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第2部 基本方針の評価と今後の課題

 第2部は,基本方針の事項に沿って文化政策部会における議論を整理し,現在の基本方針の評価と今後の課題についてまとめた。
 なお,各事項に関しては,部会においておおむね共通理解を得たものをまとめているが,個々の委員の意見も明らかにするため,委員からの課題提起として囲った部分を設けて別途記載し,部会における様々な意見を国民に示すことも意図している。

第1 文化芸術の振興の基本的方向

1. 文化芸術の振興の必要性

 文化芸術は,すべての国民が真にゆとりと潤いの実感できる心豊かな生活を実現していく上で不可欠な社会的財産であることから,社会全体で文化芸術の振興を図っていく必要がある。今日においても,国民の6割が「心の豊かさ」を求めており(内閣府「国民生活に関する世論調査」調べ),人々にゆとりと潤いをもたらす文化の果たすべき役割は大きく,国民の文化芸術振興への期待は高いと考えられ,今後,文化芸術の一層の振興が求められている。

 昨今の社会・国際情勢を考慮すると,人々の相互理解等による社会基盤の形成や世界平和への貢献という文化のもつ意義は,ますます高まっていると考えられる。

2. 文化芸術の振興における国の役割等
 
(1) 国の役割

 文化政策部会では,文化芸術の振興における国の役割等についても活発な議論が行われた。基本方針において,国の役割は「文化芸術の頂点の伸長」と「文化芸術の裾(すそ)野の拡大」を基本とし,「文化遺産の保存と活用」,「文化芸術の国際交流」及びそれらを支える「文化基盤の整備」に集約されるとしている。

 文化芸術は,人々の相互理解等による社会基盤の形成や世界平和に貢献するとともに,世界に対して国の「顔」となるものである。その意味で,国全体の文化芸術を振興する観点から,国の果たすべき役割は大きい。また,全国各地で多様な文化芸術活動が豊かに展開されることが,国全体として文化力を高めることにつながる。国には,各地域における文化芸術活動の取組を積極的に支援していくことが期待される。さらに,国際交流の進展に伴い,我が国の文化を積極的に諸外国に発信して,多様な日本文化の理解を促進することも国の役割として重要となってきている。

 本部会としては,基本方針に示された国の役割は基本的に変わっていないと認識している。一方で,基本方針策定後の社会情勢の変化や,近年,地域における文化芸術活動が活発になり,地域の特色を生かした取組が地方公共団体や民間においてもなされてきている状況を考慮すると,文化芸術の振興における国の役割についてさらに考慮すべき問題も生じているのではないかとの観点から,以下のような課題が提起された。

(委員からの課題提起)
文化芸術に関して頂点と裾野というピラミッド型構造で捉えるのでなく,様々な分野で頂点がいくつも偏在する(凹凸のある)構造で考えるべきではないか。地域の格差是正というより,地域の差異を認め合った上で文化芸術の振興を考える必要がある。
世界で通用する芸術性の高い「頂点」も重要であるが,国民により近い,国民の生きがいにつながるような日常に根ざした文化も大切にすべきである。
世界に誇り得る文化芸術活動を伸長していくのは,国の役割ではないか。その際,職業芸術家(プロ)と芸術愛好者(アマチュア)の区分は難しく,国の支援の対象をどこまでにするのか,国と地方がどのように役割分担すべきなのかを整理する必要がある。
「地方の文化芸術の担い手は愛好者(アマチュア)である。地方の文化芸術は伝統芸能が中心である。地方は鑑賞活動が中心である。」という発想ではなく,地方にも職業芸術家が活躍できる拠点を設けていくべきではないか。

(2) 重視すべき方向

 基本方針では,将来の我が国の顔となる文化芸術を創造していくため,重視すべき方向として,1文化芸術に関する教育,2国語,3文化遺産,4文化発信,5文化芸術に関する財政措置及び税制措置の5項目を指摘している。文化芸術に関する財政措置及び税制措置に関して,例えば次のような課題提起がなされた。

(委員からの課題提起)
財政措置や税制措置については,フランス型の国主導とするか米国型の民間主導とするか,その目指す方向性を明らかにすべきではないか。また,両者の折衷型にする場合も,我が国としての考え方を明確にすべきではないか。
国家予算に占める文化予算の比率が,アジア諸国と比較しても低すぎるのではないか。
国や地方公共団体の財政が厳しい中で,文化芸術の支援に対する民間の参加(参加意識)に期待される部分が大きくなっている。民間からの支援を受けやすい法人を増やしていくべきではないか。

