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第2章  国際免除レベル取り入れ後の規制

1. 国際免除レベル取入れ後の密封線源の規制
(1)
規制の現状
(密封線源の利用例)
   密封線源は、放射性同位元素をステンレスなどのカプセルに封入した形状で用いるもので、次のような利用例がある。
   我が国で密封線源として利用されている主な核種は、Co-60、Kr-85、Cs-137、Yb-169、Ir-192など18核種である。
   規制対象事業所数:   3,994事業所(平成14年3月31日現在)
      ・ 民間企業    1,838事業所
(具体例) 製紙会社において、製紙工程での紙の厚さ測定に、厚さ計(Kr-85)を用いている。石油化学工場において、石油精製工程におけるタンク内の液量(液面)管理に、レベル計(Co-60)を用いている。
    ・ 研究機関    493事業所
(具体例) 生物系研究所において、放射線の生物影響の研究のため、照射装置(Cs-137)を用いてγ線照射実験を行っている。
    ・ 医療機関    443事業所
(具体例) 病院において、悪性腫瘍の放射線治療のため、γ線源(Co-60、Ir-192)を用いている。
    ・ 教育機関      340事業所
(具体例) 大学において、放射線測定実験などにγ線源(Co-60、Cs-137)や中性子源(Am-241)を用いている。
   その他、以上のような規制対象事業所とは別に、校正用線源、装置点検用線源、密度計など、定義数量以下の線源を利用した機器などが多数使用されている。

  (現行の安全規制の内容)
1 許可と届出
   密封線源は、数量について核種に関わらず一律3.7 MBqを超え、3.7 GBq以下のものの使用については届出、3.7 GBqを超えるものの使用については許可を要するものとされている(なお、濃度については、一律74 Bq/g(自然に存在する放射性物質で固体状のものについては370 Bq/g)とされている。)。
2 規制の区分(別紙2参照)
   密封線源に対する規制は、大きく分けて以下の4つの仕組みにより行われている。
1 許可(施設検査又は定期検査を伴う)
 
・施設検査対象   :貯蔵能力が37TBq以上の事業所
・定期検査対象   :貯蔵能力が111TBq以上の事業所
・規制内容の一例   :放射線取扱主任者(第1種)を選任
2 許可(施設検査と定期検査を伴わない)
 
貯蔵能力が3.7GBqを超え、(1)未満の事業所
規制内容の一例 :放射線取扱主任者(第1種又は第2種(一般))を選任
3 届出(一般)
 
密封線源で貯蔵能力が3.7MBqを超え、3.7GBq以下の事業所
規制内容の一例 :放射線取扱主任者(第2種(一般))を選任
4 届出(表示付放射性同位元素装備機器)
 
機器の放射線障害防止機構に係る設計の承認及び放射線障害防止機構について、文部科学大臣が個々に行う確認(機構確認)を受けた機器
規制内容の一例 :放射線取扱主任者の選任は不要
3 主要な規制の内容
1 許可の基準(法第6条)
密封であることを考慮した使用施設等への要求事項を定める。(具体的内容は省令)
2 施設検査(法第12条の8)・定期検査(法第12条の9)
 
一定規模以上の事業所については、施設検査又は定期検査を課す。(具体的内容は政令、省令)
3 施設基準適合義務(法第13条)、取扱いの基準(法第15条〜19条)、場の測定(法第20条)、被ばくの測定(法第20条)、放射線障害予防規定届出(法第21条)、教育訓練(法第22条)、健康診断(法第23条)、危険時の措置(法第33条)、放射線取扱主任者選任(法第34条)
施設の安全な維持や運転のための諸規定、従事者の放射線管理、健康管理のための諸規定を定める。(具体的内容は省令、告示)
4 上記の規制の中で、特に密封線源であることを考慮したものとして、次のような点が求められている。(別紙3参照)
1 使用施設:自動表示灯及びインターロックの設置
2 貯蔵施設:耐火性容器での貯蔵も可能

