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著作権分科会 契約・流通小委員会(第3回)議事録

1.日時: 平成17年6月23日(金曜日)10時30分〜13時

2.場所: 経済産業省別館10階1014会議室

3.出席者:
(委員)
荒川、池田、石井、上原、児玉、駒井、佐々木、椎名、菅原、瀬尾、関口、寺島、土肥、生野、松田、三田、村上、森田、山本の各委員
(文化庁)
辰野文化庁長官官房審議官、吉川文化庁著作権課長、池原国際課長、川瀬著作物流通推進室長、木村著作物流通推進室長補佐、野田係長ほか関係者

4 議事次第
 1. 開会
 2. 議事
(1) 裁定制度ついて
(2) その他
 3. 閉会

5 資料
  資料1   我が国の裁定制度の概要
資料2−1 著作権者不明等の場合の裁定申請の手続き見直し等について
資料2−2 過去の裁定等の実績
資料3−1 我が国裁定制度の国際著作権条約上の位置付け
資料3−2 国際著作権条約上の留保等について
参考資料1 著作権制度審議会答申・答申説明書(抄)(PDF:171KB)
参考資料2 諸外国の立法例
参考資料3 著作物利用の裁定申請の手引き
(※文化庁ホームページへリンク)

議事内容
  (土肥主査) 皆様お揃いでございますので、ただいまから文化審議会著作権分科会「契約・流通小委員会」の第3回を開催いたします。
 議事に入ります前に、本日の会議の公開について決定したいと存じます。すでに傍聴者の方には入場いただいておるところでございますけれども、予定されている議事内容を見ますと、非公開とするには及ばない、こう思われますので、公開としてよろしゅうございますでしょうか。

  〔異議なしの声あり〕

   ありがとうございます。それでは本日の議事は公開といたします。
 議事に移りますけれども、初めに事務局の人事異動について報告をお願いいたします。

(川瀬室長) それではご報告をいたします。6月20日付で事務局に異動がありました。新しく千代光一長官官房国際課国際著作権専門官が就任しております。すみません。今日はちょっと所用で遅れております。それから、前任の岩松につきましては、経済産業省産業技術環境局に就任しております。以上でございます。

(土肥主査) はい。ありがとうございました。それでは事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

(木村室長補佐) それでは配付資料のほうを確認させていただきます。事務の確認の前にお願いでございますが、現在中央省庁では省エネも含めましてクールビズということで、軽装で会議等もさせてもらっております。どうぞ先生におかれましても、上着等、軽装で会議を進めさせていただければと思います。恐れいります。
 それでは本日の配付資料のほうを確認させていただきます。資料は3種類ほどございまして、上から資料1「わが国の裁定制度の概要」、A3の1枚物です。次に資料2-1「著作権者不明等の場合の裁定申請の手続き見直し等について」、2枚物でございます。資料2-2「過去の裁定等の実績」です。数枚になっておりますが、これが1つとなっております。資料3-1「わが国裁定制度の国際著作権条約上の位置づけ」の資料、続いて資料3-2「国際著作権条約上の留保等について」という資料です。ここまでが本日の資料でございまして、その後に参考資料といたしまして3点付け加えさせてもらっております。参考資料1「著作権制度審議会答申・答申説明書抄)」です。次に参考資料2ですが、「諸外国の立法例」。最後に参考資料3「著作物利用の裁定申請の手引き」、以上でございます。不足等ございませんでしょうか。ありがとうございます。

(土肥主査) ありがとうございました。本日の議題は「裁定制度について」でございます。これは本年1月にとりまとめられました「著作権法に関する今後の検討課題」におきまして、「裁定制度のあり方」に関しましては、法制問題小委員会における検討に先立ち、契約・流通小委員会において検討する、こうされていることを受けたものでございます。
 したがいまして、本日と次回の2回にわたり、本小委員会として検討を行い、検討結果を法制問題小委員会へ提出したいと存じます。
 それでは検討に入ります前に、事務局から資料の説明をお願いいたします。

