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文化審議会

2002/08/23議事録
文化審議会著作権分科会司法救済制度小委員会(第3回)議事要旨

文化審議会著作権分科会司法救済制度小委員会
(第3回)議事要旨

日時 平成14年8月23日(金)10時30分〜13時
     
場所 三田共用会議所大会議室
     
出席者 (委員)
北川、久保田、後藤、道垣内、橋元、細川、前田、松田、山口、山本の各委員
(文化庁)
岡本著作権課長、尾崎著作物流通推進室室長、堀野著作権調査官ほか関係者
     
配付資料  
     
  資料1 文化審議会著作権分科会司法救済制度小委員会(第2回)議事要旨
  資料2 著作権法113条の見直しについて(前田委員説明資料)
  資料3 間接侵害規定の導入について(細川委員説明資料)
  資料4 損害賠償制度の強化について(後藤委員説明資料)
     
概要  
  (1) 侵害とみなす行為に係る違法対象行為の見直しについて
前田委員から「侵害とみなす行為に係る違法対象行為の見直しについて」説明が行われた。その後以下のような意見交換が行われた。
(以下委員○、事務局△)

:  上映権侵害については、ホテルやバスや病院の待合室などオープンな場所で広くビデオが上映されている実態があるが、「上映」行為そのものを立証するのが非常に難しい。上映目的の所持についても、頒布目的の所持と同様に「侵害とみなす行為」の対象とすることについて、是非検討してもらいたい。

:  権利者は、どのバスやホテルに上映を許諾しているかということを把握しているので、上映権侵害をしているかどうかは分かるが、許諾をしている場合は、そのビデオが市販の商品か、海賊版のどちらかは分からない。まずは上映権侵害で調査を開始し、その結果海賊版であることが分かることとなる。

:  発見されたものについて、海賊版と市販された普通のビデオと、割合はどのくらいか。

:  場合によるが、インターネットカフェでは市販品、観光バスや、ホテルは比較的海賊版が多い。

:  コンピュータプログラムは、マザー品(原盤)をコピーして頒布する場合、マザー品を113条1項2号の頒布目的所持で抑えることができないが、映像物については頒布目的所持で抑えることができると聞いたことがあるが本当か。

:  それについては、マザー品自体を頒布する目的がないということで解釈上いろいろ意見があると思うが、刑法第175条の猥褻ビデオの販売目的所持の罪に関して、地裁判決で、マザーからコピーをとって、そのコピーを販売する目的でマザーを所持することが猥褻図画の販売目的所持にあたると認められた例がある。この判決を著作権についても適用すれば、映像物については、法改正しなくても現行法でマザー品を抑えることができることとなるのではないか。

:  113条1項の、1号にある「国内において頒布する目的をもって」や、2号の「情を知って」「頒布の目的をもって」という要件は必要ないのではないか。1号については初めは頒布する目的がなかったからといって、後に頒布する目的を生じたときに、日本では違法なものを頒布する権利を与える必要はないと思う。輸入してきた人は、輸入に料金を支払っているので保護すべきという意見もあるかもしれないが、取引行為の過程で、契約において自己防衛できるはずである。2号の「情を知って」についても、情を知っていても、いなくても、頒布されたら、正当な権利者の販売機会を奪うことになる。正当な権利者の利益の犠牲において頒布者を保護する必要はないと思う。頒布する側にとっても、故意過失がなければ、損害賠償請求をされることはなく、差止めや廃棄の対象となるだけである。また、「頒布の目的をもって」についても、頒布の目的に限定するのは狭いと思う。私的使用の目的による所持を除外して、海賊版を所持する行為を「侵害とみなす行為」の対象としてもいいのではないか。

:  権利者側の意見としては、そうかもしれないが、普通の生活をしているものにとっては、故意・過失がなければ損害賠償義務を負わないからといって、知らず知らずのうちに違法行為をしている状態におかれることは、いかがなものかと思う。「情を知って」として主観要件をいれたこと、「頒布の目的をもって」に限定したこと、についても何か理由があったはずで、そのときからの事情変更があったかどうかを検討した上で議論するのが妥当ではないか。

:  頒布行為というのは、物品を流通過程に置くことも含むので、頒布目的での所持全般を対象とすると、一度違法となったものが、転々流通する間に、流通業者が行う販売行為など対象行為が広範に広がることとなる。このような流通業者の行為全部が違法になるのは問題であるということで、主観的要件が入っているのではないか。

:  主観要件を外すことについては、情を知らないで頒布する場合も一網打尽に流通業者の全ての行為が全部違法になってしまうことがいいかという問題がある。侵害行為があって、主観的要件が加わって、犯罪行為の類型として規定されているものを簡単に変更していいのか疑問がある。立証上困るからという理由だけでは難しいのではないかと思っている。

:  立証上困るから、主観的要件を外すべきと言っているわけではない。作られたもの自身の性質として、それが違法であることを問題視すべきということである。このときに主観的要件を入れるのが適当かどうかについて、適当ではないと思っている。違法物が市場に出ることで、正規製品の市場を奪っているということを客観的にどう評価するかという問題である。

