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著作権分科会(第21回)議事録

1. 日時
  平成19年1月30日(火曜日)10時〜12時

2. 場所
  霞が関東京會舘「シルバースタールーム」

3. 出席者
 
(委員) 青山,大林,岡田,加藤,金井,金原,後藤,迫本,佐々木,佐藤,里中,瀬尾,大楽,田上,辻本,道垣内,常世田,土肥,中山,野原,野村,福王寺,松田,三田,村上,森,紋谷,大渕,各委員
(文化庁) 近藤文化庁長官,高塩文化庁次長,吉田長官官房審議官,甲野著作権課長,秋葉国際課長 ほか関係者

4. 議事次第
 
1   開会
2 議事
 
(1) 「文化審議会著作権分科会報告書(案)」について
(2) 私的録音録画小委員会における検討状況について
(3) その他
3 閉会

5. 配付資料
 
資料1   「文化審議会著作権分科会報告書(案)」の概要(PDF:287KB)
  著作権分科会 部会・小委員会名簿
資料2 文化審議会著作権分科会報告書(案)
資料3 平成18年度著作権分科会私的録音録画小委員会における検討状況
参考資料1 文化審議会著作権分科会委員等名簿
参考資料2 文化審議会関係法令等
(※(第20回)議事録へリンク)
参考資料3 文化審議会著作権分科会(第20回)議事録
(※(第20回)議事録へリンク)
参考資料4−1 「著作権法の一部を改正する法律」の概要
参考資料4−2 著作権法の一部を改正する法律の資料
(※国会提出法律へリンク)

6. 議事録
 

【野村分科会長】 それでは定刻になりましたので、若干委員の方でお見えでない方がございますけれども、これから文化審議会著作権分科会の第21回を開催いたします。
 本日は、御多忙の中、御出席いただきまして、まことにありがとうございます。本日の会議が、今期最後の著作権分科会となります。
 議事に入る前に、本日の会議の公開について決定したいと思いますが、予定されている議事の内容を参照しますと、特段非公開にするには及ばないと思われますので、公開としたいと思いますが、特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【野村分科会長】 それでは本日の議事は公開ということで、傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことにいたします。
 まず前回の8月24日の会議以降に、新たに文化審議会著作権分科会臨時委員を1名お迎えいたしましたので、御紹介いたします。
 イプシ・マーケティング研究所代表取締役社長、野原佐和子さんです。

【野原委員】 イプシ・マーケティング研究所の野原と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

【野村分科会長】 続きまして、事務局に異動がございましたので、事務局から紹介をお願いいたします。

【甲野著作権課長】 御紹介をさせていただきます。11月1日付で文化庁長官に異動がございました。これまで文部科学審議官でありました近藤信司が職についているところでございます。なお、前任の河合隼雄は、任期満了に伴いまして退職をさせていただいているところでございます。

【近藤文化庁長官】 近藤でございます。よろしくお願いいたします。

【甲野著作権課長】 それから、1月15日付で、文化庁次長が交代をしております。文化庁文化部長でございました高塩至が就任しております。

【高塩文化次長】 高塩と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

【甲野著作権課長】1月12日付で、文化庁長官官房著作権課課長補佐調査官が異動でございまして、これまで文部科学省大臣官房総務課専門官でありました黒沼一郎が就任をしております。

【黒沼著作権調査官】 黒沼でございます。よろしくお願いいたします。

【甲野著作権課長】 以上でございます。

【野村分科会長】 では、まず事務局より、本日の配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】 失礼いたします。お手元の議事次第の下のほうに配付資料一覧を記載してございますけれども、本日、配付資料は3点でございます。
 資料1といたしまして、「文化審議会著作権分科会報告書(案)の概要」という横長のペーパーでございます。
 資料2は、その本体の報告書(案)になりまして、ちょっとぶ厚めの資料でございます。
 その後ろに、1枚紙で資料3といたしまして、「平成18年度著作権分科会私的録音録画小委員会の検討状況について」という1枚紙でございます。
 そのほか参考資料として、参考資料1から参考資料4−2までお配りしてございます。
 委員名簿、関係法令、前回の分科会の議事録。資料4といたしまして、「著作権法の一部を改正する法律」の概要と、その本体をおつけしてございます。不足等ございましたら、事務局のほうにお申しつけください。
 以上でございます。

【野村分科会長】 それでは、報道関係の皆様には撮影の終了をお願いいたします。

(報道関係者退室)

 それでは、本日の議事に入りますが、昨年の3月以降、各小委員会におかれましては、それぞれの分野において精力的に御検討いただいてまいりましたが、本日は今期の当分科会の最後の会議となりますので、各委員会の検討結果について、それぞれの主査より御報告をいただきたいと思います。
 また、法制問題小委員会における報告書には、ワーキングチームの検討結果も記載されておりますので、法制問題小委員会司法救済ワーキングチームの大渕座長は専門委員でいらっしゃいますが、本日は御出席をいただいております。
 法制問題小委員会及び国際小委員会の検討結果につきましては、資料2の「文化審議会著作権分科会報告書(案)」の各章として組み込まれております。
 本日の分科会において御了承いただきましたら、このような形で著作権分科会の報告書として公表することを予定しておりますので、その点も御留意の上、御審議をいただきたいと思います。
 それでは、法制問題小委員会の検討結果について、中山主査より御報告をいただきたいと思います。

【中山副分科会長】 それでは、法制問題小委員会の検討結果について御報告申し上げます。
 お手元の文化審議会著作権分科会報告書(案)における当小委員会の該当記述につきましては、前回、第20回の本分科会で「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(私的複製・共有関係及び各ワーキングチームにおける検討結果)報告書(案)」として御報告させていただいたものにつきまして、8月25日から9月25日までの意見募集を行いまして、そこで頂戴した御意見を踏まえて、再度、当小委員会にて審議を行い、取りまとめをしたものでございます。本日は、意見募集でいただいた主な御意見と、それを踏まえて、前回から変更いたしました点について説明を申し上げたいと思います。
 まず、報告書(案)の6ページ以降、「私的使用目的の複製の見直しについて」でございますけれども、この項目には、「(1)解釈上の検討課題」と「(2)立法上の検討課題」があったわけでございます。
 まず(1)の解釈上の検討課題についてでございますけれども、「1私的複製と契約との関係について」という箇所につきましては、「公益的見地から権利制限というよりも、権利者に及ぼす損失の程度と円滑な著作物利用との比較衡量の見地から、一定の範囲の権利制限を認める第30条の趣旨・目的に照らすならば、契約当事者間において個別に私的複製の範囲を合意している場合には、これを無効とすべきではない」という御意見や、あるいは、「第30条をオーバーライドする契約条項を一律で有効とするのではなく、著作権保護技術の種類や私的複製の回数や複製先の媒体、利用者が一方的に不利益を被るおそれがある契約条件が含まれていないかを個別に判断すべきである」などの意見を頂戴いたしました。
  2の「私的複製と著作権保護技術との関係」という箇所につきましては、「著作権保護技術が適用されている分野は、音楽配信される楽曲など、ほんのわずかであり、私的複製全体をカバーし得ず、将来図も全く見えない状況である」という御意見。あるいは、「著作権保護技術の条件によっては、正当な経済活動や学術研究、新たな創作の遂行を妨げるおそれがあり、その点について最大限の配慮を必要とすべきである」という御意見や、それから、「著作権保護技術との関係において、複製可能な範囲内の複製についても、それが私的複製に該当するか否かは、なお個別に判断されるべき事柄である」というような御意見を頂戴いたしました。
 次に、「(2)立法上の検討課題」についてでございますが、まず最初は「1私的録音録画補償金関係」の箇所につきましては、これは幅広い、さまざまな論点が含まれているものでございまして、先の本分科会でも、大いに議論を頂戴いたしましたけれども、今回の意見募集におきましても、ハードディスク内蔵型録音機器等の指定の可否、二重徴収、補償金制度で対応すべき範囲と著作権保護技術等で対応すべき範囲の在り方、補償金の支払い義務者、共通目的事業の内容、分配の仕組みの透明性、返還制度、私的録音録画補償金制度の周知等につきまして検討を行う必要がある旨のさまざまな御意見を頂戴いたしました。
 また、2の「違法複製物等の取り扱いについて」という箇所でございますけれども、これにつきましては、違法複製物を私的複製としてダウンロードすることを違法として規制しないならば、違法な複製行為を助長して、著作権者の利益を害するおそれがあるとともに、許諾を受けて複製する者の利益をも害するおそれがあるため、私的複製の範囲から明文で除外すべきであるという御意見がある一方、家庭内の行為について規制することは困難であるという現行法の趣旨を前提に議論を進めるべきである。あるいは権利者が実態について把握することは不可能であり、可能とした場合にはプライバシーに抵触する蓋然性が高いという御意見もございました。
 また、その他の意見といたしましては、私的複製の問題は、私的録音録画小委員会にて検討されている私的録音録画補償金の問題と密接に関係しているため、先に私的録音録画小委員会で私的録音録画について検討をして、その検討結果を踏まえて法制問題小委員会にて私的複製全体の在り方について検討を行うという進め方に賛成するという御意見を頂戴している一方、法制問題小委員会と私的録音録画小委員会の関係につきましては、両小委員会間の情報交換を密にすることが必要であるという意見もございました。
 この法制問題小委員会と私的録音録画小委員会の関係につきましては、前回の本分科会で、委員の皆様からも御意見を頂戴したところでありまして、私的録音録画小委員会におきまして、報告書(案)の内容及び意見募集に寄せられた御意見につきまして御報告をしているところでございます。
 以上のような御意見を踏まえまして、当小委員会としては、再度検討を行いましたが、検討結果の内容に反映する必要はないと判断いたしまして、内容面につきましては、大きな修正を行いませんでした。
 検討内容2の「共有著作権に係る制度の整備について」でございますけれども、報告書(案)を御覧いただきたいと思います。意見募集では、「共有者間における契約により解決できる場合が多いと思われる」と。あるいは、「現時点では法改正を議論する意義に乏しい」などといった小委員会の検討結果におおむね賛同する御意見がある一方、相続のような場合など、共有者間で契約を結ばない事例も多数存在することから、契約実務に委ねるだけでなく、法律上の問題として取り組むべき」などという御意見も聞かれるところでございました。
 これらの御意見を勘案いたしまして、当小委員会として再度検討いたしましたが、現時点では法律改正に至るほど特段の事情は生じていないものと理解し、内容面におきまして大きな修正は行いませんでした。
 次に、契約・利用ワーキングチームでございますけれども、これも報告書(案)を御覧いただきたいと思います。
 意見募集では、「存在しない権利をあたかも存在するかのように契約に盛り込むといった不正な権利主張が正当であるかのような誤解を与えないようにすべきである」という御意見や、「オーバーライドを簡単に認めては、消費者保護に悪影響を及ぼしかねないのではないか」といった御意見もあったことから、これらの御意見を踏まえまして、消費者の観点を追加すべく修正を加えました。
 具体的には、「実際には権利制限規定の趣旨やビジネス上の合理性、不正競争又は不当な競争制限を防止する観点等を総合的に見て」という記載をしておりましたところを、「ユーザーに与える不利益の程度、及び」という文言を追加いたしました。
 最後に、司法救済ワーキングチームでございますけれども、意見募集では、著作権法に「間接侵害」の規定を設けることに慎重な意見が見られる一方、特許法第101条第1号・第3号、いわゆる、のみ品の規制でございますけれども特許法に類する規定を設けることに加えて、第2号・第4号に類する規定も設けるべきであるといった趣旨の御意見もございました。頂いた御意見につきましては、今後さらに検討を続けてまいります際の参考とさせていただくことといたしまして、内容面については大きな修正をいたしませんでした。
 以上でございます。

