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課題5.子どもたちの文化芸術活動への支援をどのように進めるか

 「文化を大切にする社会の構築について」(平成14年4月文化審議会答申)でも述べられているとおり,豊かな人間性と多様な個性を育むためには,学校や家庭,地域において子どもたちが参加,体験できる様々な文化芸術活動の機会を充実することが重要であり,年間を通じて多種多様の文化に触れ,体験できる企画を作成し,実施することや,美術館・博物館,劇場などにおいて子どもたち向けの企画を充実させ,学校においてその積極的な活用を図っていく取組みを進める必要がある。
 さらに,地域文化の振興を図る際には,地域文化の継承者となる可能性の高い子どもたち・青年の文化芸術活動への支援が大切である。
 特に,我が国には様々な地域でいろいろな伝統文化が受け継がれてきたが,経済成長に伴う都市化や生活様式の変化などにより,これらの伝統文化を子どもたちに継承する機会が次第に少なくなってきている。地域に固有の伝統文化を受け継ぎ,発展させていくのは地域の子どもたちであることを認識し,地域の大人が様々な機会を捉えて,子どもたちに伝統文化を教えていくことは地域文化の振興を考える上で最も重要なことの一つである。
 地方公共団体や国においても,子どもたちの文化芸術活動を支援する施策が図られるだけでなく,近年は文化芸術団体等において,子どもたちの文化芸術活動を支援する取組みが活発になってきているが,子どもたちの主要な居場所である学校との連携が十分図れていない,教育委員会や学校との意思疎通をするきっかけがないなどの問題も指摘されている。
 ここでは,民間と行政・学校の連携・協力により,子どもたちの文化芸術活動が一層促進され,子どもたちの体験活動が深まったり地域文化が継承されたりしている事例を取り上げる。


方策14
 学校との連携により子どもたちの文化芸術体験・表現教育を推進する
 美術館・博物館は,地域文化の振興の重要な拠点の一つであり,子どもたちにとって,単に知識を実物によって確認する場ではなく,展示物の持つ意義を新たに学ぶ中で,一人一人の興味や関心を引きつけ,自ら学ぶ意欲を育成する場になることが重要である。

(事例19)学校と博物館との連携により,子どもたちの文化芸術活動を推進している事例
  例: 大阪府立近つ飛鳥(ちかつあすか)博物館
 古墳時代から飛鳥時代の文化をテーマとする大阪府立近つ飛鳥博物館では,平成10年から学校と連携して,特色あるワークショップ(参加型講習会)とアウトリーチ活動(出前講座)を行っている。
 校外学習や遠足で来館した小学生に対するワークショップでは,展示室で本物や複製模造品の沓(くつ)や冑(かぶと)などを観察し,牛乳パックや厚紙などの身近な材料で,観察してきたものを再現させる。作る過程で,なぜそのような形になっているのか,どんな材質をしているのか,どんなふうに使っていたのかなどを考え,意見を出し合うことで,本物を観察する力だけでなく,想像力や構成力を引き出し,古墳時代を身近なものとしてとらえることができる。
 また,学芸員が小学校を訪問して行うアウトリーチ活動も,できるだけ子どもたちの好奇心を刺激し,興味や関心を多方面に広げるプログラムになるよう,内容や実施形態などを事前に教員と相談して実施している。例えば「こふん人になりきってみよう」という企画では,銅鐸や銅鏡を使って,子どもたちにそこに描かれた人物は何をしているのか,どんな会話をしているのかストーリーを創作させ,最終的には寸劇を行ってもらう。自分で台詞や動きを考え,演じることで,古墳時代の人がどんな暮らしをしていたのかを生き生きと,身体を伴った形で感じてもらうことができるのである。平成15年度は8校358名の小学6年生が参加している。
 これらは,博物館で子どもたちが本物の埴輪や土器に間近に触れ,自由な発想で楽しく工作や寸劇の創作をしながら歴史を身近に体験することができる活動の例である。
 このように,大阪府立近つ飛鳥博物館においては,近隣の小学校等と連携・協力して,ともに活動を行うことで信頼関係を深め,地域の文化拠点としての重要な役割を果たしてきており,地域文化の振興に貢献している。

