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第4節 専門組織による依頼分析サービスの提供可能性
 第3節で述べた通り、試料の前処理からデータ取得・解析までの一連の分析サービスを専門機関がすべて代行することは、特に産業界にとり馴染みの薄い中性子ビーム等の利用を促進する上で極めて有効な支援サービスといえる。
 既に、こうした分析代行サービスは、小型のサイクロトロンからの中性子や陽電子等を用いた分析・測定サービス等の形で一部実用化されている。
 現状において量子ビームを利用した民間専門機関による依頼分析及び関連サービスの内容としては、1原子核の核反応を利用するものとして、核反応により生成する中性子及び陽電子等の二次ビームを用いた透過試験・分析、核反応より生成したRIからの放射線を用いた放射化元素分析(荷電粒子放射化分析、薄層放射化磨耗測定)、2ターゲット試料のイオン化を利用するものとして、励起した元素から発光した特性X線の測定による元素分析(PIXE)、3ターゲット試料の原子欠損(格子欠損)を利用するものとして、半導体へのイオン照射等が挙げられる。
 上記の分析・照射サービスの具体的事例として、中性子透過試験においては、ロケットや人工衛星の切り離し導火線、ジェットエンジンのタービンブレード等の精密鋳造品における品質検査・評価サービスが実施されている。
 また、荷電粒子放射化分析においては、半導体や金属中の不純物(元素)の測定サービスが実施されている。代表的な適用対象である機能電子材料は、微量の不純物により特性が変化することが多く、その制御が極めて重要な課題となっている。特に、近年はこれら材料中の軽元素の存在量が注目され、本分析の有用性が高まっている。
 更に、半導体へのイオン照射については、モーター駆動を行う乗用車のインバータ、高速鉄道の車両等における電力半導体(インバータ等のスイッチングデバイス)の特性改善(スイッチを切る速度の高速化、サージ電圧の低減化)に利用されている。これらは、電力消費を抑え環境負荷の低減化をもたらすものであり、エネルギー効率向上・環境保全に係る社会的要請に応えるものとして注目されている。
 今後は、例えば中性子透過試験において、現状のように自らの加速器システムを用いた分析代行事業では、中性子の強度が低いため静的な分析サービスに限定されていたものが、J-PARC/MLF等の大強度の中性子ビームを分析代行機関が活用することにより、動的な分析サービスへの事業拡大の可能性が期待される。また、この中性子ビームの大強度化は、電子材料や磁性材料をはじめとした先端機能性材料などの開発を進める上で有効な手法で、試料調製も容易な中性子粉末回折の測定を迅速かつ少量試料で可能にすることから、新たな分析・構造解析サービスへの展開も可能にすることも考えられる。
 一方、当該分析サービスに係る技術については、これまで公的研究機関から移転されてきたものが多く、今後の更なる事業展開を図る上では、技術的側面における潜在的な開発要素も少なからず存在する。特に、試料の測定効率向上・所要時間の短縮を図る上では、試料の自動交換システムの開発、試料セルのスペックの規格化等ハード・ソフト両面の技術開発を進めることが必要不可欠であり、これらの課題への取組みにおいて、公的研究機関と企業との連携・協力を強化することが重要である。
 更にその際、ビーム利用による各種測定・分析を精密かつ高信頼度で行うに当たり必須と言える「標準物質」作成及び分析法の標準化への取組みが、こうした分析代行サービスを実用ベースで進める上でも極めて重要である。実際に、茨城県がJ-PARCにおける中性子ビームの産業利用促進の観点から設置・運営している「中性子利用促進研究会」(第3章第2節参照)の1領域として、我が国における「標準」作成について中心的役割を有する産総研の専門家を代表者として「中性子標準」に係る研究会を開催し、中性子標準化を通した検出手法の研究開発、試料による計測装置の最適化等に係る検討を行っている。我が国の「標準物質」への取組みが国際的に遅れを取っているとの指摘のある中で、今後の産業利用の推進・拡大に当たっての標準の重要性を勘案すると、こうした研究会の活動を契機として中性子標準を通した中性子計測の信頼性の向上が図られ、ひいては標準化への取組みに係る関係専門機関や府省間の連携・協力が一層強化されることが期待される。


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