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第2節 外部利用のあり方と支援・サービス体制の構築
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<JRR-3の現状>
JRR-3には、施設運営者たる原研が設置した中性子ビーム実験装置15台と東大物性研を中心とした大学が設置した装置14台がある。このうち大学設置の装置については、大学共同利用に100パーセント供する占有利用形態をとるため、東大が原研へ共同利用料金を一括して支払っている。また、装置の整備・維持・運営に係るコストは大学側で負担している。従って、各大学の利用者は消耗品費以外は無償で先端的な中性子実験装置を利用することができる。
一方、原研の装置は2004年度実績で独自研究67パーセント、大学―原研間の協力研究25パーセント、企業―原研間の共同研究2パーセント、有料の共同利用6パーセント(うち大学3パーセント、企業3パーセント)であった。装置の整備・維持・運営に係るコストは原研で負担している。
共同利用の料金は施設の運転経費を基準として算出されており、原子炉室内の装置で1日約12万円、中性子ガイドホールの装置で1日約6万円に設定されている。但し、本料金には支援スタッフの人件費は含まれておらず、現状では施設側がボランタリベースで対応している。こうしたシステムでは、経験の浅い産業界のユーザが利用を希望するケースが増えてきた際に、施設側として十分な対応ができないことになり、今後トライアルユース等の利用促進プログラム導入に当たり、支援人材の確保も重要課題として検討していく必要がある。
<SPring-8の現状>
SPring-8においては、共用ビームラインとして25本、原研/理研ビームライン11本(調整・建設中を含む)、原研/理研以外の専用ビームライン10本(調整・建設中を含む)、加速器診断ビームライン2本の計48本が設置されており、うち共用ビームライン25本のほか、専用ビームラインのビームタイムの一部が共用に供されている。
共用ビームライン(専用ビームラインの共用を含む)の利用形態としては、成果非専有(内容審査、成果公開、利用料免除)と成果専有(安全審査のみ、成果非公開、利用料徴収)がある。さらに、成果専有については、通常利用(年2回募集、472千円 8時間)と時期指定利用(随時受付、708千円 8時間)がある。
また、専用ビームラインにおいては、成果非専有(利用料免除)と成果専有(264千円 8時間)からなる(いずれの場合も維持費は設置者が自ら負担)。
また、外部利用者に対する実験支援者も十分な体制を取っている。
さらに、産業界を中心とした新規の利用ユーザ開拓等を目指したトライアルユース制度を2001年度補正予算から開始し、2004年度で計40課題を実施している。トライアルユースによる支援策として、 |
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コーディネータグループを中心とした申請段階からの相談・指導 |
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産業利用に特化した利用設備の提供 |
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啓蒙的利用に沿った利用実験への技術的な指導 |
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実験結果のまとめと利用報告書作成等の指導 |
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を実施している。
<J-PARC/JSNSにおける外部利用のあり方>
SPring-8の先行事例からも明らかなように、研究会開催やトライアルユース等のステップアップ方式による利用促進方策、実験支援者の配置、適正なビーム利用料金の設定等、適切な利用支援体制を整えることにより、産業界をはじめとする新たな一般利用が大きく増えることが期待される。そこで、J-PARCでは、施設運営者である原研・高エネ機構の本来のミッションである量子ビーム利用研究と大学共同利用を基本に据えつつ、以下のような外部利用促進システムについて、さらに検討を深めるべきである。
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施設運営者が設置する中性子利用実験装置については、ビームタイムの一部(30〜50パーセント)を設置者が運用を決定する枠として利用し、残りを共同運営主体であるJ-PARCセンターが一元的な一般利用(注)に供するとのシステムが検討されている。 |
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施設運営者以外の第3者が設置する中性子利用実験装置については、 |