【野村分科会長】 どうもありがとうございました。ただいまの報告につきまして、御意見、御質問がございましたら、御発言をお願いしたいと思います。どうぞ。

【後藤委員】 共有著作権、いわゆる共同著作権に関してですけれども、御存じのように、映画に関しては、現在90パーセント近くの映画が制作委員会方式といって、企業が多数で作っている映画が多いわけですけれども、著作権者側から見れば、それは契約で十分権利行使はできるんですけれども、利用者の立場に立つと、制作委員会という実態が映画が完成した時点で、ほとんどどこにあるのか分からないというふうな状況の中で、今後、多分そういう形態の映画がどんどん増えていくと思うんですけれども、利用者の側から見た場合に、こういう状況をどういうふうにお考えでしょうか。

【甲野著作権課長】 それでは、事務的なことと関連いたしますので、こちらで御説明させていただきたいと思いますが、制作委員会方式の場合には、さまざまな関係の方々がそこに加わりまして、例えば、この当事者は、その後こういう形で使うというようなことがかなり詳細に決められた形で契約が結ばれて、そして、そのような利用をされるというふうな実態が多いと聞いております。したがいまして、利用者のかなり多くは、当事者に入っているなり、あるいは想定されているということでございましたので、実務上からすれば、非常に大きな問題がそこにあって、後から利用が困難になるというようなことまで大きくは聞いてはいないというのが実情であるわけでございますけれども、ただ、想定されないような利用者が今後登場するということもあり得るかと思いますので、そうしたような場合には、検討課題にはなっていくと思いますけれども、そこは実務の状況ですとか、そういうところをよく見ながら、必要があるときには、また御審議とか御検討、あるいは私どもの方で調査研究をしていきたいと思っておりますけれども、そういうことでよろしゅうございましょうか。

【後藤委員】 はい。それで、その検討をいただくときに、毎回同じようなことを申し上げて恐縮なんですけれども、やはり本来、著作者が著作権者であるべきであるという基本の理念からいたしますと、いわゆる第16条で、著作者は制作、監督、美術、撮影等というふうになっておりますけれども、その中で監督を著作者の代表というふうに定めるならば、利用者の側も、つまり監督が多数ということはありませんから、非常にスムーズに流通が行くのではないかというのが我々の考え方なんですけれども、そういう点もちょっと考慮して、今後御検討いただければと思います。

【野村分科会長】 制作委員会の外部の人が利用者になるというときに、制作委員会としてどういう形で対応するかということについて、外部の利用が想定されているのなら……。

【後藤委員】 具体的に言いますと、例えば、ある映画館がAという映画を上映したいと。それで、それは著作権は制作委員会になっていると。ところが制作委員会というのはどこに連絡すればいいか分からないと。じゃあ、この映画を上映するためにはどうしたらいいのかというところが、どこで許諾を取って、どういうふうにするかということが、今後ますます複雑になってくるのではないかという懸念です。

【野村分科会長】 つまり、制作委員会外の人が利用するということを想定しているのなら、むしろ制作委員会の中で内部関係を決めるときに、対外的に誰がどのように制作委員会を代表して利用の許諾などをしていくかということを定めた条項を契約の中に入れておくというのが契約の在り方として普通ではないかなと思い質問しました。

【後藤委員】 いや、そうです。ですから、委員会内部の方は問題ないんですけれども、今、僕が申し上げているのは、例えば、映画館が上映するときに、どこにどういうふうに許諾を取って、どこから金を出すかということが、制作委員会になっていますけれども、例えばAの映画の制作は何々制作委員会。ところが、制作委員会というのは、もう解散して実態はないわけですね。どんどん年月がたてば。そういうことが複雑になっていくことで、流通を妨げるのではないかという懸念が今後生じてくるのではないかという考えです。

【甲野著作権課長】 具体的に、もし問題が起こって、何か対策を講じなければならないということで仮に検討を始めるならば、あらゆる方法、手段を念頭に入れて検討すべきものかと思います。ただ、具体的に、それがどういう形になるのかは、法律でやれるのか、やれないのか、あるいは契約でやるのか。契約でやる場合には、当事者間の合意も必要でございます。また、映画の著作権についてどう考えるかという根本的な議論にもかかってくるかと思いますので、そうしたような状況を全体を踏まえまして検討していかなければいけない問題ではないかと思います。

【野村分科会長】 ほかに御意見いかがでしょうか。村上委員、どうぞ。

【村上委員】 久しぶりなので、1点だけ確認させていただきたいと思っています。
 個人的には、オーバーライドの問題とか、より広く言うと、契約により著作権のルールをどのぐらい変更できるかとか、その限界がどこにあるのかというのは、将来的には大きな問題となり得るテーマかと思っています。現状においては、無効になるか否かは、ケース・バイ・ケースで判断すべきであって、判例の集積によって判例法の形跡を待つべきであるという結論には賛成でありまして、実際には、考慮要因をざっと挙げていくのも難しかろうという気がしています。ただ、その前提として、これが質問内容になりますが、現状では契約条項の中に、それほど問題のある条項とか悪質なものはないし、それから非常に深刻な訴訟が多発しているとか、そういう状況ではないという現状認識でよろしいのかどうか。これだけ確認させていただきたいと思います。

【中山副分科会長】 よろしいかと思います。ただ、将来的には、デジタル技術と、それからその技術との関係でいろいろ問題が出る可能性がかなりあるという点では世界的に言われていまして、問題は大きくなると思いますけれども、現時点では、あまり判例とかトラブルはないと思っております。