(木村室長補佐) それでは資料1をご覧ください。資料1は「わが国の裁定制度の概要」を1枚物にまとめさせてもらっております。表頭のほうに規定、名称を書かせてもらっておりまして、各規定ごとにその関係条文の対象となる利用著作物等、手数料のところまでを整理させてもらっています。ここで簡単に概略を紹介させていただきます。
 まず1つが、著作権者不明等の場合の利用の裁定。これは著作権法の第67条の中で規定されております。この対象となる利用著作物ですが、公表された著作物であって、相当期間にわたり公衆に提供され、もしくは展示されている事実が明らかである著作物。この著作物の利用につきまして、申請の前提なんですが、著作権者をいくら捜しても不明であった、かなり相当な努力を払ってもその著作権者と連絡することができなかった。こういった時に裁定の申請ができることとなっております。
 裁定の申請は文化庁長官に申請をいたしますが、長官のほうから文化審議会に補償金の額を定めるための諮問等、こういったものが進められ、決定された補償金、これを供託して初めて使えるという形になります。
 次に著作権者と協議不調の場合の放送の裁定、これは著作権法第68条で規定されております。これは公表された著作物について、対象となる利用は放送だけですけれども、申請者は放送事業者となります。これは著作権者に対して放送の許諾について協議を求めましたが、その協議が成立しない。またはその協議をすることができない時、こんな時にこの裁定制度を利用するができます。これにつきましても文化審議会に諮問され、相当の使用料の額が決定され、これを著作権者のほうに支払う。その受領を拒否された場合には供託していただく。こういった手続きをとって使うことができるようになります。
 次に、著作権者と協議不調の場合の商業用レコードへの録音等の裁定です。著作権法第69条で規定されております。これは最初に国内において販売され、かつその最初の販売の日から3年を経過した商業用レコードに録音されている音楽の著作物、これが対象となります。その著作物について、対象となる利用は録音または譲渡、これについて商業用レコードを製作しようとする者が申請することができるのですが、その前提条件といたしましては、著作権者に対して録音または譲渡による公衆への提供の許諾につき協議を求めたが、その協議が成立しない。またはその協議することができない。こういった場合に、この裁定制度を利用することができます。これにつきましても文化審議会のほうに諮問されまして、相当の額の使用料の額、こういったものが決定され、その額を著作権者へ支払う。また、受領を拒否された時は供託して使うということになります。
 次に著作権法とは別に、万国著作権条約特例法の第5条によるものですが、翻約権の7年強制許諾というものがございます。この対象となる著作物でございますが、万国条約に基づいて著作権法による保護を受けている文書、これの日本語による翻訳物の発行、こういった利用についての裁定制度ということになります。
 これにつきましては、その申請の前提条件ですけれども、最初の発行の日の属する年の翌年から起算して7年を経過した時までに、翻訳権を有する者またはその者の許諾を得た者によって、日本語で、その翻訳物が発行されず、または発行されたが絶版になっている場合であって、資料の「6.申請の前提」の12というものがございますが、こういった状況に該当するような時にはこの裁定制度を利用することができる、というふうになっております。
 これにつきましても申請がありますと、補償金の額等につきましては文化審議会に諮問されまして、相当の額の補償金の額を決定されます。また、補償金の支払いにつきましても、翻訳権者への支払い、またはその受領を拒否された場合には供託して、そして使うことができるようになるというものでございます。
 これらにつきまして、これまでの実績でございますが、資料1の実績の「欄12」のところに件数をまず示させてもらっております。著作権者不明等の場合の利用の裁定、これにつきましてはこれまで現行法制定以降昨年度までですが、実績30件、この裁定制度が利用されております。著作権者と協議不調の場合の放送の裁定及び著作権者と協議不調の場合の商業用レコードへの録音等の裁定、これにつきましてはこれまで実績がございません。翻訳権の7年強制許諾、これにつきましてはこれまで1件の実績がございます。
 この具体的なものにつきましては、本日配布しております資料2-2のほうに整理させてもらっております。最初の1ページ目から5ページ目までですが、ここが著作権者不明等の場合の裁定による裁定の実績、30件です。最後の6ページ目のところですが、ここが翻訳権の7年強制許諾に関係する裁定制度の利用によって利用された実績1件でございます。各々詳細の説明につきましては省略させていただきます。
 また資料1のほうへ戻っていただきますが、この中でさらに著作権者不明等の場合の利用の裁定についてですが、この裁定につきましては先ほど申請の前提といたしまして、著作権者の不明、その他の理由により、相当な努力を払っても著作権者と連絡することができない時、こういったケースを示す場合にこれまでかなりの努力をしてもらっているところがあったわけなのですが、これにつきまして申請の際に利用しづらいというような意見もありまして、見直しといったものを進めてまいりました。その関係につきまして、資料2-1のほうで説明させていただきます。
 資料2-1をご覧ください。著作権者不明の場合の裁定申請の手続きの見直し等についてです。この裁定制度についてですか、利用しづらいという意見がありまして、「知的財産計画2004」におきまして、手続きの見直しが求められておりまして、手続き上の見直しの内容を次のように整理させてもらっております。
 1つは、不明な著作権者を捜すための調査方法、それをここに書いてあります5項目に整理させてもらっております。これまではこのような調査方法につきまして、必ずしもこれこれこういった項目だけでよろしいというようなきちっとした整理というのはなかなかなかったような状況もございまして、きちんと整理したものでございます。
 1つは著作者の名前からの調査、2つ目、利用者、例えば出版社などですけれども、こういったところへの照会。3つ目といたまして、一般やその関係者への協力要請をしながら捜してみる。あと、4つ目としまして、専門家への照会。さらに5つ目として、著作権管理団体への照会。こういったところをまず捜してください。そこで捜した結果がどうだったでしょうか、ということになります。
 このうち3番目のところてすが、一般や関係者への協力要請につきましては、これまでは新聞雑誌等への広告掲載、こういったものによって捜し出すようなことを求めておったわけですが、申請者の経済的負担を軽減する観点からインターネットのホームページ、こういったところへの広告掲載でも3番目の協力要請をしたものとして扱うようにしております。
 なお、インターネットによる効果的な調査につきましては、著作権情報センターのほうでも今年の4月25日から「不明な著作権者を捜す窓口ホームページ」、こういったものを開設いたしまして、この著作権情報センターのホームページのほうに掲載して捜すような準備もさせてもらっております。
 これらの「申請の手引き」につきましては、本日参考資料3といたしましてお配りさせてもらっております。
 次に、わが国の著作権制度の中で裁定制度を設けた立法趣旨のことにつきまして、説明をさせていただきたいと思います。参考資料1をご覧いただきたいのですが、この立法趣旨でございますが、現行の著作権法の中にあります67条、68条、69条のところにかかるものでございます。これは著作権制度審議会の答申でございますが、昭和41年に答申が出されておりますけれども、その中で立法趣旨として、このような説明がされておりまして、参考資料1のほうの1枚目のほうでいきますと、1つ目、著作権者不明等の場合の裁定でございますが、これにつきましては旧法時代にもございまして、これについてはそのまま維持するということにしております。
 次に放送に関する裁定制度ですが、これにつきましても旧法時代からありまして、現行法でも維持するということになっております。
 3つ目でございますが、レコードに関する裁定制度でございますが、ここにつきましては音楽的著作物の録音権ですけれども、最初の録音物が発行されて一定期間経過後、広く解放されることが必要ということなのですが、そのような必要な中、法的措置だけでなく、関係当事者間における自主的な措置とその録音権仲介機関による管理の制度の整備、こういったもので実現されることを期待しておるということで、その一定期間、すぐとか、かなり期間を置くとかあるわけなのですが、3年間くらいの期間を置いてから広く解放されること、こういった整備をしていきたいということでございます。
 これにつきまして、関係当事者といいますのは、その当時、レコード会社等への作家専属制等、そういったそれまでの慣習で行われまして、そういったところを少し見直していきながらということもございまして、関係当事者間の自主的措置としてなかなかいかない場合には、法的措置としていろいろ考えていきましょうということで、この5番目のところですが、録音物の発行後3年を経過した著作物の録音利用については、レコード製作者と著作権者との間に協議が整わない場合は、レコード製作者は文部大臣の定める補償金を支払って、著作物を録音し、またその録音物を発行することができるものとするということで、現行法になってから設けられた制度でございます。
 そのさらに細かな答申の説明資料につきましては、この後ろのほうについておりますが、ここにつきましては説明のほうを省略させていただきます。後ほどご覧いただければと思います。
 最後に、諸外国の立法例、条約につきまして、説明をさせていただきます。資料3をご覧いただけますでしょうか。わが国裁定制度の国際著作権条約上の位置づけにつきまして、資料を整理させてもらっております。
 まず、強制許諾、法定許諾、自由使用、著作権の制限、こういった概念についてでございますが、一般にはどのように整理されておるのかということを整理させてもらっております。これにつきましては、WIPO著作権・著作隣接権用語辞典のほうから、そのまま抜粋させてもらっております。
 1つ目は強制許諾ですが、特定の場合に事前に権限ある機関または著作権団体に申請して、当該機関、団体が許諾を与えることで著作物を利用することができる制度、これが強制許諾というふうに整理されております。
 次に法定許諾ですが、これにつきましては特定の場合に権利者への事前の通報を行うことなく、著作権使用料を支払うことによって、つまり法律が許諾を与えるということなのですが、法律が許諾を与えることで著作物を利用することができる制度となっております。
 3つ目が自由使用です。特定の場合に許諾を得ることなく、無料で著作物を利用することができる制度という整理がされております。
 4つ目ですが、著作権の制限についてです。著作物の利用に関して、著作者の排他的権利を制限する著作権法上の規定ですが、これまで説明しておりました強制許諾、法定許諾、自由使用、こういったものが著作権の制限として規定されるものになります。
 次にわが国の裁定制度の条約上の位置づけにつきまして、各条約の中で強制許諾、こういったものがどのように位置づけられておるのかを説明させていただきます。
 これにつきましては資料3-2と併せて見ていただければと思います。実は資料3-2では、国際著作権条約上の留保等につきまして、1つが著作権、1ページ目でございます。あと、2ページ目以降、著作隣接権といたしまして実演家、さらに3ページ目にいってレコード製作者、そして放送事業者、みんな関係します国際条約がございまして、その各々につきましてどのような強制許諾を含めた権利制限・例外に関する規定があるのかというものを整理させてもらっております。なお、これらに関係します各条文等につきましては、4ページ以降に細かなものを、関係する部分だけでございますが、示しております。
 まず1つ、著作権の関係で出てまいりますが、ベルヌ条約上の位置づけでございます。ベルヌ条約では放送及び録音について強制許諾といったものが認められておりまして、これが放送、11条の2の(2)というところになりますが、5ページ目になりますか。5ページ目の左上のところですが、これが第11条の2の放送権等の中の(2)のところなのですが、この中で「著作者の人格権を害するものであってはならず、また協議が成立しない時に権限のある機関が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害するものであってはならない」という形で示されております。
 あと次、録音の関係ですが、これについては13条の(1)のところです。同じ5ページ目の中の左側の下になりますが、13条(1)です。録音権に関する留保等ということで、最後のところですか。(1)の「その留保及び条件は、協議が成立しない時に権限のある機関が定める」云々ということで示されております。
 先ほどの資料3-1の2ページ目になりますが、ベルヌ条約の関係ではさらに複製権につきましても強制許諾の規定がございます。第9条の(2)のところになりますが、ページでいきますと4ページ目、左側になります。第9条、複製権、(2)です。「特別の場合について(1)の著作物の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保される」ということですが、「ただし、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする」。このような形で規定されて思います。
 あと、ここには条文として明文化されておるものはないのですが、資料3-1のほうに戻りますけれども、2ページ目の3のところです。1967年のストックホルム会合での合意によりまして、伝達系の権利、これにつきましても「小留保」に基づきまして、加盟国は著作権の制限を法律に定めること、こういったことが禁じられてはいないということが確認されております。
 次にローマ条約上の位置づけにつきまして説明をさせていただきます。資料3-2のほうでは、2ページ目以降のことになります。ローマ条約上の位置づけでは、実演家あるいはレコード製作者、放送事業者等にですが、1つは第15条の第2項によって、著作権のことに関して「国内法に定める制限と同一の種類の制限を定めることができる」というふうに規定されております。
 これにつきましては細かな条文のほうは、資料3-2の9ページ目になりますけれども、左側でございます。第15条、保護の例外というものでございます。まず、この2項目のところで、「締約国は、国内法令により、国内法に定める制限と同一の種類の制限を定めることができる」というふうになっております。
 ただし、注意しないといけないのが15条の第2項の「ただし、強制許諾は、この条約に抵触しない限りにおいてのみ定めることができる」というふうに制限をされております。
 次にまた資料3-2の1ページ目に戻っていただけますでしょうか。ここでWCT、WIPO著作権条約の関係、あとさらに2ページ目以降のWIPOの隣接権条約の関係、あとさらにTRIPS協定のことについてもご紹介させていただきます。
 資料3-2の1ページ、2ページ、3ページ目のところに整理してあることを、まず全体の概要をまとめますと、資料3-1の2ページ目、(3)のところに書いてあるようなまとめ方になるかと思います。ここに書いてありますWCT、WPPT、TRIPSの条約ですが、強制許諾について特段の定めはないのですが、「スリー・ステップ・テスト」に基づく著作権等の制限が認められております。このため、「スリー・ステップ・テスト」に基づいて強制許諾を定めることも許されるというふうに解されておるところでございます。
 具体的な条文のほうをこれから見ていきたいと思いますが、まずWCTでございますけれども、資料3の2の1ページ目になります。WCTでは、まず第1条の(4)といったところがございますが、これはベルヌ条約との関係を示しております。これは具体には6ページ目のところに記載されておりますけれども、右下のところになります。ここから第1条、ベルヌ条約との関係ということになります。
 1枚めくっていただきまして7ページ目のところですが、ここで(4)というものがございます。「締約国は、ベルヌ条約第1条から第21条までの規定及び当条約の付属書の規則を遵守する」というところがございまして、ベルヌ条約との関係をここで示しております。
 これにつきまして制限及び例外に関する規定ですが、第10条に規定されておりまして、これが同じ7ページ目の右側のちょっと上辺りになりますが、第10条、制限及び例外ということで、ここで規定されております。先ほど「スリー・ステップ・テスト」等のことを申し上げましたが、この10条の(2)のところでも示されておりますけれども、「ベルヌ条約を適用するに当たり、締約国は、同条約に定める権利の制限または例外を、著作物の通常利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定する」というふうに示されております。
 次にTRIPS協定のことについて申し上げます。TRIPS協定のまず著作権の関係のほうを申し上げますと、まず第9条、ここでベルヌ条約との関係が規定されております。これは資料の7ページ目、右下のところになりますが、第9条、ベルヌ条約との関係というものがございます。ここに基づくものということで示されておりまして、これに関係します制限及び例外規定ですが、1枚おめくりいただきまして8ページ目の第13条のところに制限及び例外ということで、こちらにつきましても先ほどのスリー・ステップ・テストに基づく著作権等の制限が認められていると思います。
 次に著作隣接権の関係につきまして説明をさせていただきます。WPPT、TRIPS協定の隣接権に関係する部分のところでございます。これは資料3-2の2ページ目をまずご覧いただきたいのですが、WPPTには関係します権利のところにつきまして、第6条、7条、8条、9条、10条、15条というものがあるのですが、これにつきまして各々制限及び例外を設けております。これが第16条、15条の部分ですが、この同じ資料の中の10ページ目をご覧ください。
 まず16条でございますが、ここで制限及び例外についての規定をしております。さらに第15条のところですが、放送及び公衆への伝達に関する報酬請求権ということで、こういったものも規定されております。
 あと、いま言いましたのは実演家に関することでございますが、次のレコード製作者に関係しましても、11条、12条、13条、14条、15条とここで関係するんですが、それについても同じように先ほどの制限及び例外規定ですが、15条、16条で規定されております。なお、WPPTにつきましては、放送事業者について定めている部分はございません。
 次にTRIPS協定についてです。TRIPS協定につきましては、実演家、レコード製作者、放送事業者、ともに関係しておりまして、ここの中で留保等規定がされております。これにつきましてはTRIPS協定の第14条をご覧いただきたいんですが、ページにいたしますと8ページ目になります。
 ここの14条のところですけれども、14条のところの6項のところを見ていただきたいのですが、「1から3までの規定に基づいて与えられる権利」、これは実演家、レコード製作者、放送機関等に関係します権利の部分ですけれども、「加盟国は、ローマ条約が認める範囲内で条件、制限、例外及び留保を定めることができる」というふうに規定されております。
 さらに14条の4項のところでございますが、ここでは「報酬請求の制度を有している場合には、レコードの商業的貸与が権利者の排他的複製権の著しい侵害を生じさせないことを条件にして、当該制度を維持することができる」というふうなことで、こちらも規定されております。
 これがWCT、WPPT、あとTRIPS協定上での著作権並びに著作隣接権についての規定のされ方についてでございます。
 最後に参考資料2といたしまして、諸外国の立法例としまして、参考資料を配らせてもらっておりますので、こちらのほうを説明させていただきます。
 この資料につきましては、諸外国の立法例を著作権者不明等の場合の制度等、またさらに音楽著作物のレコード等にかかる制度、さらにその他といたしまして、我が国には見られないような立法制度まで、こういったものを整理させてもらっております。これらの制度につきましては、わが国と諸外国、各々条約への加盟の状況とか、国内法における権利の規定が異なっておりまして、一概に日本のものと比べてどうだという比較はなかなかできないものでありますし、また各国での制度の運用状況まで、実はまだ詳細まで把握してはおりませんので、あくまでも参考までとして今回は紹介させていただきたいと思っております。
 まず、著作権者不明等の場合の制度等ということで、ここにはカナダ、韓国、英国、香港、米国を紹介させてもらっていますが、カナダと韓国につきましては、日本の裁定制度とちょっと似ておりまして、相当な努力を払って著作権者等を捜しましたけれども、その所在等がわからない場合には、権限ある機関が権利者に代わって許諾を与えるというふうなものでございます。
 あと、英国と香港の制度でございますが、これにつきましては無名または変名の著作物という見出しの条文がありまして、ここの中で合理的な調査によって著作者の身元を確認することができない時とか、著作権が消滅していること、もしくは著作権者が70年以上前にもうすでに亡くなっていると推定することが合理的な時は著作権の侵害とならない、といふうに規定しております。これにつきましては、運用実態がよくわかりません。不明でございます。
 あと米国につきましてですが、ここは著作権者不明等の場合の制度といったものがございませんで、権利者を特定することが困難・不可能な著作物の利用に関しまして、パブリックコメントを最近実施したところと伺っておりまして、今年度中に何らかの報告がまとまるのではないか、というふうに思っております。
 あと2つ目でございますが、音楽著作物のレコード録音等にかかる制度でございます。レコード録音等にかかる強制許諾制度といいますのは、実は先ほど参考資料の中で立法趣旨の説明をさせていただきましたけれども、立法趣旨の説明の中に答申説明資料というものが2ページ目についております。そこの中で音楽著作物のレコード録音等にかかる制度といたしまして、その当時は英国、米国、西ドイツに立法例があるというふうに説明されております。ただし、現在の英国法にはこのような規定は置かれてないようでございます。
 まず、ここで米国の場合ですけれども、1909年法の強制許諾制度といったものを現行法でも維持しております。これは115条ということになるのですが、なおこの改正審議の初期の段階で、この制度の存続とか廃止とか、この辺が非常な論点となったようであります。
 米国の強制許諾の特徴でございますけれども、レコードの複製物の頒布だけではなくて、レコードのデジタル送信についても対象とされている点が挙げられるかと思います。我が国の強制許諾制度よりも、対象が広いのではないかと思います。
 ドイツの場合には、わが国や米国の制度と異なって、権利者に対する録音許諾の応諾義務を課しております。
 3つ目のその他についてですが、わが国には見られない強制許諾、法定許諾、またそれに類する制度を紹介させてもらっております。
 まず1つ目、実演に関係するものですが、英国法の中の190条でございますけれども、実演の録音・録画物の複製物を作成することを希望する者の申請を受けまして、複製権者の身元やその所在を合理的な調査によって確認することができない時には、著作権審判所が同意を与えることができるというふうに規定されております。実態等、どのようになっているのかは不明ではありますけれども、権利者不明の場合の強制許諾制度の一種ではないか、というふうに考えられます。
 次にその他の2つ目の再送信の例ですけれども、放送のケーブルシステムによりまして2次送信することに関する法定許諾等の立法を紹介しております。
 米国の場合ですけれども、111条によりまして法定許諾制度を置いております。あと、英国法の第73条、ほかにフランス法の217の2条、こういった立法例などで法定許諾の例が挙げられております。
 なお、この法定許諾につきましては、日本の著作権法の場合にはこの法定許諾、法律でも法定許諾をしているという例はございません。こういった立法がございません。、先ほどちょっと説明不足しておりました。
 あと、次にその他の3つ目、複写についてですが、強制許諾とはちょっと異なるのですが、複製に関する集中管理制度といたしまして、フランス法の122の10条といったものが出ております。複写複製権につきましては、著作物を発行することによりまして、原則として文化担当大臣の認可を受けた管理団体に譲渡されまして、利用者との契約は当該団体によってのみ行うことができるというものであります。
 最後にその他の中でも本当にその他ということで、米国法に見られるいくつかの法定許諾の制度をご紹介させていただきました。項目だけ挙げさせてもらっておりますけれども、114条の(d)(2)のデジタル音声送信による利用に関する法定使用許諾、これはかなり詳細な条件の下で認められておるような例でございます。
 併せて112条の(e)でございますが、ここでは114条によりますレコードのデジタル音声送信に際しての放送事業者による一時的固定物の作成の法定使用許諾、こういったものを規定しております。
 その他にも116条のジュークボックスにかかる交渉による使用許諾、あと119条、122条の放送された著作物の衛星通信による再送信の法定許諾、こういった例がございます。
 以上、すべてではないのかもしれませんが、外国立法等につきましてわかっている範囲の中でその事例を紹介させていただきました。説明の時間が長くなりましたが、以上でございます。

