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文化政策部会文化多様性に関する作業部会第2回会合

1 日時: 平成16年7月7日(木曜日) 15時30分〜
2 場所: 文部科学省 10F−2会議室(10階)
3 議題:
(1) 文化多様性について
(2) 文化多様性を保護・促進するための我が国の取り組み
(3) 文化多様性の保護・促進のための国際的な体制の構築
(4) その他

配布資料
参考資料
 小寺委員持込み資料
 関税及び貿易に関する一般協定(GATT)
 サービスの貿易に関する一般協定(GATS)

午後3時30分開会
池原課長 それでは、時間になりましたので、文化審議会文化政策部会 文化多様性に関する作業部会の第2回の会合をただいまから開催をいたします。
 本日はお暑い中、またご多忙の中、ご出席をいただきまして、まことにありがとうございます。
 私、文化庁の国際課長をしております池原と申します。前回の会合は海外出張のために欠席をさせていただきました。どうぞよろしくお願いをいたします。
 それでは、これから富澤座長に進行をお願いいたします。どうぞよろしく願いいたします。

富澤座長 それでは早速議事に入ります。
 まず最初に、事務局から配布資料の確認をお願いしたいと思います。

池原課長 それでは配布資料を確認させていただきます。
 文化多様性に関する作業部会第2回会合の議事次第をご覧いただきたいと思います。配布資料は4点ございます。
 第1点は、文化多様性に関する作業部会の課題の整理(案)、2つ目が欧米4カ国の文化関係予算の比較、3番目が各国の主な文化政策について、それから4番目が今後の日程についてでございます。
 それから、参考資料といたしまして、第1回の会合の議事録でございます。各委員の先生方にご確認をいただいて修正したものを配布させていただいております。本日までにホームページへの掲載が間に合いませんでしたが、文化庁のホームページには近日中に掲載をする予定でございます。また東京大学の小寺委員から「文化と経済」について資料をいただいております。これについても参考資料ということでお配りをしてございます。これについては後ほど小寺先生の方からご説明があろうと思います。
 以上でございます。何か不足するようなものがございますでしょうか。よろしいでしょうか。

富澤座長 ありがとうございました。
 ただいま事務局から説明がありましたことについてご質問等あればお出し願いたいと思います。
 それでは、ないようですので議事を進めてまいります。
 前回の第1回会合で各委員から文化多様性についてそれぞれご専門の立場を踏まえての考えを述べていただきました。本日は、前回の議論を踏まえて、事務局に、1「文化多様性について」、2「文化多様性を保護・促進するための我が国の取り組み」について、3「文化多様性の保護・促進のための国際的な体制の構築」について、この3項に分けて課題を整理していただいております。
 ついては、本日はこのうち第1と第2、時間が許せば3までご議論をいただきたいと存じます。
 また、各委員のご参考に資するため、同じく事務局に「各国の文化政策」という資料をまとめていただいております。
 まず、事務局より「課題の整理」「各国の文化政策について」ご説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

池原課長 それでは、資料の1、2、3に基づきまして簡単にご説明をさせていただきたいと思います。
 まず、資料の1「課題の整理(案)」でございます。これにつきましては、第1回の会合で委員の先生方からお出しいただきました意見、また根木先生からお配りいただきました資料、それからこれまでの文化芸術振興基本法、文化審議会答申などを踏まえて事務局の方でまとめたものでございます。
 まず1番目の柱「文化多様性について」でございます。これは総論に当たる部分です。
 まず(1)「グローバリゼーションと文化多様性」これについては、文化多様性の定義がございます。意義につきましては、文化芸術振興基本法の前文の中で、前回にもご紹介ございましたように、「文化芸術は多様性を受け入れることができる心豊かな社会を形成するものであり、世界の平和に寄与するものである。」といったことが述べられております。
 また、平成14年の文化審議会答申では、「文化の交流を通じて各国、各民族が互いの文化を理解し、尊重し、多様な文化を認め合うことにより、国境や言語、民族を超えて人々の心が結び付けられ世界平和の礎が築かれる。」ことが述べられております。
 また、平成12年の沖縄サミットのG8コミュニケでは「文化の多様性は、創造性をかきたて、革新を刺激するため、21世紀の人間生活を豊かにする可能性を有する社会的及び経済的な活力の源泉である。」といったことが述べられております。
 次に、「グローバリゼーションと文化多様性の関係」についてでございますが、1つは、これまでの経緯として、フランスのシラク大統領が平成14年のヨハネスブルグサミットで「文化の多様性は、言語の急速な消滅、及び製品、法規範、社会構造やライフスタイルの画一化により脅かされている。」という指摘をしております。
 また、途上国においても、グローバライゼーションによって自国の文化が平準化されるということを恐れているといった指摘もございます。
 2ページ目でございますが、前回のご議論の中で、文化財に関しては、世界遺産条約の制定が世界的な枠組みをつくる大きな力となった。またヨーロッパは石の文化にしか価値を見出さなかったが、木の文化の価値が認識されることとなり、文化の多様性が認められるようになっている。
 また、国内的にも国際的にも文化多様性の意識が生まれているといった指摘や、逆に文化多様性を意識し過ぎると、地域や国、民族のアイデンティティーを強く意識することになり、これが一種の文化障壁をつくり出してしまうおそれがある。文化の障壁を乗り越えて、調和に向かっていくにはどうしたらいいかが大きな問題であるといったご指摘をいただいております。
 「問題点」としては、グローバライゼーションと文化多様性との関係をどう考えていくかといったことがございます。
 (2)「文化と経済」の関係については、まず、平成14年文化審議会答申において、「文化のあり方は、経済活動に多大な影響を与えるとともに、文化そのものが新たな需要や価値を生み出し、多くの産業の発展に寄与するものである。」ということが述べられております。
 また、「文化的財・サービスは、単なる商業的価値とは区別されるべき特殊な地位を持っており、他の財・サービスとは異なる独自の価値体系を有している。」といった指摘がございます。
 また、「自由貿易と文化多様性との関係」でございますが、文化的財・サービスをすべて市場経済に委ねた場合、普遍的でないが、文化性の高い文化が衰退してしまうおそれがある。
 また、GATTやWTOでのこれまでの指摘につきましては、GATTの中では、自由無差別な貿易の例外として、映像フィルムとか、歴史的、美術的または考古学的な価値のあるものを保護するための措置が認められている。
 WTOのサービス貿易交渉では、ECやカナダが音響・映像サービスは固有の言語、民族の歴史または文化的遺産の維持に重要な役割を果たすものであり、文化的価値の保護のための措置は例外とすべきと主張、一方、米国、日本は、文化的価値というあいまいな概念で音響・映像サービスを例外とすることに反対したということがございます。
 これらにつきましては、小寺先生から本日もこの後、さらに詳しいご説明がいただけるものと考えております。
 大きな柱の2番目は、「文化多様性を保護・促進するための我が国の取り組み」でございます。
 まず、我が国の文化政策の歴史的背景として、我が国は、有史以来大陸の文化を受容しつつ、これを消化、吸収し、独自の文化を形成してきたといった指摘。また無形文化遺産に関しては、我が国は世界に先駆けて文化財保護法を昭和25年に整備し、平成5年には無形文化遺産保護のための信託基金をユネスコに設置して、途上国の無形文化遺産保護に協力を行ってきたという、我が国としては、世界の中でも無形文化遺産については進んだ協力取り組みをしてきているという指摘がございます。
 それから、「今後の我が国の文化政策のあり方」につきましては、平成14年の文化審議会答申の中で、「諸外国との文化交流を図りつつ形成されてきた我が国の文化について理解することは、他の文化に対する寛容や尊重の気持ちを育むことになる。我が国の文化が国際的に多様な刺激を受けて、新たな創造を加えつつ発展していく上で重要であるのみならず、国際社会における我が国の文化的地位を確かなものとし、世界の文化の発展に寄与するものである。」といった指摘がございます。
 今後の文化政策においては、文化の受容に一定の配慮を払いつつも、創造の面に力を注ぎ、国際的な評価に値する文化の発信が求められる。
 日本の文化のアイデンティティーの問題についても前回ご指摘がございました。文化芸術振興基本法の中では、自国文化の認識が国の存在、アイデンティティーにとって不可欠であることを認めており、こうした観点から日本文化を保護するために、国が一定の文化政策とる権利を有すると考えるということがございます。
 それから、「問題点」としては、我が国の文化政策の中で、文化多様性をどのように位置づけ、またどのように保護・促進していくかといった点について前回の会合でご指摘をいただいております。
 次のページの、大きな柱の3番目、「文化多様性の保護・促進のための国際的な体制の構築」でございます。これについては前回河野委員から、ユネスコにおける検討状況のご紹介をいただきました。ここでは特に大きな問題となる点について項目だけ挙げさせていただいております。この検討会におきましては、文化多様性についての我が国の基本的な考え方を整理していただくということで、文化多様性条約の個別の条文について個々にここで議論するということまでは考えておりませんが、ユネスコの文化多様性条約の検討に向けて我が国としてどういうふうな基本的なスタンスで臨んだらいいのかという点については、いろいろご指摘をいただければと考えています。
 次に資料の2でございますが、「欧米4カ国との文化関係予算の比較」でございます。
 それぞれ各国の文化関係予算については、文化行政の組織や文化に対する範囲、内容が違っておりますので、単純に比較することは非常に困難でございますが、ここにございますように、日本は約1,003億円の文化庁予算でございますが、国全体の予算に占める割合は0.12%、イギリスは文化・メディア・スポーツ省の予算で、国全体の予算に占める割合は0.26%、フランスは1%、ドイツは連邦政府の文化関係予算でございますが、0.46%、アメリカは、米国芸術基金の予算などでございまして、0.03%ということで、フランスが飛び抜けておりまして、あと、ドイツ、イギリス、日本、アメリカという順番でございます。
 次に、資料の3をごらんいただきたいと思います。「各国の主な文化政策について」でございますが、平成14年3月にお配りしております報告書、当時先進諸国の文化政策、文化行政についての調査研究を外部団体に委託して調査をいたしましたが、私どもの委嘱が必ずしも十分なターゲットを絞った形になっていなかったということもあって、この中にはクォータ制などについてはほとんど触れられておりません。その部分については今後さらに検討をする必要があるのではないか、調査する必要があるのではないかと考えております。
 まず、資料の最初のページであるフランスは、国家予算、国家においての中央における文化への果たす役割が非常に各国に比べて大きいということが挙げられております。特に伝統文化については、1887年に歴史的建造物保護に関する法律が制定をされ、また1980年代には文化の再定義の中で、以前の財政支援の対象がさらに広がってきているという指摘がございます。
 現代芸術文化については、1980年代の文化の再定義によって、現代ダンス、サーカス、大道芸など、新しい分野の芸術にも支援が行われるようになっているようでございます。
 文化産業については、CNC(国立映像センター)を中心にして映画振興政策が進められているようでございます。特に外国映画については、1946年にアメリカとの間で協定が結ばれ、外国映画の放映時間を制限をする、あるいはテレビの番組編成において、欧州製の映画、フランス語の長編映画の放送義務が義務づけられているようでございます。
 それから、税制につきましては、芸術文化団体について、非営利の団体については税の優遇策が講じられている。また芸術家に対しての税制上の優遇措置も取り入れられているようでございます。
 次に、2ページ目のイギリスについては、文化行政においては、芸術の自由と独立を保つためのアームズ・レングスの原則というものが現在も維持されているようでございまして、芸術が行政と一定の距離を保ちながら援助を受け、かつ表現の自由と独立性を維持するという施策がとられているようでございます。
 伝統文化につきましては、国立遺産基金への助成、アーツカウンシルへの助成、ナショナルトラストとの提携、イングリッシュヘリテージにおける活動などがあるようでございます。
 また、現代芸術文化については、アーツカウンシルによる助成、宝くじ基金からの助成などが行われているということでございます。
 文化産業については、フィルムカウンシルを中心にした映画の振興、またテレビの放映規制等についてはEUの規制に基づきまして、放送時間の50%以上がEU諸国で作成された作品を放映しなければいけないといった規制があるようでございます。
 また、税制については、チャリティを受けた団体については優遇措置がとられているということでございます。そのほか、寄付金の制度もあるようでございます。
 次に、3ページのドイツについては、ナチスの独裁政権下において、文化についても国が大きく関与したという反省から、文化振興の権限の多くの部分が各州政府、各自治体の方に委ねられているということでございます。
 伝統文化については、文化財の保護として特色がありますのは、現代史を教育するための施設・記念史跡などについての保護が行われているということ、また、出版物についても、ドイツの出版文化を保護するための書籍の定価維持などが行われているということでございます。
 現代芸術文化についての支援、それから文化産業については、映画に関する支援ということで、映画振興法に基づいて補助金等が支出をされているようでございます。テレビの放送規制については、イギリスと同じくEU規制に基づいて、放送時間の50%以上はEU諸国で作成された作品を放映しなければいけないということはあるようでございます。
 また、税制については、公益団体は原則として法人税及び営業税を免除されるといったこと、また芸術家に対しての税制上の優遇措置もあるようでございます。
 次のページでございますが、アメリカにおいては、基本的には芸術活動は非営利活動として社会的に認められ、かつ税制面において優遇措置が講じられている。芸術活動への支援については、基本的に民間部門が主体となって行うというということで、行政は税制面からの支援を行うというのを基本的なスタンスにしているようでございます。
 伝統文化については、1966年の国家歴史保存法の成立により、歴史的建造物などの保護が行われている。
 また、現代芸術文化については、NEA(全米芸術基金)によるフェローシップや、国家芸術メダルなどの個人に対する顕彰が行われているようでございます。
 文化産業については、MPAAという映画の方の関係団体が、著作権侵害行為についていろいろな取り組みを行っている。またエンターテイメント産業自由貿易連盟というところが、コンテンツにおける海外マーケットのアクセスの拡大などを行っています。
 税制面においては、芸術文化団体、個人の芸術家について税制優遇措置がとられていると同時に、個人が芸術家にお金を寄付する場合に、1万ドルまでは贈与税が非課税になるといった措置でいわゆる寄付の奨励が行われているようでございます。
 最後に、日本におきましては、芸術文化の振興についてあくまでも文化人、芸術家の自主性を尊重し、その活動をより自由に活発に行われるように側面から支援をすることを基本にしております。特に、先ほど申しましたように無形文化遺産の保護については、文化財保護法を制定以後、法律に位置づけて各国に先駆けて無形文化遺産の保護制度を整備してきているところでございます。
 また、現代芸術文化については、芸術創造活動の活性化の支援、あるいは芸術文化振興基金による支援などが行われるほか、文化勲章などの顕彰の制度がございます。
 文化産業につきましては、知的財産基本法の制定あるいはコンテンツ振興法の制定が行われ、また文化庁の方でございますが、映画振興への支援が行われるとともに、東京国立近代美術館フィルムセンターにおいて映画フィルムの保存・活用などを行っております。
 税制面におきましては、国立の博物館、美術館等、あるいは特殊法人については、特定公益増進法人として、また、学術、文化、芸術等の振興を図る活動をする認定特定非営利活動法人などについて税制上の優遇措置がとられているところでございます。
 以上、ちょっと駆け足になりましたけれども、ご説明をさせていただきました。

