1. |
各分野の文化芸術の振興 |
(1) |
芸術の振興
○ |
文化庁では「文化芸術創造プラン」として芸術創造活動に対する重点支援を開始し,世界水準の芸術創造活動の推進と芸術家等の養成を図っている。
|
○ |
優れた舞台芸術創造活動は国全体の文化的高まりをもたらし,新たな文化芸術創造活動を産む契機ともなる。国や芸術文化振興基金の助成などによる本格的な支援により,芸術家・芸術団体の公演活動が活発化し,舞台芸術創造活動は我が国の社会と国民生活に定着しつつある。
|
○ |
しかし,舞台芸術創造活動は一回の上演で鑑賞し得る観客数に限界があり,公演回数にも限りがあるなど構造的に創造活動と鑑賞活動の経営均衡(バランス)がとりにくい分野である。このため,その評価を市場原理だけに委ねることはできず,文化の多様性の確保や社会の創造性を高めるという観点から,直接的な享受者以外にも,常に誰かが財政的に支えていかねばならないものと考えられる。
|
○ |
このような,舞台芸術を初めとする芸術創造活動の振興には,重点的な支援と幅広く多様な支援の均衡を図るとともに,芸術創造活動は短い期間で成果を求めることが適切でない性格を有することから,中長期的な観点から創造活動が一層活性化し,創造の好循環を生み出す施策を講ずることが求められる。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
国は目指すべき方向性を提示し,文化芸術団体にやる気を与える支援を行うことが重要で,重点支援施策は評価できる。特に,拠点形成事業は文化施設の発展に大きく貢献しており,文化芸術活動の東京集中の是正にも役立っている。 |
・ |
芸術団体に対する国の支援については,支援対象数という観点のほか,全体としてバランスよく,メリハリのある支援とすることや,長期的な活動計画を団体が立てやすいように配慮することなども重要である。 |
・ |
舞台芸術創造活動の支援は,団体の性格を踏まえて多様な支援形態が必要ではないか。 |
・ |
文化芸術団体に対する直接的な支援だけではなく,中間支援組織が発展する仕組みをつくると支援がより充実するのではないか。 |
・ |
舞台芸術創造活動の支援に当たっては,中間支援組織に対する支援や創造活動の地方分散という観点も取り入れるべきではないか。 |
・ |
芸術には既存の方法論や価値観に基づかないものもある。多様な芸術を尊重するという観点に立ち,芸術の振興に当たっては,芸術活動を行う者の自主性や創造性が十分尊重され,表現の自由が保障されることが大切である。 |
・ |
文化芸術への支援に関しては,国も民間も「金は出すが口は出さない」ことが大切である。 |
・ |
文化芸術への支援であっても,それを具体化するには行政も社会的需要を把握し説明責任を果たしつつ,国民の理解が得られる方法で口を出すべきではないか。 |
・ |
申請者からみると,文化庁と芸術文化振興基金による支援は区別しにくいので,棲み分けが必要ではないか。 |
|
|
(2) |
メディア芸術の振興
○ |
映画は人々に身近な娯楽であり,映像を通じて時代や文化を表す総合芸術である。また,映画は人々の文化や価値観をわかりやすく表現するものであり,日本文化への関心を高め,我が国への好感度の向上や理解増進を図るのに有効な手段となっている。
|
○ |
近年は,映画館入場者も邦画制作本数も増えてきているだけでなく,映画やアニメ等の日本のメディア芸術に対する海外の評価も高くなっていることから,コンテンツビジネス振興の観点からも注目され,国の産業として重要な分野となってきている。平成16年には「コンテンツの創造,保護及び活用の促進に関する法律」が施行され,コンテンツビジネスの関係者の連携を強化し,その振興を図る施策が総合的に推進されてきている。
|
○ |
文化庁では,平成15年4月に「映画振興に関する懇談会」で取りまとめられた「これからの日本映画の振興について(提言)」を受け,映画振興に取り組んできており,平成16年度からは,「日本映画・映像」振興プランを推進している。
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○ |
「日本映画・映像」振興プランの実施により,我が国の映画やメディア芸術は大きく躍進することができたと考えられるが,今後も映画やメディア芸術の振興を一層図っていく必要がある。特に,映画振興に関する事業については,映像産業振興機構(VIPO)を初めとする関係機関等と連携しつつ実施することが必要である。 |
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(3) |
伝統芸能の継承及び発展
○ |
伝統芸能は長い歴史と伝統の中から生まれ,守り伝えられてきた国民の財産であり,将来にわたって継承し,発展を図ることが必要である。国においては,「伝統文化こども教室事業」などを通じて,子どもたちが伝統芸能を身近に親しむことのできる機会を充実することが大切である。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