(3) 地方公共団体及び民間の役割

 地方公共団体は,自主的かつ主体的に,それぞれの地域の特性に応じて多様で特色ある文化芸術を振興し,地域住民の文化芸術活動を推進する役割を担っている。また,民間からの文化芸術活動に対する支援は,自由で選択的な配慮が働き,文化の多様性にも資することから,民間からの支援の拡大が望まれている。

 地方公共団体については,今日,地方分権が推進されるとともに,官民の役割分担の見直しなどが行われてきており,文化芸術の分野においても同様の動きがある。また,市町村では大規模な市町村合併や指定管理者制度の導入に伴う文化施設等の在り方の見直しなどにより,これまでの文化行政の体制にも変化が生じてきている。このような状況の中で,都道府県・市町村には,地域固有の歴史や文化を踏まえた文化振興施策を講じることが,従来にも増して求められている。

 民間についても,企業等の民間団体が文化芸術活動を支援するメセナ活動は,長引く経済不況の下でも継続され,単なる資金的な援助から多様な形へのメセナ活動へと成熟してきた。今日では,企業の社会的責任(CSR)への認識が高まる中で,その支援形態を変えつつ活気を見せてきている。さらに,特定非営利活動促進法(NPO法)施行後,文化芸術分野における特定非営利活動法人の活動が活発になっており,従来の文化芸術団体のみならず,文化芸術系特定非営利活動法人(いわゆるアートNPO)のような新たな文化芸術の担い手が生まれてきている。

 特に,地域では,住民,文化芸術団体,企業等が文化芸術活動の主体となり,行政と対等な関係において協力関係(パートナーシップ)を結び,相互に連携・協力することにより,文化芸術の振興を図る例もみられるようになってきた。

 こうした新しい文化芸術の担い手や相互の連携・協力の実態を考慮し,今後の地方公共団体及び民間の役割を考える際には,市民の参画,行政と民間との協力関係(パートナーシップ),特定非営利活動法人等との連携などの視点を踏まえて検討することが望まれる。

(委員からの課題提起)
都道府県と市町村,都市部と過疎地などの違いを踏まえるべきで,地方公共団体を一括りにすべきでない。
民間非営利団体は,多様な社会的需要に対応しており,文化芸術の振興に当たっては,こうした団体の発展のための基盤を整備していくべきである。
企業の行うメセナ活動は,芸術活動に対する支援のほか,地域文化を住民とともに支える取組や,学校と連携して子どもたちを対象とするものなど,多様な形態で行われており,このような地域に密着した地道な活動に対しても目を向けることが必要である。
国,地方公共団体,民間非営利団体,企業など文化を支えるセクター(部門)が多様化している現状を踏まえて,それぞれの役割を捉え直すべきではないか。

3. 文化芸術の振興に当たっての基本理念

 基本方針では,基本法第2条に掲げられた8つの基本理念にのっとり,文化芸術の振興に関する施策を総合的に策定し,実施するとしている。この8つの基本理念は今日においても普遍性をもっていると考えられる。

4. 文化芸術の振興に当たって留意すべき事項
(1) 芸術家の地位向上のための条件整備

 基本方針では,芸術家がその能力を十分に発揮でき,安全で安心して活動に取り組める環境を整備するとともに,芸術家等に対する積極的な顕彰等を行い,芸術家等の社会的,経済的及び文化的地位の向上に努めるとしている。

 これを踏まえ,国においてはこれまで顕彰や表彰がなされてこなかった分野でも顕彰や表彰を行うようにするとともに,芸術家等が安心して活動に取り組める環境づくりのために,創造の現場に関わる人々が相互に合意できる基本的なルールの形成に向けて,関係者間の話し合いを促進するなど,適切な支援を行っていくことが望まれる。

(2) 国民の意見等の把握,反映のための体制の整備

 基本方針では,文化芸術の振興のための基本的な政策の形成や各施策の企画立案,実施,評価等に際して,芸術家等や学識経験者のみならず広く国民の意見等を十分把握し,反映される体制の整備に努めると指摘されている。

