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第3章 広範な科学技術分野との連携による利用促進及び利用者コミュニティ拡大に向けた諸課題

  第1節 各種ビーム源の相互補完性と包括的・横断的利用のあり方

  <各種ビーム源の特長>
 量子ビームのうち、レーザーや放射光は電磁波であり、中性子等は物質波である。それぞれの波動が持つ波長とエネルギーの関係(分散関係)は異なるため、物質をどのような長さのレベルで、どのようなエネルギーレベルにある現象を観測するかを決めると、それに適した量子ビームが決まってくる。例えば、物質のナノ構造を観測するためにはX線(放射光)や中性子が適しており、そのメブレベルの運動は中性子、ケブレベルの運動はX線(放射光)による計測が適していると大づかみにいうことができる。しかし、放射光ではメブからケブレベルまで、中性子ではネブからeVレベルまで測定可能となっているように、最近の量子ビーム技術の進展や近い将来実現する量子ビーム施設・技術によってその限界が異なることに留意する必要がある。(図表5(PDF:167KB)参照)
 また、ビームが本来持つ感受特性、強度、指向性等によって、計測、分析、加工等の得意分野が決まる。例えば、J-PARC/JSNSは結晶構造解析、磁気構造解析、格子振動解析、磁気運動解析、透過計測に強みを発揮するものと期待される一方、SPring-8(現在計画検討中の X線自由電子レーザー(XFEL)を含む)は電子状態解析、結晶構造解析、磁気構造解析、格子振動解析、微小部分計測に強みを持つ。他方、RIBFの偏極不安定核イオンは結晶中に不純物として埋め込むことができ、局所位置から見た磁気構造・結晶構造解析、原子拡散計測に有利である。

<各種ビーム源の相互補完性>
 中性子ビーム(J-PARC/JSNS)と放射光(SPring-8・XFEL)、イオンビーム(RIBF)の補完性については、第2章に示した具体事例も踏まえれば、図表6(PDF:328KB)のレーダー型チャートのように整理することができる。実際、各種ビームの利用計画の立案に当たっては、これを踏まえ研究・産業応用のために最も相応しい量子ビームを選択し、必要に応じてこれらを組み合わせて利用することが極めて重要である。例えば、燃料電池の開発では、水素吸着材の開発に関し、未知の材料の構造解析には放射光が早くて正確であるが、吸着された水素の位置と占有率の解析には中性子がはるかに適している。また、個別の元素の移動追跡は、不安定核イオンの導入によって行うことができる。即ち、燃料電池膜の結晶構造解析は放射光で行い、反応時のプロトン移動の解析については中性子を使うこと等が有効である。
 また、ナノフォトニクス材料の創製では、材料改質には重イオンビームによる原子導入及びフォトン(レーザーや放射光)による原子の位置の制御が有効であり、創製したナノ構造の精密構造解析には、放射光や中性子を使うことが有効である。
 さらに、ラジオグラフィー法によるセル全体の透過写真撮影では、空間分解能が要求される場合は放射光を使う必要があり、生成水の滞留の観測では中性子を使う必要がある。
 このように、量子ビームは各々の特性・強みを活かし、相補的・総合的に利用していくことが重要である。ともすれば、施設側も利用者側も自分が関わっている単一のビーム源に捉われがちだが、視点を量子ビーム全体へと広げ、相互補完性を踏まえつつ、最善の利用戦略を常に探索し、実行していくことが求められている。

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