デジタル時代におけるコンテンツ振興のための総合的な方策について(2008年3月6日知的財産戦略本部コンテンツ・日本ブランド専門調査会)−著作権関連抜粋−

2.具体的取組

1.既存の枠組みにとらわれない新しいビジネスに挑戦する

(1)動画のネット配信ビジネスの成長を支援する

1コンテンツ共有サービスの適法化の推進

 ネット上で自分が創作したコンテンツを発表したり、他人が創作したコンテンツを閲覧したりすることができる動画投稿サイト等のコンテンツ共有サービスの利用者が急増している。
 また、このサービスを個人の楽しみの場として利用するだけではなく、宣伝用の動画や放送番組を投稿することにより、新たな宣伝や視聴者獲得の方法として商業的に利用するケースも増加している。
 一方で、投稿されているコンテンツの中には、他人の著作物を利用しながら権利者の許諾を得ていないものや、商用動画のコピーなどの違法コンテンツが含まれており、このようなサービスが著作権侵害の被害拡大の温床となっているとの指摘もある。このようなサービスを新しいネット市場として今後発展させていくためには、違法コンテンツを排除し、サービスを通じて得られる利益を権利者に適切に還元する環境を整え、新たなサービスを展開するサービス事業者を萎縮させないことが必要である。
 このため、サービス事業者が権利者との間であらかじめ包括的な契約を行い、個人が創作するコンテンツによる権利侵害の危険を軽減するとともに、権利者への適正な利益の還元を図るための自主的な取組を促進する。
 また、サービス事業者が提供する技術的手段を活用し、違法コンテンツの排除とコンテンツを適法に利用するための権利許諾を効率化する取組を促進する。
 また、著作権侵害のための「道具」や「場」などを提供したサービス事業者の法的責任を明確にするため、著作権侵害として差止請求の対象となる範囲を法律上明確にすることを検討する。

2端末フリーのデジタルコンテンツ流通の促進

 技術革新やブロードバンド化の進展により、大容量・高画質の送信が可能となったことを受け、パソコン主体であったネットワーク経由の動画配信がテレビや携帯端末に拡大している。テレビ、パソコン、携帯で総合的にサービスを展開することは、消費者にとってそれぞれの端末のメリットをいかしたサービスの選択が可能となり、動画コンテンツの市場を急速に拡大させる可能性を秘めている。
 一方、テレビに通信ネットワークを経由して映像を配信するサービスはIPTVなどで既に始まっているものの、サービスによって外付けの受信機が必要なことや、サービス間で機器の互換性がないなど、利用者の負担が大きく普及が遅れている。さらに、利用者の要求に応えるコンテンツも不足している。
 このため、通信インフラ事業者、ハードウェア事業者、コンテンツ事業者間の連携を強化し、テレビに共通の受信機能を内蔵するなど利用者にとって使いやすいサービスとするための共通基盤技術の標準化を促進する。また、コンテンツの円滑な供給のためのルールを確立することを支援する。

(2)新しいビジネス展開に関わる法的課題を解決する

1通信と放送の垣根を越えた新たなサービスへの対応

 IPTVや携帯端末向けマルチメディア放送など、通信と放送の垣根を越えたサービスの展開が本格化しつつある。しかし、現行の著作権法では通信と放送の区分により権利関係が異なるため、利用者から見ればほぼ同一のサービスであっても事業者によって権利処理に要する手続き等が異なる場合がある。
 このような状況を踏まえ、サービス事業者の社会的影響力や新たなコンテンツの創作への寄与等を考慮しつつ、利用者からみたサービスの形態に応じて、権利関係の規定の見直しや著作隣接権の在り方を検討する。また、現在進められている通信・放送の法体系の見直しにおいては、コンテンツの生産・流通・消費を最大化する方向で検討を進める。

2検索サービスに係る法的課題の解決

 ネット検索サービスは利用者が多種多様な情報の中から必要なコンテンツを選び、アクセスすることを可能とする機能であり、情報社会における基盤的な役割を果たすものである。また、検索サービスで得られる利用者の消費動向を踏まえた広告手法の多様化や、大規模サーバーの設置等による経済的な波及効果も期待できる。
 しかし、我が国においては、本分野において世界をリードする事業者が出現しておらず、サーバーへの情報の収集・格納等の行為が著作権法上の複製等に該当するおそれがあるという法的な課題もある。
 このため、ネット検索サービスが円滑に展開されるよう法的措置を講じるとともに、次世代をリードする情報の検索・解析技術の開発を支援し、先進的な事業の出現を促進する。