:  海賊版であろうが、市販商品であろうが、その所持自体を違法とすべきという考え方はないか。

:  現行法の枠組みからすると、113条1項2号が著作権侵害物を対象に限定しているので、侵害物でないものも含めて、「侵害とみなす行為」の対象とするのは、もう少し広範な議論が必要である。

:  「侵害とみなす行為」の関係としては、113条2項について、1権利侵害のプログラムを「業務上」使用する行為に限って、侵害行為とみなしている点、2「複製物を使用する権限を取得した時に情を知っていた場合」に限り侵害行為とみなしていて、その後に情を知ったとしても、侵害行為とみなされない点、が問題である。このあたりについても留意いただきたい。

  (2) 間接侵害規定の導入の必要性について
「間接侵害規定の導入の必要性」について事務局から過去の検討状況などについて説明があった後、細川委員から資料3(間接侵害規定の導入について)についての説明が行われた。その後、以下のような意見交換が行われた。
(以下委員○、事務局△)

:  教唆者と幇助者も112条の1項の「侵害する者又は侵害するおそれのある者」に含まれる旨の規定は必要である。間接侵害の規定についても著作権法に規定する需要はあるのではないか。

:  112条の1項だけに教唆者幇助者を入れると、反対解釈で114条の規定には入らない、といった別の意図しない効果が生じることにもなりかねないので、全体を見直さなければできないのではないか。間接侵害についても同様である。

:  「ときめきメモリアル事件」の判例から「専ら著作物の改変のみに使用される機器を製造・販売する行為」の規定創設を提案しているが、同判例の考え方は同事案については認められたが、それを超える事案について同様の考え方が認められるかどうかはわからない。したがって、同判例をもって、一般的な規定創設を行うのは危険ではないか。

:  2つの提案については、現行法で対処できる部分がかなり広いのではないか。新たな規定を創設することで、解釈の余地を狭めることとなれば、それは好ましくない。

:  「専ら・・・のみ」という考え方は、地裁では認められたが、最高裁が認めたわけではない。

:  「専ら」犯罪だけに使う技術はあまりない。「専ら・・・のみ」という限定は新たな規定創設に当たって認められ易いために必要となるが、慎重に検討すべきではないか。具体的にどういう行為や技術が問題となるのか、もう少し見定めてから検討した方がよいのではないか。

:  「ときめきメモリアル事件」では、エンドユーザーの行う行為が違法であるというケースについて侵害を認めたが、エンドユーザーの行為が家庭内コピー等の合法的な行為である場合に「専ら・・・のみ」のという条件での侵害を認めるかどうかはまだわからず、それが議論の到達点ではないかと考える。その点を慎重に考えるべきではないか。

:  本件については、また議論の機会を設けていただきたい。

  (3) 損害賠償制度の強化について
「損害賠償制度の強化」について事務局から過去の検討状況について説明    があった後、後藤委員が資料に沿って説明。その後、以下のような意見交    換が行われた。
(以下委員○、事務局△)

:  参考資料であげられている最高裁判決は、カリフォルニア州裁判所の出した懲罰的損害賠償の判決について、日本では公序良俗に反するため執行を認めなかったものである。もし、日本で懲罰的損害賠償を一部でも認めると、米国で巨額の賠償を命じた判決についても、日本で執行しなければならなくなるという問題がある。
  また、故意に殺害されるというような犯罪もある中、著作権にだけ懲罰的損害賠償を導入するのは日本の法制度としてバランスがよいかをもう少し検討する必要がある。

:  著作権侵害では侵害の発見が困難な事例が多いため、権利の行使等にコストがかかる。また、キャンペーンなど侵害予防のためのコストもかかる。しかし、相当因果関係がないということで侵害予防のためのコストを侵害者から回収できない。著作権制度を維持するための手段として、懲罰的賠償のようなものを導入する必要があるのではないか。著作権の場合には、侵害行為の発見が困難で普遍的に行われてしまうという特殊性があるので、著作権制度維持のため、著作権、あるいは特許権に限定した制度として構築できるのはないか。

:  その特殊性を理由に懲罰的損害賠償を認めることはできないのではないか。深刻な、人間の将来を脅かすような犯罪行為も潜在化していると思うが、だからといって、損害賠償額をあげろという話にはなっていない。ここは、なぜ損害賠償額をあげるのか、なぜ知的財産だけなのか、制度的な枠を変えるという意識を忘れずに議論をする必要がある。
  法定賠償については、最低これだけは認めるという額を出すか、商品価格の何割とか方法はいろいろあり得るが、懲罰的賠償については、日本の法制度と合わないので慎重に考える必要がある。知的財産立国という政策があるのはわかるが、法の秩序というものもある。