【村上委員】 分かりました。

【野村分科会長】 どうぞ。

【瀬尾委員】 今回の権利のオーバーライドの問題、直接ではないんですけれども、実は権利、いわゆる立法上の権利と、それから現場の契約との関係について、今後いろいろな問題をここに含んでいると考えております。特に、今回はオーバーライドの問題がクローズアップされていますけれども、例えば、非常に不平等な契約とか、例えば優先的――独禁法関係のような、そういう契約上の問題と権利の問題。その辺について、例えば立法しなければ、もう契約の方が優先してしまうとか、要は、法律か契約か、どっちかというのではなくて、もう少し契約のルールとか、環境を見守っていくようなことについて、何らかのこの審議会、もしくはこういう議論の中で示唆を出していくと。少し突っ込んだ部分の指針とか、そういうふうなものが出ていくようになると、何らかの効果が出てくるんじゃないかと思います。今、現実問題として、契約と権利の問題の中で、例えば最初に著作権譲渡を迫られるような契約というのが大変多くなってきております。やはりこれは、雇う側、雇われる側の非常に力関係の不平等な中で行われる契約の中では、著作権譲渡しないと仕事がもらえないというふうな場合もかなり増えてきているという現実があります。
 ですので、単にそれを法律で制限するということは、これは違うのかもしれませんけれども、ただ、そういうふうな契約と権利の関係についての指針を出していくようなことも今後のこの審議会もしくは小委員会などの役目ではないかなと思いますので、そういうふうなことについて、今後検討されることを期待いたします。意見です。

【野村分科会長】 どうもありがとうございました。

【中山副分科会長】 よろしいでしょうか。不平等な立場での契約というのは、別に著作権に限らず、ありとあらゆるところにあるわけでして、これはもう個別的なケース・バイ・ケースでやらざるを得ないので、それは最終的には裁判所に行ってやる問題だと思います。この会で指針を出したとしても、それは裁判所で通るかどうか全く保証はない限りでありまして、司法の判断まで審議会でどの程度やるべきかというのはかなり問題がありまして、特に不平等な契約をどうするかという点につきましては、かなり難しいのではないかと私は個人的には思っております。

【野村分科会長】 ほかに御意見、いかがでしょうか。報告書については大体よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、国際小委員会の検討結果について、道垣内主査より御報告をお願いいたします。

【道垣内委員】 それでは、国際小委員会でドラフトいたしました報告書の第2章、37ページ以下について御報告をし、御審議いただきたいと思います。資料1のパワーポイントのようなものがございますが、それの3ページにも概要がございますので、報告書とともに御覧いただければと思います。
 国際小委員会のテーマは、大きく分けて2つございまして、1つは、「アジア地域等における海賊版対策施策の在り方について」ということと、もう1つは、「国際的ルール作りの在り方について」、特に放送条約への日本の参画の在り方についてという2つでございます。
 まず海賊版対策でございますが、切り口といいますか、4つの観点から検討しておりまして、1つが政府間協議、2つ目が能力構築支援、3つ目が私企業・私人等による権利行使、それから最後に書いてございますけれども、全体を取り巻く状況についての分析でございます。
 最初の政府間協議でございますが、これについては、もちろんこれまでも行われてきたところでございますけれども、要請と支援、二国間と多国間、そしてトップレベルと実務レベルと、さまざまなレベルにおいて、日本の求める秩序をいかに実現していくかということについて実効的な措置をとっていくべきだと。これは一般的なことだと思いますけれども、そのことを改めてここに書いております。
 それから、2番目の能力構築支援でございますが、報告書の40ページからでございますけれども、これまでも近隣の東アジア地域あるいは南太平洋の諸国まで、広く著作権思想について、さまざまな形で普及を図り、理解を求めていくという活動をしてきたわけでございますが、それらの国々、特にアジア地域が市場としては大きいわけですけれども、その各国それぞれ事情が異なりますので、そこを対象国をもう少し戦略的に選別をして、各国の状況に対応した施策をとってはどうかということをここに書いております。
 そのキーワードとしてここに挙げておりますのが、41ページにあります「キャパシティ・ビルディングからキャパシティ・ディベロプメントへ」ということでございます。キャパシティ・ディベロプメントとは何かということは、41ページの2の真ん中あたりに書いておりますけれども、「セミナー等の研修を起点としながら、研修内容が派遣元の国において普及され、最終的には途上国自身が自律的に政策を向上させていけるようになる過程を包括的にとらえ、そのための環境づくりを含めた総合的な途上国の政策実現能力の発展を目指す研修事業の在り方」ということで、これは一般にODAの最近の考え方であるようでございますが、この考え方を海賊版対策にも取り入れて、そういった観点から、具体的にはその下のパラグラフですけれども、より責任ある地位にある者を研修生として招いて、帰国後の行動計画作成を研修の中心として、その実施についてフォローアップしていくと、そういったことが必要なのではないかということを書いております。
 それから3番目は、権利行使でございます。これは、もちろん権利者がそれぞれの立場から自らの計算において行うべきことではございますけれども、なかなか相手国といいますか、それぞれの国における状況が異なりまして、容易ではございません。そこで42ページの下から5行目ぐらいに書いてございますけれども、「政府間協議を通じて、権利行使を容易にするための制度改正を要望していく際に、具体的な侵害に対する訴追状況についても情報提供を求めていくこと」と。あるいは、「具体的な権利行使に際しても、政府間協議の際の相手方政府の回答にも言及する」と。要するに、政府レベルの協議と個々の権利行使とがきちんと連携をとって、より権利行使をしやすくしていくことを考えたらどうかということでございます。ほんとうの意味での権利行使というと、民事の差止めとか、損害賠償ということになるかもしれませんが、なかなかそれは難しいとすれば、刑事訴追を求めていくという形であれば、コスト的には、権利者の負担ということにはなりませんので、そういったこともここにデータとしてどういう状況かということを掲げております。
 それから、そういったさまざまなレベルでの海賊版対策をしていく際に、考えていくべきことといいますか、周辺状況――4番目の点でございますが、特に、43ページの3の(1)に書いてございますように、もともと正規版の流通が行われていない国において海賊版が出ていると。これは、そういうニーズがあるにもかかわらず、正規版を購入できないという状況があって、したがって、そこで需要があるものですから、違法に供給がされていると。本来、理屈の上からは、正規版の流通をさせていけばいいわけですが、市場も大きくないという状況もあって、なかなかそのようにはなっていないという状況を書いております。つまり、そういう状況があるということを踏まえて、今申し上げたような施策について考えていくべきだというニュアンスで書いております。
 それから、2番目の放送条約の点でございますが、これについては、既に内容的には検討は済ませておりまして、WIPOにおける議論の進行に合わせて、小委員会でも議論をし、対応を考えたわけですが、特に内容的に新たに変わったということはございません。日本としては、47ページの最後のところに書いておりますが、もう既に昨年も議論したように、放送条約はデジタル化・ネットワーク化に対応した、著作権関連条約の見直しの一部をなすものであり、他の著作隣接権とのバランスを確保するためにも、早期の採択が求められると。そういう立場から、国際的な議論を引き続き積極的に引っ張り、また対応していくということが必要だということを書いております。
 以上がこのドラフトでございます。

【野村分科会長】 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御報告につきまして、御意見・御質問等ございましたらお願いいたします。特に御発言ございませんか。どうぞ。

【田上委員】 質問でありますけれども、日本コンテンツへの需要があるにもかかわらず、流通システムを確立していないというのが、つまり前提に購買力がないということですよね。具体的な例が、どういうところにあるんでしょうか。

【道垣内委員】 お答えしてよろしゅうございますか。

【野村分科会長】 どうぞ。

【道垣内委員】 この小委員会では、イタリアの例を御紹介いただきまして、イタリアで日本のアニメーションについての需要があるわけですが、イタリア語版というものが正規では出ていないものが多いらしく、しかしそういうのが見たいという人たちもいて、したがって、私的にイタリア語の吹き出しをつけたようなものが出回っているということです。購買力がないだけではなくて、需要があまりに小さくて対応できないということもあるようでございますて、もちろん購買力がない場合もあるかもしれませんが、さまざまな要因があるのではないかと思われます。

【田上委員】 アジアではないんですね。アジア以外の地域で主に議論……。

【道垣内委員】 すみません、では。

【野村分科会長】 それでは、課長に。

【秋葉国際課長】 今、御質問いただいた件でございますが、イタリアの例が具体的に起訴されている事例でございます。当然アジアにも同様の事例はあるというふうに認識をしておりまして、特にアジアにおきましては、正規コンテンツの参入規制というものがありまして、それによって正規版を購入したくてもできないということで、需要があれば、それは海賊版に流れてしまうという状況があるということで記述されているところでございます。

【田上委員】 分かりました。ありがとうございます。

【野村分科会長】 ほかに御質問、御意見等ございませんでしょうか。よろしいですか。
 それでは、国際小委員会の報告については以上にしたいと思いますが、先ほど申し上げましたが、法制問題小委員会及び国際小委員会の検討結果につきましては、資料2として配付されておりますように、このような体裁で当分科会の報告書としたいと思います。事務局より報告書(案)の全体の構成と今後の取り扱いについて説明をお願いいたします。

