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第1章 量子ビーム施設の利用システムのあり方
第1節 多様なビームラインの整備・運営のあり方
 我が国の主要な量子ビーム施設では、大型加速器や原子炉等で発生した量子ビーム(中性子、放射光、レーザー、イオンビーム等)を、その線源から高品位のビームに加工しながら測定装置まで導くが、このビーム輸送系と測定装置をまとめてビームライン(BL)と呼んでいる。これらは、一般ユーザーが共通に使うことを目的とした「共用ビームライン」、専用利用を目的に建設する「専用ビームライン」の2つに大別できる。
 現在建設中のJ-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)では、水銀の核破砕反応によって発生する2次粒子の中性子と、炭素の核反応によって発生する3次粒子のミュオンを利用するBLについて、それぞれ最大で23本及び4本の整備を計画している。BL1本当たりの建設費は、数億円〜十数億円を要することから、中性子ビーム発生装置が完成して最初のビームが出る時点(2008年度予定)で全BL整備を終えることは財政的に困難である。また、利用が始まった後、更に新しいアイデアに基づくBL整備の余地を積極的に残しておくことが望ましい。
 MLFの中性子BLでは、J-PARC建設主体である日本原子力研究開発機構(原子力機構)と高エネルギー加速器研究機構(高エネ機構)のBLを当面それぞれ6本及び4本整備する計画である。また現在第三者が設置予定のBLについては、茨城県が産業利用を目的としたBL2本の整備を予定している他、特定の研究課題を遂行するために、競争的資金によって3件の機器開発等が計画・推進されている。即ち、J-PARC/MLFの供用開始時点では、計23本のBL設置可能枠に対し、施設側の10本のBLに加え、第三者BLとして5件の機器開発・整備計画が進められており、今後さらに大学や公的研究機関、企業・コンソーシアム、並びに海外ユーザー等によるBL設置が期待されるところである。
 これらのBL設置計画については、適切なコスト回収の観点に留意しつつ、計画的・効率的に検討・整備を進めていくことが重要である。実際のBL整備に係る審査プロセスとしては、J-PARCプロジェクトディレクターの諮問機関である「中性子実験装置計画検討委員会」が、毎年国内外からのBL設置申請に基づき、科学技術を先導できるか、産業化促進に役立つか、技術的に可能であるか、提案者グループに十分な整備能力があるか等を2段階(1次審査では提案書、2次審査では詳細な計画書とヒアリング)で評価し、決定している。このプロセスは、建設に多額の費用を要する大型ビーム発生装置を、国の科学技術及び産業の基盤的設備として位置づけ、有効に利用していく上で欠かせないものと言える。また世界の主要各極を代表する大型研究施設の一つであるJ-PARCは国際的公共財と位置づけられていることを踏まえ、外国からのBL設置を含む利用を積極的に推進することとしており、アジア地域の関係国・地域が専用BL設置の可能性を検討している。但し、主として産業利用の対象となる中性子ビーム施設の利用システム設計に当たっては、国際ルールとの整合性に留意しつつ、国内の産業振興のための然るべき方策を採り入れていく必要もあるものと思われる。
 MLFのBLは、建設主体である原子力機構と高エネ機構のBLも専用BLと位置づけられているが、その大半のビームタイム(70パーセント程度)を実験課題が採択された一般利用者の利用に供する制度(一般共同利用)の導入を検討している。また、第三者が設置するBLについても、その一部のビームタイム(20〜40パーセント程度)を一般共同利用に供することとしている。これらの実験課題公募・審査・ビームタイム割当・実験実施等の一連の一般共同利用については、原子力機構と高エネ機構がJ-PARC共同運営のために設置する(2006年2月予定)J-PARCセンターで一元的に取り扱い、一般共同利用者の便宜を図ることとしている。
 なお、ミュオンBLについては、高エネ機構において2008年度を目途に、1本のBLを整備する予定である。今後のBL設置・運営に当たっては、ユーザー等のニーズを見極めるとともに、中性子BL等の他のJ-PARC施設との整合性・関連性を考慮しつつ更に検討を加えることが望まれる。
 一方、RIBFは、主な利用が原子核物理を中心とした基礎科学分野であるが、偏極RIビームや多種RIの生成等の施設能力を活かし、物質材料開発や医療技術・創薬開発や植物育種等応用研究分野への利活用にも供することのできるものである。
 RIBFにおいては、利用分野の如何に関わらず、加速器とともにビーム輸送系と大型の基幹となる実験設備(基幹実験設備)までを施設者である理化学研究所(理研)が整備し、それに付加する測定装置等は施設者を含むそれぞれの利用グループが自らの予算で個別に設置して実験を行うこととされている。これら装置の設置にあたっては、想定される実験研究の科学技術的内容等に関して、ユーザーグループの提言や国際諮問委員会等における評価を受け、施設者がその整備を判断することとしている。施設者が整備する基幹実験設備は共用に供され、また、利用グループが個別に設置した実験装置についても、利用グループの判断により部分的に共用に供される仕組の整備が計画されている。すなわち、原子核物理実験のみならずその他の応用利用実験も含めて、利用者が国内であるか海外であるかによらず、施設全体が共用ビームライン的なものとなる。
 RIBFでは、施設者である理研も含め、すべての実験課題は、課題公募・審査・ビームタイム割当・実験実施等のプロセスに則り、外部委員を含めた実験課題採択委員会、マシンタイム委員会等により決定されることとなっている。また、特に共用に係る運営システムについては、独自の委員会組織を設置して関係事項を討議・整理し、所要の体制整備を図ることとしている。


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