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第2章 大学施設のコストマネジメントの推進方策

1.施設マネジメントシステム

 
   施設マネジメントはニーズの変化に応えながら継続的に行われるものであるため、従来から示されている施設マネジメントのP(Plan:計画)、D(Do:遂行・行動)、C(ChecK:評価)、A(Action:反映・補正行動)のサイクル(以下、PDCAサイクルという)等により目標の達成を目指すことが効率的である。(図−2)
 PDCAサイクルは、立案した総合的な計画を遂行し、その結果を評価して次期計画に反映させながら目標に向かうとともに、計画を遂行するための具体的な行為について随時評価し、問題点を修正する行動(補正行動)が必要である。
 なお、PDCAサイクルは、施設マネジメント担当部署が中心となって実行し、その際に得られる財務指標等を基に、大学の経営者層が計画の妥当性を判断する等の方式が考えられる。
 ISO9001シリーズ等の外部認証制度を利用することも考えられる。
 以下、PDCAサイクルの留意点を示す。
   
PDCAサイクルの図
図−2


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2.全学的なシステムの構築

(1) 枠組みの策定
 
 施設マネジメントの成果をより高めるためには、全学的なシステムを構築し文書化することが必要である。
 保有する施設、施設管理者・利用者の全体に対応可能な、明快で弾力的な枠組みとすることが望ましい。枠組みとして規定する内容は下記がその例である。
 
  意思決定手続き
  コスト負担ルール
  施設マネジメント関係者の配置及び指揮命令系統
  施設関連情報の流通方法

  意思決定手続き
 
   研究者の自立性尊重や利用者、利用方法が多様であること等から、利用者に制約をもたらす建物内の工事や施設使用方法の変更等は、十分な調整が必要となる。
 そのため、意思決定方式を明確化する必要がある。
 また、学内調整のためには、広い権限を付与された者を施設マネジメントの責任者とすることが有効である。
   施設マネジメントに関連する委員会を設置する場合は、委員会での審議事項を勘案し、経済、法律、環境等に関する学内の学識経験者を委員に任命することも考えられる。

  コスト負担ルール
 
   専用・共用を意識した適切な施設関連コストの負担ルールを明確化し学内の合意を得ることが重要である。
   光熱水料については、省エネルギーの推進の意識を高める観点からは受益者負担が効果的と考えられるが、エネルギー使用量の多い研究分野では研究費を圧迫し研究に支障が生じる場合もある。
 一部を受益者負担、残りを共通負担とすることにより、省エネルギー意識を高めながら、研究に支障が生じないよう配慮する方法も考えられる。

  施設マネジメント関係者の配置及び指揮命令系統
 
   施設関連の事務処理方式を点検し、合理的な指揮命令系統を規定することが有効である。
   従来行われていた施設の維持管理を資産管理の観点から行うため、不動産業界の管理手法を参考にして施設マネジメントに取り組んでいる大学の例がある。
   省エネルギー法のエネルギー管理士等は、事業主に対する提言、従業員に対する指示、監督等を行う責任がある、職員から選任された場合、当該職員の業務が適切に実施できるように、地位や処遇について配慮する必要がある。

  施設関連情報の流通方法
 
   緊急時の連絡、不具合箇所の登録、研究内容の変化に伴う専用部分の改造要望など、施設関連の情報についてのホームページの開設や電話、電子メール等の窓口と処理方針を定めておくことが有効である。
 また、エネルギー消費量、修繕費等の公表も検討すべきである。


(2) 目標設定
 
 施設関連コストの縮減や省エネルギーの指標は比較的数値化と目標設定が容易であるが、併せて施設の機能水準の低下や利用者満足度の低下がないこと等を目標にすることが重要である。
 具体的な数値目標については次の指標に関するもの等が考えられる。
 大学の状況に応じた数値と達成までの期間を検討する必要がある。
 