【甲野著作権課長】 お手元に配付しております資料2は、縦長の、このちょっと厚い資料でございまして、「文化審議会著作権分科会報告書(案)」というふうに記載をされているものでございます。これを表紙をめくっていただきますと、最初のところに目次がございます。第1章が法制問題小委員会、第2章が国際小委員会の各小委員会の検討結果でございまして、先ほど各主査から御報告をいただいた内容がここに記載をされているところでございます。
 そして、これら全体の一番初めに、「はじめに」という部分をつくっているところでございます。1ページをめくっていただきたいと思います。これまでの経緯ですとか、あるいは今後の方向性について、若干記述をしているところでございます。
 以上がこの報告書(案)の構成でございますが、この報告書の今後の取り扱いでございますが、本日の会議で報告書として取りまとめをいただきましたら、これを公表とさせていただきたいと思います。さらに、2月2日に、この分科会から見れば親委員会に相当いたします文化審議会が開催される予定となっておりますので、そこにおきまして、野村分科会長より、この内容を御報告をいただきたいと考えております。
 以上でございます。

【野村分科会長】 どうもありがとうございました。ただいまの説明につきまして、御質問とか御意見ございましたら、お願いしたいと思いますけれども。よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。それでは、著作権分科会の報告書につきましては、このような形で決定とさせていただきたいと思います。
 引き続きまして、私的録音録画小委員会における検討状況についてでございます。この議案につきましては、中山主査より御報告をいただきたいと思います。

【中山副分科会長】 それでは、私的録音録画小委員会における検討状況について御報告を申し上げます。
 私的録音録画小委員会は、昨年4月より検討を開始いたしまして、計8回の会合を行いました。検討スケジュール及び各回の検討事項につきましては、資料3の記載のとおりでございますので、私からは検討内容を簡単に御報告をしたいと思います。
 本小委員会では、検討の流れといたしましては、まず権利制限の趣旨や私的録音録画の実態を踏まえて、第30条第1項で認められている私的複製の範囲を見直し、権利制限規定の対象外とする録音録画行為に関する考え方について整理し、その上で改めて私的録音録画に関する補償措置の必要性を考えるという順序で基本的な考え方を整理いたしました。
 まず第30条の第1項の範囲の見直しについてでございますけれども、見直しに当たりましては、消費者の利益という観点から、例えばプレイシフトやタイムシフトにより、音楽・映像等を楽しむというような長く定着している現象は制度改正により大きく変化させないことや、第30条第1項の範囲の見直しによる違法利用に対する抑止効果や、実効性確保の見通し、権利者による深刻な被害を与えている私的録音録画の実態、許諾処理に関する費用の負担、オーバーライド契約に関する有効性、私的領域に関する法の介入等の点についても考慮する必要があることなどを踏まえまして、私的録音録画の類型のうち、海賊版などの違法複製物やファイル交換ソフトなどにより違法に送信されるものからの私的録音録画、それから音楽映像配信事業などの適法配信からの私的録音録画については、制度改正を行う際の課題が少なく、制度改正は可能ではないかということでおおむねコンセンサスが得られました。
 次に、補償措置の必要性についてでございますけれども、小委員会では、補償措置の前提となる私的録音録画の現状につきまして、私的録音補償金管理協会及び私的録画補償金管理協会が行った実態調査の結果等から、平成4年の補償金制度導入時と比べて、複製の総体は増加傾向であること、それから販売、レンタル、放送等の契約の実態からは、いわゆる使用料の二重取りが明示的に行われることは原則としていないと考えられること。それに権利者が著作権保護技術の導入を承知した上でコンテンツを提供した場合にも、一般的には当該保護技術が許容している範囲内の私的録音録画に対する補償の必要性までも否定したとは言えないことなどの点が整理されまして、これらを踏まえ議論いたしましたけれども、補償措置の必要性について、委員全員の意見が一致するまでには至りませんでした。
 なお、審議の過程では、他人から借りたCD等からの私的録音録画を第30条第1項の対象から外すべきであるとの意見や、著作権保護技術により権利者が複製を一切禁止することを法的に制限すべきではないか等の意見もございまして、これらの点についても議論をしたところでございます。
 次期の小委員会につきましては、これまでの議論を踏まえまして、具体的な制度設計について検討を行う予定でおります。
 以上でございます。

【野村分科会長】 ありがとうございました。ただいまの御説明につきまして、御質問・御意見等ございましたら、御発言をお願いいたします。

【佐藤委員】 レコード協会の佐藤でございます。私的複製の見直しに関連して、違法複製物等の扱いについて意見を述べさせていただきたいと思います。
 最近、市販CDの音源を権利者に無断でアップロードを行っている、携帯電話向けの違法サイトが急増している実態があります。こういった違法サイトからの音源のダウンロードが、携帯向け有料音楽配信ビジネスの成長の大きな障害になっています。昨日当協会が公表した、全国のモバイルインターネット・ユーザー約1,000人を対象とした調査結果では、違法サイトの利用率は36パーセントに達しており、違法音楽ファイルの年間ダウンロード数は約2億8,700万ファイルを超えるものと推定されております。この数字は、2005年1年間のモバイル向け有料音楽配信のダウンロード数量を超える規模であります。
 このように、相当の規模の市場が違法サイトからのダウンロードによって侵食されており、違法複製物等からの私的使用のための複製を、第30条の範囲から除外する著作権法の改正を是非お願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【野村分科会長】 ほかにいかがでしょうか。御意見、特にございませんでしょうか。
 それでは、特に御意見ございませんでしたら、この問題については以上にしたいと思いますが、いただきました御発言については、次期の小委員会でまだ審議が継続しておりますので、そこで御検討いただくということにしたいと思います。
 本日予定した議題は以上でございますが、まだ時間が残っておりますので、著作権の問題全般について、何か御意見ございましたら自由に御発言いただきたいと思います。ここで頂いた御意見は、ここで聞きっぱなしということではありませんで、事務局の方でまとめて、次期の著作権分科会のほうに伝達していただいて、重要な問題については次期分科会で取り上げるということにしていただけるかと思いますので、どうぞ御自由に御発言をお願いしたいと思います。

【佐藤委員】 IPマルチキャスト放送の自主放送に関する今後の検討について意見を述べさせていただきます。
 自主放送の実態がまだ見えない現段階で、著作権法上の取り扱いについて検討することは、あまりにも性急であり、安易に権利制限を拡大すれば、実演家及びレコード製作者の保護に大きな影響を及ぼすことになると考えております。仮に、自主放送を著作権法上、有線放送並みの扱いとした場合、権利保護と利用の調和を前提とした、極めて高い公共性を求められる放送とは乖離したサービス、例えば、音楽CDを繰り返し流し続けるような実質的には音楽配信と変わらないサービスが、簡易かつ大規模に可能となってしまうこと等が大変懸念されます。したがって、自主放送については、検討に足る実態が出てきたときに慎重に議論すべきであると考えておりますので、よろしくお願いいたします。

【野村分科会長】 ほかの方は御意見いかがでしょうか。

【田上委員】 本来は三田委員が多分話をされる問題だろうと思うんですけれども、保護期間延長の問題については、どういう議論というか、議論したほうが多分いいんだろうと思うんですが、これは事務局に伺いたい点です。それが1点。
 それから、例の「ローマの休日」などの「53年問題」ってありましたね。あれはどういう今状況になっていたんでしょうか。その2点です。

【野村分科会長】 それでは、併せてお願いします。

【甲野著作権課長】 保護期間の問題につきましては、今、野村分科会長からもお話がありましたけれども、ここで、前回からさまざまな御要請というものがございます。また、社会的にも団体のほうからそういうような要望も出されているところでございます。片や慎重に議論すべきという意見もありますけれども、そうしたような状況を踏まえまして、来期どうするのかを今後事務局として整理したもので、次回の分科会にお諮りをするということになろうかと思います。
 それから、「ローマの休日」の問題でございますけれども、これは2件訴訟が継続をしておりまして、1件が「ローマの休日」でございました。これについては、仮処分を求めていたものでございますけれども、地裁レベルでは保護は延長されないという判断が出まして、知財高裁に上がっていたんですけれども、これはその後、取り下げという形になっております。現に継続をしておりますのは、もう1点、「シェーン」という作品についてでございます。これは仮処分ではなくて、本争でございまして、第1審では、保護は継続をしていないという判断が出たところでございまして、これは現在、知財高裁で継続中というふうに状況は承知をしているところでございます。

【田上委員】2点目について、技術上の問題があったという指摘があったと思うんですけれども、それについては、この場でコメントを求めるのはちょっと酷でしょうか。

【甲野著作権課長】 裁判所の判断としては、実際の附則の書き方によると、保護が継続しないということでございましたけれども、これは内閣の提出法案でございますので、保護が継続するという形で、作業をして、国会に提出をしたというのが私どもの国会に提出した経緯でございます。

【野村分科会長】 今後、保護期間を議論するときに、法律の施行日とか、それから、適用の限界みたいなものについても明確になるような形で立法するということも含めて検討したほうがいいのではないかなと個人的には思っていますけれども。
 ほかに、御意見いかがでしょうか。どうぞ。

