3 調査結果

8.実演

 実演の分野では、我が国では、商業用レコードを用いた放送利用については、著作権法に基づき文化庁長官の指定を受けた指定団体である社団法人日本芸能実演家団体協議会(以下「芸団協」という。)が、商業用レコードの二次使用料(以下「二次使用料」という。)について放送用録音に係る録音使用料と併せて徴収分配業務を行うとともに、商業用レコードの貸与報酬(以下「貸与報酬」という。)に係る徴収分配業務についても指定団体として業務を実施している。
 また、私的録音録画補償金の受領分配業務についても併せて業務を実施している。
 なお、芸団協では、放送のために行われた実演(以下「放送実演」という。)を録音録画したテレビ放送用番組の二次利用について、従来から利用許諾窓口となって業務を行っていたが、平成19年4月から一任型管理業務に変更している。
 芸能プロダクションを会員とするJ事業者では、放送実演を録音録画したテレビ放送用番組の二次利用について、芸能プロダクションを通じて実演家から権利行使の委任を受けて、主に放送番組の部分利用に関する利用許諾窓口になっている。
 また、主に劇団所属俳優や映画俳優の実演が録音録画された放送番組の部分利用については、K事業者が窓口になり業務を実施しており、歌舞伎俳優の舞台映像や写真の利用については、L事業者が著作隣接権に係る許諾業務と併せて歌舞伎俳優の肖像利用に関する許諾業務を実施している。

【J事業者】

(1)管理業務の概要

 芸能プロダクションを会員とするJ事業者は、二次使用料、貸与報酬、私的録音録画補償金の徴収分配業務については、指定団体である芸団協に権利行使の委任をしているが、放送番組の部分利用や番組販売、ビデオ化、インターネット配信などの二次利用については、芸能プロダクションを通じて実演家から権利行使の委任を受けて許諾業務を実施している。

 実演家と芸能プロダクションとの契約書は、J事業者が推奨している専属芸術家統一契約書、または、専属芸術家統一契約書を基本に各芸能プロダクションが自社の方針に合わせて一部変更を加えたもののいずれかによって締結されており、この契約では、実演家は、自らが有する一切の権利を芸能プロダクションが独占的に許諾することができることとされている。
 各芸能プロダクションは、実演家との契約を締結した上で、J事業者に委任状を提出することで一切の権限をJ事業者に委任している。

 平成19年3月末現在、J事業者の正会員は102社、委任者は200社ほどあり、実演家数にすると、正会員と委任者を合わせて約9千人・組に及んでいる。
 なお、J事業者は、管理業務の概要を示したパンフレットや手続フロー図などを関係機関に送付するなど、必要に応じて情報提供を行っている。

(2)利用手続の流れと使用料の決定方法

 放送局等の利用者は、J事業者所定の申請用紙に必要事項を記載し、ファクシミリによって利用許諾申請を行う。申請が行われた場合、J事業者は、放送局に対して内容の確認とリピート放送の確認を行っている。
 リピート放送の確認を行っているのは、部分利用された番組がリピート放送されると、三次利用、四次利用され、当初の放送番組とは異なる利用が次々と行われる可能性が強くなるためである。
 その後、J事業者では、J事業者内に設置された放送委員会及び各芸能プロダクションに申請内容を報告し肖像利用を含めた問題の有無について確認を受けている。
 各芸能プロダクション及び放送委員会が確認を終えた後、問題の有無をJ事業者へ報告する。
 取りまとめられた問題については、放送委員会へ報告され、その報告内容を基に許諾の可否と使用料(J事業者会員社に所属する実演家に関しては,NHKや民放局とJ事業者との間で協定を締結し、使用料が決定されており、この協定どおりの使用料となるかどうか。)の決定を行い、許諾の内容を利用者へ連絡している。
 利用許諾にあたって、使用料の額がいくらかというよりも、適切な利用となるのかどうか、例えば、過去の映像を使われたくないという実演家本人の意思の尊重や、プロダクションのマネジメント上、出演する番組のタイトルが実演家にマイナスとならないかどうか、実演家の生出演の機会を失わないように出演調整が必要かどうか等が芸能プロダクションの大きな関心事である。

(3)一任型管理業務を実施していない理由

 放送番組として録音録画された映像の二次利用は、実演家のイメージ戦略などの芸能プロダクションが行うマネジメント戦略に直接影響を与えることから、実演の利用を許諾するかどうかは芸能プロダクションの判断に委ねていると考えられる。このため、一任型管理のような一律的な使用料の取り決めは行えない。