  省エネルギー法令に基づくエネルギー使用原単位
  温暖化ガスのシー オー ツー換算量の総排出量
  維持管理費・清掃費等の財務関連指標
  光熱水料等の財務関連指標
  「残存する不具合の解消に要する額」/「保有施設の再整備に要する額」
   
  (以下、「FCI」という。Facillity Condition Index の略である。)
FCIはアメリカの大学で広く活用されている財務指標である。建物は経年につれて不具合箇所が発生しFCIの値は増加していくが、修繕費を投入すればその金額に応じた分のFCIの低下が見込めることになる。中長期的な修繕計画立案や極端にFCIの低下した建物の改築判断などに活用できる。
  利用者満足度
 目標設定にあたっては、目標とする事項を十分に検討し、重要性の高い事項に絞り込むことが必要であると考えられる。


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3.総合的な計画立案

(1) 現状把握
 
 既存施設等の現状把握については、これまでにその重要性が言われており、各国立大学は、既存施設の現状把握に努めているところである。
 把握すべき項目は、多種多様であるが、既存の施設が現状のニーズにどの程度対応しているのか、耐荷重性、耐振性など今後予想されるニーズにどの程度対応することができるのかを把握しておくことが必要であると考えられる。
 施設関連コストの縮減、省エネルギーのために把握するべき項目は下記がその例である。
 
  建築設備機器の状況
 建築設備機器の省エネルギー対応の状況と更新時期、また、配電系統、設備配管等を把握することが計画立案のために有効である。
  要修繕箇所
 現存している要修繕箇所について、位置、部位、概算費用、優先度などを把握することが計画立案のために有効である。
  適切な区分によるエネルギー使用量
 適切な区分でエネルギー使用量を把握し、面積あたりの比較等が可能になることが計画立案のために有効である。

  エネルギー使用量の把握の精度
 
   国立大学の大半は、研究スペースについて利用面積に応じた一定額の光熱水料の徴収又はその検討を行っている。しかし、その光熱水料の根拠は受配電設備ごとの使用量を対象エリア全体で平均する等の方法が多く、きめ細かなコストマネジメントのためのデータは収集されていない場合が多い。
 これは、計量単位の細分化は、計量器の設置費用や検針・課金のための労力が増大し、また、徴収金額の公平性・透明性を確保するために設置する計量器の検定や定期的な交換が必要となるためである。
   エネルギー使用量の計量は、そのデータの利用目的に応じた計量区分や計量方法の選択が必要である。受益者負担とするための計量は、高い精度が必要となるが、大まかな使用状況を把握するだけであれば、夏期、冬期、中間期、ゴールデンウィーク等の電力使用パターンの典型的な時期に可動式の計量器により短期間調査するだけでも十分な場合が考えられる。
 今後の新増築、大規模改修等の整備の際には計量設備を充実させていくことが有効である。

  継続的な資料収集
 
   施設関連コストの縮減や省エネルギーを進めるためには、例えば建築設備機器の効率化を図る、断熱性能を高める等の修繕を行う必要があるため、施設の基本的情報である図面や設備台帳等により施設の現状を把握する必要がある。
   施設の要修繕箇所を把握するための調査やパトロールを実施する大学は多いが、一方では、各学部等で分散して施設管理を行っている場合など、学部が実施した改修工事や修理等の情報のフィードバックが行われず、図面や設備台帳が、現状と一致していない場合が少なくない。
 そのため、各学部等との連携を深め、施設の最新情報を収集し、図面や設備台帳の更新、修理履歴を一元的に管理し、検索できる体制を整備することが重要である。
   図面、設備台帳等は継続的に整備・使用されるものであり、また、情報量が膨大であるため、ITの活用が効果的である。入力データの種類、精度等は厳選し、データの収集に係わるコストの増大やデータ収集、入力等に多大な労力が必要とならないよう配慮が必要である。