【三田委員】 先ほど著作権の保護期間の延長の問題が出ました。私どもは、70年への延長を提案した側でありますけれども、現在の実情を見ますと、50年を70年に延長いたしますと、利用者の皆様が大変手間がかかるとか、特に許諾を求めるための手間というのが大変にかかるということも事実であります。私は、この問題に関して、単に保護期間の延長を求めているだけではなくて、我々著作者としても、著作物が利用されるということは、もちろん好ましいことでありますので、利用のためのシステムというものを早急に確立する必要があるだろうと考えております。
 その点で私はポイントが2つあるだろうと考えております。1つは、著作権を持っている人を調べるためのシステムであります。これについては、各著作者の団体がしっかりとしたデータベースをつくって対応する必要があるわけです。現在もデータベースをつくりましょうという話は進んでいるんですけれども、実際に著作者の団体、お金がたくさんありところ、それからJASRAC(ジャスラック)さんのように、ほぼパーフェクトなデータベースをお持ちであるところもある一方で、お金のないところは、なかなか具体的に作っていけないというのが実情であります。しかし、利用者の利便性を考えましたら、このデータベースというのは早急に作る必要があるというふうに我々は考えまして、この著作権の保護期間の延長を求めた団体が、すべて完全なデータベースを持てるように努力をしたいと考えております。既にデータベースの整備が進んでいるところのノウハウや技術等をお互いに助け合いながら、遅れているところは何とかみんなで励ましながら、早急にデータベースを作るということを確認しました。
 それから、第2点は、そういうデータベースができたとしても、データベースから漏れるものというものはたくさんあります。例えば、文芸に関して言いましたら、古い雑誌ですね。例えば、『早稲田文学』とか『三田文学』とか、そういうものを大学のホームページにアーカイブしようと言ったときに、有名な著作者の場合は継承者が分かりますし、いつお亡くなりになったということもすぐ分かるわけでありますけれども、小さなコラムを書いている作者というのは、その人がどういう人で、いつお亡くなりになって、御遺族の方がいらっしゃるのかということを調べることも大変であります。これまでは何か古い物を再利用するというような形で裁定制度というものが設けられていたわけでありますけれども、現行の裁定制度というのは、文化庁に申請を出すときに、印紙を2万3,000円ですか、お金が必要であります。それから、新聞広告を出せということであったんですけれども、これは最近は著作権情報センターのホームページにリンクを張ればいいということになっておりますけれども、これだけでも2万1,000円かかることになります。ですから、とりあえず申請を出すだけで4万4,000円要るんですね。それから、裁定制度がスタートして、供託金を幾らにするかということが議論されるということになっておりますので、幾らお金が必要であるか分からないという、そういう手間もお金もかかるというのが現行の裁定制度であります。
 これは、例えば古い映画をDVDにするとか、ある程度利益が見込めるものについては、それだけの手間とお金を費やすということになろうかと思いますけれども、古い雑誌をアーカイブしようとか、あるいは大学の図書館にある古い資料をアーカイブにするとか、利益を前提としていないような利用度というものを考えた場合、1件につき4万円以上払っていくということは到底不可能であります。こういうインターネットの時代になりますと、情報をとにかく残していくということは、我々著作者にとっても必要なことであろうと考えますので、簡易な裁定制度といいますか、お金も手間もかからないような形で利用ができるというようなシステムを早急につくる必要があるだろうと思います。
 これは、著作権の保護期間を50年から70年にするという問題だけではなくて、50年以内のものについても現行では非常に利用しづらいというのが現実であります。ですから50年以内のものも含めて、一定期間以上経ったものについては、簡易な裁定制度で、もっとどんどん利用が進むというようなシステムを早急に作っていただきたいと思います。ただ、こういうシステムというのは、何らかの形で著作者の権利を狭めることにもなろうかと思いますけれども、この保護期間を50年から70年に延長する。これは諸外国との付き合いからいうと、私は延ばすべきだと思っておりますけれども、利用者の利便性を図るという点で新しいシステムを作るということを考えた場合に、この保護期間の延長と同時に考えていくというのは、私は利用の促進ということから考えると、千載一遇のチャンスであろうと。この機を逃すと、簡易な利用システムを作るというのは大変難しくなってきますし、これからインターネットはますます盛んになっていきますので、そういう形の利用システムをつくるチャンスであります。何とかこういう簡易な裁定制度というものを検討していただきたいと思います。
 以上です。

【野村分科会長】 どうもありがとうございました。ほかに御発言ございませんでしょうか。どうぞ。

【大林委員】 保護期間の延長というのは、実演家の立場を以前から毎回申し上げているのですが、是非よろしくお願いしたいと思います。国内では、映画の保護期間は、「公表後70年」になっていますが、出演している俳優等実演家は、起算の時点が「実演の固定された時」であり、期間も「固定後50年」ということで、生存中に保護期間が切れてしまうというのが現状です。これは、やはりちょっとバランス的に悪いのではないかと思います。私たちは、この要請を永らく続けておりますので、次の検討事項としてよろしくお願いいたします。

【野村分科会長】 ほかに御発言いかがでしょうか。

【佐藤委員】 今の保護期間延長の件なんですが、レコードの保護期間延長についてもあわせて御検討いただきたいと思います。よろしくお願いします。

【野村分科会長】 岡田委員、どうぞ。

【岡田委員】 すみません。ついでに言わせていただきます。延長の件ですけれども、主に保護期間延長をしたい、一方でさせたくないという人たちは、財産権のほうから入っていらっしゃる。そこで意見がぶつかっているような気がするんですけれども、我々著作者としては、ぜひとも人格権というものにも目を向けていただきたい。作品の内容が、より長く正しく残っていくということが我々が一番望んでいることでありまして、人格権ということにもぜひとも目を向けていただきたいと思います。

【中山副分科会長】 今のは具体的にはどういうふうな御要望なんですか。

【岡田委員】 延長を望まない人たちは、保護期間が長くなればなるほど使用料を長く払い続けなければならない。50年たったらもう払わなくてもよかったものが払わなければならなくなるから嫌だと。裏返せば、延長を希望する人たちのメリットとして、主に財産的なメリットを利用者がイメージしやすいところでございますが、50年から70年になることによって、例えば、替え歌がありますよね。私がつくった歌が変な歌詞で歌われたりするようなことは、それは人格権をもってより長く差しとめできるわけで、前回の会議で里中満智子さんもおっしゃいましたけれども、例えば漫画で、「鉄腕アトム」の著作権が切れたときに、「鉄腕アトム」をデフォルメした物とかが世界中に出回ったりするというふうな危惧もあります。そういうのは、やはり最初につくった人の人格権が侵害されていることでありまして、最初の原作が正しく、より長く伝わっていくということを望むものでございます。

【中山副分科会長】 現行法では、著作者人格権の権利の終期はありません。今50年か70年かと言っているのは、専ら財産権の話で、人格権は理論的には永久に存続する。ただ、請求権者が制限されておりますけれども、刑事罰は永久に続くというので、人格権についての延長の議論はない。ないというか、永久ですから、議論する必要もないと私は思います。

【岡田委員】 そうですか。それでは少し教えてください。私の知識がちょっと足りないことがあるかもしれません。保護期間が長くなると著作物創造のサイクルが害されるという危惧は否定できないという日弁連からの申し立てがございますが、これは保護期間が終われば人格権も消滅するという考えにたった上での主張ではないのでしょうか?人格権とは何なのか教えてください。

【中山副分科会長】 「公表権」と「氏名表示権」と「同一性保持権」の3つがあります。あと若干ありますけれども、主なものはその3つです。それは、別に死後50年という限定はない。現行法でもないです。

【岡田委員】 そうですか。前に、すごく大昔ですけれども、中山先生に、審議会で「著作権の保護期間が切れた後、人格権はどうなるんですか」と聞いたら、それに対してはまだ学会で結論が出ていないので、はっきりしたことは言えないとおっしゃったことを覚えていらっしゃいますか。

【中山副分科会長】 詳しくは覚えていませんが、具体的事例に応じた話をしたと思いますがで、一般論としての人格権は、今、私が申し上げたとおりです。ただ、死後は、どうしてもだんだんと人格権は薄れていくということはありえます。例えば聖徳太子の書いた物は、今変えていいかどうかということになると、現在生きている人とはかなり違うだろうと思います。それは当然ですけれども、基本的には、人格権は期限的には制限はないということです。

【野村分科会長】 ほかに。それでは、まず大林委員ですね。先に大林委員。

【大林委員】 今、岡田委員のおっしゃったことと関連すると思うのですが、著作権の保護期間の延長について、経済的権利に関係するだけではないというのは、隣接権も同じです。オリジナルな創造物、また、それを創造した人にどれだけのリスペクトを持つのか。多分、それが基本にあって、保護期間の延長が考えられて来たのであろうと。その部分を忘れてしまってはいけませんというのが、著作者や隣接権者の根底にはあると思います。利用する方々が、創造した人にどのようなリスペクトを持って、利用していくのかということがないと、単なる流通だけのお話になってしまうのではないでしょうか。そこが、一番根底にある問題ではないかと、私は考えております。

