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第4章 地域文化の活性化に向けて

1. 今後関係者に期待される具体的役割と取組み
 第3章においては,新たな発想や手法などをもって地域文化の振興に取り組んでいる特色ある事例を取り上げた。もとより,地域文化振興には絶対的なモデルはなく,それぞれの地域の特性や実情に応じて方策が講じられるべきものであるが,これらの事例は地域文化の振興に取り組む関係者にとって学ぶべき多くの材料を提供している。
 地域文化の振興が,我が国にとって今後一層取り組まなければならない極めて重要な課題であることは間違いなく,地域文化関係者にはこれらの先行事例等も参考としながら,それぞれの役割に応じて以下に掲げたような取組みが進められることを期待する。

(1) 地域住民
 地域文化は,地域で生まれ,育まれ,継承されていくものであり,その主役は住民自身である。地域住民には,一人一人が地域文化の担い手であるとの自覚を持ち,文化芸術に積極的に触れたり活動したりすることを通じて,それぞれが持つ力を存分に発揮することが求められる。
 また,地域社会の発展に果たす文化芸術の役割を見据えて,地域文化の在り方を自らの問題として考えるとともに,地域における文化政策の形成から実施に至るまで主体的に参画していくことが期待される。

(2) 文化芸術団体等
 文化芸術団体には,自発性・創造性を発揮し,特色ある文化芸術活動を独自に展開するとともに,他の文化芸術団体や教育,福祉,観光等に関する団体・機関などとも積極的に連携・協力しながら,地域文化の振興に貢献することが求められる。
 特に,学校等の教育施設や社会福祉施設等と連携しつつ,優れた舞台芸術活動や地域の伝統文化などに触れられる文化芸術体験の場を,積極的に提供していくことが期待される。
 また,地域文化の振興に対する地域住民の意見や要望にも配慮し,住民に対して幅広く自らの文化芸術活動について的確な情報発信を行うことにより,相互理解を深めるよう努めることが望まれる。
 さらに,文化芸術の進展や経営的観点も視野に入れた文化芸術団体の運営を行っていくために,アートマネジメントや文化芸術活動を支える技術などに関する研修の機会を拡充するよう努めることが必要である。こうした研修の機会は他の団体や行政等との情報交換や相互理解の場となるだけでなく,連携・協力の萌芽(ほうが)となり具体的な活動につながることも多いことから,より積極的に活用していくことが求められる。

(3) 大学等の高等教育機関
 芸術系大学をはじめとする高等教育機関は,文化施設や文化芸術団体と連携しつつ,地域文化の担い手や文化芸術団体と住民とを結びつける人材(コーディネーター),文化施設や文化芸術団体の管理運営を担当する人材などの育成を図ることや,地方公共団体の文化担当者や文化芸術団体等の職員等を対象として,アートマネジメント等の研修の機会を提供していくことが期待される。
 また,大学等の有する専門知識,人材,設備等を生かして,地域文化に関するニーズ(需要)やシーズ(要望)を調査・分析を行うこと,日頃の教育活動や研究成果を積極的に地域に公開すること,地域研究の一つとして伝統文化の保存と継承など含めた地域文化の研究を行うことなどを通じて,地域文化の振興に組織的に参画していくことも期待される。
 なお,大学等やその教職員等も地域の一員であることを自覚し,地域の文化芸術活動への参加を促すため,地域の文化芸術活動への貢献も大学等やその教職員等の評価の際に,重要な項目として位置付けることも望まれる。

(4) 企業等
 企業等の民間団体も地域の一員であるとの自覚のもと,その立地する地域の文化芸術活動を積極的に支援するとともに,自らの事業ノウハウや人材等の経営資源を生かして,地域文化振興の重要な担い手となることが期待される。
 また,社員が文化芸術活動に触れることのできるゆとりある生活や長期休暇は社員の士気を高め,その創造性を高めることにつながることを踏まえ,例えば文化芸術活動休暇のような,社員が文化芸術活動に参加しやすくする方策を講ずることも望まれる。

