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4.4.権利制限規定の見直しについて

(1)権利制限規定の追加・明確化について

 ネットワークの進展により、二次創作が容易になり、パロディや同人アニメなどの創作物が増えている。パロディが保護されるべきジャンル・創作活動であるとして、権利制限の対象とすべきかについてはまだコンセンサスができていない。また、同人アニメなどでは類似している場合に著作権者の黙示の承諾が成立しているのか不明であり、事業として配信できない状況にある。これらパロディや同人アニメへの対応について以下のような意見が出された。

1パロディについて

a)問題の所在について

  • 日本法にはパロディの規定がないため、著作権法第32条1項(注1)の引用で解釈する説もあるが、それも難しく、パロディの表現が制約されているのではないかとの指摘もある。米国ではパロディはフェアユースとして認められている。ドイツでは権利制限規定は日本と同様に限定列挙の方式がとられているが、「自由利用」という規定があり、パロディはその規定によって許容されることとなっている。
  • Youtubeなどの動画共有サイトでもパロディ的な作品が共有されることが多い。ニコニコ動画でも動画にコメントを入れているという意味で、大半は広い意味でのパロディと考えられる。
  • (注1)
    著作権法第32条1項  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

b)パロディを引用として扱う対応について

  • 現状で著作権法上パロディを許容しようとすると、学説によっては引用とするぐらいか。そのような裁判例の蓄積がない日本では立法は難しいのではないか。
  • 著作権法第32条における引用の目的に「パロディ」を加える案はどうか。パロディは引用にあたらないとの意見もあるが、「他の楽曲の引用」「無断引用」等、一般用語として「引用」は広く使われている。
  • パロディは主従関係では引用部分が主になるものであり、引用として扱うとすると、引用自体の規定が歪む恐れがある。したがって、パロディでの利用で、引用部分が従に見える程度に表現を変えればよいのではないか。マンガにおいて、ごく一部でも既存楽曲の歌詞が出てくるとJASRAC(ジャスラック)許諾番号が記載されており、違和感があるとの声も耳にする。このような利用は主従関係では従であり、引用で許される可能性もなくはないのではないか。
  • 立法化しても、線引きをどのようにするかという問題は残る。
  • パロディを仮に引用として扱うなら、1)改変的利用(要約引用)が引用に認められるか、2)人格権の問題にどう対応するか(フェアユースの規定をつくるとしても同様)、という問題が残る。2)については、やむを得ない利用を広く読むとしても、パロディ自体がやむを得ないとされるかどうかはわからない。引用の目的として「パロディ」を記載すれば、引用という利用形態を認めているためやむを得ないと解釈できるかもしれない。現状でも他人の著作物を引用する際には部分的に利用しており、著作権法第20条(注2)に言う「切除」にあたるはずだが、それが許されているのはそのような改変が「やむを得ない改変」に当たると解釈されているからであろう。ただし、それ以上に変更を加えている場合にも許されるか、という論点は確かにある。
  • (注2)
    著作権法第20条  著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
    2  前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
    • 一〜三 略
    • 四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

c)フェアユース規定での対応について

  • 引用の規定でパロディを扱わないとすると、他の方法としては、フェアユース的な規定をつくり、自己責任で対応してもらうしかないだろう。
  • ただし、フェアユース規定をつくれば安心してパロディをつくれる、ということになればよいが、そうはならないかもしれない。
  • 著作権についてフェアユース規定で対応するとしても、著作者人格権の方にも何らかの対応が必要である。

2同人アニメについての権利者側の考え方について

  • 同人アニメについては権利者が黙認しているケースもあるということだが、黙示的許諾ではなく、許諾していないが黙っているだけの場合もあるのではないか。
  • 同人アニメは多種多様であり、アニメ等のオリジナルにわずかに手を加えただけのものから、キャラクター等の名称や設定はそのままだが絵自体はどのキャラクターかわかる程度に変え、ストーリーは元のものとはまったく関係ない例まである。権利者側として、このような同人アニメをつくるのはヘビーユーザであり一番の顧客なので、許諾はしないが黙認するかたちとなっている場合が多い。明示的に許諾することは、容認するものとそうでないものを明確にする必要があるため難しい。ユーザ同士で盛り上がってもらうことには抵抗ないが、元の作品のイメージを壊されるようなもの、元に想定した対象ユーザから外れるもの(ファミリー向けにつくった作品をアダルトに改変される等)は問題となる。コミケなどで販売されている書籍では無償や有償でも実費相当の場合には黙認されている場合が少なくない。ネット配信でも無償の場合には黙認されている場合が少なくない。
  • アニメフィギュアの制作・有料販売に関しては、審査した上で無償でライセンスしているケースも少なくない。