学校や行政による伝統文化の伝承には一定の限界があり,地域社会を伝承の場とするべきである。 |
・ |
地方における過疎の進行や地域社会の構造の変化は,伝統芸能の継承にとって大きな問題となっていることを認識すべきである。 |
|
|
(4) |
芸能の振興
○ |
講談,落語,浪曲,漫談,漫才,歌唱などの芸能に対しても,文化庁及び芸術文化振興基金による援助がなされてきているが,関係団体の育成や海外公演への支援なども通じて,その振興を図ることが求められる。 |
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(5) |
生活文化,国民娯楽及び出版物等の普及
○ |
茶道,華道,書道などの生活文化,囲碁,将棋などの国民娯楽は,国民生活において身近な文化であり,関係団体を中心として取組がなされてきている。また,近年は,我が国の食文化やファッションなど日本の優れた生活様式(ライフスタイル)を生かした分野が国内外から注目されており,国においても魅力ある「日本ブランド」を確立・強化する観点から,「知的財産推進計画2005」においてその推進が図られている。今後はますます我が国の多様な生活文化を海外にも積極的に発信するための施策が求められる。 |
|
|
2. |
文化財等の保存及び活用
○ |
文化財は我が国の歴史や文化の正しい理解に欠くことができず,将来の文化の向上の基礎をなすものであり,国民的財産として適切に保存・活用していくことが必要である。平成17年4月には文化財保護法改正により,文化的景観及び民俗技術が新たな保護対象となったほか,近代の文化財などの保護を図るため登録制度の範囲が拡大されており,積極的な運用が望まれる。
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○ |
歴史的建造物や町並み,文化的景観等の保存及び有効活用の取組は,文化遺産が地域づくりやまちづくりの核となり,かつ文化観光の有力な資源となって外国人を魅了する「日本ブランド」となり「観光立国」の実現にも資するなど,我が国の文化を国際的に発信する観点からも重視されなければならない。
|
○ |
文化財の保存・活用を充実するには,所有者,行政機関のみならず,民間の非営利活動や文化ボランティアによる活動が重要であり,これらの活動への支援が必要となっている。また,文化財所有者や寄附者等に対する税制上の措置や,国民運動的な形で文化財保護のための資金を集める仕組みの創設など,幅広い民間からの資金の活用等を図る仕組みを構築することにより,国民全体として文化財を保護する機運を醸成していくことが求められる。
|
○ |
文化財の保存・活用を支える伝統的技術の継承や修復材料の確保等による基盤となる部分への支援や,選定保存技術保持団体等が実施する文化財の保存技術者・技能者の資質向上のための研修機会の拡充等による,人材の確保と育成にも努めることが重要である。
|
○ |
近年,大規模な自然災害による文化財の被害が増加しており,文化財の防災対策を強化することが必要となってきている。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
文化財の修復技術者をしっかりと育成するとともに,国際的な文化財保存活動にも対応できる技術水準などを対外的に示す制度が必要になっているのではないか。 |
・ |
日本の国土はすべて文化的な空間あるいは景観であり,文化的景観を含めた国土をどう保つかということは,日本の文化施策を考える上で重要である。 |
|
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3. |
地域における文化芸術の振興
○ |
基本方針に記されているとおり,地域における多様な文化芸術の興隆は,我が国の文化芸術が発展する源泉となるものである。地域文化が有する文化の厚みが日本文化の基盤を成しており,地域文化が豊かになればなるほど,日本全体の文化も豊かになり,日本の魅力が一層高まっていくことにつながる。そのためには,地域が独自の創造力(文化力)を高めることが必要であり,そのための支援が求められている。
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○ |
文化政策部会では,平成17年2月に「地域文化で日本を元気にしよう!(報告)」を取りまとめ,地域文化の活性化に向けて関係者に期待される役割と取組を提起した。
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○ |
近年は,文化芸術を活用してまちづくりを進める地方公共団体も増加しており,「文化芸術による創造のまち」支援事業等により地方公共団体や地域の文化芸術団体への支援も充実してきている。今後,こうした事業によって得られた成果を他の地域にも広め,生かしていく工夫が必要である。
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○ |