3コンテンツ配信に伴うサーバー上の複製行為等に係る法的課題の解決

 コンテンツの新しい流通経路として、ネットワークを活用した新しいサービスの出現が期待されている。しかし、インターネット等を介してコンテンツを提供する際の端末やサーバー等における一時的な蓄積が著作権法上の複製に該当するおそれがあり、円滑な事業展開にとって不安定要因となっているとの指摘がある。
 このため、通常の通信過程における機器の利用であって権利者の利益を不当に害しないものについては著作権法上免責される措置を導入するなど、一時的蓄積等に係る法的な課題を解決するための検討を行う。

(3)ネット時代に対応した新しい知財制度等を構築する

1コンテンツ市場の拡大に向けた新たなビジネスモデルの追求と知財制度の見直し

 近年、メディアの大変革が進むとともに、変化のスピード自体も加速している。我が国のコンテンツ産業はこのような時代の変化に絶えず対応しながら発展を模索しなければならない状況に置かれている。
 このような中で、我が国のコンテンツ産業が新たな市場を開拓し成長を遂げていくためには、既存のビジネスモデルの延長にとどまらず、新たな環境に適合した世界に先駆けた新しいビジネスモデルを追求していく必要がある。
 また、知財制度の面においてもこれまで個々の法的課題について整備を進めてきたが、将来の多様な発展を後押しし、今後さらに我が国の競争力を強化するためには、ビジネスモデルの開発に際して支障となるおそれのある法的課題に対してより迅速かつ柔軟に対応しうる制度が必要ではないかとの指摘もある。
 このため、新たなビジネスモデルの追求に向けた取組を支援するとともに、新たなビジネスモデルやコンテンツの利用形態の出現を視野に入れつつ、必要な知財制度の見直しを検討する。

2.海外に目を向け、グローバルにビジネスを展開する

(2)官民挙げて海賊版の流通防止に取り組む

1模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)の早期実現

 デジタル化やネット配信技術の進展により、海賊版が世界中に流通する危険性が高まっており、これを抑止するための国際的な法的枠組みが必要である。
 今般、我が国が提唱した「模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)」について、米国、EC、カナダ、スイス、ニュージーランド、メキシコ、韓国等知的財産の保護に関心の高い国々と集中的な協議を開始しており、今後も関係国との協議において積極的に議論をリードし、本条約の早期実現に向けた取組を一層加速する。

3.多様なメディアに対応したコンテンツの流通を促進する

(1)市場の透明性を確保し、取引機会を拡大する

1コンテンツ関連情報の集約

 多様なメディアの出現により、新しいサービスに必要なコンテンツの需要が増している。
 しかし、現状では一部の分野を除き、取引に必要なコンテンツの内容や権利関係、利用の窓口等の情報が公開されておらず、誰もが取引に参加できる透明な市場が確立されているとは言えない。
 このような問題を解決するため、2007年6月にはコンテンツを国内外に発信することを目的とした作品情報のデータベースである「コンテンツ・ポータルサイト」の運用が開始された。また、著作権等の権利者団体においては、権利者情報に関するデータベースである「創作者団体ポータルサイト」を整備・運用することを予定している。さらに、放送コンテンツの取引市場の整備の一環として、放送コンテンツに関する権利者や、権利処理の窓口等に関する情報を含むデータベースの構築に向けた取組が進められている。
 今後、各データベースの内容の充実に向けた取組を支援するとともに、これらデータベースが一体として機能し、コンテンツの利用者と権利者の双方にとって使いやすいものとなるよう各データベース間の連携強化を支援する。

2コンテンツ・ポータルサイトの充実

 コンテンツ・ポータルサイトは我が国のコンテンツを国内外に発信することを目的に整備された作品情報に関するデータベースである。しかし、現状においては、登録されているコンテンツ数も少なく、同サイトの利用状況も十分ではない。
 このため、登録件数が少ない分野(映画、放送コンテンツ、アニメ等)への協力を呼びかけるとともに、同サイトの利用状況等を検証し、大手コンテンツホルダー以外の者からの登録も働き掛けるなど運用の改善を行うことを促す。

