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2.3.著作権法全般に関連する従来から指摘されてきた法的論点で、インターネットの普及に伴う著作物の創作・利用形態の変化により、特にクローズアップされてきている法的論点

 実務家、有識者に対するヒアリング調査から得られた著作権法上の課題のうち、著作権法全般に関連する従来から指摘されてきた法的論点で、インターネットの普及に伴う著作物の創作・利用形態の変化により、特にクローズアップされてきている法的論点について、以下のような意見が得られた。(以下ではヒアリング調査で得られた個々の意見を掲載しており、全体としての傾向を示したものではないことに注意。)

(1)著作者確認の困難性への対応、登録制度の活用

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 創作主体の拡大によって、著作物がオリジナルかそれとも他者の著作物を引用したものかの区別が付かなくなり、誰が真の著作者かわからなくなっているとの指摘があった。
  • サービス提供事業者に対して、ユーザから他のユーザによる権利侵害への対応を求めるクレームが来た場合、まず真正の権利者であることの証明を求めるが、一般のユーザは、権利行使のための準備ができていないため、十分な証拠が提示されない場合が多いとの指摘があった。

イ)解決策の案

  • 無方式主義では、創作者が著作者となるため、著作者の確認が難しい。ビジネスの観点からは、登録者が著作者となると著作者の確認が容易になるため、登録に基づく推定規定の活用が広がることが望ましいとの指摘があった。
  • デジタルコンテンツの登録制度については、2階建ての仕組(登録がない著作物には現状通り無方式主義を適用し、登録があった著作物は報酬請求権化等によって流通促進を図る方策)とする考え方があるが、コンテンツの種類によって適用可能性が異なり、例えば、掲示板の書き込み等に対しては有効ではないとの指摘があった。

(2)著作者不明著作物の利用の困難性への対応(裁定制度のユーザビリティ向上)

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 掲示板の投稿者の著作物を出版したいと考えた場合、事業者側で掲示板の投稿者のIPアドレスはわかるが、著作権者は特定できないという状況が一般にあり得る。このように著作権者不明等の場合に、裁定制度(注1)によって著作物を利用しようとすると、「相当な努力を払っても著作権者と連絡することができないとき」といった条件があるが、掲示板上での問い合わせでは「相当な努力」とみなされるかどうか明確でないとの指摘があった。
  • (注1)
    著作権法第67条1項  公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により利用することができる。

イ)解決策の案

  • 「相当な努力」の基準を明確化しつつ、現実的に対応可能な範疇にすべきという観点からは、その条件として、特定サイトに公告することで「相当な努力」としたのでは利用者と権利者の負荷等のバランスが悪いので、新聞公告とするのがよいのではないかとの指摘があった。
  • 掲示板の書き込みを出版する際、著作権者がわからない場合でも利用でき、事後的に著作権者の名乗りがあれば対応できるような仕組があればよいとの指摘があった。

(3)著作者が特定されている場合の許諾の円滑化:強制許諾制度、許諾料決定ルール、裁定制度の利用要件の緩和

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC(ジャスラック))が音楽分野の著作権等管理事業者としてほぼ独占状態にあるために、使用料率が高すぎ、合意形成までに時間がかかってしまっているのではないかとの指摘があった。実際、インターネット関連で利用する場合の現状の使用料水準では、ビジネスが成立しているケースはほとんどないのではないかと思われ、売上が上がる前にコストが発生することになってしまっており、成功モデルがない中で、使用料徴収のルールだけが先行している印象であるとの指摘があった。そこで、確かな根拠に基づいた適正な使用料を制度的に決められる仕組みがあればよいとの指摘があった。また、JASRAC(ジャスラック)管理楽曲については、JASRAC(ジャスラック)が許諾しなければ利用行為は侵害となり、裁定制度も利用できないということになるため、使用料率等の適正化が必要との指摘があった。
  • 音楽分野ではJASRAC(ジャスラック)等の著作権等管理事業者が機能しているため、利用許諾を得ることが可能となっているが、他のジャンルでは著作権等管理事業者があまり機能していないため、個別の利害調整が必要となり、調整し得る幅も狭くなると考えられ、また、第三者による裁定も難しい状況にあるとの指摘があった。
  • ユーザの投稿する動画内での既存楽曲の演奏、歌唱、MIDIデータの作成等については、サービス事業者とJASRAC(ジャスラック)等との取り決めにより、利用許諾を得られるようになった。ただし、レコードやCDから既存楽曲をBGM等として利用しようとしても、原盤権の問題が出てくるため、原盤権の許諾を得なければ利用できない。レコード協会の取りまとめ能力には限界があるため、原盤権について許諾を得るには個別に各社と協議するかたちとなり、現実的ではないとの指摘があった。

