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2.2.インターネットに特有の法的論点

 実務家、有識者に対するヒアリング調査から得られた著作権法上の課題のうち、インターネットに特有と考えられる法的論点について、以下のような意見が得られた。(以下ではヒアリング調査で得られた個々の意見を掲載しており、全体としての傾向を示したものではないことに注意。)

(1)権利制限規定の追加

1権利制限規定の追加に関するコメントの全体像

  • 利用主体や利用行為の規模拡大に対応するため、権利の内容や制限の範囲をどう定めるか、また、翻案権・公衆送信権についての権利制限をどう考えていくのか、という点が課題であるとの指摘があった。
  • 権利制限規定に追加すべき行為類型は、大別すると、
    • a)「黙示の許諾対象となっているか、あるいは権利者側が当該行為を侵害と主張するのは権利濫用にあたる、といった論理構成により、現状において権利行使の対象とはならないことが比較的明確である行為」
    • b)「現行法の解釈に照らして権利行使の対象となるかどうかが不明確であるために企業活動が萎縮される傾向がみられ、且つ、当該行為を権利行使の対象から外しても権利者においてデメリットがそれ程生じないと想定される行為」
    の2つに分類可能と考えられる。

2テンポラリーファイルへの保存等の一時保存

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 複製の要件に関して、一時的なメモリへの保存は複製に相当しないと考えられるが、テンポラリーファイルへの保存は複製に相当するのかグレーであり、複製権侵害に当たらないとは必ずしも言い切れない状況にあるとの指摘があった。

イ)解決策の案

  • テンポラリーファイルへの保存が複製に該当しないことを条文等において明確化する案の指摘があった。

3一時的キャッシュ(ISPのキャッシュ、エンドユーザのキャッシュ)に関する公衆送信権制限

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 放送は一時的固定が認められているのに対して、公衆送信に関しては一時的キャッシュが認められていない。
  • インターネット回線の通信容量は限られており、本来ならば回線の両端でミラーリングしておくことで対応したいが、それが一時的複製にあたるためにできない。これでは回線にコストがかかりすぎるので、キャッシュを使うことが違法とされないよう著作権法上の手当てが必要であるとの指摘があった。
  • コンテンツ配信に際して、IPマルチキャストではISPのサーバに、P2Pではユーザリソースにある程度のキャッシュを持たせている。しかし、P2Pでユーザリソースをつかって公衆送信する場合には権利者の理解が得られにくく、別途許諾が必要となってしまう。現状のIPマルチキャストへの使用許諾契約では慣習としてISPのキャッシュまでは複製はできることとなっており、ISPのサーバにキャッシュが残ることに関しては権利者が気にしていないため、特に問題となっていない状況である。しかし、キャッシュがエンドユーザに残る場合には、別途、許諾や説明のためのコストがかかることになる。現行制度でも契約で対応することはできるが、そのために追加的にコストがかかることが配信事業者にとって問題であるとの指摘があった。

イ)解決策の案

  • 一時的キャッシュが権利制限の対象となるよう、著作権法において規定する案の指摘があった。

4検索サービスにおける著作物の利用

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 著作物の検索サービスの構築にあたり、タグ付けのための加工を行った上で、楽曲、歌詞等のデータをデータベースに取り込む行為が、複製権及び翻案権侵害とみなされたり、データベースから必要最小限のコンテンツを提示する行為が公衆送信権侵害とみなされると困る。格納する著作物について個別に許諾を取らなければならなくなると、データベースをつくることは難しい。自動的に検索のためのデータを収集した場合に限らず、意図的に収集した場合も権利侵害とならないようにしてもらいたいとの指摘があった。
  • 汎用的な検索エンジンによるデータの収集、インデックス化、データの提示については、複製権、公衆送信権の侵害とならないよう権利制限の対象とする方向で検討されているが、汎用的でない検索(の仕組)が出てくるたびに(新たに権利制限を)適用することは避けて欲しいとの指摘があった。

イ)解決策の案

  • 検索サービス構築のためのデータの収集、インデックス化、データの提示が権利制限の対象となるよう、著作権法において規定する案の指摘があった。

5DRMで複製回数制限をした場合の複製

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 仮に複製に関して権利制限規定を拡大するとした場合、DRMで複製回数を制限した場合には複製が可能となるという制度になれば、配信事業が容易になる。しかし、そのことによってエンドユーザの満足度が下がってしまうと、エンドユーザには受け入れられないだろうとの指摘があった。