3放送コンテンツの取引市場の整備

 放送は我が国の映像コンテンツ制作の中核を担っており、コンテンツ産業における役割は極めて重要である。映像コンテンツ市場では半分以上のシェアを占めており、多様なメディアが出現する中、放送コンテンツの円滑な供給が期待されている。
 しかし、放送コンテンツのマルチユース市場における割合は約12.4パーセントであり、二次利用はあまり進んでいないのが実態である。また、一次流通市場とマルチユース市場における地上テレビ番組の流通量全体に対するマルチユース市場における地上テレビ番組の流通量は約1.4パーセント(2005年)しかない。
 このため、放送コンテンツに関する権利や窓口に関する情報の集約・公開等により放送コンテンツの取引市場を形成するとともに、実証実験や、ルール、制度等の環境整備など、その取引の活性化に向けた具体的方策を講じる。

(2)コンテンツの流通を拡大する法制度や契約ルールを整備する

1所在不明の権利者がいる場合の対策の強化

 多様なメディアが出現する中、過去に放送された番組について積極的に二次利用を行いコンテンツの流通を拡大すべきとの指摘がある。過去に放送された番組については、そのほとんどが二次利用を前提とした契約がされていないため、すべての権利者から再度許諾を得る必要がある。しかしこの中には、所在不明となっている実演家もおり、すべての許諾を得ることが困難なものもある。
 このような問題に対処するため、放送事業者等の利用者と権利者団体との間で自主的なルールを作成し、所在不明の実演家がいても事後に使用料を支払うこと等の対応により二次利用を可能とする取組を支援する。また、著作権と同様、著作隣接権についても、権利者不明の際の利用を可能とする裁定制度を設けることを検討する。

2全員の合意が得られない場合の対応の見直し

 技術革新やインターネットの普及により、諸外国では放送されたコンテンツを即時にインターネットで流すなど多様なウィンドウを活用した様々なサービスが展開されつつある。我が国においても放送コンテンツの多様な利用が求められるところ、放送コンテンツの制作には多数の権利者が関わっており、その利用については権利者全員の許諾が必要である。その結果、少数でも反対がある場合には、許諾した他の権利者の経済的利益が確保されないおそれがある。
 このため、複数の権利者が関わる場合には、その権利者間の関係性に留意しながら、コンテンツの円滑な利用を促進するための望ましい権利行使の在り方について検討する。

3放送コンテンツの二次利用に関する契約ルールの周知徹底

 放送番組の二次利用を促進するためには、一次利用段階から二次利用を想定した契約ルールが必要であり、これまでに放送コンテンツに関するマルチユースを促進するための「出演契約ガイドライン」やネット配信に関する契約ルールなど関係者の自主的な取組が進められてきた。
 今後は、作成された契約ルールが実際の制作現場等において実効性をもって運用されるよう、関係業界における周知徹底を図るための取組を支援する。

(3)スピーディーな権利処理を実現するための環境を整備する

1集中管理事業の拡大

 コンテンツの円滑な流通のためには、権利の集中管理を行い権利処理に係るコストを削減することが重要である。2006年10月には実演家、レコード製作者の権利の一任型管理事業も始まり、迅速な権利処理の実現が見込まれる。
 しかし、分野によっては未だ委任者数が少ない、利用者のニーズに対応した多様な利用規程が整備されていないなどの指摘があり、大量かつ迅速な権利処理を求める利用者側の要望に十分対応したものになっているとは言えない。
 このため、各団体に対し利用者のニーズを十分踏まえ管理事業の見直しを定期的に行うよう促すとともに、権利委任者の拡大・対象となる権利の範囲拡大による集中管理事業の拡大を行うことを支援する。

2グローバルな流通に対応したコード付与の促進

 コンテンツに対するID付与は円滑な流通を図る上で重要な基盤であり、これまでにもCCD(デジタル時代の著作権協議会)−IDがコンテンツ・ポータルサイトにおいて利用される等の動きがある。また、これらのコードを事業者IDや許諾条件情報等と組み合わせたコードとして体系化することにより、権利の管理や不正利用の防止に役立たせようとする試みも行われている。
 コンテンツ産業のグローバル化が進展する中、今後さらにコンテンツID等の利活用を図るためにはこうしたコード付与の普及や仕組みづくりを国際的視野で進める必要がある。
 このため、例えば、既に国際標準化されている映像コンテンツIDであるISAN(注)のようなコード付与の普及や、グローバル市場に対応し新たなコード体系の策定・普及に向けた関係者の自主的な取組を促進する。