 子どもたちが美術館・博物館へ行き,単に本物の展示品を見学するというだけではなく,地域の学校と美術館・博物館が連携・協力し,そこに展示されているものを通じて,子どもたちに歴史や文化芸術を身近に感じてもらい,更なる学びや発展のきっかけなどを提供することにより,文化芸術体験・表現教育を推進することが重要である。


方策15
 企業との連携により子どもたちの文化芸術体験・表現教育を推進する
 企業のメセナ活動には,資金による支援の他にも企業の有する施設や人材を活用して文化芸術活動を支援する形態もある。こうした支援を子どもたちの文化芸術体験等に生かすことは,企業の資源を有効活用できるとともに,子どもたちに文化芸術体験の機会を提供するだけでなく社会における勤労の仕組みや働くことの意味を考える機会を与え,社会人と接することでコミュニケーション能力が向上するなどの教育的効果も期待できる。
 子どもたちの文化芸術体験・表現教育は学校教育においても重要視されてきており,学校と企業等が連携することにより,子どもたちの多様な文化芸術体験等が一層推進されることが求められる。また,子どもたちの週末活動など学校外においても文化芸術に触れる機会を充実していくことが求められており,企業等が社会教育団体等とも連携していくことも期待されている。

(事例20)企業のメセナ活動と連携した子どもたちの文化芸術体験
  例: TOA(ティーオーエー)株式会社による中学生体験活動「トライやるウィーク」への協力(兵庫県)
 音響機器メーカーであるTOA株式会社は,平成10年に兵庫県教育委員会が開始した中学校2年生の体験活動プログラムである「トライやるウィーク」に毎年参加している。地元の中学校2年生10名程度を受け入れて,TOAが所有するジーベックホールという「場」,音響機材という「モノ」,技術という「ノウハウ」を活かして,「トライやるウィーク」の一週間に中学生がコンサートを企画し,運営する。TOAが選んだ芸術家が中学生に作曲や演奏について助言しつつ,TOA職員の力を借りながら,チラシ作り,演奏の練習,会場設営,本番の運営,後片付けなど実際のコンサート企画と同様の体験をすることで,文化芸術活動の企画・運営と裏方の仕事を理解するようになっている。
 事業開始当初は,本事業の趣旨を理解した上で協力してもらえる芸術家を見つけ出すのが大変であったが,近年は事業が広く認知されたこともあり,芸術家の協力は得やすくなってきている。
 企業としては,所有するホールを地域の住民に知ってもらうことで地域とのコミュニケーションの場として活用し,ホールの活動の裾野(すその)を広げるというねらいがあったが,中学生が企画運営するコンサートには中学生の親をはじめ地域の住民が200名以上も来場し,中学生と芸術家による現代音楽を楽しんでもらうと同時に,TOAの活動を理解してもらうことができている。TOAで音楽体験をした中学生の中には,卒業後に音楽大学に進学した者や,将来は音響会社に就職したいとの希望を持つ者がいるなど,文化芸術活動へのきっかけ作りともなっている。


方策16
 学校や教員の文化への理解を促進し,教員を支援する仕組みをつくる
 次代を担う子どもたちに文化芸術に触れる感動や楽しさを伝え,子どもたちの感性や想像力を刺激して,一人一人の可能性を引き出すことは,教員だけでなく地域文化にかかわる様々な文化芸術団体,文化施設をはじめ地域全体の課題でもある。この課題への取組みとしては,例えば,美術館・博物館では,その課題に取り組むため,専門的知識の豊富な学芸員と教育の専門家である教員が,互いに補完し合うとともに,学芸員と教員の間でその連携を支援するコーディネーター(調整役)の存在も求められている。