富澤座長 ありがとうございました。
 ただいま資料に基づいてご説明をいただいたものについて、何かご質問、ご意見があれば出していただきたいと思いますが。どうぞ、小寺さん。

小寺委員 今の課題の整理のところで、1の文化多様性の部分の一番最後でございますけれども、「文化障壁をつくり出してしまうおそれがある。」というところまではわかるのですが、その後、「文化障壁を乗り越えて、調和に向かっていくにはどうしたらいいかが大きな問題である。」こういうように表現されているのですけれども、ここで言う調和というのは一体何かいうのが私にはわからないのです。
 その前の文章をいろいろ拝見していると、例えば「世界平和の礎」とか「豊かな社会」とか、そういうようなことが書かれています。文化の調和ということそれ自身がいわばプラスの評価、プラスの価値として措定できるのか。もし措定できるとした場合、その調和というのは一体何なのかというあたりがこの部分については説明が必要ではないかというように思います。
 以上です。

渡邊委員 今のは私の発言と関係すると思いますので、調和という言葉はあいまいなもので、ただ文化というのは本来融合するものであるという前提があることはありますよ。片方で文化は衝突する、文明の衝突というか、何かむやみに衝突ということばかりが今まで出てくる。ここではグローバリゼーションとかの問題があって、文化のエネルギー問題やら産業のエネルギーの問題、全部かかわっていると思うのですが、いうなれば調和というよりも、それはそれぞれの存在を認め合うという意味での調和です。そこには必ず寛容という部分が含まれているという意味でございます。強制的に調和をつくり出すという話ではありません。

富澤座長 小寺委員どうでしょうか。

小寺委員 今、渡邊先生がおっしゃったことは非常によくわかりますので、この部分、調和ということになると何となく融合というような意味で一般には受取りますので、多少説明をしていただくことなどをお願いできればと思います。

富澤座長 それでは、今渡邊委員からご説明いただきましたように、調和というより、それぞれの存在を認め合う、そういう意味で文章を書き直していただければと思います。
 それでは、今事務局からいただいた資料に基づいて議論を進めていきたいと思うのですが、資料1のまず総論的な「文化多様性について」というところから入りたいと思うのですが、この第1の柱である「グローバリゼーションと文化多様性」ということで、佐藤委員いかがでしょうか、ご意見ございましたらご発言願いたいと思います。

佐藤委員 前回乱暴なことを申し上げましたので、もう少し前回申し上げたことを具体的に敷衍をさせてもらいながら意見を述べさせていただきます。
 1つは、今、渡邊委員のご発言にありましたけれども、あまり文化を自国のアイデンティティーとのかかわりで主張し過ぎると、やはりある種の文化障壁をつくるのではないかという心配は確かにあります。私は昔ユネスコの研究をしておりまして、1945年の10月にロンドンでユネスコの創設会議がございまして、そのときに、どうやってこれから国際理解を振興していくかという話がでました。当時のイギリスの教育大臣であったエリノア・ウイルキンソンという人が、これは川に橋をかけるような話であって両方の岩盤がちゃんときちんとしてないと、橋はうまくかかりませんといっています。
 その意味は、両方の文化について、あるいは両方の歴史なり伝統なりについて十分な尊重をするとか尊敬をするとか、そういうことがなければ橋はかからない。つまり国際理解は成立しないのじゃないかと理解をしました。
 その意味で、理念的には私はやはり、各国が自国のアイデンティティーを主張し、お互いにそれを持ち、共存をする形で整理ができれば理想的だという形で考えているわけです。
 開発途上国の問題に関しては、私は今属しているユネスコ・アジア文化センターが、アジア及び太平洋諸国42カ国と、例えば子どもの絵本の共同制作ということをしております。これで今一番問題になっているのは、各国とも編集者や絵本の作家、あるいは出版社などの能力が非常に弱い。その弱い1つの原因として考えられるのは、先進国ででき上がったものがそのまま翻訳されて導入されてくる。その結果、自国でいろんなものを創造していくという時間がないというか、余裕がないというか、経済的にそういうものをサポートしていく力もなくて、ジリ貧の状態になっている。
 したがって、そのことを心配いたしました東京の出版界の人たちが、30年前から出版業を援助するということで研修コースなどを実施してきたわけです。そして編集者などを養成するようにしてきたのですけれども、何せグローバリゼーションが非常に速くて、なかなか努力が実を結ばないという感じをしております。
 したがって、それが1つにはグローバライゼーションの危機感と結びついているのではないのかなと思っています。
 フランスがこのような問題を提起したという前に、私はもっと深い動きが実はあるのではないかなという気がいたします。今私が思っていることを申し上げますと、世界銀行とかIMFが年次総会をやると、自分の金で集まってきた若い人たちがなぜ、いわばグローバライゼーションというか、IMF体制に反対をして、ストなどをして邪魔するのかというようなところから始まり、有名なサイードが「オリエンタリズム」という本を書いて、その「オリエント」といわれてきたものは西洋から見た「オリエント」であり、いわばバランスを欠いた見方にすぎないということを言ったわけですが、私はこの多様性の話は、いわば「オリエント」と言われた我々にとっては非常にいい逆のチャンスだと考えています。
 つまり、同じ土俵で文化を議論するということができるのではないか。西洋人が持っていたオリエントに対する1つの考え方というものに、我々が同じ土俵に出ていき、その多様性のもとでお互いに理解し合えるようなチャンスをつくってくれた。逆にそういうふうに考えることができないのかなと思うわけです。
 今の文化をモノとして考えると、それは人間を排除してモノ化していくということは、不幸にして近代の流れの中で生じたことですが、私はやはり文化のモノ化ということに対して大きな危機感を持っています。ではそれはどこの舞台で議論されるべきであろうかと考えますと、やはり国際的にはユネスコのフレームワーク以外にはないのではないかなという気がします。国連機関の中で言えばそういう文化や教育や科学を取り扱っているのがユネスコでございますので、政府間会合をもし行うとすれば、この多様性と、そしてグローバライゼーションの関係ということを取り上げるならば、やはりユネスコの場で何らかの動きが行われてしかるべきではないのかなと今思ったわけでございます。
 以上、長くなりましたけれども、ありがとうございました。