(土肥主査) ありがとうございました。ただいまの説明を踏まえまして、制度ごとに検討をしてまいりたいと存じます。
 まず最初に著作権者不明等の場合の裁定制度、67条、この裁定制度についての検討をしたいと存じます。検討すべき点は恐らく多々あるのではないかと思うのですけれども、この点に関して何かご意見、まずいただける方、おいでになりますでしょうか。松田委員、お願いいたします。

(松田委員) 実際上、審議会に諮問が図られて、補償金額が決まった額というのがどれくらないのかわからないんですね。これ、こういう制度を作る時にどれくらいのボリュームのものを利用するのか、そしてそれがどれくらいの費用で行われるのか。つきましては、手続きを踏むコストも含めまして、実際上利用できる制度でなければ意味がないわけですね。世の中の利用、特に最近のコンテンツをデジタル化して再度利用したいという要請はすごくあるのだけれども、実績は30件しかない。多分、これはそれほど大きなコンテンツではない、ないしはボリュームではない。それを利用する場面においても、使用料としてはそんなに大きいものではない。しかし、申請をしたり、インターネットで公表したり、なおかつ調査手続きをとったりというようなことがおおよそ面倒くさい。そんなことをするならば、ということになってしまう。そういうものは再度利用させなくてもいいということになるのかもしれないけれども、経済効率との関係で、これはやはり見てみたいのですが、買いたいのですけれども、どれくらいの使用料が決まっているのか。これはもちろん1件ずつが公表できないものですけれども、可能な限りでお願いしたいと思います。

