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課題7 文化芸術活動への資金的援助をいかに確保するか

方策19
 国や地方公共団体等による地域文化に対する支援事業の活用を図る
 地域文化の振興は,基本的に地方公共団体の責務であるが,第2章で見たように近年の財政状況の厳しさを受け,地方公共団体単独で文化芸術活動への十分な支援を行うことは困難である。文化庁の地域文化支援策や内閣官房地域再生本部の「地域再生推進のためのプログラム」等,国においても各種の地域振興策を実施しており,これらを適切に活用していくことが求められる。

(事例24)「地域再生推進のためのプログラム」を活用した地域文化振興
  例: 石川県小松市「町人文化のまち再生構想」
 小松市には240年の伝統を誇る曳山子供歌舞伎(ひきやまこどもかぶき)をはじめ「町人文化」の伝統が色濃く残っている。近年,急速な都市化などにより伝統文化の継承が困難となっており,人材不足や曳山の老朽化,伝統的な町並み景観の喪失が進行している。このたび,政府の「地域再生推進のためのプログラム」を活用して,町並み景観の保全,歌舞伎文化の継承,新たな産業と文化の発信,観光の再生という4つのテーマをもとに「町人文化のまち再生」を目指している。
 曳山はこれまで,各町内の若連中が独自に運営していたが,各町の横の連携を図るため小松曳山八町連絡協議会が結成され,「曳山八基曳揃(ひきぞろ)え」の調整役として機能してきている。
 また,伝統文化の継承に関して,市民団体や指導者の育成に努める一方で,学校教育においても積極的に地域の伝統文化を授業計画に取り込んでおり,市内全中学校の持ち回りによる「勧進帳」上演や,市立高校での邦楽部の結成などの取組みを行っている。さらに,地域の伝統文化に対する周辺地域の理解が不可欠であることから,市民が歌舞伎に親しめる講座等の開催を通じて,伝統文化の保存と活用に関して応援団となってもらえるよう歌舞伎の普及に努めている。
 また,全国の子供歌舞伎の競演により地域資源を見直そうとする「全国子供歌舞伎フェスティバルin小松」を開催し,地域の伝統文化を全国に発信している。
 こうした後継者の育成と伝統文化の保存を図る一方で,伝統ある町並み再生に取り組む市民活動を積極的に支援し,地域でまちづくり協議会を設置し,旧市街地の町家再生に関しては,景観法の趣旨に沿いつつまちづくり計画や協定の締結を目指している。
 地域の文化芸術活動は,基本的に地域住民,文化芸術団体等,地方公共団体により支援されるべきものである。しかし,地域の伝統文化は小さな地区単位で保存され,実施されているが,従来の地区住民だけでは資金を賄いきれなくなっており,より広い住民の参画と理解を得て伝統文化を支えていくことが求められている。文化芸術活動を行う者の自主性を尊重しつつも,地域づくりや他の分野における事業援助を文化芸術活動と組み合わせたり,財団等の助成を受けたりすることで,様々な方策により事業に合致した支援を受けるようにすることが求められる。


方策20
 企業のメセナ活動や社会貢献活動により地域文化の振興を図る
 企業によるメセナ活動は,バブル経済時における企業名を付した事業を中心とした文化芸術支援が多く行われた時期から不況による停滞期を経て,再び活気を帯びてきている。近年は,企業の社会貢献活動が重要視され,従来の冠事業とは異なり,各企業が自らの理念を持ち独自の支援を行っている例が増えてきている。また,企業の属する地域に根差した文化芸術活動に対して地域の一員として参画し,支援するという姿勢を示してきている。
 さらに,地域ではメセナに関心を有する人や企業が連絡協議会のような組織を形成する例が多かったが,その中でNPOとして法人格を取得し,より安定した形態で文化芸術活動を支援しようという動きが盛んになってきている。
 なお,平成11年より全国各地でメセナ活動を行っている16団体が「全国メセナネットワーク」を組織し,毎年全国会議を開催して相互の研鑽(けんさん)と情報交流を図っている。