(2) 計画策定
 
 現状把握に基づく適切な計画を策定する必要がある。
 ランニングコストを縮減する手法としては下記がその例である。
 
  高効率機器導入
 「第一種指定事業者(上水道業、下水道業及び廃棄物処理業を除く。)による中長期的な計画の作成のための指針」(平成16年2月26日 文部科学省・厚生労働省・経済産業省・国土交通省告示第1号)等で省エネルギー効果が高いとされている、コジェネレーション設備、低損失型変圧器、高効率照明設備等を導入し、電力や燃料の消費を減らすことによってコストを縮減することが可能である。
  断熱等の施設改良によるエネルギー使用量の削減
 外壁や窓ガラスの断熱性能を高めることで空調に必要なエネルギーを削減する等、施設の改良でコストを縮減することが可能である。
 他には、自然の通風、採光を活用するパッシブシステム、人感センサー・スケジュールタイマーによる照明等の制御等が施設改良の対象として考えられる。
  ピークシフト
 夜間電力を使用する等して電力使用パターンを平準化することにより、電力会社との契約電力量を引き下げ、コストを縮減することが可能である。
 蓄熱装置を持つ空調設備等がこれに該当する。
  新エネルギー利用
 太陽光発電装置等の設置により、電力会社から購入する電力量を削減し、コストを縮減することが可能である。
  修繕の集中化
 集中的な修繕は利用者へ支障を及ぼす期間がトータルとしては短縮でき、また仮設の共用、現場監理の効率化等のコスト縮減が可能である。
 そのため、劣化の現状と今後の予測を基に、予防保全も活用し、できる限り修繕の集中化を図ることが望ましい。
  運転監視方法の合理化
 空調機器の間欠運転、負荷バランスの確保注釈5、負荷に応じた受電トランスの台数制御等の運転の合理化によりコスト縮減が可能である。
  利用者の省エネルギー行動
 利用者を啓発し、省エネルギー行動や環境美化活動を奨励することによりコストを縮減することが可能である。
  アウトソーシングの合理化
 関連する複数の業務を一括で業務委託すること等によりコストを縮減できる可能性がある。
 例えば、清掃業務、巡視点検業務、簡単な応急処置等を一括業務委託し同じ作業員が一連の業務を行えば請負金額の低減が期待できる。
 また、ひとつの業務を複数の業者に分割委託し競争させることにより、業務の質の向上やコストの縮減が図ることも考えられる。

注釈5 負荷バランスの確保
例)単相変圧器群の高圧側接続相を見直し相間の平衡を確保

  整備計画とのリンク
 
   建物の運用・保全に要する費用は建設費の数倍に達するとよく言われる。従って、施設の新設は、必要最低限にとどめ、適切な時期に既存の施設の改修・更新を行うなど適切な保全を行い、長期間有効に活用することが最も経済的である。個々の施設毎に維持管理計画を立案すると共に、施設の使用期限、改修・更新時期について、大学の施設全体の整備計画と整合を図り、優先順位を検討することにより、効率的で経済的な施設の整備を計画することが考えられる。
   維持管理計画の立案において検討する事項としては、施設の使用期間中に発生する予測可能な修理・修繕、小規模な改修・更新、中期的な設備の改善・更新、大規模な施設の改修・更新等の実施時期、周期等及びコスト、保守点検等の維持管理コスト、エネルギーコスト、支出時期、支出周期等が考えられる。
   改修対象や優先順位等の検討にあたっては、施設管理者側の観点だけではなく、利用者の評価にも配慮することが大切である。また、省エネルギーに関して財団法人省エネルギーセンターの診断を受ける等、第三者機関の評価を参考とすることも考えられる。

  大学以外の施設での先進的な例
 
   資産管理の視点から建物活用状況を評価し施設戦略を立案し施設の保有形態管理を行うことが実施されている(施設ポートフォリオ注釈6
   自治体では、資産状況、性能状況、運営状況から施設価値評価を行う取組がなされている。
   安全性・快適性・機能性等について施設性能評価を行い施設のリニューアル計画の検討を支援するシステムが開発されている。
   オフィスの執務環境評価規格としてASTMオフィスファシリティ規格読み方を入力してくださいがあり活用されている。