(土肥主査) 今の点、事務局から、どの部分でも構わないのですけれども、最近のものでは17年度がありますが、お願いいたします。

(川瀬室長) 基本的に使用料の額については通常の使用料を原則とするということです。一番多いのが本の復刻ですが、その場合に例えば小説とかそういうものであれば例えば10パーセントとか、学術論文であれば3パーセントとか、基準になるような金額がございます。
 ただ、この資料2-2の5ページをお開きいただきたいのですが、例えば25番、26番とか30番、これは国立国会図書館が所蔵資料の中の明治期、大正、昭和初期の作品をデータベースにして利用者に提供するというようなケースやCD−ROMに複製して復刻版を作成するというような類のものなのですが、この例でいいますと、金額的には非常に安くなっています。
 例えば25番ですと、この3300件ほどの著作物で著作者が2300人ほどおられるのですけれども、これで補償金額としては300万円程度でございます。それから26番でいいますと、これも著作物の数としては3000件、それから権利者としては1100人程度でございますけれども、これがだいたい350万円程度でございます。それから30番でいいますと、これは著作物としては500件余、それから権利者としては200名程度でございますけれども、これは全体の補償金が2万3489円というのが現状でございます。

(土肥主査) はい、ありがとうございました。松田委員、よろしゅうございますか。

(松田委員) 220人で2万なにがしかしか払われていないということですか。

(川瀬室長) この公衆送信については現在過渡期で、民間のサービス事業の使用料の支払い方というのがどんどん変化をしている最中で、そこに非商業的な需要ということで金額も極端に安くなるのですけれども、世の中の実態が定型化してくるというか、まだそういう状況ではございませんので、今後この程度の金額でということではなくて、これまた高くなったり安くなったりすると思いますけれども、申請当時の世の中のデータベース事業者が採用しているような著作権料を参考にして、かつこの場合ですと非商業提供な利用ですから、そういうものを加味して、使用料を算定すると、このような低い金額になったということでございます。

(土肥主査) ただいまの質問でございましたけれども、山本委員、どうぞ。

(山本委員) 同じく質問なのですが、この制度がどの範囲で利用できるのか、まずちょっと確認したいと思いまして質問させていただきます。
 著作権者を見つけることができないという要件なのですが、資料2-2を見ますと、著作者の氏名のところで不明になっているのは著作権者を見つけられないというのはよくわかるのですが、著作者の氏名がわかっている場合については、その住所なり本籍なりわからないというところから身元が最終的にはわからないというのもわかるのですが、そうでなしに、本籍なり住所なりわかると相続人というのも判断できると思うのですね。
 ただ、第三者に譲渡されているかどうかがわからないというのはあると思うのですが、特に譲渡されているような状況がなければ、逆に今度は譲渡されていないという推定で相続人が権利者だろうという判断ができるのですが、これはここに著作者の氏名として名前が出ている人、個人名が出ているような、こういう場合にどういうような運用をされているのでしょうか。その意味で相続人が確定できないような場合にこれは利用できているのか、あるいは誰が権利者か確定できない、例えば複数の権利所有者がいたりするとか、誰かということが確定できない場合に利用できるというような運用のされ方をしているのか、ちょっとその辺お願いいたします。

(川瀬室長) この制度が始まってからずっと調査をしたわけではございませんけれども、多分ここにある例は相続人が確定できないというよりも、ご本人は亡くなっておられることは確認しつつ、その遺族がどこに住んでおられるかという所在が不明という場合がほとんどだと思います。遺族の存在はわかっているけれども、その遺族の中の誰が相続されているかが不明だという実例はないと思います。そういうことで、私どもとしてはそこまでは想定して考えてはいないのが現状でございます。

(土肥主査) はい、ありがとうございました。これは著作権者と連絡をすることができない、そこが重要になるということですね。

(川瀬室長) はい。

(土肥主査) この67条問題に関しまして、いま運用上の問題も出ておりますけれども、その他、先ほど松田委員の冒頭の質問もございましたが、データベース等に伴う裁定等も多くなっております。こういったことで例えば67条の第2項、複製物には裁定のあった年月日を表示しなくてはならんとか、裁定にかかる複製物である、こういった表示をしなければならない。こういうこともあるようでございますが、ここでは、2項では、あくまでも複製物、こういうふうにいっております関係で、データベース等についてはできにくい、できない、こういうことになるのかもしれませんが、こういったものが今後増えてまいります場合に、こういう67条2項、こういった規定についてどう考えていけばいいか、ご意見等をいただければと思っております。はい、どうぞ、瀬尾委員。

(瀬尾委員) この裁定の制度なんですが、実質的に非常に現状で使いにくいということが実は私なんか過去そういう相談を受けたことがございます。使いにくいのですけれども、非常に頻繁で、かつ小さな利用というと怒られてしまいますけれども、頻繁で小さな利用。例えば写真なんかの場合、氏名表示が書いてなかったものとか、例えばあとは複写であるとか、非常に頻繁にやるのに例えば3カ月の裁定を、3カ月程度の期間をしてこの裁定制度を利用するというのは現実的ではないというのは現場の声として聞いております。
 基本的にこの裁定制度を簡便化していただくということに関しては、そうしていただきたいというふうな意見がございます。
 ただ、この時にすべてを長官の裁定にしてしまうということではなくて、例えば先ほどのフランスのように、非常に頻繁でかつ小さな特定の分野においては、ある特定機関にこの権限を譲るというふうなことも現実的ではないかというふうに思います。結局、利用する人間が実際にこの裁定制度を前にして、ここまでして使いたくないというふうに思ってしまう場合が多いとすれば、やはりこれを簡便に使っていくかということが重要ではないか。
 それともう1つ、この裁定ということ自体は強制許諾に関しては、私はこの方向がよろしいのではないかと思います。ただ、いろいろな分野に関して、今後著作物の流通を考えた場合には、何らかのもっと迅速かつ簡便な方法を考えていくべきだというふうに考えております。具体的には例えば複写、先ほど出ました複写の問題に関しましても、非常に著作権者を全部から信託を受けるのは大変難しい。そのわりには非常に頻繁に利用がある。また、迅速性を要する場合もある。そういうふうな分野に関しては何らかの措置があるのではないか、というふうに考えます。以上です。

(土肥主査) ありがとうございました。第67、68、69条、3カ条で定めております裁定以外の裁定制度、こういったものについてのご意見がございましょうけれども、これは少し先に第67、68、69条、ここら辺りを終わらせた後に議論させていただきたいと思いますが、第67条、先ほど事務局から説明がございましたように、条約上の縛りがある。こういう、ここを前提に考えるということのようでございまして、こうするとあまりそんなに裁量の幅があまりないようなところがあるのですね。いかがでございましょうか。

(川瀬室長) 今、瀬尾委員がおっしゃったように、裁定手続きを簡便化して、できるだけ期間を短くして簡単にできるようにしてほしいという要望は、私ども承知をしております。今回、裁定手続きの見直しもその一環で行ったものですが、ただ制度が要請しているのは、相当の努力を払っても権利者が見つからない場合ということですから、基本的には八方手を尽くして捜したけれども見つからないという場合の最後の手段というところだと思うのです。したがって、制度上の設計としては、そこのところはやはり崩せないのではないかなと考えております。
 したがって、例えば国会図書館が大量の作品について裁定申請をした場合も、概ね数年くらいを使って、個別に1つ1つ手順を踏んでいただいているわけですが、かなり長期で労力も大変ではありますが、やむ得ないものと考えています。
 それともう1つ、簡易な方法の1つとして、どこかの団体にそういった制度の運用を任せるというご意見もございましたが、これは例えば、著作権の世界でいいますと、プログラムの登録について指定登録機関に任せるというケースがございますが、裁定制度の場合、他人の私権を制限するような業務ですので、例えば民間の指定機関に運用をお任せするというような制度設計というのは、やはり難しいのではないかなとは考えております。

(土肥主査) はい、佐々木委員、お願いいたします。

(佐々木委員) 今の川瀬さんのお話ですと、やはりかなり厳格な運用が原則だということですけれども、現代のようにメディアが多様化しますと、なかなかその専門家ばかしではないわけですから、どの程度努力をするかというレベルがやはり問われてくるわけで、ある一定のレベルで専門分野の権利者団体等に委嘱するような制度がないと、実態としてはなかなか緩和が難しいのではないかなという印象がするのですが、いかがでしょうか。