富澤座長 ありがとうございます。
 今グローバライゼーションとの関係でちょっとお話をお伺いしたわけですけれども、小寺委員から大変立派な資料をいただいていますので、グローバライゼーションというとWTOのこともあるわけでありまして、このWTO体制との関係について、「文化と経済」という面から資料に基づいてお話をいただければ幸いと思います。

小寺委員 事務局の方から「文化と経済」について話をしろというご指名がございましたので、前回、きょうお配りくださった議事録の中でお話したことをもう少し整理した形で、WTOという観点からご説明をしたいと思います。
 先ほど佐藤先生からお話がありましたように、文化の問題だと恐らくユネスコだろうということになると思います。と同時に、例えば労働の問題であればILOであるとか、環境の問題であればUNEPであるとか、そういうことになるわけですが、前回もお話しましたように、何せすべてが経済に絡むわけですので、これをWTOの中でどう位置づけていくのかということが1つ問題になろうかと思いますので、この点の整理をさせていただきたいと思います。
 ユネスコで文化多様性条約をつくるということは、WTOのサイドから見ますと、これはWTO協定について、このWTOの外である意味で例外を設定するということになります。その場合WTO協定でこれをどのように受けとめればいいのかという問題が1つ出てまいります。同時に、どのような例外をユネスコで設定するのが望ましいのか、恐らくこの2つの問題に分けて整理することができるだろうと思います。
 ごく簡単にWTOの構成についてお話しますが、対象は物品の貿易、これがGATTでございます。それからサービスの貿易、GATSでございます。それからもう1つが知的財産権、これがTRIPSと、このような条約があるわけです。
 本日は、この中で知的財産権も文化にかかわるわけでございますが、当面最も深くかかわるのは物品の貿易、サービスの貿易ということですので、これについてどういう整理ができるのか、どういうあたりが問題かということをご紹介したいと思います。
 まず、物品の貿易でございます。物品の貿易は資料でお配りしております関税及び貿易に関する一般協定、このGATTというものが規制をしております。前回申し上げましたように、この基本原則は自由無差別ということでして、自由無差別の意味は、最恵国待遇、つまり各国のものを、もしくは各国を同じように扱う、内国民待遇、内外のものを同じように扱う、それから輸入数量制限の禁止、これは、輸入品から国産品を守る、保護するということは許されるわけですが、これを先ほどお話しに出ましたが、クォータ、つまり数で制限するということはできない、専ら関税によって守る。しかも関税の率については対外的に決めると、こういうのが自由無差別ということになるわけです。
 この中で、前回もお話しましたが、GATTの中で自由無差別の貿易ですべてを律するべきだというように考えているわけでなく、文化についてもGATTの4条、これは露出済みフィルムについての取扱いですし、それからGATT20条、これは先ほど取りまとめにもありましたように、GATT20条の中には文化財についての例外というものが書かれているわけです。その意味で、何もかも自由無差別で考えていけばいい、こういうことにはなっておりません。
 問題は、このように例外が書かれているわけですが、これが必ずしも十分ではないという状況が昨今出てきていることです。最もその点が鋭く認識されたのが環境問題です。この環境問題について、いわばGATT規制と矛盾するかもわからない条約、これが幾つかつくられております。1つ代表的なものが,最近日本が加盟いたしましたカルタヘナ議定書でありまして、これは遺伝子改変生物の国境移動を対象にしております。国境を越えて、遺伝子改変生物で具体的に最も大きな問題になりますのは、遺伝子組み換えによってでき上がった穀物です。これについては、アメリカで非常に生産が盛んですが、しかし、何となく危険であるという意識が国際的には広がっております。
 そこでカルタヘナ議定書では、環境上の大原則でございます予防的原則、プレコーショナリープリンシプルと呼びますが、多少危険性を感じれば輸入をとめてもいい、非常にざっくり言いますとそういう規制をしているわけです。
 この点がGATT20条に関連をしてくるのです。つまり、GATT20条の中に例外というものが出ていまして、そのGATT20条の例外でどのように受けとめるか。このGATT20条のb号、人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要な措置というのがGATT20条でございますが、これによって受けとめることができるだろうと私は思っております。
 同じようにバーゼル条約、これは有害廃棄物の国境移動を規制していまして、これは途上国に有害廃棄物が送られて、そこで放置されるということを避けなければいけない。避けるということはやはり自由な貿易に対する障害ということになりますので、これもまた同じように例外である、こういう位置づけになるわけです。
 このような今までの例を踏まえますと、文化物品についてどのように対応するのかということですが、文化物品についても恐らくGATT4条、それからGATT20条を超えた例外というものを作成する必要がある。それがCultural goodsというもの、文化多様性、Cultural diversityを守ることに貢献するのだろうと思います。
 このような話を今度はGATT上で受けるときにどのように受けとめるのかということがございまして、これが先ほどのカルタへナ議定書やバーゼル条約と違いまして、受けられないという点が、つまりそれをカバーするものがないということが1つ問題でございます。
 これについてはもちろん新たにGATT上に例外をつくるというような対応は可能でありますし、また加盟国の義務を免除するというような形での対応も形式的には可能ですが、なかなかGATT自身を改正するということは難しいわけで、現行GATTを前提にする限りなかなか難しく、まあ受けられるとしたら20条a号にpublic moralsというように掲げられているので、GATT上はそれで受けるというようなことになるのか、ただしやや難しいということになろうかと思います。
 今度は、GATTから見ますとこれは例外ということになりますので、どのように例外として位置づけるのかということを文化多様性条約の側で設定する必要が出てまいります。
 1つの受けとめ方は、21条、安全保障例外というように包括的な例外とすることであります。これは要するに、安全保障のような問題は完全にGATTの外であるというように整理をするという整理の仕方が1つ考えられます。
 もう1つの整理の仕方は、20条bを受けて、これはWTOの中で作成されたものでございますが、SPS協定、衛生植物検疫措置を規制する条約があります。これも見方によっては自由な貿易、これを阻害するという性格のものになるわけです。これについては先ほど申し上げました20条b号、つまり健康についての例外だとして受けているのですが、これだけではやはり不十分だということで、新たにWTO内でSPS協定というものがつくられまして、検疫等について、各国は完全に自由ではないけれども、植物検疫、動物検疫というものを実施できる範囲を明確に定めて、それが他の保護主義的な目的に使えなくなるような制度をとっているわけで。
 このあたりが文化について考える際の指針になるだろうと思います。つまり文化ということであればすべてGATTの例外であるというような形で考えていいのかどうか。もしそうでないとした場合に、どういう場合に文化多様性条約上、文化の多様性を守るために各国がどのような制約のもとで特定の措置をとれるというようにするのか、この要件づくりでありますが、このあたりが大きな問題になる。
 安全保障例外のような整理は恐らく難しいのだろうと思います。そうなると非常に具体的な書き方として、WTO・GATTとの関係で言えばどのような形で文化多様性を守るためにどういう措置をとってよいのか。つまり先ほど申し上げました20条の例外といいますのも、例外に当たれば何をやってもいいというわけではなくて、相当に厳しい制約がかかっております。制約のかけ方は文化多様性条約でも問題になろうと思います。
 もう1つはサービスでございます。サービスは別の協定、GATSという協定がございまして、これも本日事務局の方にお願いをしてご準備をいただきました。
 まずサービスの貿易とは何なのかということでございますが、不公正貿易報告書という経産省で私も関係して作成している報告書があるのですが、その中の1枚物をお配りしていますので、ご覧ください。
 サービスの貿易というのは4つのモードがあるわけでして、1は、これは伝統的な物の貿易に類比できるような、サービスが国境を越える。だけど需要者、供給者は国境を越えないという形であります。
 2番は逆に、サービスは国内で提供されるわけですが、サービスの需要者が需要国から供給国に動く、いわば観光がこれに当たります。観光してレストランで食事をする、ホテルに泊まるというような場合が、これもまたサービス貿易と整理されます。
 3番、これが最も大きいのでございますけれども、サービスの供給者が他国で商業拠点をつくってサービスを提供する。このボリュームは非常に大きいわけです。例えばIBMが日本でソフトウエアを販売するというようなものは全部これに入るわけです。マクドナルドもしかりであります。外資系のサービス産業はすべて我が国とサービス貿易を行っている、こういう整理になります。
 4は、人の移動でございまして、これは「海外アーチストの招聘」と書いてありますが、例えば単純労働者が外国で働くということも、これまた人の移動に当たるわけで、もし単純労働者まで拡大しますと、極めて大きなインパクトを与えるというように考えられております。この4つをサービス貿易ととらえるわけです。
 GATSも先ほど申し上げましたように、GATTに倣ってつくられたものですので、自由無差別を原則といたします。ただし、このようなサービスセクターについては、従来非常に厳しい規制がかかっていた。例えば金融やテレコミュニケーション、さらには運輸、輸送というようなものをお考えいただければ即座にご了解いただけると思います。
 そこで、自由無差別なんだけれども、徐々に自由無差別にしていく。しかもすべてのサービスにこれは適用しないのだ、こういう前提を置いているわけです。
 具体的に申し上げますと、最恵国待遇、つまりすべての国のサービス、すべての国の人、これを同じように扱う、それから透明性、これは法令の内容を明らかにするということについてこれは広く適用するけれども、内外無差別それから市場アクセス、市場アクセスと申しますのは、量的規制の禁止でございまして、例えば証券会社について、東証で証券会社として登録できる会社を50社に限定するというようなことをやってはいけない。つまり50社に限定すると新たな参入ができませんので、そういうことをやってはいけないというのが市場アクセスでございます。これらについては選択適用ということになっているわけです。
 先ほど申し上げたGATT20条に対応するものとして一般例外としてGATS14条というものがございます。GATS14条の中にはpublic morals以外にpublic orderという言葉もありまして、文化の例外としてより受けやすくなっているというように私は思います。
 サービスについてはどのように考えればいいのかということですが、これはWTOのサイドから見ますと、文化サービスへの対応の可能性というものは、物よりはより簡単でございます。といいますのは、GATSの場合は漸進的にサービス貿易を自由化していく、特に内国民待遇を、つまり内外無差別ということを徐々に実施していく。そのために約束をつくるということになっておりまして、文化の部分についての約束をしている国、私は正確に知りませんけれども、非常に少ないと思います。そもそもフランスやカナダが約束しないということで、ウルグアイラウンドの最終段階で大きくもめたわけです。したがって、文化多様性条約をつくってそれに加わるということによって、約束しないという根拠をより強くすることができるわけです。また、約束をしたとしても、GATS14条の例外で受けるということも可能であります。
 その意味で、サービス貿易の場合には自由化の程度が少ないわけでありますから、文化多様性条約とWTO協定との衝突という問題は起こらない。ただしこの場合も、やはり一応例外ということになりますので、つまり例外として約束しないというような形で問題を整理できますので、どういうものとしてこれをとらえるのか、つまり先ほど申し上げたように文化サービスであればこれは何をやってもいいというように考えるのか、しかし他方で一定の制約というものを観念するのか、このあたりがテーマになってくるのだろうと、このように考える次第です。
 WTO体制という観点から文化多様性条約を見ると、以上のように見えるということで、ごく簡単にご報告させていただきました。以上でございます。