注釈6 施設ポートフォリオ
 保有する複数の施設群について、利用状況、資産価値を調査分類し、建物毎の利活用方針を策定するマネジメント手法
読み方を入力してください ASTMオフィスファシリティ規格
 ASTM(The American Society for Testing and Materuals:米国材料試験協会)に承認されたオフィス評価規格。オフィス利用者側の要求とファシリティのサービス提供レベルを相互評価して最適化を求める相対評価手法を基本的とした評価規格

  プリメンテナンスの活用
 
   施設を長期にわたり活用することはもとより、施設の安全性、信頼性を確保するためには、教育研究活動の支障となっている施設の不具合を解消するとともに、潜在するリスクに対する予防的な施設の点検保守・修繕等(プリメンテナンス)を効果的に実施する必要がある。その際、リスクとコストを比較衡量し、コスト縮減を前提として、これを適切に判断した上で実施することが重要である。
   例えば、建物の大規模な改修(リニューアル)を行うまでに、主要な設備の更新が何回か行われる場合がある。大規模な改修を行う時期に主要設備を更新することにより、効率的な設備更新が可能となる。そのためには、主要設備の寿命を大規模な改修を行う時期まで延ばすための維持管理が必要となるが、プリメンテナンスは有効な手段である。
   プリメンテナンスの方法は、周期的に実施する時間基準保全注釈8、施設の状態を監視しながら行う状態基準保全注釈9等がある。施設設備の重要度、回復に要する時間及びその間に発生する損失、メンテナンスコストを検討し、対象設備に応じたメンテナンス方法を選択する。対象設備によっては、事後保全が適する設備もある。
   なお、プリメンテナンスを実施しても突発的な不具合の発生を完全に防止することはできないことに留意し、特に重要な設備は、二重化注釈10する等、設備的な信頼性を確保しておく必要がある。
   また、事後保全についても設備が完全に壊れてから行うのではなく、日常の点検や利用者等の通報により発見された不具合についてその都度、適切に対処することが重要である。

注釈8 時間基準保全
 予め保全の実施周期を決め、同一設備,機器について同一基準に従い実施する方法
注釈9 状態基準保全
 対象設備の状態を監視し、劣化度合を定量化して評価、適切な時期に保全を実施する方法
注釈10 二重化
 トラブル等によるシステムの停止に備え予備システムを設置し、信頼性を確保する方法

  施設の見直し
 
   一般的に、施設整備後は、施設の運用は、利用者に任され、出来上がった施設が、企画・計画どおりに使われているか、施設の利用状況等が把握されていない。また、長期的な施設の利用に伴い、企画・設計当初の諸条件と現状が乖離している場合があり、施設の面積、機能、能力等に過剰・不足が生じる可能性がある。また、利用方法等が設計意図と違うため、本来の機能が発揮されていない場合がある。
   定期的に施設の利用状況を確認し、運用コストの縮減や省エネルギーの観点から過剰設備の見直し、利用方法の見直し等を検討する必要がある。見直しにあたっては、将来の需要予測等を行う必要がある。


(3) 資金計画
 
 資金計画は、施設毎に使用期限を定め、使用期間中に生じる諸コストを時系列的に整理し、それぞれに必要な資金を資金規模、必要時期、必要周期等を勘案し、妥当性の高い資金調達方針を検討することが重要であると考えられる。
 また 社会情勢の変化、教育・研究内容の変化、施設利用形態の変化に対応するため、定期的及び随時見直しが必要であると考えられる。
 ランニングコスト縮減、省エネルギーに係る資金計画の検討項目としては下記がその例である。
 
  毎年度の維持管理費の必要額の確保
 残存不具合の増加を防止し、ライフサイクルコストを最小にするため必要な維持管理費を確保する。
  機器更新のための一時的な費用の確保
 建築設備機器の効率化等、将来回収可能であるが、一時的に負担する必要のある工事費を確保する。

