ここからサイトの主なメニューです

  第3節 科学技術政策上の量子ビーム研究開発・利用の重要性及び位置付け

  <基本認識>
 我が国においては、これまで高エネ機構や理研、原研等を中心として、世界最高水準の先端・大型加速器の開発・整備に取り組んできた。これら先端加速器・ビーム技術の発展・高度化に呼応する形で、高エネルギー物理学以外の広範な研究分野にも加速器の利用・開放が広がり、更に狭義の「放射線」の範疇には留まらない種々の2次粒子・ビームの利活用により、ライフサイエンスやナノテクノロジー、環境分野等にわたる多彩な研究基盤が形成されてきた。今日では、全国の研究・教育・医療機関で計1,200台強の加速器が整備・運用され、高い精度・性能での物質の構造解析・微細加工、RI製造や生体照射等を通じた産業・医療利用の多角的展開が図られている。
(図表4:量子ビームテクノロジーの進展(PDF:56KB))

 こうした量子ビーム利用の経済効果については、2003年12月の原子力白書において、関係する産業の総経済規模の合計として「放射線利用の年間経済規模は8兆6千億円」との評価が引用されているように広範な産業振興、国民の生活の質の向上に大きく寄与しているものと認識されている。

<新原子力研究開発長期計画案における位置づけ>
 上述のような経緯・現状及び近年の状況変化も踏まえた上で、現在審議・策定作業の最終段階に入っている原子力委員会の「新計画」案においては、これまでの論点整理等に立脚し、量子ビーム研究開発・利用の重要性及び今後の推進方策について、以下の通り政策上の位置づけを行っている。
 この中で、特に、産学官各セクター間・異分野間の連携促進及びインターフェース構築を通じた情報提供、経験交流、共同作業の重要性を指摘するとともに、産学官連携のための環境整備、研究者・開発者にとって利用しやすい柔軟性に富んだ共用・支援体制の整備が必要との認識が示されている。
 またその際、施設・設備を利活用するユーザの利便性の向上や、様々な研究分野のユーザが新しい応用方法を拓きやすい環境の整備が必要とした上で、研究開発施設・設備の利用に当たり、受益者は、成果が広く国民に還元される場合を除き、原則として費用の応分を負担すべきとの考え方を提示している。

原子力委員会「新計画」案
(平成17年7月15日・新計画策定会議資料より抜粋)

放射線利用
[基本的考え方]
 放射線はこれまで、学術、工業、農業、医療その他の分野で適切な安全管理の下で利用されてきており、社会に大きな効用をもたらしている。しかしながら、放射線は取扱いを誤れば人の健康に悪影響を与えること、不適切な取扱事例が報告されることがあることから、利用現場においては、安全確保のあり方について絶えず見直し、今後とも厳格な安全管理体制の下で、効果的で効率的な利用に向けて努力がなされることを期待する。
 放射線や放射性物質を利用する分野は着実に拡大してきているが、今後ともこれが進展していくためには、潜在的な利用者の技術情報や効用と安全性についての理解の不足を解消していくことが重要である。そこで、従来から存在する産学官の連携の取組を強化して情報提供、経験交流、共同開発を進める観点から、医学分野・工学分野・農学分野間の連携等を図ったり、事業者、国民、研究者間の相互交流のためのインターフェースや相互学習のためのネットワーク等を整備していくべきである。
 国は、先端技術が効果的に利用されるように、放射線利用技術の高度化に向けて適切な支援策を講じるとともに、国と民間の科学技術活動に対する効果の大きい先端的な施設・設備の整備を行っていくべきである。
(中略)
[各分野における進め方]
(1)  科学技術・学術分野
 放射線は基礎研究や様々な科学技術活動を支える優れた道具として重要であり、引き続き我が国の科学技術や学術水準の向上に資する活動において積極的に利用されるべきである。量子ビームテクノロジーは、今後、ナノテクノロジーやライフサイエンス等最先端かつ重要な科学技術・学術分野から、医療・農業・工業等の幅広い産業までを支えていくことが期待されている。そこで、国は、大強度陽子加速器といった世界最先端の量子ビーム施設・設備を我が国の基幹的な共通科学技術インフラとして整備していくことに継続して取り組むとともに、こうした施設・設備において、産官学が連携して活用できる環境の整備や研究者及び開発者にとって利用しやすい柔軟性に富んだ共用・支援体制の整備等に取り組むべきである。

基礎的・基盤的な研究開発
(前略)
 この段階の主要な活動には、原子力安全研究、核工学、炉工学、材料工学、原子力シミュレーション工学等原子力の共通基盤技術の研究や保障措置技術、量子ビームテクノロジー、再処理の経済性の飛躍的向上を目指す技術や放射性廃棄物処理・処分の負担軽減に貢献する分離変換技術の研究開発等がある。(中略)量子ビームテクノロジーに関しては、革新技術の探索や新しい利用分野を開拓する研究、原子力以外の広範な分野での利用を開発する研究等を着実に推進することが必要である。(後略)

大型研究開発施設
 原子力の研究開発を進めるに当たって、加速器や原子炉等比較的大規模な研究施設の建設を必要とする場合がある。
(中略)
 また、こうした施設が建設される場合、国は、これが多くのユーザに開放されるべきものとして、設置する研究開発組織に対して、関連する研究者コミュニティはもとより、事業者、施設・設備が整備される地方公共団体とも連携・協力して、それを利活用するユーザの利便性の向上や、様々な研究分野のユーザが新しい利用・応用方法を拓きやすい環境を整備することを求めていくべきである。ただし、こうした研究開発施設・設備の利用にあたっては、受益者が、その成果が広く国民に還元される場合を除き、原則として応分の費用を負担するべきである。
 
<科学技術基本計画上の位置づけ>
 現在、総合科学技術会議において審議検討中の第3期科学技術基本計画に関し、本年3月の科学技術・学術審議会(基本計画特別委員会)による同計画の「重要政策」中間とりまとめにおいて、「量子ビーム」は重点領域の例示の中で、ナノテク−ライフサイエンスの「融合領域」の一つとして位置づけられている。

<今後の検討課題>
 既に国内各地域への本格的普及・実用化の段階に入りつつある粒子線治療装置、並びに、これまでに延べ約3万人に及ぶ多数の利用者が多様な科学技術・産業領域での活用を進めてきたSPring-8に代表されるように、「量子ビーム利用」は国民生活にその成果・インパクトが広く、かつ深く浸透しうる段階に至っている。
 他方、昨今の政府の厳しい財政状況を踏まえれば、上述のような科学技術政策上の位置づけも念頭に置きながら、先端・大型量子ビーム供給施設におけるビーム利用の効果的・効率的な推進体制のあり方について、研究開発の戦略的重要性や産学官の連携と適切な役割分担の観点から、より具体的かつ掘り下げた検討を進めることが喫緊の課題となっている。

前のページへ   次のぺージへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