富澤座長 ありがとうございました。
 経済との関連というか、WTO、GATTのサイドから見た文化ということで大変貴重な意見を伺ったわけですけれども、この点についてどうでしょうか、皆さん何かご意見ございますでしょうか。根木委員どうぞ。

根木委員 国際法はよくわからないのですが、文化多様性条約が一方にでき、こちらの方との間でバッティングする場面が生じたとしても、例えば物品貿易だと2の場合は受け皿があり、また3のサービス貿易の場合にも14条の例外で受けることができるが、2の3の場合にはなかなかその受け皿が求められないということなのですか。

小寺委員 受け皿をどう考えるかという問題がございまして、1つは協定そのもので受けられなくても、もう事実上例えばすべての国が文化多様性条約に加わるということになれば、事実上例外としてとらえることができるだろうと思います。

根木委員 ということになるわけですか。

小寺委員 はい。

根木委員 一般の国内法と同じように後法は前法を廃するといった、そういう原則は当てはまるわけなのでしょうか。

小寺委員 おっしゃるとおりでありまして、それは可能ですが、問題は、後法は前法に優先する、さらに特別法は一般法に優先するということで可能ですが、非常にリアリスティックに申し上げると、例えばアメリカが入らない、それで他の国が入るというような状況になったときにはやや難しい問題が発生する可能性がある。
 実際カルタへナ議定書、この元条約である生物多様性条約にもアメリカは入っておりません。ただし極めて多くの国が入っています。そういうようになる可能性を作っておいて、相当多くの国が入れば、実質上例外扱いは可能だろう、このように考えております。

富澤座長 根木委員それでよろしいでしょうか。

渡邊委員 ちょっと今の点で、1つの条約をつくって、そこにたくさん加盟すればそれだけ力になることは当然です。確かに主要な国がそれに加わらなかった場合、加盟した国と加盟しなかった国との軋轢は当然生じるわけですが、そのときに加盟した国側が加盟しない国に対して何らかの国内行政措置をとる、あるいは対応措置をとるということは、どの程度まで許されているのですか。

小寺委員 今の点でございますが、これは各国主権を持っておりますので、加わるか加わらないは自由ですから、何もできないです。ただ、例えばこの種の問題が1つ考えられますのは、文化多様性条約に基づいて一定の措置をとる、そのことがGATT違反であるというようなことでWTOの紛争処理手続きに訴えが提起される。それでWTO紛争解決手続きの中でこの点が問題になる。問題になった場合に、相当多数の国が入っている場合は、やはり紛争処理の中で、紛争処理手続きの適用法規にはなりませんけれども、やはりそれなりの正当性というものが、つまり実質上の例外であるようなことが認められるのだろうと思います。
 これが別に紛争処理手続きに行かなければ、各国が国内でどのように政策の優先順位を判断するのかという問題になると思います。

渡邊委員 私のこれまでの発言の中で、発言の勇気を与えている1つの事実がある。これは私はそういう認識しか持ってないのですが、例えばアメリカの農業生産物がどんとヨーロッパに大量に入ったときに、フランスの方ですか、農業団体だと思いますけれども、農業は我々の文化であるというので、文化をもって対抗措置をとろうとしました。そういうところが私たちにとっては1つのこれからの大きな大問題になるのじゃないかなと思うのです。
 生産形態というのは単純に産業というふうに割り切ることができなくて、生産はイコール文化であるということでもあるわけです。かつて生産は物の上に文化をつくってきたわけでありますので、農業生産物が今の工業生産物化している中で、アメリカ対フランスの問題、あるいはEUの問題が起きたのじゃないかなと思うのですが、かつて日本でも、米産業というのは単純に農林省だけの話ではなく、本当は文化の話だったかもしれません。そういう文化をどうとらえるかという問題の中で、今言った産業とのかかわり合いというのはやはり大きな問題をつくってくるのじゃないかなと思うのですが、その辺、今どのように世界は認識しているのでしょうか。

小寺委員 今先生からご質問のあった件は、まさに日本政府が農業のマルチファンクショナリティ、農業自身が多元的な機能を持っているということでWTOの中で議論をしているわけです。しかし、日本政府の主張はこのWTOの中では非常に弱うございまして、なかなか難しいというのが現実でございます。
 それで、農産品について言えば、これはGATTの中で、WTOの中に農業協定という特別の協定がございます。そこで相当深い議論がされております。したがって、この問題について、今先生がおっしゃったような問題についてユネスコの側から文化多様性であるというような形で議論を展開しても、これは弱いのだろうというように思います。
 先生のご質問に対して申し上げると、この農業の問題は既にWTOがオキュパイしてしまった。Cultural goodsないしCultural servicesとして特に典型的に予想されるオーディオビジュアルとかその種のものでございますが、これについてはWTOでも明確なレギュレーションができていなくて、一般的な規律は及ぶだろうと、こう認識されている。他方ユネスコは、先ほど佐藤委員からもご紹介あったように文化についてはユネスコが相当強い権限を持っているということが国際的に認められている。したがってどこまでをCultural goodsとし、Cultural servicesとしてユネスコがこの条約の中で規定をしていくのかということも、1つこの条約が成功するかどうかの重要なポイントになろうかなと思います。

富澤座長 先ほど佐藤委員から、文化あるいは文化の多様性についてユネスコの場で話が進められるのだろう、こういう話があったわけですけれども、その点については小寺委員も同じ考え方でいらっしゃいますか。

小寺委員 この問題について、要するにWTOの場で議論するということも可能だろうと思いますし、それも今まで行われてきたのです。それは特にオーディオビジュアルという形で議論はされてきたわけです。しかしフランス、カナダ、それとアメリカが対立して、いわば具体的な規律というものができていないというのが私の現状認識であります。
 そこで、フランスやカナダはうまい具合にユネスコという場を見つけてきて、そこでいわばこのCultural diversityを錦の御旗にして諸国を糾合し、自らの主張を実現しようとしているという、そういう政治的なモティーフがうかがわれるわけです。しかしこれはあくまでも経済の側面から見ればそう見えるということで、それを佐藤さんがおっしゃったように文化というまた別の面から見ると、実は非常に多くの国が賛成できるようなアジェンダにしてユネスコに持ち込んできたわけですので、もうこの原則自身についてはどの国も恐らく反対できない。
 そうなったときに、他方でやはり文化については経済的な側面もございますので、そこと全く調整をしないで何をやってもいいとするのか、それとも一定の規制を及ぼすことによって、ある種経済的なサイドと文化的なサイドでバランスさせるのか、これがまさにここで問われていて、WTOやユネスコというような場面ではそれぞれの側面から議論がなされるだろうと思いますが、我が国としてこの問題についてどういうポリシーを確定するのかということが今まさに問われているのだろうと思います。

富澤座長 大変重要なご議論をいただいているわけですけれども、その点についていかがでしょうか。根木委員どうぞ。

根木委員 私は先ほど佐藤委員が言われたことと全く同じような考え方でございます。経済の側面から文化を云々しても、どこかに限界があるのではなかろうか。それからまた、21世紀を迎えまして、文化が上位概念として定着しつつある。したがってそれを議論する場というのはやはりユネスコを措いてほかにないのではなかろうかという感じがしております。
 ただ、WTOとの間の調整をどう図るかということが現実的な問題としてもちろんあるのだろうと思います。したがってWTOのサイドで何でもということではなくて、文化は文化としてユネスコの側に一たん委ね、かつ理念的な側面は当然ここでの議論に含まれることと思いますので、理念は理念としてユネスコの側で十分議論し、そこで何らかの成案を得、一方ではWTOとの間での調整を図っていくという、二本立てがベターな方法ではなかろうかと考えられます。我が国も戦後文化国家を標榜して今日に至っており、金、金というようなことはこれから言えない状況でありましょうし、とりわけ国家の品位を外に対して知らしめるという意味からいっても、やはり文化ということに関して基本的な姿勢をきちんと表明をすべきではなかろうか。
 そういった基本的なスタンスの上で、経済との関係の調和をどう図るかということが今後の方向性としてあるべきではなかろうかと思われます。
 それから、WTOが先行していたとしても、文化の側面からの多様性条約と、全くその調整が図られないということでもないと思います。先行した条約を包括しつつ、なおかつ先行条約を活かすような形での条約のあり方も可能ではなかろうか。国内法でもそういった例が幾つかあろうかと思います。
 例えば、既に文化財保護法が先行して制定されていますが、これを包括する形で文化芸術振興基本法が制定されました。しかし、文化財保護一般は、文化財保護法に委ねられております。このような例もありますので、立法技術の観点からして、国際条約においてもそれはある程度可能なのではなかろうか。ただその調和点をどこに見出すかということが議論の一番の中心点になろうかと思います。いずれにしましても、基本的にはユネスコの場でこの問題は議論するべきではなかろうか。そのような感じを持っているところでございます。

