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課題2.文化以外の分野に「文化力」をいかに活用するか

方策3
 教育分野との連携により,「文化力」を教育分野に活用する
 学校が教育課程を編成し指導計画を策定する際,地域の文化芸術団体との連携を図りたいというニーズ(意向・要望)は着実に増えてきているが,現実には教員は生徒や保護者への日常的な対応,部活動などの課外活動などに忙しく,地域で活躍する文化的な専門性を持った多様な人材を自力で探し出し調整を行う余裕がない。近年,「総合的な学習の時間」などを支援するための人材ネットワークや人材バンクによる情報提供も徐々に充実してきているものの,その具体的な活用方策の企画は個々の教員の手探りとなっている。

(事例4)学校と芸術家との連携を指導計画作成段階から進め,教育効果を高めている事例
  例: NPO法人「STスポット横浜」(アート教育事業部)と神奈川県との協働事業
 「STスポット横浜」は,横浜市が開設した小劇場STスポットの運営団体として昭和62年に誕生した,地域社会と文化芸術との新しい関係づくりを目指す非営利の芸術団体である。これまで地元演劇及び国内現代舞踊の活動を促進する自主事業を展開しており,情報の提供,他の芸術団体との連携関係の構築など,地域の創造的な環境づくりを目指した活動を行ってきた。
 平成16年には,団体内に「アート教育事業部」を発足させ,地域において未来を担う子どもたちに,文化芸術を通じて創造力・表現力・コミュニケーション能力等を育み,生きる力と共感する心を自ら発見する機会を与えることをめざした活動として,神奈川県と協働し,「アートを活用した新しい教育活動の構築事業」を実施している。
 具体的には,学校設定科目として「演劇」や「パフォーマンス」等の表現分野の科目を設けている高校に,学校ごとのニーズの調査や教員へのヒアリング(聞き取り調査),実際の授業参加などを通した指導方法の研究を,県教委や学校と協働して行うとともに,授業に現役の芸術家を講師として送るコーディネート(調整)活動を行っている。
 当該事業は,神奈川県による「かながわボランタリー活動推進基金21」のうちの<県との協働事業負担金>制度を利用し,県とNPO団体との協働事業としての活動の仕組みを資金面も含めて構築したものであり,県の「かながわ文化芸術振興指針」における「学校教育との連携」の項を具現化している。そのことで,知事部局と教育委員会とが学校教育の分野において新たな連携を志向する意欲が高まっていることなどから,地域の文化的な資源を学校という場において結集しつつあるといえる。

 このほかにも,学校に芸術家の派遣を行う分野で,若手芸術家の出張ワークショップ(参加型講習会)を中心に先駆的な取組みを行っているNPO法人「芸術家と子どもたち」は,その活動範囲を全国に拡大しつつある。また,神奈川県相模原市の「さがみはら教育応援団」では,地域に住む芸術家をはじめ多種多様な人材を発掘し,その技能や知識,経験,生き方を子どもたちに伝えるために,教育コーディネーターを配置した独自の仕組みを確立して,組織的な活動を行う体制を整えながら,学校と地域社会を結ぶ活動を行っている。


方策4
 福祉分野との連携により,「文化力」を福祉分野に活用する
 文化芸術活動は教育や福祉などの異なる分野にもよい効果や影響をもたらすという視点も忘れてはならない。歌を歌ったり,舞踊や芝居を通じて身体を動かしたりすることは,人間の健康づくりに役立つだけではなく,人と人のつながりを広げ,コミュニティ(共同体)を活性化させることに役立つ。「文化力」により,人を心身ともに元気にすることができるのである。このような視点から,地域文化の振興を考えると,福祉や教育といった文化以外の分野との連携を図ることにより,地域の「文化力」を文化以外の分野に活用することができる。

