のアンケート調査(資料編参照)では、施設関連コストのうち点検・保守費、修繕費、緑地管理費、清掃費及び光熱水料の合計が経常的経費(人件費を除く)に占める割合は、国立大学で10〜25パーセント、私立大学で15〜20パーセント程度であった。(図-1.1)
    図-1.1 大学の経常的経費に占める施設関連コストの割合
    国立大学
国立大学の大学の経常的経費に占める施設関連コストの割合のグラフ

私立大学
私立大学の大学の経常的経費に占める施設関連コストの割合のグラフ

  施設関連コストの増減傾向
 
   施設関連コストを抑えることができれば、それ以外の教育研究関連の学内予算増額が可能になる。しかしながら、アンケート調査では、国立大学,私立大学共に施設関連コストは増加傾向又は横ばいが大多数であり、減少傾向にあるとする回答は少ない。
 光熱水料等はエネルギー使用量に連動して増減すると考えられ、増加傾向であることは省エネルギー推進、更に、地球温暖化防止の観点からも問題である。
 増加傾向の原因としては、各室の空調等の水準の高度化やパーソナルコンピュータ、ネットワークサーバなど情報通信機器の増加、実験内容の高度化などが考えられる。(図-1.2)
    図-1.2 ランニングコストの増減傾向
    国立大学
国立大学のランニングコストの増減傾向のグラフ

私立大学
私立大学のランニングコストの増減傾向のグラフ


  電力使用のパターン
 
   大学の電力使用パターンの特徴としてベース電力(休日や夜間でも使い続けている電力)が高いことが挙げられる。
 これは、研究活動の24時間化、ネットワークサーバの増加、恒温・恒湿や高い真空度を必要とする電源を落とせない実験装置の増加などがその要因と考えられる。


ページの先頭へ

3.施設設備の実態


  高効率機器の導入状況
 
   アンケート調査の結果、「工場又は事業場におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」(平成15年1月10日経済産業省告示第4号)等で省エネルギー効果が高いとされている照明設備、空調設備、変圧器等の導入の状況は、最近の新築建物や大規模改修を行った建物では高い導入率であるものの、保有する建物の大半について導入済みである大学は少ない。(図-1.3)

  既存建物への高効率機器導入の遅れ
 
   このことは、改善の余地が大きく、今後積極的な対策を行えば、エネルギー使用が合理化できる可能性が高い実態をあらわしている。
 しかしながら、現状では省エネルギーを目的とした計画的な改善工事はほとんど行われておらず、改築及び大規模改修の時期を待つという現在のペースでは全体の省エネルギー対策が一巡するのに数十年かかると考えられる。(図-1.3)
    図-1.3 高効率機器の導入状況(国立大学)
   
高効率機器の導入状況(国立大学)のグラフ

a1. 新築・大規模改修時は、高効率型照明(HF等)を選定。
a2. 大学の過半の建物の照明器具は高効率型。
b1. 新築・大規模改修時は、インバータ制御の空調機・ポンプ等を選定。
b2. 大学の過半の空調機・ポンプ等はインバータ制御型。
c1. 新築・大規模改修時は、高効率型変圧器を選定。
c2. 大学の過半の変圧器は、高効率型。
c3. トランスロス低減のため系統制御や集約化を完了。
d1. 新築・大規模改修時は、高効率型冷凍機・ボイラーを選定。
d2. 大学の過半の空調設備は高効率型。
e. 新築・大規模改修時は、電気・ガスなどの最適な組み合わせを勘案
f1. 新築・大規模改修時は、地域性に合わせた断熱(断熱材、複層ガラス、全熱交換型換気)を実施。
f2. 大学の過半の建物は、断熱対策済。
g. 太陽光発電、燃料電池など新エネルギーを積極的に導入。

 横軸の「a1」、「b1」、「c1」、「d1」、「f1」は、新築・大規模改修時の状況について、項目の「a2」、「b2」、「c2」、「d2」、「f2」は、現状の整備状況について質問している。


