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7 臨床研究の推進

 
 臨床研究は、疾病の要因の探索、新しい医療技術の開発及び最適な医療の提供に必要なエビデンスの形成等において重要な役割を果たしている。中でも、新しい医療技術の開発においては、生命科学の進歩を実際の医療へ展開する臨床への橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)はますますその重要度が高まっている。また、医薬品等の市販後の研究、新しい臨床評価指標での評価、併用療法の開発、個別医療を目指した有効性・安全性の予測に有用なゲノム情報等の収集及びクリニカルパスの設定に必要なエビデンスの形成等は、最適な医療の提供に欠かせない研究である。これらの推進には、産学連携等を強化しつつ、大学や大学病院における臨床研究の推進を図ることが必要である。その際、関連する施策に配慮し、関係省庁とも連携して、相乗効果を生み出すように推進することも望まれる。

 現在、我が国では、薬事法の対象となる臨床試験である治験については制度的枠組みの整備も含めた体制の整備が進みつつあるが、治験以外の臨床研究については倫理指針をはじめとしたガイドラインに基づき実施されている段階であり、今後、制度的枠組みの整備も含めた体制の整備が課題となっている。このような中、臨床研究の推進にあたっては、被験者保護等に関する規制的な制度整備のみならず、臨床研究者等の人材の確保・養成のための取組が重要なことに留意することが必要である。

(臨床研究を推進するための組織体制の整備)
 このため、地域の医療機関とも連携しつつ、大学を中心に、治験を含めた臨床研究を推進するための組織体制の整備が必要であり、その機能としては、実施施設への支援といった実務の他に、臨床研究のデータセンターとしての役割や、大学院等における教育や研修の充実による専門家養成の役割の推進が求められる。その際、臨床疫学や生物統計学の専門的知識を有する公衆衛生分野の専門家が、データセンター等において重要な役割を担うことも考えられる。

(全国的な拠点整備等)
 さらに、臨床研究者等の人材養成やそれに基づく臨床研究を推進するために、全国的な拠点を整備し、臨床研究者の教育・研修・実施支援の一貫した体制を構築することが望まれる。その際、医師だけでは質の高い臨床研究を行うことは困難であり、データマネジメントや生物統計に関する統計解析等を行うデータセンター等の支援部門の整備や、疫学・生物統計家、臨床薬理専門家、CRC(治験コーディネーターまたは臨床研究コーディネーター)等の支援スタッフの人材養成も重要である。

 このため、臨床研究や研究者の総合的な支援を行うARO(Academic Clinical Research Organization)を整備し、臨床試験の登録・管理に基づく診療情報の収集・解析等のデータセンターとしての機能・役割や、研究プロジェクトの進捗管理、臨床研究者や支援スタッフに対する教育・研修を総合的に行う機能・役割を担うことが求められる。その際、AROは、医師、疫学・生物統計家、臨床薬理専門家、CRC等の多様な職種・分野の人材に対する教育・研修を一元的に行うとともに、医学生の臨床実習や、大学院生やレジデントの受け入れも担うことも考えられる。このような機能・体制を全ての大学病院に整備することが理想的であるが、既存の大学病院の取組や体制を活用しつつ、段階的に拡大することが現実的であることから、拠点となる大学病院においてAROを整備し、ここを核として専門的人材の養成等の推進を図るとともに、多施設共同の研究・研修等の実施も含め、他大学の臨床研究においても利用可能な体制にしていくことが望まれる。

 なお、AROによる人材養成にあたっては、e-Learning等の活用による効率的で広域的な対応も有効である。例えば、AROにネット上のサーバーを設け、学内外の関係者が臨床研究者等の養成に必要な教材等を集積し学習できる環境を整備すること等が考えられる。また、客観的な評価基準に基づく専門的技能の証明・認定等の取組を行うことも考えられる。

(全国的な連絡協議会の開催)
 また、現在、各大学病院においては臨床試験部等の組織が設けられているが、各組織の連携の促進やネットワークの構築の観点から全国的な連絡協議会を開催することも必要である。その際、前述したAROを整備した大学病院が、連絡協議会において中核的な役割を担うことも考えられる。

(臨床情報の基盤整備)
 電子カルテや診療情報システム等医療機関における電子化が進む中、得られた統計情報の活用の方法や体制を有機的に整備し、臨床研究の基礎データに活用するなど、臨床情報の基盤整備も求められる。このような基盤整備は、診療科を横断して大学病院全体として整備することのみならず、全国的な展開を見据えた整備が望まれる。

(大学間のネットワークの構築等)
 さらに、臨床情報に加えて、国際共同治験を受け入れられる体制も含め、臨床研究基盤の体制の整備について、大学病院が連携、共同して取り組むことも必要である。現在、臨床への橋渡し研究に関しては、全国的な支援機関の整備等の取組が開始されようとしている。また、臨床研究に関しても、「大学病院臨床試験アライアンス」など、大学間のネットワークを構築する取組が出始めており、このような取組の推進や国の支援が望まれる。なお、このような取組の推進のためにも、前述したAROの整備等は有効であると考えられる。

(ワンストップオフィスの設置)
 治験に関しては、欧米の場合は治験責任者と治験依頼者(製薬企業等)の直接契約であるのに対し、我が国の場合は医療機関の長(大学病院長等)と治験依頼者との契約であり、このことを活かし、病院のセクター化を効率よく進め、治験依頼者への対応を一元化したワンストップオフィスを大学病院に設置することも望まれる。その際、このような組織の設置により、治験依頼者への対応のみならず、国民の一層の理解を深めるための啓発の充実や被験者への積極的な対応を図ることが必要と考えられる。

(審査委員会等の整備等)
 また、臨床研究における質や安全性を確保するために、IRB(Institutional Review Board)等の審査委員会や倫理委員会の整備と、委員に対する、統一的な教育プログラムの確立も含めた教育の充実も必要である。

(民間等との人事交流)
 さらに、臨床研究のみならず、その成果を実際の医療へ展開する臨床への橋渡し研究を推進するためには、大学病院における、民間や規制当局等との人事交流の推進も有効と考えられる。

(学部教育の充実)
 大学教育においても、臨床研究に必要とされる基本的知識の修得等学部教育の充実を図ることが求められる。その際、臨床薬理や臨床疫学等の教育研究組織の整備充実や、公開講座も含めた社会人に対する教育機会の提供の充実も必要である。なお、臨床研究に必要とされる基本的知識としては、具体的には、1臨床研究・臨床試験の必要性、2医薬品・医療機器の研究開発のステップ、3臨床研究に適用される倫理指針・規制、4倫理審査・インフォームドコンセント、5臨床研究・臨床試験のデザインと限界、6安全性確保の義務、7臨床研究の立案(文献検索の演習、PlanDoSeeの考え方)、8生物統計に関する基本的知識と演習、9研究報告書のまとめ方、10信頼性の確保(品質管理の基本的知識、記録の保存)、11臨床試験の登録・公開、などが考えられる。

(公衆衛生大学院の整備等)
 なお、前述したように、臨床研究の充実のためには、公衆衛生分野の大学院の整備を促進することが必要であり、それに必要な教員の養成やカリキュラムの開発、修了者の社会での活躍の場の拡大等の処遇の改善など、関連する施策を進めていくことが求められる。

(臨床研究者の動機づけ等)
 臨床研究者の動機づけやインセンティブの付与も重要であり、学会認定や業績評価における臨床研究の評価、臨床研究経験を教員募集時等の履歴書の記入事項とする等の人事面での評価等の取組も求められる。

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