【野村分科会長】 それでは、瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】 直接今の話との関連性はありませんけれども、実は、最近のこの著作権分科会の在り方について、ちょっと考えていることがあるんですけれども、1つの意見として申し上げます。
 結局、最終的には立法措置、著作権法の改正ということが目的になって、いろいろな検討が繰り返されているということがございますけれども、現状の中で、単純に立法だけ、要するに著作権法を改正すれば、すべて解消するのかというと、その運用のシステムとか、関連するいろいろな諸要素が相まって、初めてうまくいくような著作権の状況になっているのではないかと思います。そのときに、この著作権分科会で出す報告書が法律を改正するのかしないのか、それだけに比較的どんどん傾注していってしまうのではなくて、先ほど不平等な契約の話もちょっと申し上げましたけれども、そういうふうな、いろいろな諸システムについての意見という要素が、実は今までもあったと思うんですけれども、それがどんどん法律改正の必要性が大きくなるに従って、ちょっと薄れていっているような気がいたします。ですので、こういう、この分科会からそういうふうな、こうあるべきであるというような、ただ運用で何とかするべきだとか、例えば、この文化庁さんの管轄するだけではない、いろいろなシステムとの関連、それから、そういうことに対するいろいろな意見とか連携とか、そういう、もっと全体的な部分が出てきてもいいのではないのかと。
 また、逆にそうしないと、1つの問題について、法律は変えるか変えないか、変える必要がないと言ったら、「ない」でもう終わってしまうのではなくて、「でも、こういうシステムが必要ですよね」とか、そういうふうな部分に、もう少し強く踏み込んでいかないと、現実の問題というのが、「法律はこれで変えないけど、あとは現場で頑張ってね」とか、「法律を変えるんだから、これでもうすべてオーケーでしょう?」とかというのではない、そういう何かもうちょっと多角的な視点というのを、この審議会でもうちょっと強く出していってもいいのではないかなと思っています。今後の審議会の中で、そういうことが可能であれば、そういう方向性も加味していただけたらと思います。意見です。

【野村分科会長】 ほかにいかがでしょうか。それでは、福王子委員。

【福王子委員】 美術家連名の福王子と申します。
 昨年の12月に、日本弁護士連合会から、文化庁の文化審議会著作権分科会委員あてに書類が来たんですけれども、保護期間延長について反対であるということが書いてあって、こういった書類は、文化庁のほうではどうやって、どういうふうに処理していくということでしょうか。

【甲野著作権課長】 では、事務局から御説明いたしますと、日弁連から頂戴しましたものにつきましては、文化庁あてのものと各審議会の委員あてのものがあったわけでございますので、審議会の委員の方々に出されるものにつきましては、それぞれの意見を出される団体等の御判断で出されているわけでございますので、それはそのまま受領していただきました。そして、私どもの方に頂いた意見につきましては、役所に頂いた意見ということでございますので、それに誠実に対処するといいますか、今後制度を改正するに当たりましては、十分踏まえる形で審議をしていただくという形になるのかと思います。

【福王子委員】 あと、もう1つなんですけれども、今年2007年に高村光太郎さんという詩人の方の著作権が切れるということで、この方は高村光雲さんという木彫の作家の息子さんなんですけれども、私も、この方の詩を1つ持っておりまして、「センセイ、山を見るとき、センセイもまた山なのである」ということなんですけれども、それを書で書いてあるんですね。行書で書いてあるんですが、そういった場合に、書としての著作物なのか、あるいは活字としてのものなのかということがまず1つ心配なんですけれども、あと、2008年に、小林古径先生と川合玉堂先生が著作権が切れるということで、続いて2009年に横山大観先生も切れてしまうということで、私どもの先輩の先生方の著作権が切れてしまうということで、いろいろな面で影響が出てくるのかなと思うんです。美術関係でももちろんたくさんありますし、今、高村光太郎先生の書にしても、詩人なんですけれども、どういった具合になっていくものなのか心配なんです。ぜひとも来年度の著作権分科会で、70年保護期間の延長について、慎重に、なおかつ、いろいろな作家の方がいますので、意見を聞きながら審議していただければありがたいと思います。
 あと、もう1つ、戦時加算の問題について、これはまた、この70年保護期間延長ということで、一緒に昨年度、要望書を提出しているわけなんですけれども、この親委員会の文化審議会で話し合っていただくことはもちろんなんですけれども、国際統一ということもありますので、国際小委員会のほうでも話し合っていただきたいと思っております。
 以上です。

【野村分科会長】 では、三田委員。

【三田委員】 今、岡田委員のほうから、人格権の問題が出ましたので、補足的に私の考えを述べさせていただきます。
 人格権というのは、相続も譲渡もできないということになっておりますけれども、しかし、経済権、財産権の継承者が本人になりかわって提訴をしたという実例がありますので、長く人格権は続いていくんだという考え方もあります。しかし、人格権がずっとあるんだというのは、実質的にはほとんど「絵にかいた餅」みたいなものでありまして、御遺族の方が裁判を起こすためには大変な手間とお金が必要になります。それから、人格権の侵害によって、どういう問題が生じ、例えば、お金を請求するのかということになりましても、亡くなった人の人格が損なわれることによって、お金を幾ら払えばいいんだという議論になりますと、なかなか簡単にはいかないことであります。我々が生きている間に、例えば粗悪な海賊版が出たりしますと、我々は、出版権という形で出版社に著作権を委ねております。そうしますと、委ねられた出版社が著者にかわって裁判を起こすというようなことをやってくれます。御遺族の場合にも財産権としての著作権が生きておりましたら、その作品を出している出版社に海賊版の取り締まり等をお願いするということが可能になってきます。これが、その経済権、財産権が切れてしまいますと、もちろん出版差しとめにするというようなことができなくなってしまいますので、人格権があると言っても、実質的に人格権を守っていくということは大変難しい問題になってくるわけであります。我々著作者の多くは、自分が死んだ後、50年後、70年後に自分の作品がどれぐらい売れているかということはあまり想像力が働かない領域でありますけれども、自分の作品が何か著作権フリーになってしまったということで改ざんされたり、100円ショップに、長編がいやに短くなって得られるとか、そういう事態はどうしても避けたいと考えております。人格権を守っていくためにも、財産権というものを延長するということを考えてほしいなと、著作者の立場としては切に要望する次第であります。

【野村分科会長】 どうぞ、野原委員。

【野原委員】 野原ですけれども、初めてということもありまして、これまでの検討の経緯も分からないために、ずれたことを言うかもしれませんが、今お話を伺っていて、ぜひ発言したいことがあるので1点発言させていただきます。
三田委員の発言された、最初のほうのコメントに関してですけれども、私は、著作権者あるいは著作隣接権の保有者の方々という立場ではなく、利用者の立場からどういう環境を作るべきかとに興味があります。利用者の立場から言っても、著作権の保有者、それから著作隣接権の保有者に対して、理にかなった権利を保障した上で、利用者が使いやすいシステムを作るということは非常に重要だと思います。今日頂いた報告書(案)の最初の「はじめに」のところにも、この会議の位置付けとして、急速に進む技術革新や新たなビジネスの登場、グローバリゼーションへの進行に対応するためにどうあればいいのかということを検討するのがこの場だというふうにうたってありますし、そういう観点から言っても、インターネットの普及やいろいろな新技術によって新ビジネスが登場する社会環境の変化に対して、法制度を変化させないということをここで議論するのではなくて、どうやったら新しい体制に対応した、よりよい仕組みができるのかということをぜひ検討していただきたいと思います。
 その中で、先ほど三田委員がおっしゃられたように、著作権の保有者を調べるためのシステムを構築するとか、あるいは簡易な裁定制度を作るといったことが具体的に重要なことだと思いますし、先ほど瀬尾委員もおっしゃられたように、法律を決めることだけが重要なのではなくて、運営体制やシステム・仕組みの構築など、運用面での対策で解決できるということも多々あるように思います。ぜひそういった観点で、法律についての議論に限らず、多角的な視点で、適切な利用促進のための体制を作るというような観点で、議論していただきたいと思います。そのことが違法なコンテンツが大量に出回るということを防ぐことにもなると思いますので、ぜひそういった検討を期待したいと思います。よろしくお願いします。