富澤座長 今議論が文化あるいは文化の多様性ということを考える上で切り離して、経済と切り離すというか、経済を念頭に置きながらユネスコで話をしていく、こういう議論が行われているわけですけれども、河野委員何かご意見がございますでしょうか。

河野委員 まず小寺先生のおっしゃったこと、全く私はそのとおりだと思います。WTOとの関係では今回の文化多様性条約はWTOの枠組みにかちっとはまらないという感じがしますので、どう落ち着けるかというのは難しくて、それで基本政策をどう決めるかというのが今求められているのだと思うのですけれども、私が今のところぼんやりと考えておりますのは、もう少し文化として考えるべきものを分けて考えなければいけないのじゃないか、ということです。
 つまり、文化という一般的な形で議論をいたしますと、それぞれの人が文化の中に込めるものはいろいろでありまして、議論がやや大きな構えになり過ぎる可能性があると思います。それで1つの可能性ですけれども、文化財保護法、例えば特に無形文化財などがそうでございますけれども、経済の論理に乗らないものとしての文化と、それと経済の歯車の中で動いていく文化と分けて、その上で後者についてさらにもう少し幾つかに分けられないか。これをどう考えるかについては私もまだ手探りなんでございますが、私どもの考え方を難しくしているのは、特にこの近年コンテンツ、コンテンツということが言われておりまして、そのときに、コンテンツ振興というときに、日本の国内でのコンテンツ振興と限定した形ではなくて、外に持っていって売りたいという思い入れがあるのだと思うのです。それがあるがゆえにもう1つ話がややこしくなっているのだと思うのです。それで、ブレーンストーミングですけれども、例えば外に向かって売るということを退けた場合に、コンテンツ産業、例えばコンテンツ振興というのはどういうあり方があるのか、を考えてみる。
 そういうふうに考えますと、例えばアニメとかは売れる可能性が極めて高い。現に売れつつあるものでございますけれども、ひょっとしたら振興しても売れないものもある。例えばちょっと例が悪いかもしれませんけれども、クラシック音楽とか、幾ら日本最高のNHK交響楽団もベルリンフィルにはかなわないとか、幾ら振興してももうはるかに先を行っているものがよそにあって、国外でベルリンフィルほど絶対売れないだろうと思うのがある。だけど、ハリウッドにどんどん出ていく可能性のあるアニメみたいなものもある。このようにもう少し分けて、この場合はどうなのか、この場合はどうなのかという幾つかの、3つか5つぐらいのグルーピングができたら、もう少し具体的な政策論も、それから理念論も可能なんじゃないかと考えております。
 文化財保護法につきましては、きちっと日本の文化を守ってきたことが、結果的に日本における文化多様性を維持してきたと思いますし、今後さらに世界に対する日本の顔になりつつもありますので、これは大いにこの文化多様性の文脈の中で今後ともやらないといけないことだと思います。そのほかに経済の枠組みの中での持っていくものをどうするかという、そういう分け方はどうかなと今のところ考えております。
 以上でございます。

渡邊委員 現代の文化の多様性の問題の中における文化財保護法の立場というのは、これははっきりしていると思うのです。大体日本の文化財保護法、それ以前から国宝保存法があり、その前の法律が明治4年、法律的なものが動いているわけですが、結局日本は近代になったときに、近代の文化、いわゆる文明とそのときは言ったけれども、技術文明だと思いますが、文化と言いますが、それを受け入れたときに日本の今までの在来の技術あるいはそれに伴う文化というものを、守らないと滅びてしまうでしょうということでやった。つまりそのとき日本はずっと近代と伝統という2つの要件を抱えて文化政策をやってきたと思うのです。
言うならば小さなハイブリッド文化がそこに生じたのだろうと思うのです。今でもそうだと思うのです。そういう切り分けをすることによって今の文化行政は動いているということなのだと思うのです。
 ただこの文化の多様性の問題といったときに、いわゆる日本の言う伝統的な部分を打ち出すことは比較的容易なことだと思うのです。世界の中で難しくするのは、やはり現代文明を含めた部分だと思うのです。現代文明に関しては、いわゆる新しい生産技術が絡んでいる。自国の産業政策とそれは密接に関係しているということで、今度は売り手と受けとめ方の問題、日本の場合でもかつてアニメーションはかなりヨーロッパでたたかれました。内容が戦闘的であるというようなことで随分と文化問題になったのです。そういう問題は単純に文化の問題というのは量的問題じゃないのです。売れていくと今度はその内容が問題にされる。その内容そのものが問題になるというようなことがあるわけです。それを単純に外形的な問題として論議するのだったら比較的この文化の多様性というのも収まりがしやすいと思うのですが、文化というのは常にクリエートされていくものを含んでいるので、将来予測が不可能だと僕は思っているのです。
 そういう意味で、ある意味で人間がこれをあれこれ規制するのは、かえって外形的に抑えたりすると難しい問題が生じるし、それは外形的に抑えようとすると権力的になってくる。それがたまたま文明の衝突という問題も起こし得るのだということを僕は文化論の中では恐れているわけです。
 ですから、本当は文化というのは余り手をつけずに、行政的、権力的な力を使わずに動いていくというのが一番いいのですが、フランスの場合でも、古い建物は積極的に保護政策をとらなければ残っていかないというようなことになりますから、これは物としては実際そういうものが含まれているのです。物に対する保護政策というのは一番しやすいわけです。それ以上に難しいのは、それを含んでいる大きな人間の生活文化だろうと思うのです。人間の動きを伴っている文化、そこをどういうふうにこういう条約の中で位置づけていくのか。当然これは保護政策はそれぞれの中でうたってもいいわけです。保護政策をうたわなかったら何もする必要はないのだと思うのです。自由放任で自由に一緒にやりましょうというだけの話です。
 だから、佐藤先生がおっしゃったように、例えば途上国でいろいろな絵本の問題がある。途上国でクリアする能力はまだ持っていない、結局入ってくるのはヨーロッパのもの、あるいは日本のものかもしれないのだけれども、それを受けとめているだけであるということの中で、いつの間にか自分の頭の構造の中がそのようにつくられてしまうということに対する恐れ、しかしそれは恐れなのかどうか。かつて日本はそれを恐れと言わなかったと思うのです。積極的にそうなっていこうとしたこともあるわけで、その点がこの文化をどういうふうにとらえて基準化していくのか、条約という形に乗せていくのか。
 僕は実際には、自分自身でもどうやって、文化の方は非常におもしろいのだけれども、条約というものは一体何をしようとしているのかというのが難しいのです。だから自国の産業を守ろうというのは、常に外形的な力との関係、それから内部的な問題、力との関係、その関係で問題が生じているので、その問題の解決にこの文化の多様性というのはどう意義づけられていくのか、変わり得るのかどうかということなのだと思うのです。
 それでなければみんな国内法でやったらいい話ではないかということだろうと思うのですが、国内法を超えて何かしなくてはならない理屈は何なのかというのが、少しまだ僕自身はわかりにくい、わかっていないところがあるのです。どのように理解したらいいのか、サゼスチョンをいただければありがたいと思います。

小寺委員 まさに今渡邊先生のおっしゃった部分が核心なのだろうと思います。WTOの世界が文化の世界を一般的にカバーするということになりますと、各国がとれる保護措置に限定が相当出てくる。例えばサービスが完全に自由化されますと、現在フランスでやっているような、フランス映画にフランス制作番組について時間を設定するというようなことができなくなってしまうわけです。
 したがって、そういうようにならないために何をどうする、つまり各国が自由無差別な貿易体制で自由無差別に扱わなければいけないのだという義務から逃れて何をすることができるかということが恐らく最大の1つの問題。
 もう1つの問題は、前回少し出ておりましたのですけれども、途上国に対して援助をするというような問題がもう1つ副次的に出てくるのだろうと思います。
 それで、第1の問題は、先ほど河野さんから非常に正確にフォーミュレートしていただいたように、経済の論理に乗らないような問題については、これはもう何をやってもいいわけですから、先ほど渡邊先生から例が出ましたように、国内で町並みを保存するために補助金を出す、これは別に特に国際的な義務がかかってくるような問題ではないので、何をやってもいいと思うのです。しかも、こういうことについては条約でも主な争点にはならないだろう。むしろ主な争点になるのは、先ほど河野さんがおっしゃったように、経済的なサービス、もしくは経済的なグッズであるというように評価できながら、他方でCultural goodsCultural servicesというように評価できるような、最も具体的に言えばコンテンツとかオーディオビジュアルなどだろうと思うのです。
 そういうものについて国際的な基準で各国は一体何をやることが正当なのかということを、何をやってもいいのか、何をやることが権利なのかということを今よりも正確にするということがこの条約の使命なのだろうと思います。
 したがって、例えばアメリカの政府は話は簡単なわけです。アメリカ政府はフランスが規制をしているからハリウッドでつくった映画が売れない、だから規制措置はけしからぬ、だから自由な貿易の論理でそういうものを売れるようにしよう、こういう論理ですから、できるだけ文化多様性のために義務を逃れる、それで権利であると主張できることは少なくしよう、こういたします。
 他方、フランスやカナダは、そんなことはないのだ、文化多様性というのはきわめて高い価値があるものだから、実は非常に極端なことを言えば何をやってもいいのだ。自国文化を守るためであれば何をやってもいいのだ、GATTの規制なんて及ぶと考えること自身がおかしいのだというこちらの極論に来て、この間の恐らくどこかが収斂するところなんだろうというように思うわけです。
 それで、日本の難しいところは何かと私前々考えているのですが、日本はフランスのようにアメリカのさまざまな文化が流れては来ているのですけれども、テレビを見てもわかるように、アメリカのテレビがじかに日本に来てどんどん時間を広げていくというようなこともなくて、その意味ではコンテンツなどについて言えば、日本政府、さらには日本の各界に危機感はないということが一方にあり、他方ではアメリカのように外国にコンテンツをいろいろ売っていきたい、それでああいうことをやるというのはけしからぬ、つまり保護政策をとるのはけしからぬというほどアグレッシブなコンテンツ産業も日本にはない。
 そういうときにあって、日本としてどういうスタンスをとるのかということの何かモティーフが余り見つからないということに私は難しさがあるのではないかと思うのです。
 それで、きょうお話したようなリーガルにどう調整していくのかといった話は、日本政府も私も得意とするところなのですが、実はそんなことは聞かれていないわけで、本当に問わなければいけないことは、文化という今出てきているフランスやカナダや途上国を巡るような現状の中で、どういうことを日本政府のポリシーとして考えるのか。日本にとっての固有の問題がないとすれば、世界的な視野からどういう仕組みが望ましいというように考えるのか。ただ世界的な視野からどういう仕組みが望ましいのかということを考えると、やや評論家的になってしまうというところに私はやや問題を感じます。