(土肥主査) はい、どうぞ。

(瀬尾委員) 今の意見と私は非常に似ているのですけれども、これが裁定制度の最後の砦であって、最終的にどうしようもなければ裁定制度をというふうなことであれば、これくらい厳格なものでもよろしいかと思いますけれども、著作者が不明である著作物を利用したいという需要は、実は非常に日常的かつ広範な範囲にわたってあるのではないかと、私は思っております。
 ですので、本当に例えば規模も大きく、この裁定にまでいくものと、もしくは例えばネット上で検索システムを作って、そこにほとんどの著作権の情報を入れて、例えばそこで捜したけれどもヒットしない、それによって例えばヒットしなかった証明を出しましょう。あと、例えばCRICで公示をします。一定期間公示をして、それに対してのレスポンスがなかった。それに対しても、その結果の証明書を出しましょう。この2点があった場合には、ある程度例えば努力をしたといえるとか、そういう何か具体的かつ一般の方ができるような方法ではないと、この裁定制度は日常的に利用するというか、そういうふうなことには至らないのではないか。
 だから、全部をこれに任せてしまうことに対して、やはり大変な不便があるのではないかということを、私は非常に強く思ったわけですね。そういう意味です。

(土肥主査) では、松田委員。

(松田委員) 2人の委員とほぼ同じ事実認識に立っていると思うのは、今までの運用は67条がいま言われたように最後の砦であり、厳格な手続きをする必要があるというのですけれども、社会的実態はもっと小さい多数の著作物を特にデジタル化する場面に利用したいという需要が起きていて、これはちょっと切り離して考えたらいいのではないかと、私は考えています。
 特に67条等の規定の関係でいいますと、例えば出版社が過去論文集を出した。かなり昔のものであるけれども、これもちゃんと整理してデジタル化したい。こういう過去に当該著作物を利用した、1回契約関係のある、しかしその後不明になってしまって、その利用をしないと全体の論文集かまとまらない。こういうような場合には、私は67条から切り離して制限規定の中に入れるべきではないかなというふうに思っています。
 私も権利の制限をする場合には、67条的な裁定が民間レベルによる何か制度というのはなかなか難しいということは事務局のいわれるのはよくわかります。非常に限られた範囲内で、しかし実際上は需要が高く頻度が高いもの、これについてはちょっと切り出しをして、要件を厳しくして、そして裁定制度ではなくて制限制度にするということの検討も必要ではないかと考えています。

(土肥主査) 今の点に関係しますでしょうか、寺島委員。じゃあ、お願いします。

(寺島委員) 今ちょっと制限規定とおっしゃったんですけれども、実は私どもの分野ではこの問題は沢山あるんですね。正直いいまして、それは今うちはどうしているかといったら、うちが預かってないものに関しては絶対に責任を負いません。そんなことできないのよ、団体が責任を負うなんていうことね。
 だから正直いって、ここに出てらっしゃらないけれども、例えば映連さんの東映さんなんていうのはかなりあるんですね。困ってらっしゃることはわかるけれども、うちはまったく預かっておりませんとお断りしている。それで、でも使ってらっしゃるから、へえ、どうやって使っているのかなと思いますけれども、使ってますし、また問題は起こらないんですね。だって起こるんだったら、それは方法があるわけで。
 困っちゃうのは、著作権者というのも正直いってその人が死んじゃいますと、結局ことに借金なんかしたりして、家族はその始末させられたような著作権者は絶対に怖がって権利を主張しませんよ。しょうがないんですよね。そんなこといちいち法律の中でこれはやっていかれないと思うし、ましてや一番困るのは、だからといって制限規定を設けたい。これも全体からいったら困ります。うちなんか結局そういうのを見聞きするのが、恐らく一番多いと思います。写真家協会さんより多いと思います。
 ですけれど、それはうちに関しては信託を受けていないものは知りませんと申し上げるよりしょうがないんですね。それで実際にはどうしていらっしゃるか知らないけれども、それはうちだってある程度までは努力しますよ。著作権者がはっきりしていても、借金の負担をさせられたから権利主張はしないっていうようなのはどうしようもないんですよね。ですから、実態はそういうものですから、変に法律で何かいろいろ決めたり、ことに制限規定みたいなのを設けられるのは甚だ困るんですね。

(土肥主査) 椎名委員、今の点ですか。あまり制度をいじらないでそっとしておいてほしいと、そういうようなご意見かと思うのですけれども。

(椎名委員) いや、権利制限規定というのとはむしろ反対の観点からです。実演家ということで考えますと、指定団体制度という制度があり、権利者の大多数が所属するとおぼしき団体がそういう権利者、実演家の権利を取り扱ってきたという経緯の中から、やはり権利者が必ずしも判明していない部分も包括的な何らかの相互協定のような話でカバーしていくような処理をしてきた歴史があると思います。
 その中で、不明の部分も含めて何らか処理をするという形から、より個々の権利者を判明させて権利処理を科学的にやっていくという形に変わっていきつつあるところにあると思うんですが、こうした裁定制度が逆に利用者サイドから簡便に利用できる形としてあるならば、そのような多少無理なことを権利者団体が求められることもなくなってくるかと思うんですね。こういった制度がより簡便に機能することは非常に実演家にとってはありがたいことではないか、というふうにも思います。

(土肥主査) この67条の場合、著作権者というふうに書いてありますよね。実演家についても、こういう制度があったほうが望ましいという。

(椎名委員) そうですね。

(土肥主査) はい、上原委員。

(上原委員) 私は先ほど寺島委員のほうからお話がありましたけれども、実際の実例の中で某先生の協力を得ようと思ったら亡くなってらっしゃいまして、最初に作品を利用した時は生きてらっしゃったんですが、2度目の時は亡くなってらっしゃいまして、ご了解を得ようと思ったら、やはり借金を抱えて亡くなってらっしゃったので、そのご遺族の方が相続拒否されて、最終的には弁護士の方が入られて借金の返済をされる、その範疇の中でこちらの支払いをそれに当てるというようなことで、確かに実例としては結構あるようでございます。
 それは別といたしまして、やはり裁定制度につきましては、基本的には条約上の縛りがかなり大きくございまして、とりわけ日本あるいは現在アメリカもベルヌ条約に入って世界の流れができているところからいうと、ベルヌ条約というのは基本的には例外制限をもともと認めないというところに大きな特徴がございますので、その中で特別に認められた例外というのは、やはり厳しくならざるを得ない。日本がある程度以上、強制許諾なり例外等を法律で強くやっていこうとするならば、ベルヌ条約を変えるか、ベルヌ条約を抜けるかというようなことを覚悟しないといけない。
 あるいはベルヌ条約を変えなくても、一応WIPOの公式な解釈によりますと、その後にできた新しい同様の条約があれば、そちらの新しいほうの解釈に従ってよろしいというような考え方も示されておりますので、例えばWCTの後にさらにまた新しい著作権条約を作って、その中で制限をしやすくする、裁定をしやすくするというようなことはできるかと思いますが、少なくとも現在のベルヌ条約を見る限りにおいては、これはやはり裁定制度等の強制許諾は最後の砦と考えられているところだと思うんですね。
 スリー・ステップ・テストを見ても、特別の場合について通常の利用を妨げず、著作者の正当な利益を不当に害しないという、3つの条件をクリアしていくということでございまして、実はいろいろな利用者側の要望の点からいうと、通常の利用を妨げる著作者の正当な利益を不当に害しないというやり方はいろいろとあると思う。ところが、やはり特別の場合についてというところについていうと、これはやはり最後の砦だから特別の場合に許されるんだよということだと思いますので、裁定制度というような特別な強制許諾のやり方というものについては、やはりできるだけ手続き自体が使いやすくなるという運用面での部分は結構かと思いますが、制度面での部分においてこれを簡単なものに変えてしまうということは、やはり条約上無理だなということは押さえておかないといけないのではないでしょうか。
 ただ、逆に今、皆様から、諸委員から出ましたように、現実の中でいろいろ要望が出ていることも事実でございますので、そうしたものにどう対応するのかというのは、先ほど松田委員がおっしゃられたような制限規定を、非常に厳格な要件の中で新たな制限規定を設けるというやり方もあるかもしれませんし、あるいはもう1つのやり方としては、この契約・流通小委員会の考え方としては、制度としての裁定というのはやはり条約に則った形の中できちんとやり、最低限のスムースな運用をより図っていただくということの中に留めて、それ以上の要望については、じゃあ実態としてどういうような運用が現在の法制度の中でできるのかという方向性をむしろ探っていくということのほうが、当小委員会の課題としては妥当ではないのか、というふうに考えます。

(土肥主査) ありがとうございます。今、上原委員におっしゃっていただいたベルヌ条約との関係でいうと、放送権のところと録音権のところに関してはこういう制度を認めておるところでございますけれども、そういう意味からすると、この68条、69条というのはベルヌ条約に即して設けていると、こういうことだと思いますが、68条、69条との関係で、67条もまだ問題あると思うのですけれども、68条、69条のところも触れていただければというふうに思っておりますが、上原委員が今おっしゃったようなことを受けて、池田委員、何かございますでしょうか、その68条との関係では。