  必要額の算定方法
 
   使用期間中のコストとしては、予め予測した施設使用条件によるエネルギーコスト、定常的な保守点検・清掃コスト、警備コスト、環境コスト、過去の実績等に基づく予測可能な範囲での修理修繕、中期的な設備更新・内外装改修コスト、大規模改修コスト(大規模改修に伴う移転、代替施設確保に掛かるコストを含む)、解体コスト等が考えられる。
 突発的な故障は、予防及び予測が困難であるため、試算の対象から除くこととなるが、予め資金調達方法等を検討しておくことも大切であると考えられる。
 また、維持管理や省エネルギーに必要な情報を把握するためのコストにも配慮することや、コスト試算と同時に、環境負荷(二酸化炭素、廃棄物の排出量等)を試算することも重要であると考えられる。

  国立大学法人の施設マネジメント関連資金
 
   国立大学法人の施設マネジメント関連資金としては、運営費交付金、施設費補助金、国立大学財務・経営センターの施設費交付事業、長期借入金、剰余金、外部資金(PFI、ESCO、寄付金)等がある。それぞれ使途に限定されているものもあるため、支出内容を勘案のうえ、確実な資金調達計画を立案する必要がある。
   運営費交付金には、施設維持管理にかかる費用として教育等施設基盤経費が含まれている。教育等施設基盤経費には施設の修繕や点検保守等で建物の面積に応じて経常的に必要となる費用や施設の劣化を防止するための費用が含められており、運営費交付金から施設の定常的な維持管理に要する資金を確保する必要がある。
   国立大学法人の自己努力では資金確保・調達が困難な、比較的大規模な改修等の事業は、施設費補助金等により実施することとなる。
   長期借入金は、附属病院の整備及び移転整備の目的外では行うことができない。
   剰余金を施設の改善や小規模な更新等に充当する場合は、予め、中期計画を定めておく必要がある。
   
資料>
 
 国立大学法人は、自らの経営努力により、毎事業年度に利益を生じたときは、文部科学大臣の承認を受けて、その残余の額を中期計画で定めた剰余金の使途に充てることができる。
  【国立大学法人法第31条第2項第6号】

 経営努力により生じたとされる額は、具体的には以下の考え方による。
 
 ・  運営費交付金及び国又は地方公共団体からの補助金等に基づく収益以外の収益から生じた利益。
 ・  運営費交付金に基づく収益から生じた利益については、中期計画(年度計画)の記載内容に照らして、運営費交付金により行うべき業務を効率的に行ったために費用が減少した場合に発生したもの。ただし、運営費交付金により行うべき業務を行わなかったために費用が減少したと認められる場合は除かれる。
  【「国立大学法人会計基準」及び「国立大学法人会計基準注解」報告書(平成15年3月5日)第70】

 資本支出と修繕費との区分
 
 ・  固定資産の取得後に行う改良又は修繕に係る支出については、資産価値を高めたり耐用年数を延長させるものと、通常の維持管理又は原状回復のためのものがあり、前者は資本的支出として処理し、後者は修繕費として処理することとなる。しかしながら、実務上の取扱いにおいては、これらが混在し明確に区分できない場合がある。
 ・  これらについては、法人税法基本通達の趣旨に従って判断することとする。なお、修繕費として費用計上が認められる基準としては、その改良又は修繕に係る支出が50万円に満たない場合とすることとする。
  【「国立大学法人会計基準」及び「国立大学法人会計基準注解」に関する実務指針報告書(平成15年3月5日)Q20-1 A1,A2】
   国立大学法人は、将来の支出増加で、その発生が当期以前に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合は、当該金額を引当金として計上することができる。
 ただし、法令、中期計画等に照らして客観的に財源が措置されていると明らかに見込まれる将来の支出については、引当金を計上しないこととされている。
 基準第83の特定の償却資産の指定を受けない償却資産に係る(特別)修繕費等は引当金として計上することが可能である。
   例えば、自家発電設備等の重要な設備は、定期的な精密点検保守が必要とされ、国立大学法人の中期目標期間を超えて定期的に多額の資金が必要となることが考えられる。このような資金を積立金とする場合は、予め、その使途を中期計画に定めておく必要があると考えられる。