文化には人々に元気を与え地域社会全体を活性化させて,魅力ある地域づくりを推進する力があり,こうした文化の持つ力(「文化力」)は,地域における経済や観光,教育,福祉など文化芸術以外の分野の活性化にも貢献しうるものとして期待されている。
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○ |
国においては,各地域における文化芸術活動への支援を引き続き講じていくとともに,各地域の特色ある文化芸術活動等に関する情報を積極的に提供することや,文化を諸施策の単なる一分野として捉えるのではなく,「文化力」を文化芸術以外の分野でも広く生かすための取組を進めることが求められる。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
地域の文化活動は,鑑賞型から体験型や技能習得型に移行してきており,意欲ある住民に対して継続的な支援をどのように行うかが今後の課題ではないか。 |
・ |
地域の愛好家(アマチュア)や専門家(プロ)の表現者と,観客との中間に位置する人々の文化芸術活動を支援することが必要ではないか。 |
・ |
地域文化の発展のために,地域の大学が貢献していくことが必要である。 |
・ |
地域の文化団体どうしが,全国的に交流できる仕組み(ネットワーク)が求められている。 |
|
|
4. |
国際交流等の推進
○ |
21世紀の国際社会では軍事力・経済力ではなく,自国の生活様式や文化の魅力によって,相手国を惹きつけることができる能力である「ソフトパワー」が重要であると指摘されている。我が国は魅力ある文化芸術を振興し,これをもとにした海外との文化交流を通じて国際的な貢献を行うことが求められている。
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○ |
国においては,平成15年3月に国際文化交流懇談会による「今後の国際文化交流の推進について(報告)」及び平成17年7月に「文化外交の推進に関する懇談会」による報告書が公表されており,国際文化交流への資源投入を強化し,交流拠点や情報発信機能を充実すること,関係省庁,企業や民間の専門家などの連携協力を図ることなど,これからの国際文化交流の戦略が示されている。国際文化交流に果たすべき国の役割は大きく,長期的な視点のもと,事業の適切な評価,効率化を図りつつ,文化交流推進体制の強化を図ることが求められる。
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○ |
我が国は,これまでも人類共通の財産である世界的な有形文化遺産の保存修復に国際的な貢献を果たしてきたが,今後も,我が国独自の手法,人材を活用した積極的な貢献が求められており,国内における体制の整備が必要である。
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○ |
国際的視点からみれば,国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)において,平成15年10月に「無形文化遺産の保護に関する条約」,平成17年10月に「文化多様性条約」が採択され,豊かな文化多様性の保護,促進に資する国際的な規範の策定や各国の取組への支援が進められている。文化をめぐるこれらの国際的な動向を受け,我が国は,有形文化遺産に加え,無形文化遺産の保護に関しても世界を主導(リード)していくことが期待されている。我が国は,国内においても文化多様性の保護,促進を図るとともに,その成果を生かして,有形,無形の文化遺産の保護,活用に関して,国際機関等との連携を図りつつ国際協力を推進し,世界の文化多様性の保護,促進に積極的な役割を果たしていくことが必要である。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
文化外交を効果的に推進するには,文化庁のみならず外務省や経済産業省,民間とも協力する組織づくりが必要である。 |
・ |
諸外国に比べて貧弱な日本の対外文化機関,文化施設を充実して,文化情報センターとして機能させ,文化交流の枠組み(ネットワーク)の強化を一層進めるべきではないか。 |
・ |
文化交流は一回きりの事業でなく,相手国と日本で日常的な文化活動を継続的に進めることが大切である。 |
・ |
マンガやアニメ,ファッションなどの日本の現代文化をもっと評価し,発信すべきではないか。 |
・ |
コンテンツ産業や創造的産業(クリエイティヴ・インダストリー)のもつ文化創造の基盤としての価値を,強く打ち出していくべきではないか。 |
・ |
我が国は,アジアにおける文化財保存に関する研究,技術支援について先進的立場に立っていたが,近年は欧米諸国がその立場を強化している。文化庁は長期的な戦略を構築し,アジアでの日本の位置を強化すべきではないか。 |
|
|
5. |
芸術家等の養成及び確保等
○ |
基本方針で述べられているとおり,多様で優れた文化芸術を継承,発展,創造していくためには,その担い手として優秀な人材を得ることが不可欠である。