(池田委員) 68条につきましては、実際にはこれまで裁定の実績はないということでございますけれども、やはり放送事業者としましても、公共性ということがございますので、先ほど最後の砦という言葉もございましたけれども、こちらのほうは伝家の宝刀として、いざという時には抜けるようにしておく必要があるのかなというのは、基本的には考えております。
 ただ、放送するに際しましては、基本的には権利者の方から許諾をいただいて、それを元に放送するということで行っておりますので、正直申しまして、この裁定制度まで訴えることは事実上なかったのだろうなというふうには思っております。
 また、この裁定制度につきまして、68条につきましては、放送事業者が裁定をするということになりますので、NHKさんと異なりまして、われわれ民間放送事業者の場合は例えばネットワーク放送をする場合にはネットワークの各放送事業者個々に裁定をせねばならないというところが1つハードルかなというのもございます。
 それから放送というのは、結構短いスパンで作って放送しておりますので、裁定にかけるとなりますと、それなりの時日を要するということもございますので、そういう意味ではなかなか具体的には発動しにくい規定ではあるけれども、最後の砦というのは明確なところでありますので、規定という形で維持すべきであると考えております。

(土肥主査) ありがとうございました。最後の砦というような形で意味があるという趣旨だと思いますが、先ほど池田委員の発言の中にございましたけれども、NHKさんのほうではどうなのでしょうかね。

(石井委員) 基本的に池田委員と異なるところはございません。特にこの場合、68条は67条と違いまして、協議が成立しない場合というのも含まれておりますので、やはりこれは何といいますか、一種、国民の知る権利といいますか。そういうものとのバランスの上で最後の砦的な要素があるのではないかなというふうに思っています。そういう点では今までこれを使わずにきちんといろいろな情報を伝えてきていたというのは、権利者の方も理解もあったし、幸せなことではないかな、というふうに思っています。今後のためにも、ぜひこれは何かの時のために残しておくべきではないか、というふうに考えております。

(土肥主査) ありがとうございました。68条関係に関して、何かご発言ございましょうか。どうぞ、菅原委員、お願いいたします。

(菅原委員) 現実的な事例もなかったということではあるわけでございますけれども、指定関係事業者からいたしますと、管理事業法上に裁定の仕組みがございます。二重の仕組みになっております。これについては制度上、どうあるべきかということは検討すべきであると思います。
 ただ、指定管理事業者以外は管理事業法上の協議裁定という仕組みがございませんので、そういう両面を見ながらどう考えるかということであろうと思っております。

(土肥主査) ありがとうございました。ほかにご意見ございますでしょうか。
 よろしゅうございますか。69条もついでにというのはおかしいけれども、69条もこの際伺っておきたいと思いますが、69条に関しましていかがでしょうか。生野委員、いかがでしょうか。

(生野委員) 69条に関しましても、基本的な考え方は先ほど池田委員、石井委員のほうからご発言あったのとほぼ同様だと思います。裁定が使われた実績がゼロということなんですが、この裁定制度があることによってそれを使うまでもなく、専属楽曲に関しては、販売から3年経過後はJACRACさんの管理という形で広く利用に供されているという実績がございます。伝家の宝刀は抜かないで解決できれば一番いいわけなので、この制度があることによって契約レベルで利用が促進されるということになっている。そういうふうに評価できると思います。
 それと69条に関しましては、対象が商業用レコードに限定されているわけなんですが、ビデオグラムに関して3年経過後も専属をかけて云々という事例も聞いておりません。69条の意義というのはあるのではないか、機能しているのではないかというふうに考えております。以上です。

(土肥主査) ありがとうございました。68条、69条、ほかにご意見はございませんでしょうか。菅原委員、お願いいたします。

(菅原委員) 69条に関してでございますけれども、参考資料1の審議会答申にありますように、根本的なところが録音権の解放による流通の確保ということが制定当時の趣旨であったろうと思います。
 それで45年、法改正が行われて以降の状況を申し上げますと、「著作権者に許諾を求めたが」という法律の仕組みになっておりますが、現実のビジネスでは、独占使用という形の専属契約においては作家が許諾を出せなくなっているというのがその契約上の中身でございます。そこでどうするかというと、その独占的な使用の許諾を受けたレコード会社との関係で、いわゆる専属解放という話が出てくるということです。
 ただ、45年の法改正を受けまして、JACRACの信託契約約款を変えて、新法後は69条の適用を受ける商業レコードについては、3年に限って独占的な使用をするものを指定できるということを限定いたしました。
 その結果、新法施行後でございますけれども、だいたいこれまで楽曲として7400曲くらい専属の対象となる楽曲が生まれておりますが、3年経つとJACRACの管理楽曲として通常の許諾をしております。その結果、今の時点では70曲ほどが専属楽曲の扱いになっています。
 実務的にそれができたから法律上どうなのかということになりますが、やはり基本的にまず3年間での強制許諾というものがあることによって、これが維持されているところはあると思います。
 それからもう1つの問題点といたしまして、参考資料にあります楽曲の録音物の流通を活発にするという観点からいたしますと、実は旧法時代の楽曲のほうが大変多く、現在引き続き専属の扱いになっています。楽曲数にして、おおよそ14万曲。これにつきましては、付則の11条の適用によって、この3年後の強制許諾制度は動いていないということで、もう三十数年来ているわけでございます。そこについては流通という観点から考えればどうあるべきかということは、ひとつ検討の要があろうかと思います。以上でございます。

(土肥主査) ありがとうございました。ほかにご意見ございませんでしょうか。
 これまで68条、69条に関しまして委員のご意見を承っておる限りでは、この制度、実績、裁定実績はないけれども、存在する意味はある。こういうご趣旨かなと伺いましたけれども、最後の点にわたって、この68条、69条に関して、存在そのものはもちろん了解したわけでありますけれども、細かい点について何かご意見ございますか。

(池田委員) 68条につきましては、先ほども申し上げましたが、民間放送事業者につきましては、ネットワーク放送する際における裁定につきましては、各放送事業者は個別に裁定を申請しなければならないとなっております。そこのところを、裁定の申請時に、放送をする範囲を指定して申請すればネットワーク全体が併せて裁定が下りるというようなことになれば、より簡便な使い方ができるかなと、個人的には思っております。実質的には個々の放送事業者がやるということと、例えばキー局が併せてやるということとあまり大きな違いはないのではないかなというふうに考えております。

(土肥主査) 今のご意見は運用で十分対応できるという理解でいいのでしょうか。

(池田委員) 例えば条文上は放送事業者とございますので、放送事業者がまとまって裁定を求めるということがあれば、それは可能かとは思いますけれども、それは事務局、いかがでしょう。

(土肥主査) そこはどういうことになりますか。

(川瀬室長) 今おっしゃいましたように、利用主体は放送局でして、例えば東京のキー局が放送すると、その電波を配信してもらって地方局が放送するということになりますと、これは2つの放送ということになりますので、制度としては個々の放送事業者、つまり東京キー局と地方局がそれぞれ裁定の申請をするということになろうかと思います。
 ただ、運用上の問題としましては、今まさしく主査がおっしゃいましたように、例えば東京キー局が全ネットワークの代理人として申請をすると、その申請の中で各放送局の申請についても裁定を受けるというようなことで対応は可能だと思っておりますので、例えば制度改正というよりも運用で十分対応できるのではないかと考えられます。

(土肥主査) ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。

(菅原委員) 67条の規定のことでございます。先ほど上原委員からもご指摘ありましたように、スリー・ステップ・テストで検討した厳密なということは、そのとおりだと思います。ただ、67条の規定というのは、通常の許諾を得ようと思ったけれども権利者が不明でできなかったということで、そこは解釈とか、実際上どう考えるのかという問題になると思いますが、通常の利用を妨げていない、利用を促進するだけのことであります。さらに権利者の正当な利益を不当に害していない、逆にどこに居るかわからないけれども、そこを最低限補償しようという観点があるわけでございますので、そういう視点からどう考えられるかということも、各著作権条約との関係では必要ではないかと思います。

(土肥主査) ありがとうございました。本日議論していただく点について、67条、かなり皆さんご意見頂戴しておりますので、これについてはもう少し厚めに議論をしたいと思いますけれども、事務局から説明をいただいたところの中に、万国著作権条約の翻訳権の留保の問題があるのですが、これについても一応議題でございますので、皆さん、この点について何かご意見ございますでしょうか。
 実際にはこれは動くところが非常に狭い話になるのだろうと思うのですけれども、UCCで保護をしている国というのが非常に少なくなっておりますので、そこの著作物を日本の誰かが翻訳権を取得していって、それを行使していない、翻訳していない、そういう状態が起こってきた場合の話なのだろうと思うのですけれども。
 これはしかし事務局にお尋ねするのも何なのですけれども、これは恐らくこの制度を利用してということはほとんど今後起こらないのではないかなと想像するのですが、さりながら、あるものは置いておくということですよね。

(川瀬室長) 主査のご指摘のとおりだと思います。わが国と万国条約との関係国は現在ではほとんどございませんので、基本的にはそういうものが使われる可能性というのは非常に少なくなっていると思いますが、なお対象国がある限りにおいては適用される可能性がゼロということではないので、直ちに廃止するという議論はもう少し時間を見てということではないかと思います。

