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4.2.ファイルシェアリングの法的評価について

 間接侵害に関連する問題として、ファイルシェアリングの問題がある。著作権法上では、「公衆送信」「送信可能化」という状態について評価する仕組みとなっているが、そもそも「共有」という状況(世界中の誰かのPCに当該ファイルが入っていれば利用しうるという状況)そのものについてどう評価するかなどの問題がある。ファイルシェアリングの法的評価について、以下のような意見が出された。

(1)P2P利用の現状

  • P2P利用者数はACCSの調査では減ってはいない状況であり、また、少数のコアユーザが集中的に使っているといわれている。また、通信事業者からはP2Pが使っている帯域が非常に大きいので、利用制限するか、料金を変えたいという要請があり、総務省で検討がなされている。

(2)P2Pのファイル交換に対する既存の議論について

  • P2Pのファイル交換に関しての著作権対応は、現在、警察庁の総合セキュリティ対策会議でまとめており、基本的な柱で協議会を作って対策を協議していくということになっている。警察庁では、Winnyについては、ダウンロードすると、一瞬、共有フォルダに複製物が置かれるため、置かれた瞬間に、ダウンロードした人も公衆送信権の侵害になるという内容の報告書になる予定である。

(3)ファイルシェアリングの法的評価

  • ファイルシェアリングの法的評価にはいろいろな問題が含まれているが、提供する人の問題と、そこで最初にデータを送信する人の問題と、その枠組みの中に入ってノードになっているだけの状態のユーザの問題、それぞれをどう評価するかという問題に分けて評価しなくてはいけないと考えられる。

1最初にデータを送信する人の行為の評価

  • 最初にデータを送信する人の行為は侵害に当たると考えられる。

2ノードとなっている人の行為の評価

a)私的複製に該当する可能性についての議論

  • ノードとなるユーザについては、ダウンロードフォルダと共有フォルダに分けることができれば、ファイルが共有される瞬間はないかもしれず、その場合には単なる私的複製ではないかと考えられる。
  • P2Pのユーザは、自分がノードになっている場合、ファイルがハッシュ化(暗号化)されているので、ファイルの内容は分からないが何かファイルがあることは認識できる。プログラムの仕組みを知っている人に関しては、ノードになっている状態だという認識はあるだろう。
  • 自分のマシンが途中のノードになっていると、自身が知らぬ間にファイルを保存される例が多数ある。その状況で公衆送信という行為があるのかという議論がある。実際、個人のPCから多数送信されていることはあるかもしれないが、その人の行為と言えるのかどうかは難しいのではないか。
  • 一方、ファイルがあると認識した瞬間に複製になる可能性もある。例えば、自分がサイトを開いていたら、誰かが不正にアクセスしてそこにドラえもんの画像を掲載したというケースにおいても、掲載されたことを知らないうちは責任がないかもしれないが、そのことに気づいてそのまま放置しておくと、自分で掲載したわけではなくても公衆送信の主体になるかもしれない。そのような意味では、ノードも常に問題がないとは限らない。

b)公衆送信に該当する可能性についての議論

  • 録画ネット事件の議論と同様で、ノードは設備を提供していることで評価される可能性がある。
  • 選撮見録事件(注1)では営利的なものでなくても、享受するということも利益として捉えられている。
  • 公衆送信の捉え方が非常に広いという考え方からすると、リクエストがあってから送信するということであれば、ダウンロードされている段階で、リクエストの有無に関わらず、すぐにインターネット経由で送信できるため、公衆送信に当てはまるという考え方になるのではないか。

c)プロバイダ責任制限法に基づく議論

  • ノードとなったユーザは自らをサービスプロバイダと称して責任を逃れる方法もある。データ送信の途中にいる人が、自分は導管に過ぎないということが認められれば、プロバイダ責任制限法で責任制限される。

d)対応策の例

  • 児童ポルノ掲示板であれば、掲示板の開設行為自体が違法評価されている(性犯罪評価されている)ことが多いので、それを拡げていけば、ネットワークに参加したこと自体が違法だと捉える余地がある。刑法の流れでは違法になりうるのではないか。

3P2PやP2Pをもとにしたサービスを提供する事業者の問題

  • ファイル交換サービスを提供する事業者がある場合に、そのサービスを安心して提供できるかという問題は残る。
  • ファイル共有そのものではなくとも、ファイル共有をもとにしたサービスを提供する時に、その事業者が結果的に公衆送信の主体と評価されると、P2Pベースのサービス提供は難しいのではないか。
  • 事業者が公衆送信の主体と認定できない場合に、中央サーバのない売り切り型サービスでも責任を負うのか。仮に差し止めにあわなくても、Winny事件(注2)のように幇助罪を適用されるケースもある。
  • 売り切り型サービスであっても、その後に事業者がユーザに対して何らかのサービス提供をする場合、そこで行われるユーザの行為の面倒をみていると評価されると、公衆送信の主体が事業者かユーザか分からなくなる可能性がある。P2Pそのものというより、P2Pをもとにしたサービスが出てくると、ストレージサービスと同様の問題が生じる。
  • P2Pの技術で分散処理する目的で、動画の配信を一部P2Pの技術を使って行っているサービスがある。ストリーミングでライブ中継をしようとしても、現在のインフラでは現実的には2万人の視聴で限界であるとの指摘がある。サーバの負担を軽減するために、P2Pの技術を使うと、数万人レベルを対象にライブ中継を行うことができるといわれている。しばらくはこのような状態が続くことになろう。この場合、コンテンツホルダーがコンテンツを提供する時に、P2Pの技術を活用して、ユーザ間でファイルシェアリングさせていることになるが、自己の保有する権利であれば問題視されない。
  • (注2)京都地判平成18年12月13日判タ1229号105頁(平16(わ)第726号)

(4)限定された知人間の送信行為について

  • 限られた知人の間でも家族といえる程でないと、著作物を送付するために、ファイルシェアを利用したり、メール送信する行為は私的複製に該当せずに、公衆送信に該当するとの議論がある。現行著作権法が第30条1項で「家庭のような閉鎖的な私的領域における零細な複製を許容」(加戸守行著「著作権法逐条講義五訂新版」226頁)している根拠としては、「閉鎖的な私的領域にまで法が介入すべきではないから」、「権利者に及ぼす損害も限定的であるから」などといわれている。権利者の正当な利益を不当に害しない場合であっても便利な技術を利用できないのは不便と思われる。そこで、著作権法第30条において「権利者の正当な利益を不当に害しない」などの但し書きを付けて、送信を伴う場合も権利制限の対象とすることも一つの方法ではないか。

(5)将来生じる可能性のある問題点について

  • 現在想定されていないデリバリー方式が登場した時に、契約に公衆送信とは書いてあるが、その中にはそういったデリバリー方式が入ってなかったと言われてしまうと契約による対応だけで問題ないか疑問である。ただし、最近の裁判例では、許諾については狭く解釈しているが、逆に譲渡については、全部譲渡の場合、後から出てきた権利も全部含まれているなど、広く解釈されるところがあるので、あまり問題ないとも考えられる。
  • ユーザに関しては問題が生じる可能性がある。ネットワーク上でコンテンツをやりとりすることが通常となった将来において、ユーザが知らないうちにそのネットワークに参加していて、そこに流れたコンテンツが許諾済みと思ったら無許諾だった場合、そのコンテンツを送信したということで侵害になるのか、それとも行為がないということで侵害にならないのか等の問題が生じる可能性があるかもしれない。