(事例5)文化の持つ福祉的効果によるまちづくりの事例
  例: 奈良市のシルバーコーラスによる健康と生きがいづくり
 奈良市では,地域に伝わるわらべうたをテーマとした文化施設「奈良市音声館(おんじょうかん)」を開設し,歌声による人づくり,まちづくりを推進してきた。その基盤を活かし,さらに音楽を福祉のまちづくりにも活用しようと,平成9年から奈良市社会福祉協議会のなかに音楽療法推進室を設置した。それに先駆けて平成7年から約1年8ヵ月わたり「奈良市音楽療法士養成コース」を実施し,人材育成を試み,養成コース修了者を市認定「音楽療法士」として,平成9年から市社会福祉協議会において12名を採用した。
 現在,心身障害者児の発達促進やリハビリテーションの一環としての「療法」部門と,市民の日常生活にはりとうるおいを与え,地域での交流を進める「予防・保健」部門を柱として音楽療法を実施している。なかでも,「予防・保健」を目指したシルバーコーラス(高齢者による合唱)は,音声館のわらべうた教室で始まった事業が好評となり,その後音楽療法として採り入れられたもので,2つの老人福祉センターを含む約1,500名の市内在住の高齢者が参加している。高齢者にとって,歌を歌うことで声を出しストレスを発散するだけでなく,出かける場所を増やすことは社会参加を促し,健康と生きがいづくりのみならず,一人一人が地域の活動の担い手として大きな役割を果たしている。
 このように,実際の文化芸術活動を福祉施策と結びつけることにより,高齢者が地域に伝わる文化を活かし,世代間交流活動の担い手として,また地域の健康づくりや孤立防止・介護予防にも役立っている例といえよう。


方策5
 観光分野との連携により,訪れてみたいまちづくりに「文化力」を活用する
 我が国は起伏のある地形と四季の変化に恵まれ,個性豊かな地域で構成される文化資源に富む国であり,歴史的建造物や町並みは,景観の維持整備や地域づくりとも関連して,地域の魅力を確立する上で重要な役割を果たしている。
 これらの歴史的建造物や伝統文化などの文化財は,国の内外からの観光客の受入数の増加など,観光の面において大きな地域資源となっており,観光と文化財の保存・活用の新しい連携が行われつつある。例えば歴史的集落・町並みの保護制度としては伝統的建造物群保存地区制度がある。これらの地区は,地域の主要な観光地としても知られているが,住民の生活の場に観光客が入り込むなど摩擦が生じることもあった。しかし近年,地域の生活や文化が適切に理解されることを通じて,質の高い観光資源として活用されるようになってきている。
 また,平成17年4月より,地域において生活や生業を営む中で自然に働きかけ,作り出されてきた文化的景観が文化財として位置付けられ,保護が図られることになっている。文化的景観の保護にあたっては,景観法に基づく景観の保全整備施策と連携することとしており,より積極的に文化財と地域の景観を同時に保護していくことが期待される。

(事例6)地域が一体となって町並み保存をし,観光客の誘致につながっている事例
  例: 重要伝統的建造物群保存地区 千葉県佐原市佐原
 千葉県佐原市は,醸造業等の産業を背景として江戸時代の利根川舟運により,穀物の一大集積地として栄えた商家町である。
 まちなみ保存の契機としては,昭和49年に伝統的建造物群保存地区保存対策調査,昭和57年には財団法人観光資源保護財団(現:財団法人日本ナショナルトラスト)による都市計画の観点からの町並み調査が行われたことがあげられる。このような町並み保存の動きを背景としつつ,大正時代に建設されたレンガ造りの銀行建物を取り壊す話が持ち上がった際に,市民と行政が建物の保存を強く働きかけることにより,平成元年に当該銀行建物が市に寄贈された。平成3年から,地域住民が「小野川と佐原の町並みを考える会」を結成し,寄贈された銀行建物を,会の本拠地として活用し,町並み案内を開始するなど,地域住民による町並み保存活動が開始された。その後も,住民への町並み保存の啓発活動,小野川の清掃やかわら版の発行による広報活動などに地域が一体となって歴史的町並みを活用したまちづくりに積極的に取り組んでいる。
 平成8年には,重要伝統的建造物群保存地区に選定されたのを契機に,町並みを案内する観光ボランティアの団体が結成され,青年会議所が土蔵を活用した事業や町並みに焦点を当てたイベント等を開催するなど,観光分野との連携が進み,観光客も年々増加している。
 最近では,歴史的町並みを活用して,ドラマやCMの撮影なども頻繁に行われるようになってきており,訪れた観光客に喜ばれている。



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