(土肥主査) ありがとうございました。それでは67条、これはやはり皆さんの議論の中心かと思いますし、こういう67条の形ではなくて、スリー・ステップ・テストに合うようなもの、これもやはり権利制限の1つという理解なのでしょうけれども、裁定のような形でのとらえ方ではなくて権利制限という中で考えるというご意見もいくつかあったと思いますが、そういう広く67条についてご意見をいただけますでしょうか。はい、瀬尾委員。

(瀬尾委員) 先ほど松田委員から権利制限のお話がありまして、一般化して権利制限してしまうというよりは、特定の要件に対して処理をするという意味で、これは権利制限という形ではなく、やはり裁定の形を持っていくべきだと私は思います。
 もう1つ、先ほどのような1つの団体ができないということであれば、簡便な部分と本当に最後の砦になる部分と2層に分けていく必要があるのではないかというのが、私の意見でございます。
 ただ、これは単純に67条だけの問題ではなくて、例えば著作権者情報が整備されていないために利用者がどこに誰が何を持っているかわからないとか、例えばそういう運用とか、それから権利者側の情報提供に対する意識の問題、例えば氏名表示等、やはりそういうトータルな取り組みがないために利用しにくい面を来しているのではないかと思います。
 法律的には権利制限とするよりは、私はやはり権利制限ではない形、ただ何らかの制度、もしくは運用の中で簡便なものを考えだすべきだ、という風に考えます。

(土肥主査) 運用条件でですね。はい、児玉委員、お願いいたします。

(児玉委員) 今の瀬尾委員のご意見を補足するようなものですけれども、やはり私も権利制限まで行ってしまうのは少し行き過ぎなのではないかと思います。ただ、この資料を拝見していても、利用者がこの裁定制度を利用することは非常に難しいのではないかと思います。この手続きの見直しというところに5項目書いてありますけれども、これをまず自分でやらなきゃならないわけです。そういうこともありますから、制度は制度でこのままで良いと思いますが、もっと利用しやすいようにワンクッションを作って、そこが皆さんがこういうふうな手続きをすれば利用できるんですよという場になるようにして行かなければならないのではないかと思います。
 ただ、それをどういう形にするかは、もちろん課題ですし、当然そういうワンクッションを作るとした場合には、管理事業法の問題も含めてサービスをしなければならないということもありますから、これはよく皆さんで検討しながら進めて行かなければならないと思います。

(土肥主査) ありがとうございます。はい、山本委員。

(山本委員) この67条の問題ですが、手続きをできるだけ簡単にするというのはいいと思うのですが、ただ零細な利用のためにと、それを目標に簡単にするというのはちょっと違うのじゃないか。つまり、権利者を見つけることができない場合と、零細な利用であるが故に裁定ないしは権利制限規定を設けるとかという話は全然次元の違う話だと思います。
 というのは、スリー・ステップ・テストでいうところの通常の利用を妨げないという観点からいっても、権利者を見つけることができない場合には通常の利用を妨げることはないというのは明らかですし、それから零細な利用である場合は、今度はその零細というのはどの程度零細かという問題になるのですが、瀬尾委員が例としておっしゃいましたように、文献をコピーとるというような利用の仕方を考えた場合に、1ページとるのにせいぜい許諾の使用料として取れるのは1枚100円だとしますと、100円の使用料を払うために権利者を捜し出すということは、もう取引コストが合わないわけです。そういうふうに市場が、その許諾については市場がそもそも成り立たない。
 したがって、そもそも存在しない市場なんて、それに対して権利制限を及ぼしてもそもそも通常の利用を妨げることはないという論理によって、権利制限の可能性はあると思います。したがって、全然理屈が違って2つの問題というのはまったく分けるべきだ。
 そういう意味で、松田委員がおっしゃったように、この零細な利用については別の制度として、ただこれは問題が極めて大きいのでじっくり考えないといけないだろう。制度設計としてはですね。ですから、あくまでも67条の問題に乗せろという発想下でなしに、別に切り離して議論すべきだと思います。
 67条についてはそういうふうに考えますと、零細な利用というのは念頭に置かず、取引コストとかという問題じゃなしに、通常の努力をして権利者を捜したけれどもできなかった場合として、厳格すきることがないかどうかという観点からあくまでも見るべきだろう、というふうに思います。

(土肥主査) はい、ありがとうございました。駒井委員、お願いいたします。

(駒井委員) 今のご意見ですけれども、そのとおりだと思いますけれども、実は厳格すぎるから、実際は寺島委員がおっしゃったように結構そういうのがどんどん使われているという実態もある。そうしますと、最後の砦ということでとっておくことが1つ重要でしょう。
 ただ、通常もっと簡単にやる、正規に使える方法というのも必要で、われわれはそれをやった場合に著作権法違反で使っちゃうわけですね。あと問題が起きた時にはその代価を払うみたいな感じを覚悟するのかどうかという形になりますので、いま言った2つに分けたのをまた分けなきゃいけないような感じになるかなと思います。
 というのは、これだけハードな進歩して、複製とかいろいろなものが出てくる段階では、こういう制度も一括で裁定制度1つだって最後の砦全部済むというような時代ではないかなと。そうすると、裁定制度の中で零細とは別にまた1つ、簡単な方法があって、零細に使う場合にはどうだとかというように、いくつか分けていかないと実態と合わないのかなというような気がいたします。基本的には山本委員の意見に賛成です。

(土肥主査) ありがとうございました。

(山本委員) 67条のパターンの場合に2つに分けるというのが、ちょっとどういう場合を想定したらいいのか、イメージが湧きませんので、ちょっとその点を確認させていただきたいのですが、今の制度の中であれば、手段が厳格すぎる点は今回書いていただいているところの中で、かなり緩和されるのだろうとは思いますが、著作者の名前がわかっていて、かつその人の住所がわかって、そうしますと戸籍謄本から相続人が確定できて、相続人の住所も実は判別するわけです。ただ、その住所地にいない。別のところに住んでいて連絡を取れないという場合があるわけです。
 そこまでは本来であれば、この著作権者を見つけることができないという要件がある限りでは、そこまでは名前がわかって本籍がわかるというような場合には、あくまで具体的にはやらないとこの要件には沿わないのじゃないかと思います。
 ですから、そうじゃなしに、その要件まで緩めて認めないといけない場合、つまり2つに分けるほうの緩いほうのやつというのはちょっと想定つかないのですけれども、どういう場合か教えてください。

(駒井委員) 私が申し上げた分けるといったのは、先ほど寺島委員がいわれたように、実際は多くそういうものが使用されています。それは委員がいわれたように、著作者が亡くなっちゃって相続人がわからないとか、そういう細かいケースではないような場合でも、それを使うケースというのは出てくる。その際は、ある程度の著作権料を留保しておきながら、エイヤッでやるというケースも出てくると思うのですよ。そういう時に、それは当然著作権の違法になりますので、もっと簡便な方法で裁定の1段階手前みたいな段階で、届出をするなり何なりをして使えるという方法も考えられるのではないかな、という意味です。

(寺島委員) 多いとおっしゃったけれども、そんな多くないんですね、全体の中から見れば。
 それから正直いって私どもは、例えばCATVの同時再送信とか、それから私的録音録画とか、例えば放番協なんかでも、関係団体とご一緒になって全部グロスでやって、それをエイヤッとやりとりして、それぞれの分野で分けてやっております。これはでも最後になれば、結局うちはもらったお金をうちにきちんと信託している人にしか分けられないんですね。正直いって、分けられないからって団体が勝手に使っていいお金ではありませんから。ですから、信託している人に分けます。
 それと同時に、映画は数少ないからいいんですけれども、テレビ番組というのはいっぱいありますから、私、うちにいる限りはテレビつけっぱなしにしておいて、脚本家の名前があってうちの管理じゃなかったらすぐメモをとる。そして事務局に、これはわれわれは複写のお金とか私的録音録画のお金とか、そういうのを一括でもらっているんだから、それを分けなければならない責務がある。だから、事務局にこの人たちにちゃんとうちに入るか、あるいは信託なさいと説明しなさいというんですよね。
 事務局も一生懸命やってくれるんですけれども、物書きなんていうのは変わり者が多いですから、それでも何人か預けないんですよね、そういうことを説明しても。うちにお入りになるか、信託なさらないと、こういうお金が取れませんよというふうに文書を出すんですよ。それでも預けもしないし入らない人まで、ちょっと面倒見られないんですね、正直言って。
 だからうちはそういう形で努力をしつつ、だけどできることしかできませんから、分けるあてもない人の権利、預かってもいない権利を行使することはできませんから、今そういうやり方をしております。

(土肥主査) ありがとうございました。さまざまなご意見をいただいておるところでございますけれども、67条の裁定制度につきましては、基本的にこの制度の中で、いま定められているような厳格な手続きの中で裁定を受けるという制度のほかに、この制度の中に何か置くのか。あるいは、そういう零細な利用に関しては、特に市場の失敗、市場が成立しないようなものについては、これとは断然別のものとして考える。こういうご意見もございます。ただ、これをいくと、もうこの委員会の議論ではなくなるわけですけれども、裁定の中で考えるとすると、どういう制度が考えられるのかなと思うのですね。
 本日の議論の中では、これは一応ご意見を受け止めて次回までという、そういう取り扱いでよろしいのでしょうかね、本日のところは。