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○ |
国においては,新進芸術家海外留学制度の充実,国内研修や発表機会の確保,芸術団体等が行う養成・発表機会への支援により,新進芸術家の養成を図っている。また,独立行政法人日本芸術文化振興会では,伝統芸能,オペラ,バレエ,演劇分野の養成所・研修所が置かれ,専門的な養成・研修を通じて専門的(プロの)芸術家の育成が図られており,我が国のこれからの文化芸術を担う人材となることが期待されている。
|
○ |
こうした芸術家の養成のみならず,芸術家と観客である国民との間をつなぐ仲介役(コーディネーター)となるアートマネジメント担当者や,裏方を支える舞台技術者の育成や研修も重要である。
|
○ |
近年は,大学をはじめ高等教育機関においてもアートマネジメント等の教育活動が展開されており,人材育成を担う機関となってきているが,文化芸術活動の現場における研修が十分ではなく,就業体験(インターンシップ)や現場との交流を通じて実地の経験を積むことが必要とされてきている。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
企業と芸術家等との橋渡しができる資質を持った仲介役(コーディネーター)の育成が必要である。 |
・ |
芸術分野の人材育成には,現場と大学等教育研究機関との連携体制の構築が重要である。 |
・ |
劇場現場の第一線では,次世代の人材育成が難しい場合もあるため,大学院段階から現場で活動する前段階としての人材育成の体制が必要ではないか。 |
・ |
芸術家の育成には,高等教育段階において分野間及び地域間の均衡を図るべきではないか。また,アートマネジメント教育については,修士課程では高度専門職業人を育成しつつ,博士課程では研究者を育成すべきではないか。 |
・ |
高度専門職業人の業績評価や人材交流のための仕組みも検討されるべきではないか。 |
・ |
アートマネジメントに関する公的な資格が困難ならば,関係大学連合体や各大学で資格を設定することも検討してはどうか。 |
|
|
6. |
国語の正しい理解
○ |
国語は,国民生活に直接関係し,我が国の文化の基盤を成すものであり,時代の変化や社会の進展に応じてその在り方を適切に検討し,必要な改善を図っていくべきものである。
|
○ |
文化審議会では,平成16年2月に「これからの時代に求められる国語力について」を答申し,「自ら本に手を伸ばす子どもを育てる」ことが重要であるとして,そのための国語教育と読書活動に関する提言を行った。また,言葉について考える体験事業や独立行政法人国立国語研究所による「外来語」言い換え提案などの施策が展開されてきた。引き続き,国語の正しい理解と国語力向上のための取組を行うとともに,国際化,情報化に対応した施策を推進していくことが必要である。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
国語力の育成と水準向上を学校の特色に掲げる公立学校が現れてくるなど,教育における国語の正しい理解は着実に進んできている。 |
・ |
外来語の言い換え提案は各方面から様々な反応があり,関係機関の自覚を促す効果が出てきている。 |
・ |
国語施策に関して,関係省庁の連携を一層緊密にするための組織が必要ではないか。 |
|
|
7. |
日本語教育の普及及び充実
○ |
在留外国人の増加や諸外国との国際交流の進展に伴い,今日的な学習の需要や社会の変化に対応した日本語教育の普及を図る必要性が高まっている。そのことを通じて日本語を学ぶ人々が我が国の文化芸術に対する理解を深めることは,我が国の更なる国際化の進展にも資すると考えられる。
|
○ |
文化庁では,日本語学習ボランティアの支援推進事業や親子参加型日本語教室の実施を通じて日本語教育の充実を図っており,日本語学習者が増加,多様化する中で,日本語教室の形態や研修の内容など地域の需要に対応した取組を行うことが今後も必要である。 |
|
8. |
著作権等の保護及び利用
○ |
文化芸術の振興の基盤を成す著作権等については,国際的な動向を踏まえるとともに,知的財産基本法や知的財産戦略本部が作成する「知的財産推進計画」等に基づき,知的財産立国の実現を目指して,様々な著作権施策が推進されている。
|
○ |
法制度の在り方については,既存の条約への対応をほぼ終えた今日においては,大局的・体系的な視点から,社会の変化に応じて検討を進めていく必要がある。
|
○ |
著作物の利用については,音楽,映画,アニメ等の我が国の優れた著作物を積極的に活用するため,新しい商業規範(ビジネスモデル)開発の支援等により,著作物の円滑な流通を促進していくことが求められる。
|
○ |
著作権に関する知識と意識の普及を図るため,講習会の開催やネットワークを利用した教材・情報提供などの普及啓発活動を推進することが重要である。
|
○ |