ページの先頭へ

4.施設マネジメント推進組織の実態

  集約化と分散化
 
   大学における施設整備計画策定、維持保全、清掃、光熱水料管理等の業務を担当する部署については、集約化と分散化の考え方がある。
 アンケート調査では、国立大学は私立大学に比べ、担当部署がキャンパスごと、業務ごと、学部ごと等に分散する傾向がある。(図-1.4)
    図-1.4 施設関連業務担当部署の形態
   
施設関連業務担当部署の形態のグラフ

   集約化のメリットは施設関連業務全体の整合がとれ無駄が省けることや大学の運営方針に基づいた重点的な施設関係経費配分が行いやすいことが想定され、調査結果にも表れている。
 分散化は利用者の要望に敏速に対応可能であることがメリットと想定されたが、アンケート回答からは、逆転も見られ、はっきりとした傾向はない。(図-1.5)
    図-1.5 事務処理のメリット
   
事務処理のメリットのグラフ


  アウトソーシング
 
   米国の有力大学の施設担当部署は日本の大学に比べ、はるかに多数の職員を雇用している例が多い。小修繕や緑地管理等を米国の大学では大学職員が行っているのに対し、日本の大学では外部の業者に委託するアウトソーシングが進んでいることが職員数の違いに表れている。
 日本の国立大学法人でも過去には、米国と同様に多数の職員により施設管理が行われていた時期があり、その後、職員数の削減とアウトソーシングが進んできた。
 アウトソーシングにはメリットも多いが、契約手続きのオーバーヘッドが生じ、迅速な対応の点で課題があることなどのデメリットもある。
 国立大学法人への移行で組織の自由度が高まったことを機に、再度管理専門の職員雇用の検討を行っている大学もあり、各大学の実態にあった管理方法を検討し最も効率的で、かつ、利用者の満足が得られる体制づくりが望まれる。

資料>
  マサチューセッツ工科大学(M.I.T)【MIT Facts 2005,MIT Department of Facilities FY2004 より】
 
 学生数  10,317名
 教職員  9,400名(Academic Staff:2,177)
 
   内 施設系職員 559名
Planning,Design,Construction&Administration:80.5
Trades Maintenance&Daily Services:478.5
 
 敷地面積  62万6千平方メートル
 建物床面積  101万

  カリフォルニア大学バークレー校【University of California office of the President Homepage より】
 
 学生数  約3万名
 教職員数 (Full-Time) 11,679名
  (Academic Staff:2,709 Professional and Support Staff:5,519)
 
   内 施設系職員(Full Time) 約944名
Architecture,Engineering &Applied Servides:150
Maintenance,Fabrication&Operations :794
 
 敷地面積  522万平方メートル
 建物床面積  80万平方メートル

  東京大学
 
 学生数  28,386名
 教職員数  7,507名 内 施設部 76名
 敷地面積  102万8千平方メートル(本郷、駒場、柏団地の計)
 建物床面積  99万5千平方メートル


ページの先頭へ

5.ランニングコスト縮減、省エネルギーの取組状況

  学内委員会の取り組み
 
   施設の点検・評価に関する委員会は、すでに全ての国立大学が設置しており、施設の有効活用に関する取り組みが進められている。一方、ランニングコスト縮減や省エネルギーに関する取り組みについては、委員会を設置し、学内の総意に基づいた方針を策定している国立大学は半数に満たない状況である。(図-1.6)
    図-1.6 ランニングコスト縮減・省エネルギーへの取組状況(国立大学)
   
ランニングコスト縮減・省エネルギーへの取組状況(国立大学)のグラフ

a. 委員会を設置し学内の総意に基づいた方針を策定(43パーセント)
b. 教職員・学生に夏季の電力使用量ピーク抑制の協力を要請(効果あり)(78パーセント)
c. 教職員・学生にb以外の省エネルギー、施設のランニングコスト削減の協力を要請(効果あり)(45パーセント)
d. 上記b.cの協力要請による削減効果を積極的に公表(30パーセント)
e. 施設管理・運営担当職員のスキルアップを積極的に実施(46パーセント)
f. いずれも該当しない(3パーセント)