(4)利用者とのトラブルについて

1事業者の意見

 放送局との間で放送番組の二次利用に関する協定を締結しており、その協定に従って対応しているのでトラブルは起きていない。
 なお、地上放送番組のインタラクティブ配信については、現段階では、各放送局との間でルールが定まっていないが、ルールが決まるまでの間、会員事業者に対して、出演時にインタラクティブ配信に係る使用料を出演料とは別にいくらかでも支払ってもらうよう放送局と交渉し、納得がいくのであれば各社対応で契約してよいとの指導をしている。

2利用者の意見

 例えば、インタラクティブ配信事業において、芸能プロダクションとは条件面で折り合いが付いていたにもかかわらず、利用許諾窓口はJ事業者が行っているので使用料を支払ってほしいと言われるなど、実質的にJ事業者が使用料を決定しているように感じる。

【K事業者】

(1)管理業務の概要

 K事業者は、主に劇団所属俳優や映画俳優などの実演家から二次使用料、貸与報酬、私的録音録画補償金の徴収・分配業務、放送番組の全部利用について所属団体や所属事務所を通じて権利行使の委任を受けており、芸団協に再委託を行っている。

 K事業者では、これらの業務に加え、映像作品の部分利用に関する許諾手続業務を実施している。K事業者の管理委託契約約款では、放送番組等の映像の部分利用について、委託者がK事業者を通じて使用料の額を決定、利用許諾を行うことができる代理による委任契約を採用している。

 平成19年7月現在、K事業者が委託を受けている委託者数は、約1,300事業所・約25,000名である。また、K事業者は、管理業務の概要を記載したリーフレットを関係機関に配付したり、インターネットのホームページを通じた情報提供に努めている。

(2)利用手続の流れと使用料の決定方法

 K事業者では、目安となる料金規程を定めているが、これは、映像の部分利用の際の最低使用料として利用者に対する希望額を定めているものであり、実際には、放送局からの申請を除き、委託者の意向を踏まえて使用料が決定されている。
 実際の利用許諾手続としては、放送局以外の利用者から映像の部分利用に係る申請があった場合、実演家本人に許諾の可否と使用料について確認した後、許諾する場合は利用者と使用料の交渉を行い、許諾書を発行している。
 一方、NHK及び在阪、在名の民放局の場合は、K事業者とそれぞれの放送局が映像の部分利用に関する使用料についての契約を締結しており、実演家本人に許諾の可否を確認し、了解が得られた場合は契約に基づく使用料で許諾を行っている。
 また、在京民放局5社からの申請の場合、L事業者は実演家本人に許諾の可否を決定してもらっているが、使用料については、実演家の了解の下、在京民放局5社との間で契約を締結しており、民放各社の内規で定めた使用料に基づいて許諾を行っている。
 なお、映像作品の部分利用については、年間約5,000件の利用申請があり、使用料の関係で許諾を拒否したケースはほとんどない。

(3)一任型管理業務を実施していない理由

 映像作品の部分利用は、場合によっては実演家本人の名誉声望を害する利用の可能性があるため、利用の許諾にあたっては、実演家本人の了解を得た上で行うこととしている。このように実演の部分利用については、一任型による管理がなじまないものと考えられる。

(4)利用者とのトラブルについて

1事業者の意見

 これまでに利用の許諾を拒否したケースはまれなので、利用者から適正に利用申請が行われればトラブルになるケースはほとんどない。

2利用者の意見

 特になし。

【L事業者】

(1)管理業務の概要

 歌舞伎俳優は、権利意識が高いため、自分の演技が撮影された映像や写真の二次利用について厳しくチェックする傾向が強い。実務上は、広告、宣伝などのビジネスに関係する利用については所属事務所に委任しつつ、放送番組の二次利用や歌舞伎写真の教科書への利用などについては、歌舞伎俳優の団体であるL事業者に直接権利行使の委任を行っている。

 L事業者の著作隣接権の処理に関する規約では、L事業者の会員は、L事業者に著作隣接権の全部又は一部の譲渡あるいは権利行使の委任を選択できることとされているが、事実上、L事業者に権利の譲渡をしている会員は存在せず、全て委任契約によってL事業者に権利委任されている。
 L事業者では、著作隣接権の処理に関する委任状を作成しており、その委任状によってそれぞれの歌舞伎俳優から権利行使の委任を受けている。

 通常、劇場中継などで歌舞伎を放送する場合、歌舞伎俳優は録音録画の許諾を与えていないので、一旦、放送された番組を他の目的で利用する場合や記録用に保存する場合については、歌舞伎俳優に録音録画の許諾を得る必要がある。
 このため、L事業者では、利用申請ごとに歌舞伎俳優に許諾の可否を確認した上で利用許諾を行っているが、利用者との間で使用料等に関する協定を締結している場合がある。
 利用者との協定の内容は次のとおりである。

