国立国会図書館を始めとする図書館の蔵書には膨大な学術情報等が存在しており、オープン・イノベーションを支える基盤として、これらの情報にインターネット等を通じて国民が容易にアクセスできる環境を整備することが重要である。
しかしながら、蔵書のデジタル化にかかる経費などの問題のほか、現時点では法律的にも次のような課題がある。
このため、著作権者や出版者に及ぼす影響にも配慮しつつ、図書館が権利者の許諾なしに蔵書のデジタル化を行えるようにする方策や、図書館間でのデータのやり取りや利用者への情報提供の在り方について検討を行うべきである。
現在、学校によるインターネットを利用した遠隔授業を受ける受講者は、同時中継型の授業であれば、授業の過程で用いられる著作物の送信を受けることができるが、同時中継型でない場合には、著作権者の事前の許諾を得ない限りそれが認められていない。
他方、米国においては、受信者を受講者に限定する等の条件の下、授業で用いられる著作物のインターネット等を利用した送信が可能となっている。
このため、我が国においても、著作権者に及ぼす影響にも配慮しつつ、一定の条件の下、インターネットを利用した授業で用いられる著作物の送信等が同時中継型の授業に限らず可能となるよう検討を行うべきである。
高度情報化社会の下、取り扱われる情報量が爆発的に増大する中、自ら望む情報を容易に取り出す等のため、映像・画像解析、テキスト解析等の基盤的技術が重要となっている。これらの技術に係る研究を行うためには、映像、テキスト等に関する膨大な情報を蓄積し、研究目的で利用することが必要となる。
このような研究のために放送番組に係る情報やウェブ情報を複製・改変することは、著作物の本来の利用とは異なるものであり著作権者の正当な利益を害するおそれは少ないと考えられるにもかかわらず、事前にすべての著作権者から許諾を得ることは事実上困難であるため、実際の研究活動に相当程度萎縮効果が働いていると指摘されている。
このため、著作権者に及ぼす影響にも配慮しつつ、映像・画像解析、テキスト解析等に係る研究のために映像情報やウェブ情報の利用を円滑化するための方策の在り方について検討を行うべきである。
インターネット環境の安全性を確保するためには、ウィルス対策ソフトウェアの研究開発や暗号ソフトウェアの研究開発を行うことが不可欠である。その際、ウィルスの及ぼす作用の分析等を行うため、既存ソフトウェアの解析(逆コンパイル等)を行うことが必要となる。
しかしながら、著作権法上、ソフトウェア解析の位置付けが明確でないため、これらの研究開発に萎縮効果が働いているおそれがある。
このため、ネット環境の安全性確保やソフトウェアに係る研究開発の促進を図るため、著作権者に及ぼす影響にも配慮しつつ、ソフトウェア解析を円滑に行うことができる方策の在り方について検討を行うべきである。
イノベーションの創出を加速するためには、質の高い特許が迅速に付与されることが重要である。
現在、米国においては、「コミュニティ・パテント・レビュー」、すなわち、特許出願に係る審査に際して、コミュニティに参加している者がインターネット上で最適な先行技術文献に関し議論した上で、その証拠となる文書を厳選して特許庁に提出する取組が試行されているところである。このような取組は我が国における特許審査の質の向上等を図る上でも有効と考えられる。
このため、これらの取組等に関する諸外国の状況等に関する調査や課題の整理を行った上で、先行技術文献等の利用を円滑化するための方策について検討を行うべきである。
知的財産権の活用や流通の前提として、当該権利が実効的に保護される環境が整備されることが不可欠である。このため、在外公館における相談・支援機能の充実、官民合同ミッションの派遣や政府間協議を通じ、侵害発生国・地域に対し、制度改善や取締り強化の働きかけを強化すべきである。