  現状把握の状況
 
   施設マネジメントの基礎となる保有施設の現状把握については十分と言えず、また、私立大学に比べ国立大学の取り組みが遅れている。例えば国立大学で現状と一致し、次の改修の際に使用できる図面を整理しているのは全体の約24パーセントである。
 光熱水の使用量を適切な区分で利用者ごとに把握できるとした大学も、私立大学で約42パーセント、国立大学で約35パーセントに留まる。(図-1.7)
    図-1.7 基礎資料の把握状況
    国立大学
国立大学の基礎資料の把握状況のグラフ

私立大学
私立大学の基礎資料の把握状況のグラフ

a. 建物管理用図面は、小規模改修も含め工事履歴を記録してある
b. 受変電設備やボイラー・空調機などの重要設備は、次の更新時期を把握できる
c. 施設有効利用に資するため講義室、研究室、実験室などの使用実態を把握できる
d. 学内定期的点検により建物や設備の要修繕状況を把握している
e. 光熱水等の使用量は適切な区分で利用者ごとに把握できる
f. いずれも該当しない

  中長期的な展望
 
   保有面積の増加、大規模改修による空調水準の向上等はランニングコストを増加させる可能性が高いため、シミュレーションを行い中長期的な変化の予測をすることが必要であるが、アンケートの結果ではエネルギー使用量変動の推計を行っている国立大学は私立大学と比較して少数である。(図-1.8)
    図-1.8 計画立案状況
    国立大学
国立大学の計画立案状況のグラフ

私立大学
私立大学の計画立案状況のグラフ

a. 今後の教育研究内容の変化に伴うエネルギー使用量等を推計
b. 今後の新築・大規模改修によるエネルギー使用量等の変動を推計
c. 今後の設備更新等に伴う、エネルギー使用量等の変動を推計
d. いずれも該当しない

  具体的活動
 
   教職員、学生へ夏季の電力使用量ピーク抑制への協力要請を行い、効果を挙げている大学は約8割である。(図-1.9)
 省エネルギー診断注釈3の活用、ESCO事業注釈4の実施は少ない。(図-1.10)
 また、施設管理・運営担当職員のスキルアップトレーニングは約半数の大学で実施されている。(図-1.9)
    図-1.9 ランニングコスト縮減・省エネルギーへの取組状況(国立大学)
   
ランニングコスト縮減・省エネルギーへの取組状況(国立大学)のグラフ

a. 委員会を設置し学内の総意に基づいた方針を策定(43パーセント)
b. 教職員・学生に夏季の電力使用量ピーク抑制の協力を要請(効果あり)(78パーセント)
c. 教職員・学生にb以外の省エネルギー、施設のランニングコスト削減の協力を要請(効果あり)(45パーセント)
d. 上記b.cの協力要請による削減効果を積極的に公表(30パーセント)
e. 施設管理・運営担当職員のスキルアップを積極的に実施(46パーセント)
f. いずれも該当しない(3パーセント)


図-1.10 具体的計画(国立大学)
具体的計画(国立大学)のグラフ

a. 新築・大規模改修時は省エネルギー等の対策を実施(94パーセント)
b. ランニングコストの縮減効果を見込んだ早期の設備機器・内外装更新計画を作成(17パーセント)
c. 照明制御などで建築設備の機能付加によりランニングコスト縮減効果が見込めるものについて既存建物も含め計画的に設置(57パーセント)
d. 予防保全(故障・汚損する前に更新・修繕を行うこと)が効果的と思われるものについて計画的に実施し、維持修繕費を合理化(33パーセント)
e. 省エネルギー診断を行い結果を施設運営計画に反映(20パーセント)
f. ESCOの活用などにより早期にランニングコスト削減効果をあげる計画を作成(13パーセント)
g. 更新による投資を抑えるため、既存の機器等の長寿命化対策を行い極力使用する(33パーセント)
h. いずれも該当しない(1パーセント)


注釈3  省エネルギー診断
 省エネルギーの観点から、建物の使用や設備システム及び現状のエネルギー使用量等について調査、分析し、各建物にあった省エネルギー手法を提案するサービス
注釈4  ESCO(Energy Service Commpany)事業
 ESCO事業者が提供する省エネルギーに関する包括的なサービスにより、それまでの環境を維持した省エネルギーの実現及び効果の保証する事業。省エネルギーにより削減した経費をサービス料として支払う


前のページへ 次のページへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