3その他

  • 保護期間延長問題と関連して、このような二次的創作行為を自由とすべきという論点が指摘されることもあるが、二次的創作行為が確保されるべきだとすれば、延長されるかどうかに関わらず検討が必要ではないか。そうした自由が確保できれば保護期間を延長してよいという話になれば、この問題について折り合いが付くかもしれない。そういう意味では、この論点も現実的なものとして考えなければならないだろう。
  • 著作権法第30条1項2号の技術的保護手段の回避に関する規定が本当にあった方がよいのかについては議論がある。実際、以前に購入したVHSビデオをDVDに変換したいというニーズがあり、画像安定装置を使えば複製ができるが、技術的保護手段の規定があるため、複製をすると複製権侵害になってしまう。第三者に依頼することも難しい。そうなると、DVDが販売されていないソフトなどの場合は、自分で購入したものなのに見られなくなってしまうことになる。ただし、事業者としては、その当時の技術手段に対応した機械しか販売しないため、新しい技術に対応したコンテンツの媒体変換は保証できるものではない。以前から残っていた資産が無駄になっていくのはいつも起きることであって、その際に利用者が不満を言えば、プロテクトすることもやめようかという権利者も出てくると思われる。

(2)権利制限規定の包括条項等の導入について

 現行法の制限規定は限定列挙されておりわかりやすいが、それ以外はすべて侵害となると利用が阻害されてしまう。そこで、フェアユース規定や何らかの包括条項が必要との考えもある。権利制限規定の包括条項等の導入について、以下のような意見が出された。

1フェアユース規定のような包括的な条項の必要性について

  • 現行の制限規定は限定列挙のように読め、例外規定なので厳格に解釈されるべきとされ、類推適用されることは非常に少ない。そうなると、権利侵害となってしまうケースが増えてしまうので、フェアユース規定のような包括的な条項が必要となるのではないかとの議論がある。
  • フェアユース規定のような包括的な条項が必要と議論されている背景には2つの側面がある。1つは事業者が事業を展開する観点からの必要性と社内のコンプライアンスの観点からの必要性である。

2事業者が事業を展開する観点からの必要性

  • 事業者が、裁判例もない状況で、フェアユース規定のような規定だけを信頼して事業を行うことはリスクが高く、そのようなケースはあまりないと考えられる。
  • 事業者としては、フェアユース規定で許容されるというだけで事業に至るケースはあまりないが、そのような規定をもとに考える場面は多々あるので、日本でもフェアユース規定はあった方がよいのではないか。(例えば、ネット上の様々なデータを扱う事業において、検索結果の表示の際に画像のコピーを置くといった行為は、米国ではフェアユースで許容されている。)
  • 米国では、フェアユース規定に加え、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)において定められたセーフハーバー規定が、インターネット上のビジネス全体に大きく寄与していると考えられる。
  • 米国には規定があり、判例の蓄積もあることが大きい。例えば、コロンビア・ロースクールのサイトでは、著作権侵害が問題となった事例のデータベースが公開され、音楽や映像そのものも参照できるようになっている。運営主体は、このサイトが研究目的であり、提供している音楽や映像の品質は低いため権利者の利益を損ねていないことから、フェアユースにあたると考えているようだ。日本でもこのような取組が可能となるようフェアユース規定があった方がよいと思うが、あったからといってリスクがなくなるわけではなく、判例の蓄積もないため、直ちに事業が可能となるとは限らない。ただし、日本でもいきなり訴訟になることはないのではないか。フェアユース規定があればまずは交渉段階でフェアユースにあたるかどうか議論されているうちに、ビジネス的な解決が図られる可能性もある。
  • ビジネスのできる余地を残すことが重要ではないか。例えば、著作権等管理事業者は原則として許諾することになるので、よほどのことがない限りビジネスを先行させておいて、事後的に使用料を支払うことが可能となっている。

3社内のコンプライアンスの観点からの必要性

  • 社内のコンプライアンスの観点からは対応が必要ではないか。社内でのコピー等の日常的な行為については許容される旨について論理的な説明がつく基準があるとよい。
  • 社内的対応の観点から、社内報での利用程度は許容されるとよい。実際、イベント出展時等に動画を社内向けにストリーミング配信することがあるが、その際に同業他社の著作物が写り込むと、現状ではボカシをかけて対応している事業者もいる。コンプライアンスの観点から、収益と関係のないところでコストが発生している状況である。
  • 企業においては、法務部門に相談すると厳密には侵害と判断されるからといって、微妙な場合には最初から相談しないケースが出てくるようである。コンプライアンスについて細かく規定し過ぎると、悪循環に陥るのではないか。
  • 一般的にリスクテイキングを積極的に勧める法務部門はあまりないため、些細な行為についても厳密には侵害になる状況では萎縮効果が生じるのではないか。どこまで機能するかわからないという問題はあるが、フェアユース規定があった方がよいのではないか。現状は著作権についての知識のある人が萎縮して使えない一方で、そうでない人が使っている状況ともいえる。出版社でも、引用の範囲で利用できるかどうか明確でなければ許諾を取るよう求め、法外な使用料を提示されることがある。米国でもフェアユースの規定があるといっても、慎重に対応しているケースと、大胆に解釈しているケースの両方がある。
  • 写り込んでいる著作物等について利用してよいかどうか問い合わせると「意図的」に利用していると判断される。イギリスの場合、意図的でも公正利用として許容されるが、ドイツの場合は許容されないと解されているようである。
  • 便利に許諾を取れる仕組が合わせて提供されればよいが、それもなく利用できないことだけが周知されると、実質的には対応できない。権利制限等の規定を厳格に運用しようとする場合、ある一定の広い範囲について簡単に許諾する仕組みを作る等、逃げ道をつくっておく必要があるだろう。