(5) 地方公共団体等
 第2章でも見たように,地域における文化施設等のハード整備が進んだことを受けて,住民の文化振興に対する要望は,文化芸術活動に接する機会の増大,地域の文化芸術団体・サークルの育成・支援,文化財の活用によるまちづくりなどのソフト事業の充実や地域振興政策における文化的側面の重視という方向に移行しつつある。
 また,第3章の各地の事例においても地方公共団体が重要な役割を担っている場合が多い。これらのことを踏まえて,地方公共団体には,以下のような取組みを期待する。
  長期的視野で地域文化振興のための基本的な方針等の策定に努め,その際,住民の参加意識を高める上からも,地域の文化芸術活動に関する統計やアンケート調査,ワークショップ(参加型講習会),シンポジウム(公開討論会)等を活用して,地域における文化芸術の現状や住民の意見や要望のきめ細やかな把握に努めること
  地域の「文化力」が地域活性化の「鍵」であるとの視点から,地域経済,観光,教育,福祉など様々な行政分野間の連携・協力を進めること
  地域住民や文化芸術団体等が地域における文化芸術活動に関する情報交換を行い,行政と文化政策の方向性や役割分担を協議する場を設定するなど,地域の「文化力」を結集するための調整を図ること
  文化芸術担当者の人事に当たっては,人事異動があっても蓄積された知識や経験,ノウハウが円滑に継承されるよう配慮すること
  地域における文化芸術活動に関する情報を住民や文化芸術団体等が気軽に利用・相談できるような仕組みの構築に努めること
  文化ボランティアの活用のための条件整備や個人・企業の寄附等を促進する仕組みの充実など,地域における文化芸術活動を支える取組みに対し積極的に支援すること
  地域にある大学等の高等教育機関との連携・協力を深めつつ,大学等の行う人材育成や地域への貢献などの活動に対する支援を行うこと
  公立文化施設に指定管理者制度を適用するに当たっては,文化施設が本来有する使命や目的,地域における役割などを踏まえ,それらが達成できるように,その文化的側面にも十分配慮して運用を行うこと
  今後,市町村合併が進展していく中で,文化芸術の振興が新たな地域社会の連帯感の醸成に有効な手段となり得ることから,地域内の公立文化施設の連携を強化するなど,合併が地域文化の振興にも資するように努めること
  文化振興財団等の地方公共団体の関係団体も文化芸術に関する事業を実施するだけでなく,行政等とも連携しつつ,地域の住民や文化芸術団体等のネットワークづくりや文化芸術活動に関する相談機能の充実のため,積極的な役割を果たしていくこと

(6)
 国は,地域文化の振興を図るため,以下の点に留意しつつ,施策体系の点検を行い,各地域における文化芸術活動への支援や情報提供等の必要な施策を講じることが求められる。
  地方公共団体による地域文化振興のための基本的な方針等の策定に対し,情報提供などの支援を行うこと
  優れた文化芸術に触れ,体験する機会や学校への芸術家等の派遣などの充実を通じて,学校教育における文化芸術に関する教育の推進を図ること
  子どもたちが身近な地域で,伝統文化や様々な文化芸術に継続的に触れ,体験できるように,地方公共団体等の取組みに対する支援の充実を図ること
  地域の歴史等に根ざした伝統文化の継承・発展をはじめ,地方公共団体等による文化財の保存と活用を支援すること
  地域再生推進のための取組みと連携し,地方公共団体等による文化芸術によるまちづくりを支援すること
  大学等の高等教育機関との連携・協力を深めつつ,大学等の行う人材育成や地域への貢献などの取組みに対する支援を行うこと
  情報提供,人材育成や創造活動への支援などを通じた文化施設の活性化のための支援を行うこと
  地域づくりや地域文化の振興において推奨すべき取組みの事例などに関する情報提供を行うこと
  地方公共団体や文化芸術団体等との連携協力のもと,国民文化祭や全国高等学校総合文化祭などの地域の文化芸術活動を全国的規模で発信する場の提供を行うこと
  地域文化の振興に寄与した者や団体に対して積極的に顕彰を行うこと