(2)
国際免除レベル取り入れ後の基本的枠組み
(密封線源の規制対象範囲)
   国際免除レベルの取り入れにより、密封線源に関しては、規制対象となる濃度については119核種(Na-22、Sc-46、Mn-54、Fe-59、Co-60、Zn-65、Cs-134、Cs-137、Ir-192、Ra-226、Am-241、Cf-252など)が、規制対象となる数量については224核種(Na-22、P-32、Sc-46、Mn-54、Fe-55、Fe-59、Co-60、Kr-85、Sr-90、I-125、I-131、Cs-134、Cs-137、Tl-204、Ra-226、Am-241、Cf-252など)が、現行の定義数量に比べてそれぞれ引き下げられ、総体的に規制対象範囲が広がることになる。
   また、機器に装備された放射性同位元素としてみれば、別紙4に示すとおり、総体的に規制対象範囲が広がることになる。

(許可と届出の枠組み)
   放射性同位元素の使用等に係る安全確保のための規制は、以下に示すとおり3つに大別される。
  1施設に係る規制(以下「施設規制」という。)
     (主な内容)
・施設に係る事前審査
・施設基準適合義務
・基準適合命令
・施設検査
・定期検査
  2取扱い行為に係る規制(以下「行為規制」という。)
     (主な内容)
・取扱いの基準
・場の測定
・被ばくの測定
・放射線障害予防規定の策定
・教育訓練、健康診断
・危険時の措置
・放射線取扱主任者の選任
  3廃止、譲渡、譲受に係る規制(以下「廃止等規制」という。)
     (主な内容)
・廃止に伴う措置
・譲渡、譲受の制限
・所持の制限
   国際免除レベルを導入した場合においては、濃度、数量ともに大きく、放射線の影響の可能性も大きい線源については、施設規制、行為規制及び廃止等規制をともに厳格に適用することが必要であり、濃度、数量ともに小さく、相対的に放射線の影響の可能性も小さいものについては、施設規制又は行為規制を適宜合理化することができると考えられる。
   このようなことから、国際免除レベルを導入した密封線源に対する安全規制は、施設規制、行為規制及び廃止等規制を厳格に適用し、事前審査を必要とする許可制と、施設規制又は行為規制を適宜合理化した届出制とに分けて規制をすることが適当であると考えられる。
   許可と届出を区別するレベルは、現行では、事業所当たりの総量で3.7 GBqの一定レベルとされている。
   国際免除レベルは、核種ごとにリスクを評価して設定されていることから、核種ごとの国際免除レベルの一定倍数を許可と届出の区別のレベルとすることが適当であると考えられる。
   許可と届出を区別するレベルについて、現行法令の3.7 GBqは、定義数量(3.7 MBq)の1,000倍に当たる。国際免除レベルを算出する際の線量規準10 μSv/年の1,000倍である10 mSv/年は、ICRPにおいて、長期被ばくを考慮して規制当局の介入が正当化されるレベルと位置づけられていることや、現在までの安全規制の実績からみて、国際免除レベルを導入するに当たっても、許可と届出を区別するレベルを国際免除レベルの1,000倍とすることが適当であると考えられる。(別紙5参照)
   ※ICRP Pub.82「長期放射線被ばく状況における公衆の防護」(1999年9月)

(3)
許可の規制
   国際免除レベルを導入した場合の許可の規制については、施設規制、行為規制及び廃止等規制を厳格に適用することが必要であるが、その中でも数量の大きいものについては、現行法令と同様に施設建設時及び変更時の施設検査や、定期的に施設などが健全な状況であることを確認する定期検査が必要であると考えられる。具体的な検査の対象については、第3章の2に記述する。

(4)
届出の規制  
   新たな規制体系における許可と届出を区別するレベルを核種ごとに国際免除レベルの1,000倍としたとき、線源1個当たりの放射能(数量)が、届出の対象となる主なものは別紙6のとおりである。
   これらを線源の性質や安全性の観点から下記の3つに分類して、それぞれにふさわしい規制のあり方を検討することとする。