1日本放送協会(NHK)との協定

 L事業者とNHKとの間では、NHKが放送した劇場中継番組のDVD化や中継番組の部分利用、NHK以外の利用者による二次利用に関する協定を結んでいる。
 NHKが中継番組を二次利用する場合については、L事業者は俳優本人に許諾の可否を確認した上で、協定で規定された使用料に基づいて許諾を行っている。
 一方、NHK以外の利用者が劇場中継番組を二次利用する場合については、使用料は別途協議することとされており、許諾の可否と使用料を俳優本人に確認した上で行っている。

2松竹株式会社との協定

 松竹株式会社との間では、松竹株式会社が行う収録用の舞台録画、伝統文化放送がCS放送用の歌舞伎チャンネルで放送する際の舞台収録、衛星劇場で放送される松竹の映画への収録についての協定を締結している。
 舞台収録については、L事業者は俳優本人に許諾の可否を確認し利用者へ伝えた後、利用者は協定で規定された出演料を直接各俳優へ支払うこととしている。
 一方、舞台収録を編集して放送する場合は、俳優本人が許諾の可否を決定し、協定で定めた使用料をL事業者を通じて各俳優へ支払うこととしている。

3日本芸術文化振興会との協定

 日本芸術文化振興会との間では、記録映像を国立劇場の館内で一般向けに視聴させる場合などに関する協定を締結している。
 館内での一般視聴については、L事業者は、俳優本人に許諾の可否を確認した後、了解が得られた場合は協定の定めによって無料で許諾している。
 また、同振興会が記録映像や写真をインターネット配信する場合については、L事業者は俳優本人に許諾の可否と使用料を確認した後、L事業者を通じて各俳優に使用料を支払うこととしている。
 なお、同振興会以外の者がDVD化したり、インターネット配信などを行う場合には、L事業者が俳優本人に許諾の可否と使用料を確認した後、L事業者を通じて各俳優に使用料を支払うこととしている。

 また、劇場で撮影された歌舞伎写真の二次利用についても、歌舞伎俳優の肖像利用の窓口として業務を実施している。この他、L事業者と利用者との間で取り決めたルールに基づいて、歌舞伎俳優と利用者との個別許諾によっている場合もある。

 L事業者は、平成19年3月末現在、375名の委託者から権利の委託を受けており、そのほとんどが歌舞伎俳優である。また、管理業務の概要についてインターネットのホームページを通じて情報提供を図っている。

(2)利用手続の流れと使用料の決定方法

 L事業者が映像の二次利用について許諾を与える場合、使用料として一定の目安を決めているが、歌舞伎俳優に許諾の可否と使用料を決定してもらっている。具体的には、利用者から利用申込があった場合、俳優本人に映像や写真の内容を確認してもらい、許諾する場合は許諾書を発行している。
 年間の利用申請は500件程度あり、最近ではCD−ROMやインターネット利用についての申請が増えている。
 なお、L事業者では、利用者が適正に映像や写真を利用したかどうかを確認するため、利用許諾後、利用者からDVDなどの成果物の提供を受けることとしている。
 そのほか、歌舞伎俳優は師弟関係が厳しいため、複数の俳優が出演している映像を利用する場合は、師匠が許諾したら、その弟子も許諾を出す傾向が強いとのことである。

(3)一任型管理業務を実施していない理由

 歌舞伎俳優は、生の演技を見てもらうことに意味があると考えているので、自分の演技が映像や写真などの固定物によって流通することに対して自ら許諾の可否を決定したいという意識が強い。このため、一瞬の間に撮影された演技が不本意な場合や映像に写っている演技が気に入らない場合は、許諾を拒否するケースが多い。特に、写真を利用する場合にそれが顕著である。
 また、ワイドショーの番組などで歌舞伎俳優のスキャンダルな映像を利用される場合は、そもそも許諾できないケースがほとんどである。

(4)利用者とのトラブルについて

1事業者の意見

 L事業者と利用者との間で大きなトラブルはないが、利用者から、歌舞伎の映像を明日放送したいので許諾がほしいと言われたことがあり、時間的に余裕がないのでトラブルになったケースがある。
 L事業者が利用者に利用許諾を行うにあたっては、歌舞伎俳優本人に映像等のチェックを受けなければならず、利用許諾までに必然的に時間を要するので、すぐ許諾を出せる訳ではない。

2利用者の意見

 特になし。

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