アジア等の途上国において流通している海賊版への対策を強化するとともに,世界知的所有権機関(WIPO)などで行われている新たな国際的規範づくり等にも積極的に参画する必要がある。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
著作権のもつ文化的側面と経済的側面が調和してよくかみ合うことで,世界に発信できる文化芸術の裾野が広がることが期待される。 |
・ |
科学技術の進展や経済の変化に対応して,著作権法の見直しを機敏に図るべきではないか。 |
・ |
著作権に関する社会全体の認識は依然低く,その解消のため小中高校における著作権教育への支援を充実すべきである。 |
|
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9. |
国民の文化芸術活動の充実 |
(1) |
国民の鑑賞等の機会の充実
○ |
文化芸術の振興に当たっては,国民がその居住する地域にかかわらず等しく,文化芸術を鑑賞し,参加し,創造することのできる環境を整備することが求められる。その意味で,文化の東京一極集中を是正し,国民が身近に文化芸術に触れることができるよう,各地域における文化芸術の公演,創造活動への支援や情報提供が重要である。
|
○ |
特に,文化ボランティア活動を推進したり,学校教育を含む子どもたちの文化芸術活動を充実したりしていくことが今後重要である。
|
○ |
文化ボランティアは国民が文化芸術活動に参画する契機となるだけでなく,芸術家等や文化施設等と国民とをつなぐ仲介役(コーディネーター)として有効である。今後は,文化ボランティアの全国的なネットワークの形成や情報提供の充実により,文化ボランティアが能動的に文化芸術活動に参画していくための能力向上(エンパワメント)を図ることが必要である。
|
○ |
国民の多種多様な文化芸術活動の全国的な発表,交流の場として開催している国民文化祭や全国高等学校総合文化祭について,国民への周知と内容の充実が一層求められる。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
鑑賞機会だけでなく,国民が文化芸術を創造・表現し,また支援・協働したりする機会も充実されるべきである。 |
・ |
文化ボランティアは,文化施設に使われる者として捉えるべきではなく,文化芸術と社会をつなぐ市民の活動や芸術系特定非営利活動法人(アートNPO)等との連携・協力などの視点から,より積極的に捉えるべきである。 |
|
|
(2) |
高齢者,障害者等の文化芸術活動の充実
○ |
国民の誰もが身近に文化芸術に接することができるよう,高齢者,障害者,子育て中の保護者,勤労者が文化芸術活動に触れやすい環境の整備が求められる。
|
○ |
国立の文化施設や国立劇場等においても,高齢者・障害者割引や小中学生の常設展見学の無料化などが行われているとともに,字幕や託児サービス,子どもや社会人向けの入門鑑賞会の開催などの工夫や配慮が行われており,こうした活動を一層促進すべきである。 |
|
(3) |
青少年の文化芸術活動の充実 |
(4) |
学校教育における文化芸術活動の充実
|
|
ここでは,子どもの文化芸術活動の充実という観点から(3)(4)についてまとめて述べたい。
○ |
次代を担う子どもたちが優れた文化芸術に直接触れ,日頃味わえないような感動や刺激を体験することは,豊かな感性と創造性をはぐくむとともに,我が国の文化を継承・発展させる上で大変重要である。またこのことは,豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本人としての自覚をもった国民を育成するという考え方とも合致する。
|
○ |
現行の教育課程では,小中学校における芸術に関する教科の授業時数が削減されたものの,総合的な学習の時間などにおいて文化芸術活動への関心や理解を深めたり,直接触れる機会を取り入れたりする学校も見られるなど,学校教育における文化芸術活動は学校の創意工夫を生かした取組が一層可能となってきている。
|
○ |
一方で,学校は教科の授業時間数の確保をはじめとして教育課程を着実に実施することが求められるとともに,数多くの課題にも対応しており,文化芸術に特化した教育活動のみに重点を置くことは難しい状況にある。また,伝統文化の継承など本来は地域で担うべき役割が学校に転嫁される地域も見られる。
|
○ |
学校教育において文化芸術活動を充実するには,地域の教育力を発掘し,学校と地域の芸術家や団体などとの相互理解を図った上で連携・協力し,児童生徒の実態に即した文化芸術活動を行うことが必要である。そのためには学校が開かれた学校づくりを展開し,様々なネットワークを形成していくことが求められる。
|
○ |
地域においては,学校週五日制を踏まえ土日の児童生徒の活動機会として文化芸術活動に積極的に取り組み,芸術家等や文化芸術団体,文化施設が行政と連携しつつ,地域における児童生徒の文化活動の受け手としての役割を果たしていくことが大切である。
|
○ |