【野村分科会長】 ほかに、御意見ございますでしょうか。松田委員、どうぞ。

【松田委員】 今日の各委員のお話を聞いておりまして、まさに今、著作権が直面している問題が皆様方の御指摘で出てきているように思うわけです。一方において、権利保護期間を長くすることと人格権の実質的な覚悟をしたいという権利者団体側の要請と、それからテクノロジーの発展に伴って、それをさらに流通促進し、ないしは使い勝手のいいものにしていこうということ等の要請が出てきているわけです。そのためには、著作権法の改正だけではなくて、著作権法周辺の制度自体の、法律制度以外の何か制度も検討していかなければいけないのではないかというような発言もあって、まさに私はそのとおりだと思って、皆様方の意見、1つも、何て言うんでしょうか、異を唱えるようなものは全くありません。
 しかし、よく見てみますと、保護期間の強化と人格権の保護の要請と、流通の促進というのは、実は具体的なところではぶつかる可能性は十分にあるんです。それがまさにこの審議会に視点としてかけられているところだろうと私も思います。1つは、人格権につきましては、一昨年、昨年の審議会において、人格権について基本的研究をして、そして再度検討するということで、確かなっていたと思いますので、その検討がCRICの方で行われて、その報告がこの3月には完成しますので、その検討を踏まえて、今言ったテクノロジーとの調整の問題を、私もここで審議していただきたいと考えているところであります。
 保護と流通の点ですが、瀬尾委員が言われたとおり、どうも法律だけではだめなんじゃないかなというふうに私も思っています。法律の枠組みをきちんと作る必要はありますけれども、それをどう調整するような社会システムが必要かというようなことも必要なのではないかと思っております。特に映像コンテンツをこれからマルチユースして、なおかつ国際的なグローバル戦略にそれを活用していくという国家的プロジェクトを前提にしますと、著作権法だけの改正で事が足りるというわけではなくて、これを現実の運用として制度化していくと、運用できるような制度を作っていくということが課せられている。場合によったら、法律の改正だけではなくて、そういう提案を、この分科会の方でしていくということも課題としてあるのではないかと感じました。

【野村分科会長】 ほかに御意見いかがでしょうか。どうぞ。

【田上委員】 保護期間のお話ばかりしていいのかどうかわかりませんけれども、三田委員のお話の中で、保護期間の延長問題をきっかけに著作物の円滑な流通、簡易な裁定制度などをあわせて議論すべきだと、その点は非常に賛成なんですけれども、それ自体が独立して議論していい話だろうと思うんです。
 慎重に議論すべきだと思いますが、1点だけ三田委員に伺いたいのは、ちょっと先ほどの話で分かったような気がしたんですけれども、人格権の絡みでお話があったと思うんですが、著作者に対するリスペクトを大事にしてほしいということを、これまでにもいろいろ言っておられて、50年から70年に延長すると、リスペクトという部分について、より尊重するということになるのかどうか。私はちょっと何か疑問に思っているわけです。どちらにしろ、70年経てば、また切れるわけですよね。その後に改ざんされるかどうかということは、そこでまた議論され、人格権の侵害だということになれば、その子孫の方ではなくても、社会的に議論になるでしょうし、延長問題とリスペクトというところが私はもう1つよく分からないんですけれども、そこだけちょっと伺いたいんですが。

【三田委員】 この著作権というのは、著作者によっては、自分が死んだら、もう公開したいという人もいらっしゃいます。ただ、それは経済的な物は要らないよということでありまして、人格権は守ってほしいというのは多くの著作者が考えていることだろうと思います。自分の作品を大切にしたいという思いですね。特に著作者の場合、例えば、目先で儲かりそうな作品と、今は認められないけれども長く評価される作品というもの、多少イメージの違いがあるわけですね。人によっては、今の世の中には受け入れられなくても将来必ず認められるはずだという思いで、売れない作品を書く人もいるわけです。宮沢賢治や梶井基次郎とか、生きている間、全く売れなかったのに、死後長く尊敬され、多くの人に愛される作品というものがあるわけです。ですから、死後というものをちゃんと保障することが芸術家の意欲を促進するということでリスペクトというものが著作者のインセンティブにもつながっていくんだというふうに私は従来から主張しております。
 ただ、70年になったら切れてしまうということは事実なので、それが100年ならいいのか、何年ならいいのか、これは簡単には議論できないことだと認識しておりますが、とりあえず、現況では、欧米だと先進諸国だけではなくて、メキシコであるとか、多くの国が、既に70年以上、99年とか100年とかもありますので、長くなっているのに、日本が短いままであるということは、外国の作家との付き合いを考えていく上でも、なるべく早く同じ条件にしていただきたいと考えております。
 それから、1点付け加えますと、利用促進のシステムを作っていかなければならないというふうに私も考えておりますし、利用者の方もそれを願っておられることと思いますけれども、具体的にシステムを作っていくとなると、問題が生じて、なかなかうまくいかないということになるおそれもあります。多くのところから慎重な審議をという声も聞こえてきます。ただ、私は、慎重になり過ぎますと、著作権というのは私権でありますので、1年、2年と審議が延びるに従って、著作権が切れてしまう作家というのは毎年出てくるわけです。御遺族の方は、この審議の成り行きを、命をすり減らすような思いで見ていらっしゃると思うんです。ですから、必要以上に慎重になり過ぎますと、そういう個人の権利を奪ってしまうということにもなりますので、なるべく迅速に、かつ十分な議論をすべきであろうと考えます。

【野村分科会長】 ほかに御発言いかがでしょうか。松田委員、どうぞ。

【松田委員】 今の田上委員の御質問で、私が答える立場には本来ありませんけれども、延ばしても人格権それ自体に何年という規定はないわけだから、あまり変わらないのではないか。むしろリスペクトの点がどう保護期間の延長に影響するんですかということは関係ないんじゃないですかという発言ですよね。

【田上委員】 いや、関係ないとは言いませんが、そのリスペクトというものを柱に立てるのは――いいですか、ちょっとやりとりして――ことが、私たち、ちょっとよく分からないということを、一般の方に、創作者の思いと遺族の方、1年を非常にこの審議の行方を、審議というんですか、議論を見守っているというところはそれはそれで分かりますけれども、それは70年になってからでも同じことで、70年で切れるときに、やはり1日1日思いを、切れちゃうなというふうに考える人たちがいるわけですね。その50年から70年に延ばすリスペクト論というのは、この問題とどう結びつくかという、その結びつきの強さについてよく分からないので御質問したわけです。

【松田委員】 なおさら私が答える立場ではありませんけれども、経済的な権利がもし70年になったとしたら、そこを管理する遺族や、そこを管理する権利の代行者は多分ある程度確保されるんじゃないでしょうか。50年でやっていたところは70年になるわけですね。そうすると、人格的なことはどうなるかということなんだろうと思いますが、少なくともそれを人格的な利益を権利行使できるのは、第116条の範囲内の人しか権利行使できないわけで、遺族と、それから遺言書によって指定された、多分団体でしょう。こういうことしか権利行使できないんですが、遺言書で指定しますと、実は人格的利益の行使の行使って50年しかできないんです。これは財産権ときっと合わせた趣旨で書いてあるんだろうと思うんです。多分、財産的権利が行使できないのに人格的行使を代表する団体がいた場合に、それを70年、60年、いや永久にというわけにはいかないから、それを合わせて50年に立法趣旨としてはしたのだろうと思います。
 そうすると、多分、死後のリスペクトをもっと強化しろということであるとすれば、財産的権利が70年にもしなれば、この指定団体が人格的利益を行使するのは、50年よりも70年になる可能性はあるのではないかと私は思っています。そうすると、三田委員が言われたような死後の問題の人格的利益についても確保できるよねということができるかもしれません。そのためには、実は人格的利益にかかわらず財産的利益もそうですが、死後、権利行使をする財団とか団体ですね。これ、日本ではほとんど使われていないわけです。海外、ヨーロッパやアメリカが結構あるわけです。そういうことになりますと、日本においても、そういう著作権内の制度を利用しないと、実質的にそういうことも確保できないのではないかと思います。御参考になればと思います。

【野村分科会長】 ほかに御意見いかがでしょうか。

【金原委員】 先ほどから皆さんのお話を伺っていると、利用者も、それから権利者も、私は出版の立場ですから、両方の側面を持っておりますけれども、著作権が利用されるということについて、だれも異存がないだろうと思います。私ども出版の立場としても、読んでいただくために出版をしているわけですから、全く同じでありまして、ここの意見については、全く両者異存がないだろうと思います。
 そうなりますと、やはり著作物というのは幅広く利用されることが本来の目的にかなうということでありますので、そういう制度をしっかり作るべきであると。さまざまな議論の中で、権利制限の拡大によって著作物の利用を広げようと。これも1つの方法ではあると思いますけれども、それは、ごく限られた分野においては権利制限というものは当然必要だろうと思っています。しかし、そうではなくて、著作物の利用を促進する著作権法を離れた制度、これも先ほどから皆様の意見の中に出ておりますので、そのような制度をしっかり作ること。データベースをしっかり作って、さらに簡便な方法で、権利者が不在の場合、あるいはどこにいるかつかめない場合も含めて、簡便なシステム作りというものを作ることによって、利用者はごく限られた部分以外は何らかの著作物を利用することによって恩恵を被っているわけですから、つまり金額の多寡は別として、あるいは何らかの使用量を払う制度と簡便なシステム作りというものが今後必要であろうと思います。