 なお,文化芸術関係の特定公益増進法人に対する寄附金の所得控除や文化財の所有等に係る非課税措置など,文化芸術関係の税制上の優遇措置は,地域における文化芸術活動に対する有効な支援方策の一つである。今後とも,これらの措置が適切に講じられるとともに,地域の文化芸術活動の拠点となる文化施設に対して,税制上の優遇措置も含め,一層の支援が図られることを期待する。



2. 連携・協力により解決すべき課題と方策
 第3章の各地の事例を通じても分かるように地域文化振興に当たっては,関係者の連携・協力が重要であり,特に以下のような課題については,関係者の連携・協力を推進することが重要である。

(1) 地域の特色ある文化資源の発見と再生
  地方公共団体や文化芸術団体等は,外部の専門家等の協力も得て新たな視点から,地域の特色ある文化資源の発見や再生のための住民等の主体的な活動を支援すること
(2) 教育,福祉,観光などの分野との連携
  地方公共団体や文化芸術団体等は教育関係者とも連携しつつ,本物の文化芸術に触れる機会の提供や文化芸術を活用した教育を実施することにより,子どもたちの豊かな人間性と多様な個性を育成すること
  地方公共団体や文化芸術団体等は福祉関係者とも連携しつつ,健康づくりや心の健康(メンタルヘルス)につながる文化芸術活動等を推奨すること
  地方公共団体や文化芸術団体等は観光関係者とも連携しつつ,地域文化をまちづくりに活かし,質の高い観光資源として活用されるよう,地域の文化力を高めること
(3) 人材育成等
  地方公共団体,文化芸術団体や大学等の高等教育機関は相互に連携しつつ,アートマネジメント担当者をはじめとした地域文化にかかわる人材の育成や現職者の資質の向上を行うこと
(4) 地域の文化拠点の活性化
  文化会館や美術館・博物館等の地域の文化施設は,地域の文化芸術活動の拠点として活性化していくため,地方公共団体や文化芸術団体等とも連携しつつ,施設の運営に当たり地域の人材や団体の積極的な参加を促進するとともに,新しい発想に立って既存施設の活用や施設間の事業連携等を進め,長期的観点に立ち特色ある文化芸術活動が継続的に行えるよう配慮すること
(5) 子どもたちの文化芸術活動への支援
  地方公共団体や文化芸術団体等は,芸術家や伝統文化関係者などと教員がそれぞれの専門性を活かしながら連携し,子どもたちの文化芸術活動体験の充実に取り組むような仕組みを整備すること
(6) 文化芸術活動に関する情報発信
  地方公共団体と文化芸術団体等は,相互に連携しつつ,地域の文化芸術活動に関する情報のネットワークを形成するとともに,文化芸術活動を行おうとする者に対する相談機能の充実を図ること


おわりに

 地域文化の担い手は地域住民であり,住民こそが主役である。その原則を踏まえた上で,文化芸術団体,企業,地方公共団体や国などがそれぞれに期待される役割を果たすことにより,地域で様々な文化が栄えていくことが期待される。
 言うまでもなく文化芸術活動は人間の根源的な営みであり,経済・社会の在り方にも大きな影響力を持っている。臨床心理学者でもある河合隼雄文化庁長官の分析によれば,今日の日本は長期間にわたる経済的不況(depression)の中で,国民自体も精神的に鬱(うつ)状態(depression)にあるという。しかし,国民が文化芸術活動を通じて元気を取り戻し,日本に「文化力」が満ちることにより,社会が元気になり,国民が心の豊かさや生きがいを実感できるようになることが期待される。
 本提言を踏まえ,地域住民が地域文化の担い手として活発な活動を行うことができるよう,民間団体や地方公共団体がその支援を強化することを期待するとともに,国全体の文化芸術を振興していくため,地域の「文化力」を高めるべく,関係者には地域文化の振興に一層積極的に取り組んでいくことを求めるものである。
“地域文化で日本を元気にしよう”,これが本部会の提言である。



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