第6章 外国における私的複製の取扱いと私的録音録画補償金制度の現状について

第4節 イギリス

1 沿革

 イギリスでは、1977年のウィットフォード委員会報告書、1985年のグリーンペーパー、1986年のホワイトペーパーにおいて、いずれも補償金制度を導入する方向が示唆されたが、権利者、製造業者、消費者等による議論の末、補償金制度の導入を盛り込まない形で1988年改正法が制定され現在に至っている。

2 私的複製の取り扱いと補償金制度への対応

 イギリスでは、研究又は私的学習を目的とする文芸、演劇、音楽、美術の著作物の公正利用(fair dealing)は、著作権を侵害しないこととされており(第29条)、娯楽目的のために行われる私的録音録画には原則として適用されていない。

 ただし、1988年の改正により、放送番組及び有線放送番組をより都合のよい時に見又は聞くことを可能とすることのみを目的として放送又は有線番組の録音録画物を私的及び家庭内の使用のために作成することについては、著作権侵害の責任は問わないこととされた(第70条)。
 以上のとおり、イギリスでは70条以外に娯楽目的での録音録画を認容する規定はない。現在も補償金制度は採用されておらず、権利保全については全て権利者に委ねている。

3 EU理事会指令2001への対応

 EU加盟国の多くは、私的使用目的の著作物の複製を容認する規定と公正な補償に関する規定を採用しているが、イギリス政府は、他のEU加盟国が採用している補償金制度を制定しなくても、イギリス著作権法はEU理事会指令2001が求める水準をすでに満たしているという考え方を示している。
 これは、補償金制度は最適な制度ではないため、包括的な補償金制度よりも著作権保護技術と契約の組み合わせにより、権利者のライセンスによって権利者の利益を確保する方向を期待しているという考え方が背景にある。

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