国においては「本物の舞台芸術に触れる機会の確保」事業などを通じて,子どもたちが優れた文化芸術に身近に親しむことができる機会を一層充実することが求められる。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
親子のふれあいの希薄化や世代間の断絶が指摘される昨今においては,文化の力が世代間をつないでいくということの意義について,再認識することが特に重要である。 |
・ |
地域社会や家庭で行うべき郷土の伝統文化や芸術まで学校教育に持ち込んでいるのではないか。地域社会,家庭,学校の役割分担を明確にすべきである。 |
・ |
教職員と芸術家等の連携のための仕組みが必要であり,学校側にもネットワーク形成の努力が必要ではないか。 |
・ |
教育現場で芸術をどのように教えるかについて,文化芸術団体等の連携先の視点から見た検討も必要ではないか。 |
・ |
子どもたちの文化芸術活動を推進するには,学校と文化芸術団体等との相互理解や学校週五日制の意義を地域で再確認することが必要ではないか。 |
・ |
教員養成の段階から学芸分野や博物館などに関する科目を取り入れ,芸術に関する教育課程(カリキュラム)を充実させて,教員の意識を高めていくべきではないか。 |
・ |
学校と他の機関との連携を一層図っていくためには,学校に仲介役(コーディネーター),計画立案役(プランナー)などの人材が必要なのではないか。 |
|
|
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10. |
文化施設の充実等 |
|
(1) |
劇場,音楽堂等の充実 |
(2) |
美術館,博物館,図書館等の充実
○ |
文化芸術の基盤となる文化施設を充実することは,文化芸術の振興にとって極めて重要である。
|
○ |
ここ20年間で,地域においても音楽や演劇専用の文化会館や美術館が多数開館している。内閣府が平成15年に実施した「文化に関する世論調査」によれば,文化施設の整備・充実を希望する割合は減少してきており,地域の文化施設の整備は相当程度進んでいるという認識が広がっている。従来,文化施設はハード(ハコモノ)の面から捉えられる傾向にあったが,文化会館等が有する文化芸術の創造機能や,美術館・博物館が有する教育機能や調査研究機能への期待が高まってきている。
|
○ |
一方で,文化施設等の整備は進んだものの,文化会館や美術館,博物館の職員数は伸び悩んでおり,専門性を有する職員や技術者を確保できない施設も少なからず存在しており,文化施設がその役割を十分果たすことのできる環境や条件の整備が求められている。
|
○ |
平成15年9月施行の改正地方自治法により,民間事業者(株式会社,特定非営利活動法人等)も議会の指定を受ければ,「公の施設」の管理を受任できるようになった(いわゆる「指定管理者制度」)。同制度は,公の施設を民間等の活力を利用して効率的・効果的に運営・管理することにより,利用者の利益に資することを目的として制定されたが,文化芸術関係者の間には同制度の導入により文化会館や美術館,博物館などの管理・運営が経済性や効率性のみで判断され,文化芸術の観点がなおざりにされるのではないかとの懸念もある。文化施設の管理・運営に関しても,その経済性・効率性を無視することはできないが,文化施設が社会に対して果たしている役割や貢献を考慮して,指定管理者制度の適用には,文化施設が本来有する使命や目的,地域における役割等を踏まえ,その文化的側面に十分配慮することが必要である。
|
○ |
設置者である地方公共団体には,地域の文化行政における文化施設の果たすべき役割を明確に位置づけ,指定管理者制度導入の可否を含め,文化芸術を振興する観点から文化施設の充実方策を検討することが求められる。
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○ |
国立美術館,国立博物館等の国立文化施設については,独立行政法人化されて以来,業務の効率的かつ効果的な実施に一定の成果を挙げてきている。これらについては,市場化テストの導入など更なる効率化のための取組を求める声もあるが,国立文化施設の果たすべき使命,目的などにかんがみ,慎重な議論が必要である。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
文化芸術関係者や市民などの地域の様々な人々の議論や活動の拠点となる場の形成が重要ではないか。 |
・ |
指定管理者制度の導入には運用上の不安があるものの,文化施設の管理・運用のための新たな法制や国による指針の提示は,規制緩和や地方分権という時代の流れに逆行する。このため,例えば,社団法人全国公立文化施設協会等の連合団体において基準を設定することが効果的ではないか。 |
・ |
ここでいう「文化的側面」として大切なことは,市場原理や経済効率には時として反することもあるが,文化芸術に携わる人間が試行錯誤を経て獲得し,蓄積してきた経験や技術をしっかりと継承することである。 |
・ |
他省庁所管の法律や制度について,文化振興の観点からの文化的評価(アセスメント)が必要ではないか。 |
・ |