(事例25)地元出身者に対する長期間にわたる企業メセナ活動
  例: NPO法人山梨メセナ協会
 NPO法人山梨メセナ協会は,平成8年に設立され,平成11年にNPO法人格を取得しており,誇り高い山梨文化の創造と,未来に無限の可能性を秘める芸術家等育成のため,手を携え支援していくことを目的として,県内の企業・事業所に対して会員を募り(51企業,1団体,32個人),山梨県在住者又は出身者を対象に支援をしている。地域文化の振興の基本は,それを支える人材の育成であると考え,フィランソロピー(企業による社会貢献)の精神に基づき,「見返りを求めない支援」を企業会員を中心に実施し,地元の人材の発掘と育成に努めている。山梨メセナ協会は,音楽,舞台,美術,伝統文化,環境芸術における地元の団体や事業にも支援をする傍ら,人材育成でも世界に羽ばたく地元出身の芸術家等を長期間にわたり支援している。地域の文化芸術団体や子どもたちの文化芸術創造活動などすでに延べ約150件の個人,団体を支援している。
 また,金銭的支援以外の形態によるメセナ活動にも力を入れており,文化芸術活動の発表,制作,稽古の場として,メセナ企業会員の建物(社屋,倉庫,機材等)と敷地空間,インターネット関連設備などのメセナ資源を利用できるよう斡旋(あっせん),紹介業務を行っている。文化芸術活動の広報・発信を支援するために,メセナ協会で印刷機を購入し,文化芸術活動に関するチラシ印刷を支援している。平成13年3月には,山梨メセナ協会の企業会員を中心に企業の社会貢献意識と実態を調査し,「山梨の企業社会貢献白書」として出版している。
 山梨メセナ協会は,「地元の人材を支援する」ということに徹底的にこだわり,「将来大成するかもしれないという期待感を楽しみに息長く支援すること」を信条として,活動を続けてきている。また,「目立たないところこそ,メセナの出番」との考えから,山梨の伝統文化の振興を継続している点は,地域に密着したメセナ活動として特筆されよう。
 「メセナ山梨」を年1回発行し,会員に対して助成内容を報告しつつ,助成を受けた個人・団体の活動報告等を掲載することにより,支援した者と支援を受けた者との定期的な交流・情報交換を図っている点は,メセナ活動を息の長いものにしていく上で重要な要素となっている。


方策20
 企業のメセナ活動や社会貢献活動により地域文化の振興を図る(その2)
 従来の企業メセナ活動では文化芸術団体に対する支援活動や展覧会等の文化芸術に関するイベントの開催などが主流であったが,企業の社会的責任(CSR)の一環として,地域の文化芸術に対する企業の社会貢献活動が活発になってきている。それに伴い,社員が地域における活動に積極的に参加できるよう,勤務形態の弾力化や参加する意欲を引き出す仕組みを導入することにより,社員を支援することが重要になっている。

(事例26)社員の自己啓発や文化芸術活動を支援する企業の事例
  例: 株式会社フェリシモ(神戸市)
 ファッション,インテリアなど生活文化にかかわる商品を取り扱う(株)フェリシモでは,社内勉強会を発展させて,1997年から同社の社員や家族,地域住民向けに芸術分野で活躍する人々による講演やワークショップ(参加型講習会)を実施する「神戸学校」を開始した。これまでに,建築家,デザイナー,演劇人等の文化芸術分野の専門家など90名以上の講師を招き,社員や地域住民など300名ほどが毎回参加している。地域住民からは,身近な所で生活文化の最先端に触れられて刺激になると好評を得ている。参加料は,社員やその家族・同伴者は無料,一般は1200円で,全額が震災遺児施設に寄附されている。
 フェリシモでは生活文化を提案する企業として,企業自体が社員の生活文化を豊かにする仕組みを有するべきと考え,「長期特別休暇制度」を導入している。これは,土曜日午後に開催される「神戸学校」に出席した日に別途3.5時間の通常勤務をした場合は,その勤務時間を積み立てることができ,126時間(21日分)になると最大一ヶ月の休暇が取得できるというものである。同社では,社員の9割が「神戸学校」に参加した経験があり,約80名が休暇制度を利用して,海外研修等で自らの創造性に磨きをかけている。この制度により,社内で長期休暇が取りやすい企業風土が生まれ,社員の生活にもゆとりができて,社員の士気や創造性が高まったとの指摘もなされている。
 なお,フェリシモはこれらの取組みにより,(社)企業メセナ協議会主催のメセナアワード2004において文化庁長官賞を受賞した。

