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第4章 量子ビーム研究開発・利用推進に当たって当面採るべき方策

  第1節 未着手ビームラインの機器整備・利用系構築

 
(1) J-PARCビームラインの整備及び利用系構築
<J-PARC/JSNSにおいて提案された主なビームライン機器>
 J-PARC中性子ビームラインに設置すべき実験装置については、将来の科学の動向の予測を踏まえた34台の実験装置が提案された(「統合計画中性子分光器検討班報告書」KEK Report2001-22)。その後、2005年3月の国際諮問委員会の報告において、10台程度の装置を整備する必要ありと指摘されている。
 これを踏まえ、高エネ機構は、世界最高の反射率(10のマイナス10乗)を実現させて、液体間の界面等の研究を行う「高性能試料水平型中性子反射率計」、世界最高性能の分解能を誇る「超高分解能粉末回折計」、液体・ガラスや非晶質体等の無秩序系について極めて高い空間分解能と強度をもって解析を行い、特に機能性材料の階層構造を明らかにする「高強度汎用全散乱装置」、強相関電子系や磁性体、超伝導体や非晶質体といった系に存在する動的構造を解析し、物質機能の解明を行う「高分解能型チョッパー分光器」について、2007年度を目途に整備を進めている。
 これら装置は、現在KEK-PSで行われている実験を世界最高レベルのビーム強度を持つJ-PARCで実施できるよう、2005年度にKEK-PSを停止し、そこで用いられていた実験装置等を改造・移設することにより、大学共同利用に供する装置として整備するものである。
 これは、KEK-PSによる実験研究の継続と短期間中断後のJ-PARCでの実験研究の費用対効果及び実験研究効果の面からも有効であり、また、多大な経費を要するJ-PARC計画において、既存設備の有効活用を図ることは極めて重要である。
 なお、これらの作業はJ-PARC本体の建設スケジュールと密接に連動しており、関係研究者の多くは運転開始時までの間、諸外国の中性子施設に活動場所を求めざるを得ない状況となる。国際競争力確保の観点からも、研究者の海外流出は最小限とすべきであり、J-PARC本体の建設計画及びビームライン機器整備の着実な進展が望まれる。
 原研においては、工学分野において自動車、原子力材料、精密機器等の内部残留応力評価を行う「残留応力解析用パルス中性子回折装置」、生命科学分野での生体タンパク質等の運動・機能を解明する「生物用非弾性散乱装置」、物質科学分野において磁性材料・超伝導材料等の動的構造を解明する「冷中性子ダブルチョッパー型分光器」、ナノスケールの材料やソフトマター等の階層構造・機能の解明を行う「大強度型小角散乱装置」等について、産業界をはじめとする利用者側のニーズを踏まえた優先度付けに留意しつつ、ビームの本格供用が予定される2008年度を目途に整備を進めていることが望まれる。
 これらビームライン機器の整備に当たっては、産学官の関係専門家による研究会の開催等を通じ、産業界等の利用者の具体的ニーズ、技術面・制度面の要請を適確に捉えた上で、設計段階からこれを参酌、反映していくことが必要である。

<茨城県装置の整備・運用計画>
 茨城県はサイエンスフロンティア21構想推進事業の一環として、J-PARC内に産業利用促進を目的とした「生命物質構造解析装置」及び「材料構造解析装置」の整備を計画している。これらの装置は原研・高エネ機構の協力の下で基本設計が固められ、2007年度の設置を目途に整備が進められている。同時に、中性子関連8テーマ、放射線関連2テーマの計10領域について中性子利用促進研究会を設置し、産業界に対する中性子ビーム利用の有用性の啓発、具体的利用ニーズの掘り起こしに努めている。
 これら研究会参画企業をはじめとした産業界による県の装置の先行的利用は、企業ニーズに根差した本格利用への道筋を拓くものと期待され、その着実な進展を図るべきである。