文化施設には,文化芸術系特定非営利活動法人(アートNPO)等の活動も踏まえ,教育機能や仲介的(コーディネート)機能などの新たな機能を持った「第3の文化施設」を展望する視点が必要ではないか。 |
・ |
全国的に美術館は多数整備されたが,今後の文化政策としては,その存在を前提とするのではなく,美術館の持つ機能を十分に発揮できる優れた美術館を拠点として整備していくことを考えていくべきではないか。 |
・ |
地域における美術館の在り方は,地域でもっと議論していくべきではないか。 |
・ |
寄附税制に関して特定公益増進法人の認定を積極的に推進し,個人所有の重要文化財等譲渡の非課税措置や,私立博物館への税優遇制度を拡大すべきではないか。 |
・ |
美術品の貸借に関する国による補償制度は,難しい問題ではあるが検討すべき事項ではないか。 |
・ |
学校教育との連携を推進するため,美術館等の全国組織との連携方策を検討すべきではないか。 |
・ |
美術館,博物館に求められる機能,活動やサービス内容は変化してきている。学芸員に求められる能力は多様となっており,学芸員の資質向上,養成課程(システム)や資格の見直しを検討すべきではないか。 |
|
|
(3) |
地域における文化芸術活動の場の充実
○ |
国民が身近にかつ気軽に文化芸術活動を行うことができる場を充実するには,文化施設だけでなく学校施設や社会教育施設を有効に活用することも必要である。文部科学省では「廃校リニューアル50選」報告書等を通じて廃校施設を文化芸術活動の場として利用する方策などを紹介している。こうした情報提供を通じて,地方公共団体や地域の芸術家等に対して,学校や文化施設以外の施設を文化芸術活動に活用する工夫を促していくことが求められる。 |
(委員からの課題提起) |
・ |
教育施設や文化施設を有する地方公共団体には,舞台芸術の観客をはじめ将来の文化芸術の担い手を育てるため,学校や福祉施設との連携に取り組む必要があるのではないか。 |
・ |
「関西元気文化圏」のような,民間が主体となった文化の多極化を促進する取組をさらに広げていくべきではないか。 |
・ |
地域の,特に私立の美術館・博物館には個人資産の保存という目的のものもあるが,それを明確にして地方公共団体との連携を深め,文化芸術の振興に生かしていく視点が必要である。 |
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(4) |
公共の建物等の建築に当たっての配慮
○ |
公共の建物等の建築には,これまでも周辺地域との調和が取れたものとなるよう配慮することが求められてきた。例えば,平成17年10月に開館した九州国立博物館においては,周囲の山並みと呼応する緩やかな屋根の線を採用するなど周辺環境と一体となったデザインで建設されている。国や地方公共団体の建物等の建設に当たっては,引き続きこうした配慮が必要である。 |
|
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11. |
その他の基盤の整備等 |
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(1) |
情報通信技術の活用の推進
○ |
インターネットの急速な普及に代表される情報通信技術の発展により,文化芸術活動においても様々な影響が生じている。情報や画像を地理的制約を受けずに活用できる利点を生かして,新たな文化芸術活動の創造がなされる一方,仮想的(バーチャル)な世界でのみ展開される,いわゆる「ネット文化」は,血の通った交流・交感を妨げ,人間性豊かな文化芸術活動を疎外するという「負の側面」をももたらしていることに留意する必要がある。
|
○ |
国においては,情報通信技術が,人と人との結びつきを強め,生き生きとした多様で広範な文化芸術活動の展開に活用されるよう施策を講ずるべきである。 |
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(2) |
地方公共団体及び民間の団体等への情報提供等
○ |
情報化の進展に伴いホームページによる情報提供が主流となりつつある中,迅速かつわかりやすい情報が一層求められるとともに,国の文化政策や事業等についての外国語による紹介をはじめ,我が国の文化情報の国際的な発信力強化がますます必要となってきている。
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文化芸術活動への助言や相談などを国民が身近なところで気軽に受けられるようにすることも期待される。 |
(委員からの課題提起) |
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文化芸術の現状分析を行う統計や調査研究を整備し,我が国の文化芸術の全体像が把握できるようにする必要がある。 |
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(3) |
民間の支援活動の活性化等