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設置期間: |
年間( は5〜7年間程度、審査により更新可) |
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専用利用: |
パーセント( は現時点では50〜70パーセント程度と予測されるが、設置目的に応じて柔軟に検討) |
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一般利用: |
(100 )パーセント |
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との枠組みの下、装置の維持管理は設置者の責任において行うものとし、J-PARCセンターが提供する(100 )パーセントの一般利用枠の利用者支援については、設置者が中心的に実施する方向で検討が行われている。
(注) |
一般利用: |
現在、原研が行っている共同・協力研究、産業共同利用や高エネ機構が行っている大学共同利用、J-PARCで期待される産業利用といった広く一般の研究者、研究機関が利用できる仕組みを想定。
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<理研の現有加速器施設(RARF)の現状>
外部利用者が理研加速器で研究を行うには、原子核・非原子核分野にてそれぞれ年2回開催される実験課題採択委員会において、提出された研究課題が採択されることが必要である。研究課題が採択され、理研加速器で実験を行う場合、現状では利用者は理研の客員研究員として研究を行うこととされている。
外部の利用者に対する支援体制については、利用者がスムーズに研究を行えるよう、理研の研究員が研究チームのメンバーとして必ず参加し、調整役としてサポートしている。また、各種講習会(放射線安全取扱講習会等)を開催するとともに、加速器に係るアドバイスやトラブル対応のため、加速器運転従事者が24時間体制でバックアップをしている。
<RIBFにおける外部利用のあり方>
現在建設中のRIBFの外部利用については、今後2年以内を目途に「重イオン加速器研究センター」を創設し、外部利用者を理研の客員研究員として受け入れる従来の方法に加え、センターの一部門として「連携研究部門」を設置して外部利用者が自らの所属機関の身分のまま、大型実験装置を持込み、自らの研究を実施できるような制度を検討している。
RIBFを外部利用に供するための詳細な運営体制については、2005年度に理研に設置した「RIBF共用促進検討委員会」での提言を受け、具体的検討を行う必要がある。
<産業利用支援体制の考え方>
上記のような量子ビーム施設において、一般共同利用枠を活用した産業利用を促進するためには、予め一定の割合で産業利用枠を確保しておき、産業利用に特化した組織体を設けた上で、アドバイザー、コーディネータ、オペレーター等の支援者を配置し、利用者にとって迅速かつスムーズな利用システムを構築していく必要がある。さらに、海外の主要ビーム施設ないしSPring-8で既に導入され、一定の効果を上げているような郵送試料方式による実験代行・分析業務の実施(mail-inサービス)、研究会開催やトライアルユース等の利用促進プログラムの創設、適正なビーム利用料金の設定等、施設運営者は効果的な利用促進・支援方策を講じていくことが求められる。
また、ビームライン設置に至るリードタイムを考慮すれば、施設運営者ないし第三者による産業界専有ビームラインの設置・関連企業群のコンソーシアムによる専用ビームラインの整備を計画的に推進すべく、産学官関係者による研究会等において、利用者側のニーズの吸い上げとこれを踏まえたビームラインの設計・運用形態の掘り下げた検討を早期に進めていく必要がある。その際、特に、中性子ビームについては、これまで企業側の実利用の経験が不足していることに鑑み、主な利用分野・領域毎に、最低1例の顕著な成功事例を早い段階に創出できるような方向で、具体的な課題設定及び推進体制の構築を行っていくことが望ましい。
なお、文部科学省では、国の大型研究施設の新規利用・新領域利用促進のため、2005年度より「先端大型研究施設戦略活用プログラム」を開始している。本プログラムでは、SPring-8と地球シミュレータに関し、産業界を含めた新規利用者拡大と重点領域における集中的な取組みを実現するため、充実した支援体制との組合せで利用資源を提供している。2005年度、SPring-8の場合、課題の応募から利用にわたる期間を通じ、利用者からの相談に応じるコーディネータ及びビームライン支援者を欧米の施設並みに大幅に拡充させている。
今後、J-PARCをはじめとする大型量子ビーム施設の新規利用・産業利用の拡大に向け、有効なビーム利用促進方策を検討する上で本プログラムを参考とすることが望ましい。 |