イ)解決策の案

  • DRMで複製回数の制限をした場合には、権利制限の対象とする案の指摘があった。

6共用サーバコンピュータの利用(共用サーバコンピュータが「公衆用自動複製機器」ではないことの明示)

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 広く共用サーバコンピュータが「公衆用自動複製機器」に含まれることになると、オンラインストレージサービス全般が権利侵害となってしまう。(「公衆用自動複製機器」を利用した私的複製は、著作権法第30条第1項による著作権の制限の対象から除外されている。)これらは、私的利用・複製として扱うべきではなかろうか。「公衆用自動複製機器」は、もともと貸しレコード店における高速ダビング機を対象としているはずである。
  • 詳細は「3.ワーキンググループ検討内容/1.ストレージサービス等に関する諸問題について」にて検討。

イ)解決策の案

  • 3.ワーキンググループ検討内容/1.ストレージサービス等に関する諸問題について」にて検討。

7会社におけるホームページのプリントアウト

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 会社におけるホームページのプリントアウトは、「私的」の要件に該当しないため、著作権法第30条の対象外となり、著作権法の解釈だけでいえば、権利侵害となり得る。しかしながら、現在、一般に広く行われていると考えられる行為であり、権利者側もこの行為を問題視しているとは思えない。法的には、形式的には権利制限規定の対象ではなく、権利侵害行為類型に属するが、権利濫用法理や、黙示の許諾といった法律構成によって、権利者による権利行使が正当化されない、ということになるのだろうとの指摘があった。

イ)解決策の案

  • 会社におけるホームページのプリントアウトを権利制限の対象とする。あるいは、フェアユース規定を設けて、解釈上、会社におけるホームページのプリントアウトがフェアユースの対象となることを明確化する案の指摘があった。

8外部サイトへのリンク

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 電子掲示板サイト運営会社のサイトの会員が、会員ユーザに閲覧が限定されているページから外部サイトへリンクを張った場合、外部サイトの運営者から(当社会員サイト内の該当ページを閲覧できないため)「当社サイト内該当ページからサイトへのリンクを削除して欲しい」とのクレームが来ることがある。このように著作権法上何ら問題ないはずであるにもかかわらず、クレームが来ることに苦慮しているとの指摘があった。

イ)解決策の案

  • リンクを張る行為は侵害にあたらないことを著作権法に明記する案の指摘があった。

9地上デジタル放送の再送信に関する附帯サービス

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 地上デジタル放送の再送信サービスを、サーバ側でユーザのために提供すると違法となるかどうかが明確ではないとの指摘があった。
  • ユーザが地上デジタル放送の再送信を携帯電話で視聴する場合、別途権利処理が必要となるかどうかが明確ではない、また、携帯電話で視聴しやすいよう、画素数を落とす等の加工を行う行為が権利侵害となるかどうかが明確ではないとの指摘があった。
  • PC向けサイトを携帯電話向けに変換する事業者のサービスでは、改変あるいは(jig.jpのサービスを利用した)サーバ上での複製等について、現状、特に問題になっていないとの指摘があった。
  • 詳細は「3.ワーキンググループ検討内容/1.ストレージサービス等に関する諸問題について」にて検討。

イ)解決策の案

  • 3.ワーキンググループ検討内容/1.ストレージサービス等に関する諸問題について」にて検討。

(2)違法コンテンツのダウンロードの違法化

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

特に指摘なし

イ)解決策の案

  • ネットワークを利用した不法複製物のダウンロードの違法化自体は問題ないとの指摘があった。ただし、ユーザがダウンロードした場合に、事業者が著作権侵害幇助責任を問われることになると困るため、その点についての手当てが必要と考えられるとの指摘があった。

(3)ストレージサービス等に関する諸問題について

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • ストレージサービス等に関する諸問題については、ネットワークを介して行うことが効率的となっている現状において、これまでユーザの手元のパソコンで行われてきた行為を著作権法がどこまで許容するかどうかの問題、サービス提供内容の違いによって管理者の責任が不明確である問題、私的使用をどこまで許容するかの問題、公衆送信の範囲をどのように解釈するかという問題、などの問題として整理することができる。
  • 詳細は「3.ワーキンググループ検討内容/1.ストレージサービス等に関する諸問題について」にて検討。

