資料3-5 原子力損害の賠償の履行の確保のための国の役割及び原子力損害賠償紛争審査会の活用について(案)

(1)概要

  原子力損害については、民事責任の特別制度を設けるのみならず、その賠償が履行されることにより実際に被害者が救済されることを重視し、特別の紛争処理の機関として原子力損害賠償紛争審査会(以下「審査会」という。)を事故ごとに設置することを予定している。
JCO臨界事故の賠償の際には、上記審査会及び科学技術庁(当時)の委嘱による原子力損害調査研究会が一定の役割を果たした実績を踏まえ、原子力損害の賠償の公平・迅速な履行を確保する観点から、国の役割に関して概ね以下のような明確化を行ってはどうか。

  • 1.次の役割については、国が担うことが望ましいのではないか。
    • 原子力損害に関する全体像の把握を行うこと。
    • 原子力損害の賠償の基本的な考え方(損害費目・相当因果関係・損害額の算定方法等の考え方)を提示すること。
  • 2.国が上記の役割を担うに当たっては、既存の中立的・専門的な審議機関である審査会(必要に応じて名称等を再考)を活用することが適切ではないか。

(2)政府の役割について

1.国において、原子力損害に関する全体像の把握を行う。

  公平・迅速に賠償を確保するためには、早期に原子力損害の全体の状況を把握することが極めて重要であり、また、これに基づき、原子力事業者の賠償の基本的な考え方を調査審議するとともに、原賠法第16条に規定する政府の援助の必要性や具体的な措置を検討することが実効的となる。

  関係者に過度の負担を課すことなく効率的に情報を集約するため、今後検討する原子力損害賠償制度の運用に当たっての考え方(指針)において、原子力事業者・地方公共団体・日本原子力保険プールとの間の原子力損害に関する情報の収集の体制といった具体的な事項を盛り込んでおくことが重要である。

2.国において、必要に応じ、事故ごとに原子力損害の賠償の基本的な考え方を提示する。

  原子力損害の賠償請求は短期間に多数の案件が生じるものであり、公平・迅速な賠償の実施の確保のためには、個別事案ごとの解決の支援にまして、同一原因から生じた原子力損害全体に共通して適用できる賠償の基本的な考え方(損害費目・相当因果関係・損害額の算定方法等の考え方)を関係者間で共有することが重要である。

  特に、事故の混乱による原子力事業者の対応状況、被害者感情への配慮の必要性等を勘案すると、この基本的な考え方を適切に国から提示することにより、当事者間の自主的な解決の円滑化が期待される。

  ただし、この基本的な考え方は当事者(訴訟に至った場合には裁判所)に対する法的な拘束力を有さず、当事者間の交渉による解決に資するために提示される性格であることに注意を要する。

(3)原子力損害賠償紛争審査会の活用について

  審査会に以下の所掌事務を追加する。また、必要に応じてその名称等を再考する。

  • 原子力損害に関する全体像の把握
  • 原子力損害の賠償の基本的な考え方の調査審議

  審査会は、原子力損害に関する紛争が生じた際に当事者の申立てにより和解の仲介を行うことと、それに必要な調査を行うことを業務としており、(2)の役割のいずれについても、多数の仲介が申し立てられた場合を想定すれば、対応することが必要となる。

  また、中立性・専門性に信頼性を得やすく、特に因果関係等に技術的な判断を要する事案の場合には専門家の機動的な活用が可能であること、行政改革の観点からは、組織の新設等によらず既存の機関を活用することが望ましいこと、また文部科学省の担当部局の体制を考慮すると、複数の審議会を並行して運営するのは容易でないこと等から、審査会の活用が妥当と考えられる。

  なお、公平を重視した一般的な基準としての基本的な考え方の提示と個別の仲介事案におけるその適用・調整とが相反関係になる場合がありうることに考慮して、審査会の内部組織の設計や名称を再考することが適切と考えられる。

(4)審査会のADR機能の向上について

  次のような措置による審査会のADR(裁判外紛争処理)機能及び利便の向上については、現時点では、その必要性は少ないのではないか。

  • 調停・仲裁・裁定等のより積極的な活動を行わせること。
  • 訴訟との関連で、時効の中断、訴訟手続の中止等を設けること。

  審査会の機能は突発的に発揮されるものであり、その体制は準司法的・高度な判断を行うのに十分なものではなく、そうした機能はもっぱら裁判手続に委ねる方が適切ではないか。

  審査会は任意の手続に過ぎず、また、消滅時効期間を超えても和解に至らない事案は、そもそも裁判手続に委ねるのが適当ではないか。

(参考)他の分野における行政による紛争処理の支援について

  他の分野においても、損害の特殊性や支援の必要性等に応じ、行政による紛争処理の支援の制度が設けられており、別紙のような例がある。

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