渡邊委員 そのとおりです。議論としてはおもしろいのだけれども、その先に何をつくるのですかという話になってしまうのです。

根木委員 よくわからないのですけれども、やはり文化・芸術に関しては理念的にはすべてに網掛けをし、既に先行している条約に関してはそこから調和を図りつつ除いていくという、そういう仕組みが技術的には可能ではないでしょうか。
 例えば世界遺産条約とか、無形遺産条約も、既に先行した条約がある場合にはこれを除いていく。WTOの協定に関しても、可能な限り調和するような形で除く。そして多様性条約は、理念的かつプログラム的なものになるかもわかりませんけれども、文化につき今後の人類としてあるべき方向性を示すといった形で提示し、その中で拾えるものはできる限り拾いつつ着地点を見出すということも可能ではないでしょうか。

小寺委員 おっしゃるとおり、それも1つのアイデアだろうと思います。やはりもともと文化が重要であるということについて、国際的なコンセンサスはあります。他方でやはり、これだけ戦後の国際経済が発展してきたということについて、これがGATT・WTO体制の成果であったということについても、これまたコンセンサスがあるのだろうと思います。
 1つの考え方は、そういうコンセンサスがあるので、ここでは原則だけを示せばいいのだというようなやり方が1つあるわけです。しかし、他方でこの文化と経済の問題のせめぎ合いというのは、特に1995年に終わりましたウルグアイラウンドのときに非常に大きな争点になった問題であります。つまりそこで初めて先ほど申し上げたGATSという条約ができ上がって、サービスがWTOの枠内に入ったわけです。そのときに最後まで問題になったのがコンテンツの問題で、フランスとアメリカが角を突き合わせ、一応これはフランスが約束をしないという形で両者は引いたわけであります。
 問題は、原則レベルで恐らくだれも異論はないわけでありますが、今回の機会にこの原則レベルの確認だけで話が終わるかというと、恐らくフランスやカナダ等、この種の問題を持ち出した国は、原則レベルの合意でいいとは恐らく考えていなくて、WTOで決着がつかなかった問題をユネスコの中で文化という観点から決着をつけよう、こう考えているのだろうと思います。
 したがって、日本としては、この種の問題が提起された以上、原則だけの確認で終えるということも1つの方向だと思いますが、しかしそれだけで果たしてフランスやカナダが納得するだろうかということがあるわけです。
 環境と貿易については結局まとまらないわけで、先ほど申し上げたカルタヘナ議定書だバーゼル条約だという、極めてスペシフィックなトピックに沿っていわば環境と貿易というものを具体的な調整点を見出してきているわけです。恐らくこの条約でも、文化というものについて具体的な調整点を見出すことが期待をされているのだろうと思います。そういう意味で争点になるのはコンテンツによって代表されるような、経済的な側面もありながら文化的な側面はもちろんある、こういうものについて各国何をやればいいか、特に何を国はやってもいいのか、ここをやはりある程度、全部決めるなんということは恐らくできないでしょうけれども、今の原則だけを宣言するという段階から進んだ何かがやはり要求されていて、そのこととを我々は考えなくてはいけないのではないのかと思います。

富澤座長 小寺委員のご説明並びにそれを取り巻く議論によって大分問題点が明らかになってくると同時に、既に議論が第2の柱である「文化多様性を保護・促進するための我が国の取り組み」にも入っているわけですが、これはもう一緒の問題だと思うのです。要するに原則論のところではなくて、まさに各国がぶつかり合う、衝突し合う、せめぎ合う場所での我が国の取り組みをどうするか。そういうところだと思うのですけれども、そういう点で根木委員、我が国の文化政策というのは既にそういう議論がされているのか、あるいはそこまで全く踏み込んでないのか、その点はいかがなんでしょうか。

根木委員 その辺は今まで余り明確とはいえませんが、ただ多様性を認めるべきだということは文化芸術振興基本法を初めとしていろいろな場面ですでに言われております。理念的な事柄だけかもわかりませんが、したがってこれをないがしろにするということは我が国としては得策ではないと思われます。
 この大原則を踏まえた上で、現実、具体的な調和点をどこに見出すかということかなという感じがいたします。そうすると、河野委員が先ほど言われたように、文化のグルーピングをした上で、守るべきものはどれなのか、一般の経済原則に委ねるべきものは何なのか、その辺の仕分けもある程度必要かなという感じもいたします。なおN響はベルリンフィルに比べると水準も低いとおっしゃったのですけれども、それに対して我が国がお金を出して育成をするというのは何か違反することにでもなるのでしょうか。

小寺委員 お答えいたしますと、これはサービス貿易のなかに入っております。ただしこれは補助金規制ということになります。補助金規制については現在GATSの中では規制はなくて、将来つくっていこうとなっておりますので、今のところはありません。

根木委員 そうすると、将来的にはそういうこともやってはいけないというお話になりますか。

小寺委員 補助金規制はまた非常に複雑な規制になります。というのは、農業をごらんいただければおわかりいただけると思いますが、まず1つ考える必要があるのは、補助金といいますのは、国にとっては規制と並んで2大政策ツールなのです。だから補助金を禁止するというようなことは、これは国、特に先進国にとってはあり得ないわけです。しかし、他方で補助金を出すことによって産業相互の間で競争力がアンフェアになるということもこれまた事実で、そこで、もう本当にさまざまな規制、量的な規制もしくは補助金を分類して、特定の補助金を禁止するというような形で分類を行い、そのうえで、それらをいろいろな形で組み合わせて規制していくというアプローチが採られています。しかしそういうことはすぐにできないので、GATSの中では今のところ事実上全く無規制でありますし、例えば農業について言えば、現在ジュネーブで補助金をどのように規制していくのかということで、EU、アメリカ、途上国が大交渉をやっているところです。

根木委員 文化庁の方がいらっしゃる前でこういうことを申し上げるのもなんなのですけれども、我が国のオペラ、バレエ、オーケストラなどは国が金を出さないとたちどころにつぶれる恐れがあります。このため、それに対する国家の支援が今後もしだめになるということであれば非常に由々しい事態となります。それからまた、我が国の場合には渡邊委員が言われましたように、文化・芸術の二重構造があります。つまり、西洋伝来のものと伝統芸能を含む伝統文化のたぐいが重なって存在しています。
 伝統文化に関しては、保護措置が必要でありましょうし、また明治以来の外来文化、特にオペラとかバレエとかオーケストラのたぐいは、今後いかにして国際場裏において評価に値する水準に持っていくかということが最大の課題だろうと思われます。アーツプランなどではそれを目指してやっておりますが、目的とするところは、トップ、頂点をいかに伸ばし、それを世界水準のものにいかに持っていくかということにあります。ですからそういうところにもし甚大な影響がWTOサイドから将来的にもたらされるということになりますと、極めて懸念すべき、憂慮すべき状況になるかと思われます。我が国の視点としては、やはり文化・芸術に関して国が少なくとも理念上は積極的に前向きな姿勢を示すことが必要ではなかろうか。その上で、具体的、現実的な問題とどう調和させるかということではないでしょうか。

富澤座長 文化と言っても、本当に今議論あったように広いわけで、その中で我が国として主張すべき、あるいは普遍的な問題というのは余り問題ないだろうと思うのですが、まさに各国が、意見が衝突するようなもの、それがどういうものがあって、そういう意味ではやはり文化の、さっき河野委員が言ったように整理をするというのですか、余り細かくというよりもある程度大きく整理をしてみるという作業が必要ではないかというような気もいたします。
 その上で普遍的なところは各国とは別に、日本としての主張をきちんとしていく、独自な主張をしていくということも必要でしょうし、各国が衝突する部分、そこについてどういう我が国の考え方が打ち出せるかというところだろうと思うのです。
 それから、その中には今根木委員が言われたような補助金行政といいますか、日本の文化を保護・育成していくために補助金も出しているわけですけれども、そういうことも将来含めてどうやっていくかというようなことにもなってくるでしょう。
 もう1つは、ユネスコに対してどういう貢献が今後していけるかという点も1つ議論になってくるのではないかと思うのです。それはもう第3の「文化多様性を保護・促進するための国際的な体制の構築」というところに入ってくるわけですけれども、そちらについてもここで議論をしていきたいと思うのですが、いかがでしょうか。河野委員いかがですか。