イ)解決策の案

  • 現状の裁定制度は、著作権者と連絡がとれない場合などの限定されたケースでしか適用されず、あまり使われていないため、これを見直し、適用条件を緩める規定があってもよいとの指摘があった。
  • 著作者がわかっている場合にも許諾料に関して裁定制度を利用できるようになるとよいとの指摘があった。また、裁定制度をもっと柔軟な仕組みとすべきであり、著作者が現れたら相当の使用料を支払う仕組みとすることも一案であるとの指摘があった。
  • 現在の著作権制度は許諾がないと利用することができない仕組みであるが、著作物の流通を考えると、本来は許諾がなくても利用でき、必要な使用料を支払う報酬請求権の方が向いているはずであるとの指摘もあった。

(4)複数者のマッシュアップによって制作された著作物の利用の困難性への対応

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • インターネット上のフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(注2)のように複数者のマッシュアップによって制作された著作物が増えている。このような著作物では、権利者が明確ではなく、無断で利用された場合等の権利行使の主体も明確でない場合が多い。また、複数者のマッシュアップによって制作された著作物を利用したいとのニーズがある場合でも、1人でも許諾をとれなければ利用できない。このような問題は今後ますます深刻化すると考えられる。
  • 詳細は「3.ワーキンググループ検討内容/3.複数者のマッシュアップによって制作された著作物の利用の困難性への対応について」にて検討。
  • (注2)ウィキペディアはインターネット上のオープンコンテントの百科事典である。ウィキペディアに投稿されたオリジナルの文章は、GNU Free Documentation License(GFDL)の下に、公衆に対してライセンスされており、「すべてのウィキペディアの素材におけるテキストの複製、配付及び改変は、Free Software Foundationが発行するGNU Free Documentation Licenseのバージョンの1.2以上の条件の下に、許諾されます。」(「Wikipedia:著作権」2008年3月6日(木曜日)20時21分更新、http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:著作権)と説明されている。投稿者がウィキペディアに文書を投稿する場合、GFDLおよびそのウィキペディアでの解釈に同意するものとみなされることを確認する必要がある。

イ)解決策の案

  • 3.ワーキンググループ検討内容/3.複数者のマッシュアップによって制作された著作物の利用の困難性への対応について」にて検討。

(5)権利制限規定の追加・明確化

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • ネットワークの進展により、二次創作が容易になり、パロディや同人アニメなどの創作物が増えている。パロディが保護されるべきジャンル・創作活動であるとして、権利制限の対象とすべきかについてはまだコンセンサスができていない。また、同人アニメなどでは類似している場合に著作権者の黙示の承諾が成立しているのか不明であり、事業として配信できない状況にある。
  • 詳細は「3.ワーキンググループ検討内容/4.権利制限規定の見直しについて」にて検討。

イ)解決策の案

  • 3.ワーキンググループ検討内容/4.権利制限規定の見直しについて」にて検討。

(6)権利制限規定の包括条項等の導入について

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 現行法の制限規定は限定列挙されておりわかりやすいが、それ以外はすべて侵害となると利用が阻害されてしまう。そこで、フェアユース規定や何らかの包括条項が必要との考えもある。
  • 詳細は「3.ワーキンググループ検討内容/4.権利制限規定の見直しについて」にて検討。

イ)解決策の案

  • 3.ワーキンググループ検討内容/4.権利制限規定の見直しについて」にて検討。