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第3節 今後の利用拡大が期待される産業ユーザー
これまでの本検討会での討議及び上述のアウトリーチ活動・産業利用研究会の実績・計画等を踏まえれば、今後主要分野での利用拡大が期待される産業領域を以下のとおり例示することができる。これらについては、今後産業利用研究会等による当該分野のユーザーとビーム施設者及び関係専門家間の検討・連携の更なる深化に加え、これら検討結果をJ-PARC/MLF等主要ビーム施設における専用(共用)ビームラインの設計・運用システムに反映していくことが望まれる。
<ライフサイエンス・医療分野>
医療機器産業においては、現在HIMAC等で行われている粒子線がん治療の有効性に着目し、設置コスト低減のための小型化等の技術開発成果を踏まえ、製品としての粒子線がん治療装置の国内各地域への設置・普及を目指している。また、製薬産業においては、中性子、放射光を用いたタンパク質等の高分子の詳細な構造・機能解析を行うことにより、合理的な薬剤設計が可能になると考えられている。さらに、農林水産・花卉産業においても、イオンビーム等の利用によるキク、カーネーション等の花卉の品種改良が盛んに行われており、今後、ステップワイズの照射による新たな品種の創生も期待されている。
<環境関連分野>
自動車産業等を主体とした燃料電池の開発においては、量子ビームは大きな役割を担うものとして注目されている。例えば、水素供給源となる水素吸蔵材料開発に際しては、中性子非弾性散乱等による機能・構造解析評価が、その高吸蔵化や高信頼性化に効果的に利用できることが期待されている。また、プロトン伝導膜に関しては、イオンビーム照射によりその高性能化が図られているが、中性子や放射光を用いることにより、伝導膜の構造・機能解析が可能となり、伝導性、耐久性等の更なる向上が期待できる。さらに、燃料電池開発において、出口側の生成水の排出能を高めることは信頼性向上のために必須と言えるが、中性子ラジオグラフィによる水の生成過程の「その場観察」により、排水を促すための効率の良い流路設計が可能になると考えられている。
一方、イオンビーム等のビーム育種による環境耐性植物の創出や、これまで製造できなかったRIをトレーサーとして利用することによるファイトレメディエーション(植物等利用による環境修復)の促進等により、種苗産業等での利用の期待が高まっている。
<材料・ナノテク分野>
材料・ナノテクは、量子ビームの強みが最も発揮される分野の一つとして大きな期待が持たれている。
情報通信産業においては、微小な磁石の性質を有する中性子を用いて磁性材料の特性評価を行うことにより、ハードディスクの記憶密度の向上等に貢献することが期待されている他、軽元素の効果的なプローブとしての特性を活かし、携帯電話等のリチウム電池の性能向上・品質保証にも活用しうるものと考えられている。鉄鋼・建設産業では、中性子の透過性を活かし、構造物の信頼性・耐久性に影響を及ぼす残留応力の評価に有効に利用しうるものと期待されている。残留応力測定は、既にJRR-3等の中性子ビームを用いて小型の実用機器についても行われており、相応の実績を上げているが、J-PARC/MLF等の高強度中性子ビームを利用することにより測定時間が大幅に短縮され、更に大型の構造機器の測定やエンジン稼動中の残留応力を動的に評価できるようになると考えられている。
<その他の分野>
石油・資源関連分野においては、第1節で述べた通り、メタンハイドレートの構造・機能解析への中性子ビーム応用の可能性が期待されている。メタンハイドレートは、メタン分子が水分子に囲い込まれている構造であり、その水分子の挙動によりメタン分子(メタンガス)の吸蔵・放出特性が大きく影響を受けるとされている。こうした水分子の挙動評価に中性子非弾性散乱や中性子回折法が有効であると考えられており、効率の良いメタンハイドレートの輸送・貯蔵法の開発への貢献が期待できる。
従来、中性子ビーム等の利用にほとんど縁のなかった分野としては、食品産業における応用も期待されている。第2節でも述べた通り、高分子ポリマーの機能・構造解析への中性子ビームの利用が、食品産業を含むコンソーシアムから提案されており、吸湿・放出特性の優れたポリマーの開発に向けて、今後、ビーム施設者・研究者との共同研究の実施が計画されている。その他、現在問題になっているコメ中のカドミウム分析に関しても、中性子即発ガンマ線分析が最も有効な手法の一つとして注目されている。
こうした新たな産業分野へのビーム利用拡大に当たっては、前述の産業利用研究会のスキームが有効であると同時に、今後導入予定のトライアルユース制度を効果的に活用していくことが期待される。
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