  • (注)International Standard Audiovisual Number(国際標準視聴覚番号)
3音楽のネット配信に対応した権利処理の効率化

 音楽のネット配信市場の拡大に伴い、コンテンツ提供事業者の取り扱う延べ楽曲数は、この4年間で7倍以上増加(2006年度で1.8億曲以上)した。これに伴い、権利者の使用料の支払いに必要な手続きが膨大となり、処理コストが増大している。
 このような問題を解決するため、ネットワーク音楽著作権連絡協議会では楽曲コードの付与作業や照合作業等に必要な作業を集中的に処理する第三者機関の設立を検討している。ネット配信の増大が見込まれる中、このような自主的な取組を支援する。

(4)我が国が有する優れたコンテンツのデジタル化を推進する

1国立国会図書館のデジタルアーカイブ化と図書館資料の利用の円滑化

 国立国会図書館には880万冊の蔵書が保存されており、これら国民の知的資産であるコンテンツをデジタル技術やネット等の情報通信環境を用いて国民の利用に資することはコンテンツ大国の実現にとって極めて重要な課題である。
 国立国会図書館では平成13年から「近代デジタルライブラリー事業」を開始しており、明治期・大正期刊行図書、貴重書の一部の約14万冊についてデジタルアーカイブ化が終了している。しかし、これは全体の蔵書である880万冊のうちの1.5パーセントに過ぎず、残された蔵書についての早急なデジタル化が必要となっている。
 このため、デジタル化された後の利用と既存の出版ビジネスとの関係も考慮しつつ、一定の範囲内で、図書館が権利者の許諾なしに蔵書をデジタル化できるようにする方策を検討する。
 また、国会図書館や公共図書館において、他の図書館や利用者にコピーを提供する際にFAXや電子メール等を利用して行うと、公衆送信の許諾を得なければならないため、実務上困難になってしまっている。
 このため、権利者の経済的利益にも配慮しつつ、利用者の利便性向上の観点から図書館間でのデータのやり取りや利用者への資料提供の在り方について見直しを行うことを検討する。

4.世界中のクリエーターの目標となりうる創作環境を整備する

(2)一億総クリエーター時代に対応した創作活動を支援する

1ユーザーの自由な創作・発表の場の提供

 ネットを通じて自分の創作したコンテンツを発表したり、他人が創作したコンテンツを楽しんだりするサービスが広がっており、ネット社会は誰もがコンテンツを創作・発表できる一億総クリエーターの時代と言える。
 既に小説やアニメ、音楽などの分野では、ネットを第一次発表の場とするコンテンツがユーザーからの高い評価を受け市場に流通しているものもあり、このようなサービスを通じてユーザー発の優れたコンテンツが生まれることが期待される。
 しかし、一般のユーザーが創作し公表するコンテンツに既存のコンテンツが含まれる場合、既存のコンテンツに係る権利者にあらかじめ了解を求めることが必要となるが、権利処理等の負担が大きく、適法に公表することが実際上困難となっているとの指摘もある。
 個人の創作の範囲を広げ優れたコンテンツの萌芽を育てるため、例えば背景音楽等についてコンテンツを公表する場を提供するサービス事業者が権利者団体等との間であらかじめ包括的な契約を行うなど、個人の自由な創作を支援する自主的な取組を促進する。

 このため、有害な情報の排除など青少年を健全に育成する観点から適正な体制を整えているサイトを明らかにするなど、適切なフィルタリングを進めるための関係事業者による仕組みづくりを促進する。

3意思表示システムの開発・普及

 意思表示システムの利用はコンテンツの流通促進に一定の効果をもたらすと期待されており、これまでにも自由利用を認める「自由利用マーク」の開発及び運用等の取組がなされている。
 インターネット上における著作物の自由な創作・発信を促すため、意思表示システムの改善普及を行うとともに、民間における活動を促進する。また、自由利用の範囲を超えた商業利用等に対する課金処理等の権利処理スキームの在り方についての関係業界の検討を促進する。