  PFI、ESCO
 
   施設の改修・更新後の維持管理費、運営費、エネルギーコストの縮減により、事業採算性が見込まれる場合は、PFI事業やESCO事業の対象として、施設の改修・更新を民間資金により実施できる可能性がある。
   両事業は、改修・更新のために一時的に必要な多額の資金を長期間に分割して返済することとなり、支出の平準化が可能となるが、支出が長期間にわたるため、事業期間中の資金の調達・確保を検討しておく必要がある。
   両事業は、事業者側の提案に基づき事業内容、事業費等が決定される。国立大学法人側も事前に事業採算性を検証し、適切な事業期間や負担額を検証しておく必要がある。
   また、民間の創意工夫によるコスト縮減を得るには、性能発注注釈11にする必要がある。
   ESCO事業は、エネルギーコスト縮減で事業採算性を得るため、省エネルギー効果の高いものだけが事業対象となる。対象施設の選定にあたっては、施設全体の改修計画と整合を図る必要がある。また、ESCO事業の検討を行う前に徹底した省エネルギーを実施することも重要であると考えられる。

注釈11 時間基準保全
 予め保全の実施周期を決め、同一設備,機器について同一基準に従い実施する方法

  その他の外部資金の可能性
 
   外部資金は、今後も増加すると考えられる。外部資金による研究に関連する施設の改修に要する費用、エネルギー使用料等は、学内規程に従い当該資金で負担することで他の研究への圧迫を避けられると考えられる。


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4.計画遂行

 
   策定した計画に基づき維持管理業務、改修、利用者の教育啓発等を適切に遂行する必要がある。

  省エネルギー行動規範の普及
 
   コストマネジメントを推進するうえでは、省エネルギー行動によるランニングコストの縮減が有効かつ重要である。
   このため、大学の規模など、実情を勘案した実効性のある全学的な省エネルギー行動組織を設置し、省エネルギー行動規範の検討と組織的な省エネルギー行動の実践が必要である。
   省エネルギー行動には、エネルギーの使用実態を総合的に管理することが必要であり、学内全体で組織的に取り組むため、学生の参加が不可欠であると考えられる。
   学生は、大学経営の視点から見ると「顧客」である。大学側の経営のための活動に、学生を参加させるためには、学生が自主的に参加できる仕組みを作ることが必要である。
   省エネルギー行動に学生を継続的に参加させる試みとして、勤務時間外に学内を点検し不要な電気を止める業務を学生のアルバイトとして検討している大学がある。

  利用者へのフィードバック
 
   省エネルギー行動を実効性のあるものとするためには、省エネルギーの必要性の十分な説明と、学内の合意による省エネルギー目標の設定が必要である。また省エネルギー行動の参加者へ省エネルギー効果を目に見える形でフィードバックすることも有効である。
   例えば、学内の組織ごとに年間省エネルギー目標を設定し、設定した目標と目標の達成結果を学内に公表し、目標を達成できた組織へ何らかのインセンティヴを付与するシステムを作ることも有効であると考えられる。
 省エネルギー目標の設定と省エネルギー効果の配分計画を公開することも有効であると考えられる。
   施設マネジメントに関する投資とその成果についても公表することが必要であると考えられる。

  利用者とのコミュニケーション
 
   施設に関する諸情報を公開し、利用者に問題点、改善すべき点等を理解してもらうことが重要である。
   施設の維持管理は、施設担当職員や業務委託している専門業者だけでなく、施設利用者の理解と参加が重要であると考えられる。特に省エネルギーは、利用者の参加が不可欠であり、参加意欲の向上や継続性を確保することの検討が必要である。