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民間による文化芸術への支援(メセナ活動等)は,従来は文化芸術団体に対する支援や催し物(イベント)の開催などが主流であったが,企業の社会的責任(CSR)が認識されるに伴い,地域の文化活動に対する企業の社会貢献活動が活発になってきている。そうした中で,メセナ活動もパトロン的な活動は縮小され透明性が高まってきており,「協賛」から「協働」へとその考え方が変わってきている。
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税制に関しては,平成14年度に優遇措置を受けられる活動の対象範囲が分野,活動主体,活動形態それぞれについて拡大され,一定の成果が上がってきている。
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しかしながら,文化芸術活動に精通した人材や必要な情報の不足により,十分な支援活動を展開できないという課題を抱える企業は今も多い。
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文化芸術を支える役割は国を始めとする行政機関のみならず,企業や民間の非営利活動にも大きな期待が寄せられることから,こうした民間活動を促進するための税制や寄附の仕組みに関しては更なる検討が必要である。 |
(委員からの課題提起) |
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寄附への環境は改善されてきたものの,個人の寄附を促進するにはまだ厳しい状況にある。国全体でも考えるべき問題である。 |
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文化芸術の振興が社会や産業の発展に不可欠という認識が,経済界を含む社会全体に共有されることが重要である。 |
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文化芸術に自分でお金を出して触れることが文化を支えるという意識の醸成が大切であり,それを子どもの頃から教えていくべきではないか。 |
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(4) |
関係機関等の連携等
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文化芸術の振興に関する施策を効果的に推進するには,国,地方公共団体,文化芸術団体を始め様々な機関や施設の間の連携が必要であることはいうまでもない。
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文化芸術と教育,福祉,観光などの分野との連携により,人材や資源の効率的・効果的活用や手法(ノウハウ)の共有が図られることが期待できる。
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国においては,文化芸術と他分野との連携を一層推進することが必要である。 |
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(5) |
顕彰
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文化庁においては,文化庁映画賞のほか,社団法人企業メセナ協議会によるメセナアワードにおいて「文化庁長官賞」を創設して企業等に対する表彰を行うとともに,文化芸術活動の新たな分野や若い芸術家,国際文化交流に貢献した個人や団体等への顕彰を推進しており,引き続きこうした取組に努めることが求められる。 |
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(6) |
政策形成への民意の反映等
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文化芸術の振興のための政策形成には,その過程の公正性及び透明性を確保することが求められる。平成17年より文化審議会は原則として公開され,法令等の改正においても意見公募(パブリックコメント)を実施するなど,国民の意見を反映できるようにしてきている。また,地域における情報や意見交換の場についても,文化芸術懇談会等において基本法や基本方針についての理解を求めるとともに,地域の状況や課題を聴取する機会を設けており,こうした取組を一層推進すべきである。
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本基本方針の見直しが検討される際には,文化審議会において文化芸術の各分野の関係者から公聴(ヒアリング)を行うとともに,意見公募(パブリックコメント)などを実施し,広く国民の意見を反映することが求められる。 |
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