 文化庁ではこれまで29道府県で文化芸術懇談会を開催し,文化芸術の振興に関して直に意見交換する場を設けてきたほか,著作権法や文化財保護法の改正に伴う政省令の整備の際にも,広く国民の意見を掌握するよう努めてきており,こうした取組を継続していくことが求められる。

(3) 支援及び評価の充実

 基本方針では,文化芸術活動に対する支援について,公平性及び透明性を確保し,適切な審査方法及び評価に従って実施し,結果を公開するとともに,支援の仕組みや方法などの在り方及び多様な手法の活用の検討を進めるとしている。また,芸術家,文化芸術団体に対しても活動成果等の還元や,適切な情報公開,効果的な運営などの努力を求めている。

 文化芸術活動への支援に関しては,平成16年2月に文化政策部会が「今後の舞台芸術創造活動の支援方策について」を提言している。ここでは,創造活動への支援,基盤形成への支援及び新たな評価体制の確立が提言され,文化芸術活動への支援の充実が図られたところである。

 文化庁の各施策は「文部科学省政策評価基本計画」に基づき,政策の評価が毎年行われ,評価結果も公表されている。評価に当たっては,必要性,効率性,有効性等の観点から評価が行われ,定量的な資料(データ)を用いて具体的な達成効果も設定されているが,文化芸術活動は数値化によってその内容を評価するにはなじみにくい分野であることから,定量的評価のみならず,定性的評価を含む適切な評価方法を開発することは今後の課題となっている。

 一方,公的な支援を受けている文化芸術団体等に対しても,活動成果等の国民への還元や適切な情報公開などが引き続き求められる。

(委員からの課題提起)
地道な芸術活動が,きちんと評価されることが大切である。「優れた」文化芸術活動が,有名であることや経済の論理に置き換えられないよう留意すべきではないか。
個々の文化施策に対する評価は,非常に難しい問題である。定量的な評価が困難なものをどのように評価するかが課題であり,文化政策の評価方法について一定の指標が示されれば,地方公共団体の文化政策にも資するのではないか。
企業による文化芸術の支援の場合には各社が特徴を出していくべきだが,国による支援の場合には公平性も求められるのではないか。
行政の公平性はよいことだが,文化に関しては必ずしも平等主義だけではやっていけないのではないか。平等主義で全部を少しずつやると結局個性のないものができてしまう。弱いところを支えるための理由や,日本にとっての必要性も議論すべきではないか。
地方の文化芸術活動が競い合うことで差異が出てくるのは当然としても,国として最低限の格差是正(ナショナルミニマム)も必要ではないか。
地域によっては平均的かつ普遍的な文化に触れたいという要望も強くあるので,最低限必要な文化が全国津々浦々に行きわたり,それを基盤に新しい文化を地域がつくり上げるという捉え方も必要ではないか。
住むところによって「文化を味わう心」に格差が生まれないようにすべきである。

(4) 関係機関等の連携・協力

 基本方針では,関係府省間の連携・協力体制を整備するとともに,関係機関や地方公共団体等との連携を推進することが示されている。

 文化が教育,福祉,観光等と密接な関連をもつようになっていることから,関係府省が連携して施策を実施できる体制を整備することが求められる。また,様々な制度が文化芸術を支える基盤に影響を与えることを考慮し,関係省庁との連携を図ることが必要である。

(委員からの課題提起)
文化政策は数ある政策の中の一つの領域として捉えられているが,今後は,政策全体を貫くような形で機能すべきではないか。
文化支援のための中間支援組織を支援して,文化関係者どうしの連携を支えることが必要ではないか。
21世紀の日本にとって,文化は大きな力である。付加価値の高い経済活動を実現するのに文化は一つの柱になるし,観光と結びつけば大きな産業の推進にもなるので,文化を総合的に捉えて考えるべきではないか。
現行の留意事項は文化庁が直接関与し得る範囲内だが,今後は,国,地方公共団体,民間非営利団体との関係についても留意事項としてはどうか。

   なお,本部会では,基本方針に掲げられた留意すべき4つの事項の他にも,以下のような課題が提起された。

(委員からの課題提起)
創造性と知的財産の問題,文化多様性の確保も留意事項に取り上げてはどうか。
公益法人改革の動きも踏まえた文化芸術団体等の在り方や評価も検討していくべきではないか。

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