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有線放送により放送を同時再送信する場合の規定の見直し |
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現行著作権法制定当時と比較して、有線放送事業者の実態も変化している。現行法制定当時は、有線放送事業者といえば、規模が小さく、基本的には地域を中心に事業を展開する地域的なメディアであったが、近年、有線放送に係る制度が見直され、有線放送事業の地元事業者要件の廃止や外資規制の撤廃など規制が緩和されたこと等も背景に、都市部等において大規模な有線放送事業が展開され、また、サービス内容もCSの再送信、IP電話、インターネットやVODサービスなど充実しつつある。さらに、有線放送事業者等が、電気通信役務利用放送法に基づく登録を受けて有線放送サービスを提供する形態も増えつつあり、このような傾向は今後も続くと考えられる。
以上のような実態の変化を踏まえると、現行著作権法上権利制限されていない著作物や放送は別として、実演及びレコードに係る権利関係については、原則として、新たに報酬請求権を付与することが適切である。
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現行著作権法において、放送の同時再送信の場合に実演家の権利が一切働かないこととなっている背景には、以下の事情も存するところである。すなわち、実演家は許諾権として放送権又は有線放送権を有しているが、実演の円滑な利用を阻害しないよう、実演の最初の利用の際の契約によってのその後の利用も含めて実演家の利益を確保することや、放送事業者の権利行使を通じて実演家の利益を確保することが想定されている。
しかしながら、 |
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先述のとおり、有線放送の実態が大きく変化しており、有線放送が実演の有力な利用手段になってきたこと |
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放送の同時再送信に係る放送事業者の同意は長い間の契約慣行から無償とされているため、例えば、最初の出演契約時に実演家との間で同時再送信の利用も含めた契約を行おうとしても、放送事業者はその費用を有線放送事業者に転嫁することが難しく、著作権法が想定する「実演の最初の利用の際の契約によってその後の利用も含めて実演家の利益を確保する」という考え方が機能していないこと |
などの理由から、現行の権利関係は見直すべきであると考える。
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なお、実演家の許諾を得て映画の著作物において録音又は録画されている実演には、その後の一切の利用について実演家の権利が働かないこととされている。これについては、映画の著作物に係る権利関係全体の見直しの中で検討すべき課題であると考えられるため、今回の制度改正においては、従来の取扱いを維持することが適当である。 |
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IPマルチキャスト放送により放送を同時再送信する場合の規定の見直し |
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現行著作権法上、放送をIPマルチキャスト放送により同時再送信することについて、実演家及びレコード製作者には許諾権である送信可能化権が与えられているが、有線放送と同様に取扱うという考えを踏まえ、原則として、現在与えられている許諾権を報酬請求権に改めることが適切である。なお、著作物及び放送の利用については、の場合も許諾権が与えられていることから、特に見直しを行う必要はないと考えられる。
ところで、このような取扱いについては、実演家及びレコード製作者に「利用可能化権」の付与を義務付けた実演・レコード条約との関係が問題になるが、4.で整理したように、入力型の送信可能化については、実演・レコード条約上の義務とはいえないため、実演家等の権利制限に当たって著作権の制限と同一の制限しか認めないという実演・レコード条約第16条(1)の規定の適用はないものと考えられる。
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非営利かつ無料で放送を同時再送信する場合の規定の見直し |
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現行著作権法では、難視聴対策や景観維持等のための共同受信など、放送を受信して行う非営利かつ無料の有線放送を権利制限の対象とした上で、著作物、実演、レコード及び放送等の権利が働かないことになっているが、自動公衆送信については、このような制限はない。
マンション等の景観維持等を目的としたIPマルチキャスト放送による非営利かつ無料の再送信はコスト等の点から想定されにくいが、地域の通信インフラを活用した難視聴対策のためのIPマルチキャスト放送については、実施の可能性が想定されるため、放送の同時再送信のみのサービスを非営利かつ無料で行うことについては、有線放送とIPマルチキャスト放送で著作権法上区別する理由がないことから、著作権を含む全ての権利について、基本的には有線放送と同様の権利制限を行うべきである。
ただし、特に、IPマルチキャスト放送や電気通信役務利用放送法に基づき行われる有線放送については、従来型の有線放送と異なり、全国規模で送信が可能なメディアであり、たとえ非営利かつ無料であっても同時再送信が大規模になれば権利者の利益に影響を与える可能性があることから、一定の限定を加えることを考慮すべきである。
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権利制限規定の在り方 |
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著作物等の有線放送による利用については、権利制限規定により自由利用が認められているものがある。これらについて、基本的には、IPマルチキャスト放送についても同様の取扱いとすることが必要と考えるが、放送の同時再送信に係る見直しの際に措置するか、あるいは、今後「自主放送」について検討する際に、あわせて検討するかについては、個別に判断する必要がある。
<権利制限の例>
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学校教育番組の放送等(第34条) |
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時事問題に関する論説等の転載等(第39条) |
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政治上の演説等の利用(第40条) |
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著作隣接権の付与及び一時的固定 |
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有線放送事業者には著作隣接権が与えられているが、IPマルチキャスト放送事業者にも同様に権利を与えることについて検討する必要がある。また、この際、一時的固定制度の適用についてもあわせて検討する必要がある。ただし、IPマルチキャスト放送に対する著作隣接権の付与及び一時的固定を認めることの可否については、今後、「自主放送」について検討する際に、放送新条約の検討状況や他の条約の取扱いも踏まえ、検討すべきである。
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著作権契約の在り方 |
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(ア) |
従来型の有線放送事業者に配慮した契約ルールの策定
著作権法の改正が行われた場合、著作権法上はIPマルチキャスト放送と有線放送の取扱いが同等となるが、有線放送事業者の中には、依然として、難視聴対策を中心とした小規模な事業者も含まれることから、このような従来型の有線放送事業者については、現在実施されているいわゆる5団体処理を参照とするなど、有線放送事業者に配慮した契約ルールの策定が望まれる。
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(イ) |
文化庁の支援
著作権法の改正を踏まえた、新たな契約ルールの策定又は既存の契約ルールの見直しについては、基本的には関係団体間で行う事柄であるが、文化庁としても、関係団体間の円滑な合意形成に向け、必要に応じて支援を行う必要がある。
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(ウ) |
集中管理体制の整備
現在、実演家及びレコード製作者の団体において、IPマルチキャスト放送を含め、実演及びレコードの利用について、一任型管理事業の体制整備を進めているところである。このような取組みについては、今後の著作権法の見直しいかんにかかわらず、映像コンテンツの流通促進のために有効と考えられることから、引き続き推進することが必要である。 |
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