(事例21) 学校と美術館の連携を文化芸術団体がコーディネート(調整)し,子どもたちに美術により親しむ機会を提供している事例
  例: 子どもの美術教育をサポートする会(滋賀県)
 総合的な学習の時間や図画工作・美術の授業で,美術館に出かけたり優れた美術作品に接したりすることで,教育効果を高めたいというニーズ(意向・要望)は学校の教員には以前から根強くあった。また,美術館・博物館の学芸員にも館の持つ文化芸術の力を学校教育に生かせないかという問題意識が持たれてきた。しかし,実際には所管する行政機関の違いや,交流や情報の不足などから,協働による取組みは,一定範囲にとどまってきた。
 そこで,欧米や東京都の世田谷美術館などで行われている美術館・博物館と学校との授業連携を地域でも実現させることを目的に平成13年1月に「子どもの美術教育をサポートする会」が設立された。以前より設立の準備をしていたメンバーが,国の緊急雇用対策で,「学習コーディネーター」として学校に配置され,直接教員の声を聞いたことをきっかけに,県の美術館・博物館の評議員でもあった自身の役割を活かして,互いのニーズを取りまとめ,地域の文化芸術に関する教育関係者の理解を得ながら,学校と美術館・博物館の担当者同士が話し合って,授業の準備をする場を設定してきた。
 その後,次第に賛同の輪が広がり,現在では地域の芸術家や文化会館からも積極的な協力が得られており,主にワークショップ(参加型講習会)の形で子どもたちが文化芸術と自分が向き合う機会を設けることにより,学校教育を支援している。
 この他に,教員と学芸員が直接連携を図っている事例として,熊本県立美術館と「わーくしょっぷの会」の連携がある。美術の専門的知識をもつ学芸員と教育の専門家である教員から構成されている「わーくしょっぷの会」が,互いに足りないところを補いつつ,子どもたちが美術に親しむ方法を模索している。このように,文化芸術についての専門的な知識を蓄積し,本物に触れる場を提供することができる美術館・博物館が教員を支援し,教員の側からも,美術館・博物館に対して,子どもたちへ語りかける方法を提示するという連携ができることによって,子どもたちの文化芸術に対する興味・関心をより効果的に引き出すことができる。
 学校と文化施設が連携し,芸術文化の指導を行う教員を支援することにより,子どもたちの教育と文化芸術活動との連携を図っていくことが求められる。


方策17
 高齢者から地域の歴史ある文化芸術を子どもたちに伝える仕組みを構築する
 近年,核家族化の進展から子どもたちと高齢者の交流の機会の減少が指摘されている。しかし,高齢者には地域に伝わる祭りや郷土芸能などの伝統文化を伝承している人も多く,高齢者と子どもたちが触れ合う機会を拡大することは地域文化の活性化の面からも重要である。地域の文化芸術活動を進めるに当たり,高齢者と子どもたちを結び付ける仕組みづくりが求められている。

(事例22)高齢者と子どもたちを結び付ける取組みの事例
  例: 兵庫県の小野市立好古館「わたしたちのまち・阿形(あがた)」展
 兵庫県にある小野市立好古館で開催された「わたしたちのまち・阿形」展は,阿形町内で実行委員会を組織し,館の関係者だけでなく,地域の小・中学生,保護者,教員,老人会,子ども会,市史編纂(へんさん)室,行政関係者など,地域住民全体が協力して作り上げた企画展である。
 企画展のテーマは町そのものである。小野市立好古館や市史編纂(へんさん)室が古文書や絵地図などから町の歴史の研究を行うとともに,子どもたちが町の由来や伝承,年中行事,公民館や小学校の変遷,町内のお堂や神社,ため池,石碑,屋号などについて,グループで両親や祖父母,町の高齢者から聞き込み調査を行う。聞きに行った相手が知らないことがあれば,知っている人を紹介してもらい,更にその人を訪ねるというやり方で行った。
 このようにして作り上げられた展示会には,調査を行った子どもたちや聞き込みに協力した高齢者をはじめ,多くの地域住民が足を運び,入館者は2週間で約1,000人という盛り上がりをみせた。自分の知識が企画展に生かされ,地域の財産となることで高齢者が元気になるばかりか,次代を担う子どもたちも祖父母の世代から,埋もれていた町の歴史を直接聞き,自分たちの地域の成り立ちを知る機会を得ることができた。また,この取組みによって,同じ地域に住んでいても,それまで直接接することがなかった者同士が顔見知りになり,地域の結束を図ることができた。
 歴史博物館が地域の核となり,住民の地域に対する親しみの気持ちを高め,地域全体の活性化につながった取組みといえる。

 高齢者と子どもたちが直接触れ合うきっかけを作ることにより,高齢者の側は自分の知識が意義のあるものであることを感じることができ,子どもたちの側は知らずに過ごしていた地域の文化を受け継ぐことができるとともに,地域の高齢者や先人への尊敬の念を抱くことができる。小野市の例のように,高齢者と子どもたちの間のつながりが生まれることにより,更に広い範囲の人々が連携し,自分の住む地域への愛着や親しみを持つことになれば,結果として地域全体が活性化することになる。



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