<その他競争的資金による機器整備・利用系構築の可能性>
 競争的研究資金の獲得によるビームライン機器開発・整備への取組み事例として、これまでに、京都大学原子炉実験所川端教授他は先端計測分析機器開発事業の資金(「中性子スピン干渉原理に基づくスピンエコー装置開発」、2004〜2009年度)を得て共鳴中性子スピンエコー分光器群をJ-PARCに建設し、ガラス・ナノ粒子・ソフトマターのダイナミクスを独自の時間−空間領域で測定し、生体高分子の機能発現解明や創薬への貢献を目指している。
 また、競争的資金を活用したビーム利用の高度化研究の事例として、原研新井主任研究員他による原研・高エネ機構・大学の連合チームは、科学研究費補助金特別推進研究の資金(2005〜2009年度)を得て、世界最強の「4次元空間中性子探査装置」の研究開発を行い、磁気励起プロセスの全貌解明によって高温超伝導発現機構を解明することを目指している。
 このように、優れた研究提案を行って競争的研究資金を得ることは、ビーム機器開発・整備及び利用系構築の促進とともに、優れた若手研究人材の結集を図る上でも極めて重要かつ有効なアプローチである。上記2例に見られる競争的資金以外にも、科学技術振興調整費、原子力システム研究開発公募事業、戦略的創造研究推進事業におけるチーム型研究(CREST)等のプログラムが本分野における研究開発の重点推進に向け有望と考えられる。関係研究機関の人材・構想力・研究遂行能力を結集し、これらプログラムへの戦略的かつ積極的な獲得に向けた努力が積み上げられることが期待される。

<産業界専用ビームラインの可能性>
 第2章で述べた通り、産業界が抱える技術的課題の解決のために、中性子ビームの利用は大きな貢献を果たし得るものと期待されている。しかしながら、産業界では中性子利用に対する理解・経験が未だ進んでおらず、その有効性に対する評価は必ずしも高くない。そこで、第3章第2節で述べた産業利用促進のための各種プログラムの創設と並行して、ビームライン整備そのものに対する産業界の積極的参画を促す方策を検討すべきである。その際、SPring-8における産業専用ビームラインの設置・運営の考え方及び実績を参考にしつつ、企業体連合・コンソーシアムによるビームライン設置ないしビームタイム買い取りの可能性を検討するとともに、成果の帰属及び秘密保持の担保、適切なビーム利用料金の設定とこのための各種支援制度の整備等について、施設設置者側と関係産業界の間で早急に具体的検討を進めることが必要である。

(2) RIBF実験設備の整備及び利用系構築
 理研RIBF計画では実験設備の整備は未着手であり、施設の潜在能力を引き出すための基幹実験設備の整備が必要な状況である。主な設備として、ゼロ度スペクトロメータ(新同位元素の基本量測定)、偏極RIビーム発生装置(内部電・磁場測定等材料解析)、大立体角多重粒子磁気分析装置(SAMURAI:エキゾチックな集団運動探索、元素合成核反応実験)、超低速RIビーム生成装置(SLOWRI:精密電磁モーメント測定)、分散整合ビームライン(新奇励起モードの発見)、稀少RIリング(ウラン合成核種の精密質量測定)、陽子分布測定装置(SCRIT:精密陽子分布測定)及び新入射器システム(実験効率の向上)がある。これらの基幹実験設備の整備により、究極の原子核モデルの構築、元素の起源の解明、新しい産業利用の開拓等、今後基礎科学及び産業応用の両面で成果を挙げていくことが期待される。
 理研では、2004年11月に、これら基幹実験設備の整備等について、海外専門家を主体とした外部委員による国際諮問委員会を開催し、「提案されている計画の全てが、世界の先頭を切るRIBF加速器施設の潜在的能力を徹底的に活用するために実現されるべき、重要かつ必要なものである」との評価を得ている。これを踏まえ、2006年度以降、外部利用の可能性や国際的研究開発動向も考慮した優先度付けや外部資金を含む多様なリソースの確保に留意しつつ、これら基幹実験設備の着実な整備が進められることが期待される。

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