(川瀬室長) 裁定制度の議論は2回行うということなので、意見を整理した上で、改めて次回に報告案というような形で提出させていただいて、改めてご議論いただければと考えております。

(土肥主査) はい。67条問題に関してはさまざまなご意見を頂戴したところでございますけれども、運用の緩和を含めて制度自体の問題、それからもっとこの制度を目的との関係で広げる。つまり単純な、といいますかね。67条が想定しているようなケースではない場合において、別の枠で、適用範囲を考えながら利用をスムーズにできないかというご意見もございました。あるいは、政策的にコンテンツビジネスの促進との関係でこれを見るという、こういう指摘も一部出たように思っておるところでございます。
 さりながら、一方、ベルヌ条約、ローマ条約、こういったところで認められておりますところの許される幅の問題もございますので、その中でいま各委員がおっしゃったようなものがどうできるか。これは次回に検討するということで、本日のところはお出しいただいたものを1度整理させていただいて、その上で次回にお諮りをしたいと思っておりますが、本日の議論の中でまだ、全体を通してで結構なんですけれども、この際ご意見をいただいておく必要がある、こういう場合、お出しいただきたいと思いますが、上原委員、どうぞ。

(上原委員) 次回報告がある中でまた検討するということですが、先ほどから駒井委員からお話がありました2段階論というのは、やはりを厳格なものと甘いものに分けるのは条約の規定にはそわないように思いますので、裁定制度とそれ以外のものとをどう考えるのかということでやはり考えざるを得ないのだろうと思うんです。
 ただ、裁定を使いやすくするという部分でいうと、1点今日のお話の中であまり出なかったと思いますのは、手続きの見直しをしていただいて1から5を整理していただいたわけですけれども、その中の例えば3のところで、一般や関係者の協力要請をホームページでもよくする、しかも、それがCRICが、個人がいちいちホームページを開かなくてもいいように、CRICのところへ申し込んで、そこで出してもらえば済みますよと。これは逆にいうと、権利者のほうもCRICのところをよく見に行けば自分のが出ているかもしれないからわかりやすくなるという意味では非常に合理的だと思うんですね。
 そういう意味で、1から5の作業にするにあたって、要するに今の3のところのCRICに当たるような作業をある程度手伝ってくれる。例えば専門家への紹介とか、権利団体への紹介などというのも、これはどこの団体に聞いたらいいのでしょうかというようなことを教えてくれる窓口等があれば、こういう制度が動きやすくなる。
 つまり、基本的にはやはり条約の関係がありますので、法制度自体を緩めるということは望ましくないとは思うのですが、使いやすくするということは単に運用でやさしく、甘くするということではなくて、運用をする上で皆さんが作業する流れを、個人の利用者だけが全部負うのではなくて、個人の利用者が負うのをお手伝いできる制度ができていけばだいぶ違うのじゃないかという、そういう視点でちょっと考えられる部分があるのではないかと思いますので、そうした部分もちょっと視点の中へお入れいただけたらいいのではないか、というふうに思いました

(土肥主査) はい、この中に係わる者を、広げて考えるということですね。わかりました。では、池田委員、どうぞ。

(池田委員) 先ほど椎名委員から実演家の隣接権も裁定制度でいいというお話がございましたが、放送事業者が作る放送番組におきましては、実演家さんの権利というのはあくまでも放送ということで許諾をいただいておりますが、その録画物につきましては、近来非常に2次的な利用等の要求が非常に強うございます。その時に実演家さんにつきましては、特にドラマ等は沢山の実演家さんが出ておりまして、古い作品になりますと、まったく居場所がわからない。ご存命かどうかもわからないというようなケースにおきまして、いちいちやはり捜していくということが非常に困難になって、2次的な利用はできないというケースがございます。
 そういった面からも、例えば放送事業者ではない番組であれば別ですけれども、放送事業者の作ったものにつきましては、実演家さんの権利についての裁定制度というようなものが考えられないか、というようなことを私個人としては、ちょっと考えております。

(土肥主査) ありがとうございました。先ほど事務局の説明があったローマ条約の但し書きのところを受けても可能であると、こういうことになりますね、今のご意見は。よくわかりませんけれども、イギリスはローマ条約に入っていながら、ああいう制度を設けているわけですよね。だから、そういう理解をしている国もあるということですね。じゃあ、お願いします。

(川瀬室長) 今、主査ご指摘のとおり、イギリスはどういうお考えになっているのかわかりませんけれども、条約の規定を素直に読みますと、ローマ条約では強制許諾については非常に限定的で特別な場合、これは条約に列挙している私的使用の利用とか、教育関係の利用とかに限定しての強制許諾は認められますけれども、それ以外は認められないということになっております。
 ただ、WIPO新条約では著作物並みの規定にはなっておりますけれども、WIPO新条約の冒頭の規定にもありますように、ローマ条約と新条約はダブルで働くことになっておりますので、日本国とすれば、やはりローマ条約の義務は、新条約を締結しましたけれども、負っているのではないかと考えられます。
 そういう中で実演、レコード、放送の強制許諾制度の導入はなお整理すべき問題点が条約上との関係でかなり多いのではないかと私どもは考えております。

(土肥主査) はい、ありがとうございました。なかなか難しい問題もあるようでございまして、これ、今日で終わるというわけではなくて、次回に今日ご議論いただいたところを踏まえて、さらに先の議論をさせていただければというふうに思います。ほかにご発言ございますでしょうか。はい、松田委員、お願いいたします。

(松田委員) 67条の制度の手続きの緩和等を考えて、1つの試案なのですが、お聞き願いたいと思いますが、沢山のものをメディアを変えて利用できるようにするということを67条で乗せる場合、個々の著作物ごとにこの長官の裁定をとるのではなくて、例えば何年から何年までの何々誌に載ったすべての論文とか、何年から何年までのテレビ番組、何々に連続で放送した何々というように、事業ごとにあらかじめ届け出ておいて、そして審議会の諮問はそれについてやって、個々の著作物については、資料を出せば包括的な裁定を受けた範囲内であればもうOKとする。そういう制度はどうでしょうか。
 それから供託もそのたびそのたびにやるのではなくて、あらかじめ事業を予定している範囲内で事業者のほうで一括して供託する。例えば100万とか200万とか、そういう意味では。そして、それに満つるまではその供託で賄う。こういう制度だと、かなり手続きが迅速に行われるのではないかなと。著作権単位じゃなくて、事業単位でできないかというようなこと。

(土肥主査) はい、ありがとうございました。非常に大胆なご意見とうかがいましたけれども、そういうご意見も整理していただいて、よろしゅうございますね。はい、三田委員。

(三田委員) 67条に相当な努力を払って著作権者と連絡するということが書かれているのですけれども、いま個人情報保護法ができまして、人に住所を教えるということが非常に危険であります。聞かれても答えられないことが非常に多いのですね。
 ということは、普通の業者さんが著作者の住所を捜すということはほぼ不可能な状態です。ということは、捜しても見つからないというケースが非常に多いわけで、ほとんど大手の業者さんに一括許諾の登録をしている人以外は住所はわからないと思うのですね。
 そうすると、これはものすごい広範囲なものになってしまうということがあるので、今の話ですと、何か権利制限を広げるみたいなことをすると、ものすごい広範囲に権利制限が広がってしまう可能性があると思うので、それについて利用者の立場を考慮しつつ、一般の普通の人の権利が、普通の著作者の権利が知らないうちに剥奪されてしまうということがないように考えていただきたいということと、それからやはり零細な利用というのは必ずあるので、われわれが扱っているのでも、ちょっと転載すると2000円くらいのものがあります。ここで見ると手数料が1万3000円と書いてある。2000円のものを1万3000円出すというのは現実的ではないですね。こういう制度があっても実際は利用されないということになりますと、ある部分で利用する人としない人がいるということになると、これは制度として非常に不完全なものになる。もっと利用しやすいような形にしていく必要があるということを、考慮いただければと思います。以上です。

(土肥主査) はい、ありがとうございました。よろしゅうございますか。皆さん、ご意見を頂戴しましたけれども。
 それではこれまで頂戴いたしました意見を踏まえまして、具体的なまとめを、またまとめといいましょうか。報告書を案というものも作っていく必要がございますので、次回におきましては本日の検討の内容を踏まえた、具体的な報告書案、こういうものを下に検討してまいりたいと存じます。
 事務局におかれましては、本日の議論は非常に幅広で難しい問題が多々ございましたけれども、議論を整理していただいた上で、次回までに審議のまとめをご準備いただければと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは文化審議会著作権分科会、第3回契約・流通小委員会を終わらせていただきます。最後に事務局から連絡事項がございましたら、お願いをいたします。

(木村室長補佐) 次回の開催案内でございますが、7月25日月曜日でございます。10時半から1時まで、経済産業省別館1020会議室にて開催いたします。よろしくお願いいたします。
 なお、本日この後、昼食のご用意をさせてもらっておりますので、お時間があります委員の皆様におかれましては、このままもうしばらくお待ちください。本日はありがとうございました。

  〔了〕


(文化庁長官官房著作権課著作物流通推進室)


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