河野委員 この2点目ともちょっと絡むのですけれども、私個人でちょっと最近興味を持っておりますのは、我が国の取り組みとしての人材の育成の必要性・可能性であります。よく最近取り上げられます韓国の映画の隆盛は人材の育成にあったということをよく見聞きするわけでありますが、外国に行きまして日本映画で必ず出てくるのは黒澤と小津でありますけれども、その後がないわけです。
 このまま行きまして、例えば第3のそういう巨人が出てくるのかどうか、あるいは何かそういう人材を刺激し、かつモチベーションを与えるような、そういうメカニズムが要るのかどうか。
 それと同じようなことは恐らく途上国なんかにはもっと必要で、先ほど佐藤委員がおっしゃいましたように、編集者のノウハウ、編集のノウハウさえない、編集のノウハウを持たない国がある。そうするとやはり文化産業を一番基礎で支えているところの人材の育成から始めないといけない。そうすると、人材育成のところで我が国が国際的な体制を組んで協力できる場面というのはあるのではないか。我が国としてもしなければいけないし、かつ協力できることはあるのではないかと具体的に考えております。
 もっと抽象的に言いますと、何かファンドをつくってお金を出してということになるでしょうけれども、これは恐らく日本は出す一方でありましょうから、今の財政状況でそれを許すかどうかというのは、それは私のちょっと権限を越えておりますので。

富澤座長 この前のお話でも、そのファンドのところ、お金をどうするかという議論はまだ全然されてないというお話でした。

河野委員 専門家会合では、私が無形遺産条約をつくったときに大変な議論をいたしまして、そのことだけで本当に何日も議論いたしましたので、それを初めに言ったのが悪かったのかもしれませんけれども、とにかく具体的な財政メカニズムについては正面から議論はできなかった。今後お金回りをどのようにするかというのは、恐らく大変重要な問題になってくると思いますが、フランス、カナダもそれを積極的に、うちが金を出すとは言わなかったので、お金を出さずにいかにメカニズムをつくるかということに腐心しているのだろうと個人的には推測しております。

富澤座長 ありがとうございます。
 議論が第3の柱のところまで及んだわけですけれども、特にこの論点に限らず、きょうの議論全体を通じてご意見ございましたらどうぞ出していただきたいと思います。いかがでしょうか。佐藤委員どうぞ。

佐藤委員 これは河野先生と小寺先生にお聞きしたいのですけれども、非常に気になる言葉があります。それはグッズとサービスという言葉ですが、それらが既にあって、それにカルチャラルという言葉をくっつけてユネスコの専門家会合でしゃべってきたわけですが、なぜそのもとにあるcultural expressionなどではなく、なぜ狙い撃ちでグッズ、サービスを言ってきたかということになると、小寺先生がちゃんと解説されたように、その裏が見えてきてしまったのです。ただ、申し上げたように、見えることは見えるのだけれども、この際日本としてやはり本来の姿に、日本なり東洋なり、あるいはアジアなり、あるいは西欧以外の国の文化というものをイコールな面で認識させていくということで乗ったらどうかと思っているのです。
 ただし、あくまでもCultural goodsserviceと言われると、これに乗るということは、個人的には非常な抵抗感があるのです。その辺はどうなんでしょうか。

河野委員 このグッズとサービスとはっきり言うことに対して異論を唱えた人は専門家会合では少なくともおりませんで、議論いたしましたのは、初めArtistic expressionとか、そういう形だったのですが、それも含めてCultural expressionにした。だからむしろ射程範囲を広げたというところはございました。
 それで、途上国の専門家の発言を聞いておりまして感じましたのは、やはり彼らも純粋に自国の文化というのをマーケティングしたいとかいうわけです。コーヒーブレークのときなんかお話しますと、ある国の専門家は、うちは映画よりは音楽なのだと言うのです。音楽でマーケティングして、こういうアーチストがいるとか、そういうことをやりたいというのがあって、そうするとやはりグッズ、サービスというのがそういう国からしますと落ち着きがいいのだと思います。
 ですから、途上国にもやはり途上国なりの思惑があって、それは何かフランス、カナダと別の思惑なんですけれども、そのグッズ、サービスのところでは割にぴたっと合っているという、そういう感じがいたしました。
 ですから今回の条約をもう少し何か、抽象的な形の、根木委員がおっしゃったような形でもう少し理念的に抽象化してということが果たして政府間交渉で成功するかどうかというのは、予断を許さないかなという感じがいたしますね。
 それと、その意味で理念的なところで申しますと文化多様性に対する宣言が2001年に採択されておりますので、理念的なところを世界に訴えるというのはもうそこで終わっている、だからその次の具体的な施策の段階にもう入っていると、小寺委員がおっしゃったように、推進派の国、途上国、先進国含めて考えているのではないかというふうに思っております。

富澤座長 渡邊委員何かございますか。

渡邊委員 この文化多様性の意義についてはもうあれこれ言うことは、恐らく今言ったようにないし、ユネスコでは相当高邁なる理想論、理念論を展開していると思うのです。この文化多様性というのは、本来、物でも何でもなく、文化は物によって表象されるというところもあるわけだけれども、その前提として文化は物と技術によって構築されている、だから物によって表象され、技術によって表象されるということです。
 その物と技術は何も過去形ではなく、今もずっと生き続けているものなので、それが今の現代の産業構造、生産技術との絡み合いに基づいて新しい問題をつくられてきている。かつてはそのような問題は恐らく、大量の移動がないから、要するに物の大量移動、物資も人間も情報も大量に動いていくからこそいろいろな問題ができ、どこかで、自分たちで受けとめるための安全装置をつくっておきたいということになるだろうと思うのです。
 僕らは文化の多様性といったときに、既に一種の歴史認識を含めてある概念を包んでいると思っているわけです。だから、今韓国の問題が出たけれども、韓国はたしか外交上の問題を含めて日本の文化を拒絶してきた。かつてはそんな関係はなかったのです。しかしここへ来てその解消に向かって非常にうまい関係ができつつある。折もよし、ユンソナとかいろいろ韓国の人が日本に来て盛んに活躍するようになって、そのような意味での歴史的障害というのが少しずつ克服されてきているということです。
 僕は文化の問題で歴史的障害をつくってきてしまった、歴史というものに対する必然というのは常にこの文化問題で私の場合は持っているので、そうならないようにしておきたい。それは理念としてそれは恐らくユネスコ条約で立派に解決してくれているだろうと思います。
 ただ佐藤さんが言ったように、物のサービスというと、確かにこれは文化なのですが、文化というのは本来技術をどう使うか、技術的構築はもうどんどん進んでくるのだけれども、それをどう使うかの中に本来文化の問題があるわけです。生活の中にそれをどう溶け込ませるかということが文化なのです。それを外してしまって、物とサービスということになってくると、何か少し違和感が残るのかというのは私も同感です。
 ただ、今条約の手順としてもう理念のところは済んだのだ、現実に何を問題としていくのかということになってくると、国際的に何が問題になっているのか、もう少し知識として持ちたいということ。今、日本はよその国に対してもアニメ産業なんて売り込んでいるわけでしょう。売り手になっているわけです。かつてはアメリカの文化の一方的開花だったわけです。それが今度逆に日本が何か力をつけてやってくると、アメリカの方でまた何かトラブルが起きてくる。
 経済・産業の自由というのはそういう問題です。常に軋轢が生じるようにできているのです。ただ、今はやはりそういうものの力が余りにも強くなってきているというのがこういう文化多様性の条約の中に、一部産業的な問題を取り込まれてくるということになっているのだろうかなということです。
 ただそれを先ほどのように一般論としての産業までは含むことはできないわけだから、そうするとサービスと物といったものの範囲というのは一体どういう範囲ですか、物の面にも幾ら挙げたって挙げきれるものじゃありません。

河野委員 今お話を伺いながら、全くのブレーンストーミングですけれども、現在はジャパンクールでいろいろアニメが売れつつあったり、それから日本のアーチストの彫刻が高い値段で落札されたりしておりますけれども、例えばあと10年して、韓国とか中国で今下請けで漫画を書いている人たちがどんどん育っていきまして、それでクォーリティが高まっていって、それで売れていた日本の漫画やアニメが売れなくなってきたとします。そのときに日本はやはり日本のアニメは日本の文化なんだから、さらに支えようとするのか、あるいはそれは衰退しつつあるからそれはそれでよくて、新しいものを何かクリエートしないといけないのか。そういうことがもし起きたときに、そこはまさに今文化政策として考えておくことではないかという気がいたしました。
 つまり、今売れているから、売れそうだから支えるというのは、これはむしろ経済政策で、仮にそれが傾いてきたとしても、それはやはり日本で生まれた漫画というのは支えないといけないと思うべきなのかどうかということを考えました。
 フランスが今映画産業としてやろうとしているのはまさにそういうことだと思うのです。かつての栄光のフランス映画が凋落しつつあって、それを何とか支えたいと思っていると思うのです。例えば日本のアニメがこうなったときにどうすべきかというのを今考えてみるというのは1つ役に立つのかもしれません。

渡邊委員 文化の多様性の中での文化政策というのは、本来それぞれの国々が自ら考えて行う権利を持っているわけです。これは義務でも何でもないわけです。そこでさっき言ったような、今度はその文化の持続力というもの、あるいは活動力というものをつけるための教育システムあるいはその支援システムというのが文化政策として重要になってきているわけでしょう。その中で政府がやっているのが主として補助金である、助成金を出すということ。しかしその規模については日本はそれほど豊かでないというので、今根木さんがおっしゃったように相当たくさんの文化団体が何とかしてくれと言ってきている。
 ただ、僕らも韓国についてはそれほど知識はありませんけれども、韓国は例えばアニメーションなんか、教育のところから国が関与している。かつてスポーツの世界でステートアマというのが問題になったけれども、いうなれば、そう言ってしまうと行き過ぎかもしれないけれども、そういう国の意識を持って自分の立っている産業、文化的産業をつくろうとしている。
 日本は恐らくそこまでの意識はどこにも持ってなかったのではないでしょうか。ただ古いものについては、なくなっては大変だという危機意識の中で一生懸命お金をつぎ込んできた。しかし今そのつぎ込んだ結果が、たまに日本の伝統を受け継いだ若いアーチストたちが外側に出て世界的な評価を得るということになってきているのです。それは1つの文化の動きとして非常に好ましい動きであって、私も大変歓迎しているのだけれども、そういうふうになるということは恐らく文化自身も予定してなかったことだと思うのです。文化活動というのはそういう予定を超えるところに恐らく本来意味があるのだろうと思うのです。
 だから、そういう結果が出てくると、やはりこういう伝統的な技術や産業なりを守ってきた、支援してきたという意味が初めてそこで新しい意味というか、活性化が出てきたということを私自身としては大変うれしいと思っているのです。
 そうしますと、活動様態をどうするかというのが私どもの文化政策の問題になってくるだろうと思って、その辺について、各国はそれぞれ主権を発揮していいわけです。それは何もあれこれ言うはずではない。ただ1つの産業というふうになってくると、今言ったように相手のところに出かけていくことになるので、いわゆる相手のところでの活動になるわけで、相手側の立場を考えなきゃいけない。そこが調整なんですよ。だからその調整をし得るような根拠をこの多様性条約が持つのか持たないのか、そこまでのことを予定するのかしないのか、さっきの物とサービスと言っても結局はよそのところへ移動していくわけです。あるいはよその国のものが移動してくるわけです。そこの受けとめ方、発信する側と受けとめ方の関係を調和させなくてはいけない部分がどのように生じるのかどうか。恐らく何か問題が現在あるから将来についても生じるかもしれないという予測はあるだろうと思うのですが、そこの問題を、今言ったように音楽とか、日本の場合外へ出ていってもさほど相手の産業に影響を与えないというようなことだったら、それは結構となるのかもしれないのだけれども、単純にそういう場面、サービスという、そういう場面がサービスなのかどうか。要するに売り手、売る方の内容についてはどうですか。それは、態様は規制はないのです。ある行動のパターンだけですよ、対象になるのは。