:  アメリカでは、特許法違反について、実質損害の3倍を認めている。これは、アメリカでは、一般の懲罰的損害賠償は青天井で、それではあまりに不当だということで、独禁法、特許法については3倍を上限と定めたものである。最高裁判決で言われているように、懲罰的損害賠償は、刑事・民事を峻別する我が国の法体系にはあわないと思う。根本的に日本の法制度を変えるということでないと難しいのではないか。ただし、今の損害賠償制度で十分かというとそうではない。立証責任を被告に転嫁するというアプローチが考えられる。例えば、初めに原告側が立証できた2倍の金額を推定し、被告側が相手の損害額はもっと低いことを立証できれば、その額まで損害賠償額を減額するというアプローチが考えられるのではないか。

:  資料4にある「侵害の量の推定」については、3倍より遙かに多くした方が効果的ではないか。なお、米国では実損額を超える部分については課税される。

:  損害賠償制度には日本ではまだ発達の余地があるが、今まで出たような提案は、様々な事件の特性を反映して議論が積み重ねられてくれば将来的には考えられるが、今、突然、著作権についてのみ出てくるということだと導入は難しいのではないか。ドイツなどヨーロッパでは3倍賠償は公序良俗に反するということで導入されていない。このような制度は両刃の剣とも言え、額を上げなければ日本が損をするということでもないのではないか。

:  最高裁判所は、逸失利益の回復を「公序」と考えているのではないか。それを超えて3倍賠償を考えるのであれば、著作権固有の問題はないと思うので、知的財産権固有の問題があるかどうかという議論が必要だということだと思う。司法制度改革本部においても損害賠償について見直しの議論が行われることとなっており、その議論も踏まえる必要がある。知的財産の分野において3倍賠償を議論しているのはこの審議会だけだということも踏まえ、将来的に本当に必要なのかをもう一度議論した方がよいのではないか。

:  コンピュータソフトウェアについて、業界の意見が固まっているわいけではないが、挙証責任の転換という方法があれば、必ずしも3倍でないといけないということではないのではないか。米国の著作権法に懲罰的損害賠償の規定はあるのか。

:  懲罰的損害賠償の規定は、米国の著作権法にはなく、一般の民事法制の領域で形成された考え方だが、条文という形ではないのではないか。

:  著作権法だけに3倍賠償を導入するというのは難しいのではないか。例えば、特許法で3倍賠償というのはまだ受け入れやすいかもしれないが、著作権法においては受け入れられづらい、といった制度自身の「受容度」の違いがあるかもしれない。大学での状況などを考えると知的財産一般ということで整理できるかも懸念がある。特許については、大学の所属にしていこうという流れがあるが、若い研究者が自分のものだと思っている場合もあり、実際に帰属が明確でない知的財産もある。ハーバードの事件では相当重い刑が見込まれている。日本の知的財産制度が動いている風土といったものに留意しないと反対意見も出てくるのではないか。

:  3つの提案事項はそれぞれ違う性質のものである。3倍賠償についてはいろいろ問題があるが、法定賠償については具体的な議論を進めていくことも可能ではないか。立証責任の転換については必ずしも懲罰の目的と考えなくてもよいのではないか

:  実際の訴訟では、1件5千円などといった少額の損害額を認定するものもあるが、それでも法定額を定めて適用すべきなのか。損害額が大きいソフトウェアの訴訟などでは、法定賠償は機能しないとすれば、最も小さな事件にばかり適用されることとなるが、それでよいのか。
  10万円として法定賠償額を定める場合、被告が損害は発生しなかったということを抗弁として立証したら、法定賠償であっても請求棄却という判決が出る可能性があってもいいと思う。抗弁がどうなるかということも考えて立法しないと法的安定性を欠くことになるのではないか。

:  法定賠償について、具体的な規定の案を考えているのか。

:  具体案はないが、法定の最低賠償額が明確になれば、権利行使が迅速にできると考えている。

:  米国の法定賠償は抗弁を許さない制度である。損害額を立証するか、立証せずに法定賠償額で請求するかは、権利者が選択することができる。通常、一著作物当たり750ドルであり、何回侵害するかは関係ない。悪意の場合は加重できる。訴訟を起こした場合の損害賠償額の見通しを立てる材料にはなるが、最低これだけは勝ち取れるという安心材料になるという効果は全くない。そのような効果を期待するのは、100万円、200万円というように額を大きくしないと意味がないのではないか。

:  法定賠償制度を導入するか否かという問題と、導入する場合額をどう決めるかという問題とがある。

:  損害賠償については、もう一度議論の場を設けて欲しい。

:  法定賠償は損害額の立証が困難という状況に対応するためのものだが、3倍賠償は立証できたものを3倍するという発想なので、両者は質的に異なる。また、侵害への抑止力ということを言うと、他の犯罪行為等との関係も問題になるため、3倍賠償よりも法定賠償の方が国民一般には理解されやすい。「損害額の立証が困難な状況への対応」ということを目的として、法定賠償は他の課題とひとくくりにした方が分かりやすいかもしれない。


閉会   事務局から今後の日程について説明があった後、閉会になった。


(文化庁長官官房著作権課)

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