4写り込みについて

  • 写り込みについてはボカシで対応できるが、音が入ってしまった場合の対応が難しく、より深刻である。音楽で商業用レコードを使っている場合は、JASRAC(ジャスラック)だけでは解決できない。
  • 偶然であれば音であっても許容される「写り込み規定」をつくる方法もある。
  • 写り込みについては、著作権法第41条(注3)の「(時事の)事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、…」と近いかたちで規定をつくる方法はある。ただし、第41条では「時事の事件」や「過程」が、かなり厳しく捉えられており、該当するかどうか判断に困るケースは多い。
  • (注3)
    著作権法第41条  写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる

5一般条項ができた場合の問題点等について

  • 日本では制限規定を個別的に増やすということを30年以上続けている。その中で、例えば、著作権法第47条の3(注4)(保守、修理等のための一時的複製)では、携帯電話の機種変更は保守、修理等に該当しないので、機種変更の際の着メロ等のデータのバックアップは含まれないといった反対解釈がなされている。一般条項ができた場合、このような明確に書かれた規定の反対解釈がどこまでできるか等、既存の解釈に影響を与えてしまう可能性がある。
  • 一般条項ができれば、著作権法第47条の3のようなケースは、明確に記載されているため、保守または修理等以外の目的では許容されないということでよい。これに対して、市バス車体事件(東京地判平成13年7月25日判時1758号137頁)で問題となったような、著作権法第46条(注5)の「恒常的に設置」に近い状態の設置については、一般条項で読むか、それとも46条を拡大解釈するか問題となる。いわゆる要約引用の問題も同様であり、著作権法43条の文言からすれば否定しているように見えるが、裁判例においては含まれると考えられ、類推適用ではないが、拡大的に適用されている(東京地判平成10年10月30日判時1674号132頁〔「血液型と性格」事件〕)。同様に、著作権法第33条(注6)では教科書は読めるが教科用拡大図書は読めないということで、著作権法第33条の2(注7)で教科用拡大図書について別途規定したが、このような個別の規定が本当に必要なのか疑問である。
  • 一般条項を記載する位置(49条の後にあるか、30条の前に来るか)によってどの程度の違いがあるかという論点はある。
  • イギリスのように、一般条項のみで対応するというより、中間的な規定を類型的に設ける(写り込み系、二次創作系等ごとにフェアディーリングの規定を設ける)という方法もある。
  • 米国の場合フェアユースに米国著作権法上、著作者人格権も含まれているが、日本の場合は著作者人格権の問題が残るかもしれない。
  • (注4)
    著作権法第47条の3第1項  記録媒体内蔵複製機器(複製の機能を有する機器であつて、その複製を機器に内蔵する記録媒体(以下この条において「内蔵記録媒体」という。)に記録して行うものをいう。次項において同じ。)の保守又は修理を行う場合には、その内蔵記録媒体に記録されている著作物は、必要と認められる限度において、当該内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録し、及び当該保守又は修理の後に、当該内蔵記録媒体に記録することができる。
  • (注5)
    著作権法第46条  美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。(以下略)
  • (注6)
    著作権法第33条第1項  公表された著作物は、学校教育の目的上必要と認められる限度において、教科用図書(小学校、中学校、高等学校又は中等教育学校その他これらに準ずる学校における教育の用に供される児童用又は生徒用の図書であつて、文部科学大臣の検定を経たもの又は文部科学省が著作の名義を有するものをいう。次条において同じ。)に掲載することができる。
  • (注7)
    著作権法第33条の2第1項  教科用図書に掲載された著作物は、弱視の児童又は生徒の学習の用に供するため、当該教科用図書に用いられている文字、図形等を拡大して複製することができる。

6フェアユース規定を導入すると不明確になるとの指摘に対して

  • フェアユース規定を導入すると不明確になる(現状の個別規定の方が明確である)との指摘があるが、現状でも既に不明確ではなかろうか。裁判官によっては、社会のニーズを受け取って柔軟に解釈しなければならないと考えるケースがあるが、その背景にある価値判断は外部に出てこないため、裁判官によって結論が変わることもあり得るだろう。
  • そういう意味では、フェアユース等の規定を導入することで、経済的影響、著作物の性質、利用目的等、どういった要素を考慮するかが少なくとも客観化され、判決の妥当性について議論しやすくなり、不明確な議論を表に出す効果はあると思われる。
  • 裁判所が無理に工夫するより、何らかの基準があった方がよいのではないか。