 今後の企業メセナ活動の展開としては,企業自体が文化芸術活動に対して直接貢献をするだけではなく,その企業の社員が自らの生活にゆとりを持ち,文化芸術をはじめとする地域における活動に参加しやすい仕組みをいかに作っていくかということも重要になっている。


方策21
 個人による寄附のインセンティブ(意欲)を高める
 文化芸術への支援には,企業メセナ活動や民間団体による助成,国や地方公共団体による支援のほかに,住民等による支援も期待される。個人単位では小さな支援であっても参加する人や団体が増えることにより大きな支援を行うことは可能であるだけでなく,個人等が自分の意志で支援することにより,文化芸術活動に対する参加意識を高めることができる。このようにして地域住民が,自分たちの地域の文化を支える自負心を持つことは,地域文化の振興に大いにつながると考えられる。

(事例27)個人による寄附を,行政が補完して支援している事例
  例: 愛知県春日井市の「市民メセナ基金条例」
 春日井市では,平成13年3月に「かすがい市民文化振興ビジョン」を作成し,総合的かつ体系的な文化施策を明らかにするとともに,平成14年7月には,市民と企業や財団が連携協力して市民文化を振興するため春日井市文化振興基本条例を策定した。この条例では,市民メセナ活動とは企業メセナの考え方を市民に拡大し,文化芸術事業の表方・裏方を担う人的支援,場所や作品等を提供する物的支援,そして寄附や協賛等の経済的支援を含む概念として,その推進及び支援を規定している。
 平成15年4月,市民メセナ活動における経済的支援の一環である寄附の受け皿として「市民メセナ基金条例」を策定して「市民メセナ基金」を発足させた。この基金は,1市民や企業等に広く寄附を募る市民参加型の基金であること,2取り崩して活用することが前提の取り崩し基金であること,3寄附金を積み立てる際に市が上乗せ拠出する(マッチングギフト方式)ことが特徴としてあげられる。
 春日井市文化振興基本条例において,市民・企業等に文化芸術活動への主体的な参加と支援を呼びかけ,市の役割としてその積極的な支援が要請されていることを踏まえたこの上乗せ拠出方式は,市民・企業等の寄附に対するインセンティブ(意欲)を高める効果が期待されると同時に,寄附者の善意が行政の支援により増幅され,文化芸術活動が一層活発化することから,市民・企業等,行政及び文化芸術活動を行う者とのパートナーシップ(協力関係)を図ることができるという利点がある。
 基金は,市民メセナ活動への理解を増進するため,文化ボランティアの育成,啓発チラシの発行,ボランティア保険への加入に活用されており,将来的には地域の文化芸術活動の中心となる人材を育成し,地域の文化芸術活動を行政主導から民間主導へと進めることを目標としている。
 春日井市の事例では,文化振興基本条例及び文化振興マスタープランを作成するだけでなく,市民・企業等による文化芸術支援を促進するための市民メセナ基金を設置して経済的な支援の方策を図り行政がその支援を補完する上乗せ拠出制度を導入することで,住民と行政が同等の責任を果たしていることに大きな意義がある。さらに,その経済的支援を市の文化ボランティア育成に活用することで,文化芸術活動に対する市民が主体の人的支援を図ることも,住民が文化芸術活動の担い手として積極的に参加することにつながることが期待できる。このように住民や企業の文化芸術支援を支える経済的制度と人的制度を整備し,住民・企業等の民間の参画を促進していく方策が行政には求められる。



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