【野村分科会長】 それでは、金井委員、どうぞ。

【金井委員】 弁護士会の意見は、日本弁護士連合会でこちらに、あるいは皆様のお手元に配付した反対意見書に書いてあるとおりでございます。ただ延長することが反対というのではなくて、今までも出てきましたようないろいろな問題がございまして、例えば70年経ちますと、二次相続、三次相続の問題になりますので、データベースがあったとしても、20年経っているだけでも、さらに追跡が難しくなる。それをどういうふうにフォローする制度ができるかとか、いろいろな技術的な問題とか、そういうものもありますし、それから、もう1つ、50年たって、その段階でまだ出版されるというのは、60年後に出版されるというのは、先ほどのリスペクトの話に戻りますと、60年後に評価されて出版されるというのは結構名誉なことではないかと。これは、おそらく少部数の出版になりますから、そういう場合に、これはパブリックドメインになったので出版されるというような場合というのは結構あると思うんです。そういう意味で、50年で著作権が切れたとしても、その後でまだ利用されるというものは、それはその作家にとっては名誉なことではないかと思います。それから、逆に70年に著作権が延びることによって権利処理の難しさという問題ということから、結局、かえって使用されてしまうコンテンツが増えるということは、作家の名誉というか、作家の評価にとって必ずしもプラスではないのではないかというふうに考えます。
 国際標準ということを言われましても、70年にしていない国もたくさんあるわけで、世界の半分がまだなっているという状況にまでいっているわけでもないので、その辺のところ、必ずしも欧米がそうしているから日本もそうしないと逆に置いていかれてしまうのではないかというよりも、むしろ適切な期間で切ることによって、コンテンツの再利用とか、あるいは50年ぐらいたったセミクラシックみたいなものがまた社会に出るというようなことで、文化の流通が、文化財の流通が回転がよくなった方が、むしろ50年後、あるいは法改正をした後ですね、70年目に一体どういう結果になっているかということを考えて、やはり慎重に審議をする必要があるのではないかと私は思います。必ずしも20年延ばすことが反対というのではなくて、そういういろいろな問題を、これは文化の創造のサイクルそのものにかかわる問題なので、その辺のところから、必ずしも欧米のやり方どおりにするとうまくいくという問題ではないのではないかという感想を持っております。
 以上でございます。

【野村分科会長】 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。どうぞ、加藤委員。

【加藤委員】 著作権の保護期間のお話と、たくさんの方がされておりますので、日本経団連もこの点について一言コメントさせていただきたいと思います。
 先ほどからいろいろな委員の方々の御意見を伺っていますとおり、この問題は非常にいろいろな御意見があると、いろいろなお立場で、いろいろな議論があると思います。単に期間が諸外国と比べてどうだということだけではなくて、その期間の持つ意味、制度全体の持つ意味というのは非常に重要だと思います。そういう意味で、ぜひ今後この問題を検討していただくに当たって、いろいろな方々の意見を聞くプロセスをきちんと踏んでいただきたいと思います。先ほどから慎重な審議ということで、遅らせるべきではないという御意見がございましたけれども、確かに意図的に遅らせることではなくても、やはり期間というものがいろいろな意味を持つ、広く著作物を利用できる仕組みというのが日本にとっても非常に重要になっておりますし、デジタル技術の発展によって、考えるべき視点がどんどん今は変わっていると思います。先ほど三田委員からも、簡易な裁定制度とか、いろいろな御提案がございましたけれども、そういうものの1つには、制度全体を広く考えて、期間の問題もその中の1つの問題として考えるということだと思います。そういう意味で、我々はもっと検討すべきだということだと思います。
 御参考までに、日本経団連の中でも、こういうデジタル時代の著作権の在り方ということから、いろいろな広い議論をしようということで、最近、著作権に関する部会というものを新たに設けました。御承知のとおり、経団連にはいろいろな方々が御参加いただいておりまして、権利者の方々、それを利用される企業の方々を含めて、全体的な議論をしようというところでございます。まだ適切な期間がどれだけかという結論には至っておりませんので、ぜひ今後の検討の中で、そういうこともコメントさせていただきたいと思っております。

【野村分科会長】 どうもありがとうございました。ほかに。

【中山副分科会長】 この問題は、先ほど甲野課長からお話がございましたとおり、議論することになっております。今日、いろいろ御意見を頂戴いたしましたけれども、この問題は非常に根が深いといいますか、単に著作権だけではなくて、文化論にまで影響する深い問題でありまして、今日出ました議論は考慮しなければならない要素の一端だろうと思っております。そのほかにもたくさん考えなければならない問題があります。例えば、欧米でそうなっていると言っても、アメリカではなぜ期間延長をしたのか、ヨーロッパでなぜ期間延長したのか。その根拠を明らかにし、それが果たして日本に妥当するかどうかとか、その他もろもろの考えなければならない問題がございますので、これは皆様の御意見も十分尊重して、慎重に議論をしなければならないと思っております。

【野村分科会長】 ほかに、保護期間以外で何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 まだ大分時間がありますけれども、それでは、そろそろ終わりたいと思いますけれども、一言だけ申し上げておきたいと思います。先ほど瀬尾委員から、この審議会での審議というのは法律の改正に偏っていないかという、そういう御意見だと思うんですけれども、これまでも必ずしも法律の改正だけではなくて、下位規範、あるいはその実務の運用までも視野に入れて議論してきたというふうに私は思っていますけれども、先ほどの御発言のような見方があるとすると、今後の審議会としても、もうちょっと実務の慣行等にまで目を配って議論をしていただければと思いますので。
 それでは、最後に事務局から連絡事項ございましたら。

【甲野著作権課長】 本日はどうもありがとうございました。本日取りまとめていただきました報告書につきましては、事務局より各委員に改めてお送りしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 以上です。

【野村分科会長】 ありがとうございました。本日は、今期最後の著作権分科会となりますので、近藤文化庁長官から一言御あいさつを頂きたいと思います。

【近藤文化庁長官】 今日は大変貴重な御意見をありがとうございました。私もかつて文化庁の次長をしておりまして、7年ぶりにこの分科会に出席をさせていただき、議論を伺い、大変になつかしい思いもいたしております。今日は、著作権の保護期間の延長の問題など、大変根本的な問題についても御議論をいただいたという感じがいたしております。
 それから、最初に、映画の話も少しございました。当時、著作権審議会と申しておりましたけれども、我が国を代表する映画会社の社長さんと、これもまた我が国を代表する著名な映画監督の方が、この審議会の席上で映画の著作権帰属の問題について、かんかんがくがくの議論をなさっていたというようなことも思い出したわけでございます。
 確かにこの著作権法の問題は、権利者の権利をどうやって守っていくかということと、一方では利用者の利用をどうやって促進をしていくかと、この問題をどうやって調和していくのかと、口で言うのは簡単でございますけれども、大変難しい課題を抱えた問題だと思っています。
 私が次長のとき、やはりこの著作権審議会の小委員会の御報告をいただきまして、附則14条を30年ぶりに改正する法律案を国会に提出をし、成立をさせていただいたということがございましたけれども、今まで頂かなかった使用料を頂こうというわけでありますから、一部のユーザーの方々からは大変激しい反対がございまして、なかなか法案を国会に提出することが難しかったと、大変苦労したというようなことを思い出したわけでございます。また、この保護期間の延長の問題も、今後またいろいろな観点から幅広くまた御審議をいただくことになるのだろうと思っておりますし、当時と比べまして、デジタル化、ネットワーク化というものがさらに進んできているわけでございますので、それに伴って、また新しい問題も多数発生をしておると。そういうことから、この分科会で御議論いただく問題が増えこそすれ、なかなか減っていかないと。それだけこの分科会の御議論の重要性と、また大変だなということを今さらながらに痛感をいたしておるわけでございます。
 引き続きまた委員の先生方には、大変御苦労をおかけするのではないかと思っております。一応、今回、この小委員会から著作権法の整備、その運用の在り方、あるいは私的録音録画の制度に関する見直しですとか、アジア地域における海賊版対策の施策等々の問題について御審議をいただき、一定の方向性を示していただいたものもあると思っております。重ねて先生方の御尽力、心から御礼を申し上げますとともに、引き続き残された検討すべき課題も多々あるわけでございますので、これらの問題につきましては、来期も引き続き御審議をいただくことが必要だと考えております。皆様のお力を再びお借りをするということもあろうかと思っておりますので、その節にはまた御協力をお願い申し上げたいと思います。
 最後になりますが、改めまして、先生方の御尽力に対し厚く御礼を申し上げまして、閉会に当たっての御あいさつにかえさせていただきます。どうもありがとうございました。

【野村分科会長】 それでは、本日はどうもありがとうございました。
 最後ですけれども、分科会長としても一言皆さんに御礼を申し上げたいと思います。この1年間、熱心に御議論いただきまして、おかげさまでIPマルチキャスト放送のように、一応の結論を得て、著作権法改正までできたものもございますが、本日の報告書(案)にありますように、多くの検討課題が今後に残されておりますので、今後とも審議会での議論に御協力いただければ大変ありがたいと思います。
 それでは、本日はこれをもちまして文化審議会の著作権分科会は終了としたいと思います。御多用の中、委員におかれましては、御出席いただきまして、どうもありがとうございました。

−了−

(文化庁著作権課)


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