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5.評価

 
   施設マネジメントの遂行の際収集された判断材料に基づき的確な評価を行う必要がある。

  達成度の評価
 
   FCI、エネルギー消費原単位等を用い、マネジメント期間中にどれだけ目標を達成したかを評価し、次のPDCAサイクルに反映することが重要である。
   大学のエネルギー消費原単位については、研究内容が多様であることから「建物床面積あたりの消費量」がなじまない面もあり、より適切な算定方法を検討することが望まれる。
   
資料>
 
例)  製鉄工場では、製品ごとに製造に必要なエネルギー量が異なり、製品の製造割合の違いでエネルギー使用量が大きく変化し、省エネルギーの実施状況が正しく評価できないため、製品ごとにエネルギー消費量を補正して工場全体のエネルギー使用原単位を算定している。
   今後、国立大学法人自身による財務の点検・評価の進捗により、施設に係るコストの一層の合理化がすすめられると考えられるが、その際に施設マネジメントの視点に立ち、大学の活力を高めるよう戦略的なコストマネジメントの推進が望まれる。
 それには、安全・環境保全や利用者の満足度を高めるといった視点が重要であり、大学の活力ある発展を保障するものでなければならない。

  適切なパラメータによるベンチマーク評価
 
   ベンチマーク評価は、維持管理の実施状況やエネルギー使用状況を客観的に評価できることから、コストマネジメントにおいても有効な評価手法である。一般的にベンチマークは、単位面積当たりのコスト等で示される。
   大学施設は、学部ごと、研究者ごとでエネルギー使用状況が異なるため、ベンチマーキングにあたっては指標算定範囲や比較対象を適切に設定することが必要である。

  外部評価
 
   改修対象や優先順位等の検討にあたっては、施設管理者側の観点だけではなく、利用者の評価を定量化し管理者側の評価と比較検討する必要がある。また、省エネルギーに関して財団法人省エネルギーセンターの診断を受ける等、第三者機関による評価を参考とすることも考えられる。


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6.共通基盤の整備

  事例の情報流通
 
   各大学は、個性豊かな特色ある教育研究を行っており、コストマネジメントの取組も各法人が大学の特色や地域の状況に応じてシステムを構築していくべきであるが、最も成果の高い具体的取組(ベストプラクティス)や有効な情報は、他大学が参照できるよう流通の仕組みをつくることが考えられる。

  人材育成
 
   大学の施設マネジメントには、施設のハードウエアに関する専門知識や資産管理に関する知識等の幅広い知識が必要であり、関係者の一層のスキルアップが必要である。
 適当な主体による、経営者層を対象とした財務判断に関するプログラムやマネジメント担当部署の職員を対象としたリカレントプログラム等の実施が考えられる。

  ベンチマーク指標の公表
 
   他との比較により自己の改善の方策を得るベンチマーキング手法は、施設マネジメントの評価においても有効であるため、大学においては、施設マネジメントの効果を示す基礎的な指標についてフォローアップし公表することが望ましい。
 このことは、国立大学において法人化により求められる説明責任を果たすことにもつながる。更に、大学が連携し指標の定義について共通化すればより有効である。
 また、優秀な実践を行った大学を顕彰することを検討するべきである。

  情報システム
 
   施設マネジメントでは、大量の施設関係の情報を取り扱うことが必要であり、大学の特性に適合する情報システムの利用が有効である。
 その際、大学ごとに独自のシステム構築を行う必要性はなく、大学間で連携して開発すること等が効率的であると考えられる。システム開発にあたっては、入力に要するコストに対し、得られる効果が十分であるかどうかを検証する必要がある。
 建物の新築や改修によるランニングコスト増減のシミュレーション、電子化した施工図面の一元管理、各室の仕様や現状のデータベース、施設関連のクレーム処理システム等が考えられる。


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