(新届出)
   密度計やレベル計などで、国際免除レベルの1,000倍以下の線源を用い、後述する設計承認や型式承認の適用が適当ではないと考えられるものについては、それらの使用状況によっては、使用者等の放射線防護に所要の対応が必要であるため、施設規制や行為規制の合理化を適宜図りつつ、廃止等規制と合わせて一般の使用の届出(以下「新届出」という。)として規制することが適当であると考えられる。なお、この規制区分に入る機器には、現在は規制対象外で、使用者による自主的な安全確保の上で移動使用されているものが含まれることになるが、これらについては移動使用を前提とした規制のあり方を検討することが必要である。
  <対象の可能性のあるものの例>
     液面レベル計、γ線密度計、水分密度計など

(設計承認)
   モニタ動作試験用線源、液体シンチレーション測定装置用線源などのように、用いる線源の放射能が小さく、また、線源を組み込んだ装備機器としてその外部への放射線の漏えいがほとんどなく、通常の使用状況では、特別の放射線防護の対応が必要でないものについては、現行法令の届出の中の表示付放射性同位元素装備機器の規制(現行法令ではNi-63を装備しているガスクロマトグラフ用エレクトロン・キャプチャ・ディテクタ(ECD)が対象)のように、その設計上の安全性が十分確認できるものに限り、施設規制と行為規制を新届出よりも適宜合理化した規制(場や被ばくの測定の免除、放射線取扱主任者を選任することの免除など)とすることが適当であると考えられる。
   なお、この規制区分に入る機器には、現在は規制対象外で、移動使用されていたものが含まれることになるが、これらについては移動使用を前提とした規制のあり方を検討することが必要である。
  <対象の可能性のあるものの例>
     ガスクロマトグラフ用ECD、モニタ動作試験用線源、液体シンチレーション測定装置用線源、エアロゾル中和器、厚さ計、膜厚測定器、校正用線源など
  
   具体的にこれらのものについては、現在までの規制の実績を踏まえて、次のような規制内容とすることが適当であると考えられる。
  1    製造者が装備機器の設計上の安全性などについて国に申請し、国は設計承認の審査を行う。
   ・ 国は、設計承認においては、通常の使用状況で使用者の被ばく線量が裕度を持って1 mSv/年を超えない設計となっていることを確認する。また、製造者の品質保証の体制を確認する。
   ・ また、設計承認においては、廃止の際の製造者引取りなどの手順、使用に係る注意事項などの取扱説明の添付や表示を義務づける。
国は、製造の状況を立入りや抜取りの検査により確認する。
  2    設計承認が得られた装備機器について、使用者に国への届出の義務を課すが、場や被ばくの測定をすること、放射線取扱主任者を選任することなどは求めず、事故時の対応、譲渡、譲受の制限、廃止に伴う措置などの義務を課すこととする。
   なお、安全管理上重要なサーベイメータなどの校正や動作確認を行う校正用線源は、多くの事業所で使用されている有用な線源であり、プラスチックや金属に封入されている。ただし、通常使用時にその他の遮へいはなく、線源単独で用いられる。これらのうち、放射能が比較的少量のものについては、使用方法や保管方法に対して放射線管理上の適切な条件を付すことにより、設計承認の対象として取り扱い、貯蔵能力に加算しないなどの対応をとることを検討することが適当である。