イ)解決策の案

  • 3.ワーキンググループ検討内容/1.ストレージサービス等に関する諸問題について」にて検討。

(4)ファイルシェアリングの法的評価について

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 間接侵害に関連する問題として、ファイルシェアリングの問題がある。著作権法上では、「公衆送信」「送信可能化」という状態について評価する仕組みとなっているが、そもそも「共有」という状況(世界中の誰かのPCに当該ファイルが入っていれば利用しうるという状況)そのものについてどう評価するかなどの問題がある。
  • 詳細は「3.ワーキンググループ検討内容/2.ファイルシェアリングの法的評価について」にて検討。

イ)解決策の案

  • 3.ワーキンググループ検討内容/2.ファイルシェアリングの法的評価について」にて検討。

(5)113条(みなし侵害規定)のインターネットへの対応

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 著作権法のみなし侵害規定(113条(注1))はインターネットでの利用を想定できていない。当該規定は、複製権侵害、譲渡権侵害には対応しているが、例えばネットで見つけた(違法)著作物をブログに載せる、あるいは、youtubeにアップするといった行為については、「インターネット送信は著作権法第113条1項等にいう頒布にあたらない」という理由で違法にはならないとの指摘があった。(但し、113条3項3号では、権利管理情報が改変された著作物の公衆送信・送信可能化を著作権等侵害とみなす旨が規定されている。)
  • したがって、ネット上で見つけた不正に改変された著作物を送信可能化状態においたユーザに対して、事業者が著作権法第113条を根拠にそのような行為を差し止めるためにクレームをつけても、それは自分が改変した訳ではない、と言われてしまうと、差し止めはできなくなってしまうのではないかとの指摘があった。
  • (注1)
    著作権法第113条1項  次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
    • 一 国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為
    • 二 著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を、情を知つて、頒布し、若しくは頒布の目的をもつて所持し、又は業として輸出し、若しくは業としての輸出の目的をもつて所持する行為

イ)解決策の案

  • 特に指摘なし

(6)ストリーミングデータの固定化ソフトの開発・流通の違法化

ア)背景:現状の問題点、生じている障害等

  • 著作権侵害の蔓延という状況のために、コンテンツホルダーがストリーミング等のサービス提供事業者に対する許諾に抵抗感を感じてしまうため、サービス提供事業者の事業に悪影響を及ぼしている。ストリーミングデータの固定化ソフトの開発者を取り締まれば、サービス提供事業者にとってもメリットが生じる可能性があるとの指摘があった。

イ)解決策の案

  • 刑罰規定を検討することが必要ではないか。ただし、現状では正規のコンテンツビジネスを阻害するように思える利用形態についても、将来はどうなっているかわからないため、性急に刑罰の対象とするのは危険であるかもしれないとの指摘があった。

(7)その他

1権利者の意思表示により著作物の流通を促進する仕組について

  • クリエイティブ・コモンズのような権利者の意思表示により著作物の流通を促進する仕組が普及するとよいのではないかとの指摘があった。
  • 一方、権利者の意思表示により著作物の流通を促進する仕組については、権利者はネットについてよく理解していないことが多いため、権利者が明確にライセンスを与えるような仕組では受け入れられにくいのではないかとの指摘があった。
  • また、クリエイティブ・コモンズのような仕組は、限定的なニーズに応えるが、ビジネスとしては利用しづらく、また、ライセンスによる許諾内容を検索エンジンで判読できないという問題があるとの指摘があった。

2コンテンツホルダーの意識改革の必要性

  • コンテンツホルダーはエンドユーザにデータが残ることに抵抗がある。そのため、ストリーミング形式の配信に限って許諾されることが多い。しかし、ストリーミング形式の配信であっても、実際には簡単に動画をキャプチャして保存できる。また、DVDでもリッピング(注2)ができる。一方、P2PでもDRM付きにすれば視聴期間や回数等の制限などが可能になるにもかかわらず、コンテンツホルダーは許諾しないことが多い。権利者に対して、技術に関する教育が必要ではないかとの指摘があった。
  • (注2)DVDや音楽CDなどに記録されているデジタル形式のデータを抽出し、そのままの形でまたはイメージファイルでパソコンに取り込むか、パソコンで処理できるようなファイル形式に変換して保存すること。