河野委員 少しお話がずれるかもしれませんが、最近ちょっとマスコミを賑わしました著作権法の改正がございました。アーチストがあれに反対声明を出しまして、安い輸入盤が買えなくなって、それで反対。私あれを見ておりましておもしろいなと思いましたのは、日本のアーチストは、言い換えますと、文化の多様性を損なうじゃないかと言ったのです。つまり洋楽に対するアクセスがそこで閉ざされるから困ると言ったのです。さらにひねくって考えますと、自分たちのマーケットが侵されるという危機感がないわけです。自分たちのマーケットと洋楽のマーケットというのは別に存在していて、自分たちのマーケットが侵食されるという恐れを全然持ってないわけです。
 それは日本語の世界に守られているというところがあることは事実だと思うのですけれども、フランスのこの条約の後ろには、私が漏れ聞くところによりますと、フランスの芸術家とか劇場関係者とか、そういう人たちが裏にロビーをしている。自分たちの活動の場がどんどん狭められるので、それを確保するという目的はあると。
 だから、文化産業にまさに直接に携わっている人たちの意識のありどころがちょっと違うので、政策論も大変やりにくいなという感じをいたします。

渡邊委員 今の著作権の問題と若干絡むのですが、知的資産の保護あるいは権利の問題で、僕の聞きかじりなのですけれども、例えば民俗の行事というのがありますよ。民俗にもフォークロア的なものともっと大きなレーシーの問題があるわけだけれども、そういう人たちの行事について、著作権に近い自分たちの知的財産である財産権の主張というものが今レイバイトしているということです。これは恐らく文化多様性条約に微妙に絡んでくる問題ではないかなと思うのです。それは当然文化の交流、移動にものすごく密接に関係してくる問題です。
 こういう問題について、やはりユネスコの中ではかなり論議されていると思うのですが、今どんなところで議論が済んでいるのかということを、もし情報がありましたらお願いします。

河野委員 私ばかりしゃべって恐縮でございますが、知的所有権の要するに伝統的な知識や芸能に対する知的所有権的保護は、無形遺産条約のときに相当議論をされまして、今回も専門家会合で何度も出てまいりました。政府間会合になっても出てくる可能性は十分にございます。今WIPOでそれに関するワーキンググループがつくられて、作業は行われておりますけれども、目に見える形の成果が出ないということもありまして、途上国を中心としてその点でかなりフラストレーションを持っているところはあると思います。
 ですから、これとの関係でもう1つ極めて難しい問題が出てくる可能性は、おっしゃるとおり十分あると思います。

渡邊委員 著作権みたいな方法については大概年限が決まっている、年限が来れば適当に解消する、一般化されてしまう運命にあります。しかし、知的遺産の所有の権利というのはずっと持続する、何年で切れるという話じゃないわけです。さらに文化の多様性を維持する1つの方法としてそういう問題が提起されてくるということは当然あり得るわけです。その辺の認識はどういうふう考えているのですか。

河野委員 伝統的に伝承されてきたものをある種の財産権として保護するのかというと、今の権利保護の体系にうまく乗らないわけです。コミュニティ全体として伝えてきたものはコミュニティ総体がその権利を持つというのは、今の世界の財産権の体系に合わないわけです。ですからそこは極めて難しく、きちんと法的な処理は今のところできておりません。

富澤座長 議論が大変白熱しておるわけですけれども、先ほど最後に河野委員が言われた、この多様性を主張する各国の、特にヨーロッパの各国の議論の背景に、そういう芸術団体や、芸術家たちのロビーイングがあるというご指摘がありましたけれども、そういうことを含めて次回、芸術団体あるいはいろんな文化団体、協議会、あるいは映画の普及の団体などの意見も聞くということになっておりますので、次回の第3回の会合について事務局からご説明をいただきたいと思います。

池原課長 それでは、資料の4にございますように、次回の会合は7月21日水曜日の14時から16時30分まで、こちらの文部科学省のビルのこの会議室の隣の10F-3会議室を予定しております。本日いただきました議論も踏まえまして、課題の整理をさせていただいて、それを関係団体の方にご説明をして、この場でご意見をいただけるという団体についてご出席をいただこうと思っております。第3回の会合では、これまでオブザーバーでご出席いただいております外務省、総務省、経済産業省から、各省で進められている文化多様性に関する施策のご紹介や、文化多様性の条約についての考え方等についてご紹介をいただく。また、今座長からありましたように、日本がこれから外に出ていこうというような関係で取り組みをされている幾つかの芸術文化関係団体においでをいただきまして、それぞれ現在どういう問題があるのか、またこういった文化多様性条約というものができた場合にどういう問題があるのかといったようなことについてご意見をちょうだいしたいと考えているところでございます。
 なお、ヒアリングでございますので、若干16時30分よりも延びる可能性がございますけれども、その点ご容赦いただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

富澤座長 ありがとうございます。
 議題を整理していただく際に、きょう議論になりましたように文化産業のところがやはり大きな争点になるのではないかと思うのです。それと純粋な文化というところはそんなに各国大きな議論にならないと思うので、そこのところを特に整理していただければありがたいと思うのです。
 ただいまの事務局のご説明について何かご意見なりご注文、ご発言がありましたらお願いします。根木委員どうぞ。

根木委員 関係ない話なのですが、資料1というのはこのままペーパーか何かになるのですか。それとも単なる今日の討議の資料という意味合いだけなのですか。

池原課長 最初にご説明をすればよかったのですけれども、一応この検討の会議は9月の20日からユネスコの方で政府間会合があるということで、それに向けた、我が国として文化多様性についてどのように基本的に考えていったらいいかということについての基本的な考え方を整理していただくということでございますので、期日的にもそれほど余裕がないということもございますので、この資料の1を、今いただいた意見などを踏まえ、かつ次回の各関係省庁あるいは関係団体からのご意見も踏まえながら、徐々に充実させたものにして、この作業部会における基本的な考え方の整理のものにしていきたいと考えております。

根木委員 それでは、3ページの2の(1)の3つめのポツのところですけれども、「80年代以降地方の時代、文化の時代が叫ばれるようになり、文化に個性化の方向が求められるようになった」の次ですけれども、「こうした動きの中で文化的中央と文化的地方が解消され」というのは、少し言い過ぎで、例えば「文化的地方の解消と国内での文化多様性についての認識が深まり始めた。」などの表現にした方がよろしい感じがいたします。

渡邊委員 過程の論点整理だと理解しておけばよろしいのじゃないでしょうか。

富澤座長 どうぞ小寺委員。

小寺委員 争点が非常にクリアになったと思いますが、もう1つ実は隠れた争点があると私は思っていまして、それは国際協力の部分です。国際協力も、国際協力はいいからやろうというような話ではなくて、やはり日本にとってどういう国際協力が望ましいのか。つまりお金だけ出して、それで後は人材の育成、特に重要なのは人材育成だと思うのですが、それはヨーロッパで行われていくとかアメリカで行われていくとか、そういう形ではなくて、文化多様性という観点からすると日本というのは土壌としては非常にいいと思うのです。日本において国際協力を実施できるような仕組みはどうあるべきか、こういう政策についてもぜひこの審議会で議論できるようにお願いしたいと思います。

富澤座長 きょうは時間がなくてそこのところは余り議論できなかったのですが、非常に大事なことだと思いますので、特にそれは今後議論を深めていきたいというふうに思います。

渡邊委員 今の点で補足をさせていただきますと、文化庁の国際課の方で国際協力等推進何とかと、私もそれの役員をやって、どういうプレゼンスをするのがよろしいのでしょうかという話をしておりまして、ご期待に沿えるような結論が出るかどうかわかりませんが、一応そろそろ各論に入る、長官に対する答申をするということになっていますので、そういう話が進んでいるとご認識ください。

河野委員 それではついでに、今のことに関係いたしまして、無形遺産条約を日本が3番目にこの間批准国になりまして、それで私、3月の末にユネスコの無形課長をしておられるスニーツさんという方とお話をする機会があったのですが、無形遺産条約の発効に向けまして、世界何カ所かにリージョナルオフィスを設けて、それで世界の無形遺産の振興に努めるということを考えているのだそうです。
 それで、今の小寺委員、それから渡邊委員のお話からしますと、私は日本にそれを誘致しない手はないのではないかと思いますので、もし作文をされる機会がありましたら一言触れていただきますと大変うれしゅうございます。

渡邊委員 今の話は少し別な方で,行政的に動いているのですね。余り私がかれこれ言うては行政の権限を侵しますので、その辺だけにとどめておきます。

富澤座長 ありがとうございました。
 時間が大分押してまいりましたので、これで作業部会の第2回会合を終わりたいと思います。次回またどうぞよろしくお願いします。
 ありがとうございました。
午後5時38分閉会


(文化庁長官官房国際課国際文化交流室)

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