(型式承認)
   イオン化式煙感知器、切替放電管(レーダ受信部)などに用いられているAm-241については、その数量が国際免除レベルを超えているものがある。Am-241は、α線放出核種であるため、国際免除レベルの評価の際も、主として内部被ばくの寄与が大きいとされているが、煙感知器などの機器に組み込まれたAm-241が通常の使用状態において人体に取り込まれる危険性はほとんど考えられない。また、これらに組み込まれた密封線源から出てくる放射線が、その近くにいる人に与える影響は無視できるほど小さいものである。
   さらにこれらの機器は、一般の建物や船舶、航空機、工場などにおいて放射線源を内蔵した機器の形態で使用され、具体的に使用者が線源そのものを取り扱うということはない。
   上記のことから、Am-241を組み込んだイオン化式煙感知器などの機器については製造者の行う設計についての安全性が確認できれば、当該建物の居住者、船舶の所有者などの使用者に対して施設規制や行為規制を課すことは必要ではなく、製造者に対して廃止の際の要件などの確保を求めることによって安全を確保できると考えられる。
  <対象の可能性のあるものの例>
     イオン化式煙感知器、切替放電管(レーダ受信部)、熱粒子化センサ、集電式電位測定器など

   具体的にこれらのものについては、現在までの規制の実績を踏まえて、また、BSSの条件付き規制免除の規定を参考にして、次のような規制内容とすることが適当であると考えられる。
  1    国が製造者に対する型式承認の対象とし得る一般消費装備機器を定める。
  2    製造者が一般消費装備機器の設計上の安全性などについて国に申請し、国は型式承認の審査を行う。
国は、型式承認において、通常の使用状況で人が触れる装置表面から10 cm離れた位置における線量率が1 μSv/時を超えないことを確認する。また、製造者の品質保証の体制を確認する。
また、型式承認においては、廃止の際の製造者引取りなどの手順、使用に係る注意事項などの取扱説明書の添付や表示を義務づける。
製造者、販売業者等にその販売先などの一覧を国に届け出ることを義務づける。
国は、製造の状況を立入りや抜取りの検査により確認する。
  3    これらの機器を使用する者には、届出義務を課さないこととする。

(5)
その他事項  
(加算の考え方)
   密封線源の許可・届出の区別に関する貯蔵能力の加算の考え方について、現行の放射線障害防止法では、以下のとおりとなっている。
  1    定義数量以下の線源は貯蔵能力に加算しない。
   何個使用しても届出又は許可は不要とする(ただし、製造者が集合体として線源を一か所にまとめて貯蔵する場合は、その合計値は届出又は許可の対象になり得る)。
  2    届出対象の線源は、貯蔵能力に加算する(ただし、表示付放射性同位元素装備機器は加算の対象としない)。
   複数の届出対象線源(表示付放射性同位元素装備機器を除く)の貯蔵能力の合計が3.7 GBqを超えるときは許可が必要となる。

   国際免除レベル取り入れ後は、製造段階で安全確認(国による設計承認など)が行われていることや科学的根拠を持つシナリオに基づき一定の安全評価が行われていること、さらに現在までの安全規制の経験に照らし、以下のとおりとすることが適当であると考えられる。(別紙7参照)

  1    国際免除レベル以下の線源は、貯蔵能力に加算しない。
   何個使用しても届出又は許可は不要とする(ただし、製造者が集合体として線源を一か所にまとめて貯蔵する場合は、その合計値は届出又は許可の対象になり得る)。
  2    設計承認機器及び型式承認機器(煙感知器など)に装備された線源は、貯蔵能力に加算しない。
   何個使用しても新届出又は許可は不要とする。
  3    新届出対象の線源は、貯蔵能力に加算する。
   複数の届出対象線源の貯蔵能力の合計が免除レベルの1,000倍を超えるときは許可が必要となる。

(密封の定義)
   「密封された放射性同位元素の定義」や「密封性の担保に係る一般的な基準」について、現行の放射線障害防止法では明確な定義の規定がない。新たな規制区分の構築に当たり、政省令や告示において、表示付放射性同位元素装備機器における記載やJIS基準を踏まえて、的確に定義することが必要であると考えられる。

(まとめ)
   国際免除レベルを取り入れたときの密封線源に対する規制内容を取りまとめると、別紙8のとおりである。また、別紙8の規制の原則から特例的に考慮すべき事項を取りまとめると別紙9のとおりであり、規制の項目ごとに取りまとめると別紙10のとおりである。



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