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ナプスター事件 |
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A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004 (9th Cir. 2001) |
【事案】
Napsterシステムは、ユーザー間でのMP3ファイルの送信を容易にする。Napster社の構築したファイル交換の仕組みは、「ピア・ツー・ピア技術」と呼ばれるもので、従来のウェブサイト型の違法MP3配信とは大きく異なる。従来の違法MP3配信の場合、一つのサイトでホストできる音楽ファイルの数には限界があった。他方、Napsterにおいては、サーバはMP3ファイル自体を保有せずその所在情報を保有するだけであり、MP3ファイル自体はユーザーのパソコン同士で直接送信される。その結果、ユーザーはサーバの限界を意識することなく、簡単に目的のMP3ファイルを入手できることになる。このため利用者数が急速に増加し、2000年9月の一ケ月間でNapsterを利用して交換された音楽は、14億ファイルに上るといわれている。
1999年12月6日、RIAA(アメリカ・レコード協会)傘下のメジャー・レーベル各社は、著作権侵害に対する寄与侵害責任および代位責任を根拠に、Napster社をカリフォルニア北部地区連邦地方裁判所に提訴した。
Napster社は、考え得るすべての反論を展開し、レコード会社の主張を争った。しかし、2000年7月26日、連邦地裁は、レコード会社の主張を認めて、Napster社に対して、「著作権のある音楽作品を複製、ダウンロード、アップロード、送信または頒布させてはならない」旨の仮処分命令を下した。Napster社は、連邦地裁の仮処分命令に対して、直ちに第9巡回区連邦控訴裁判所に控訴した。
【争点】
Napster社の主張は多岐にわたっているが、主な争点は以下のとおりである。 |
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Napsterシステムのユーザーによる著作権侵害(直接侵害)について、フェア・ユースに該当するか。 |
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Napster社による寄与侵害について、Napster社がユーザーによる著作権侵害を認識しかつこれに関与していないか。 |
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代位責任について、Napster社がユーザーによる著作権侵害に対して管理権能を有しかつこれによって直接的な経済的利得があるか。 |
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【判旨】
連邦控裁は、2001年2月12日、連邦地裁の仮処分命令に対する控訴について判決を下した。判決は、Napster社による寄与侵害責任および代位責任を全面的に認めるものであるが、連邦地裁の仮処分命令による差止の範囲が広すぎるとして、判決の一部を破棄し連邦地裁に差し戻した。
ユーザーによる著作権の直接侵害−フェアユースの成否−
(1)著作権の直接侵害
連邦控裁は、ユーザーによる著作権(106条)の直接侵害については、Napster社の控訴がないので、次のように述べて簡単に複製権と頒布権の侵害を認定した。
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「当裁判所も、Napsterのユーザーが、著作権者の排他的権利のうち、少なくとも二つ、すなわち、第106条(1)に基づく複製権と第106条(3)に基づく頒布権を侵害したことを原告が立証したことを認める。他者がコピーできるようにファイル名を検索インデックスにアップロードするNapsterユーザーは、原告の頒布権を侵害している。また、著作権のある楽曲を含むファイルをダウンロードするNapsterユーザーは、原告の複製権を侵害している。」 |
なお、頒布とは、通常有体物(著作物の有形的媒体)の移転をいうが、米国の著作権法上、ネットワーク配信を「頒布権」の侵害とする裁判例がある。
(2)フェア・ユースの成否
直接侵害の成立を検討したのに続き、連邦控裁は、Napster社が主張するフェア・ユース(公正な使用)の抗弁 の検討に入った。
(a)著作物使用の目的および性格については、次のように論じて、NapsterシステムによるMP3ファイルの交換は変形的使用ではなく商業的使用であるとの連邦地裁の認定を支持した。
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「この要素は、新たな著作物が元の創作の対象物を単に置き換えるだけのものであるか、それともさらなる目的ないし異なる性質を付加するものであるかに焦点を当てる。換言すれば、この要素は、『新たな著作物が“変形的な”ものであるかおよびその程度』を問うものである。・・・
地方裁判所は、まず、MP3ファイルをダウンロードすることは著作権のある著作物を変形するものではないと判断した。・・・ この結論は支持できる。裁判所はこれまで、原著作物が異なる媒体に再送信されるにすぎない場合にフェア・ユースを認めることに躊躇してきた。・・・
この『目的および性格』の要素は、また、著作権侵害にあたるとされる行為が商業的なものであるか非商業的なものであるかの判断を地方裁判所に要求するものである。・・・ 商業的な使用はフェア・ユースの判断においてフェア・ユースの認定に不利に働くが、その争点について決定的なものではない。・・・地方裁判所は、主として、(1)『ファイルを送信するホスト・ユーザーは、リクエストした匿名の者に対してファイルを頒布する時に、個人的な使用を行っているとは言えない』こと、および(2)『Napsterユーザーは、通常は購入する物を無償で取得している』ことから、Napsterユーザーが著作権のある素材の商業的使用を行っていると判断した。・・・ 地方裁判所の判断は、明らかに誤っているとは言えない。
商業的使用を立証する場合において、直接の経済的利得を立証する必要はない。むしろ、著作権のある著作物を反復して利得のために複製することは、たとえコピーが販売に供されていなくても、商業的使用となりうる。・・・当裁判所に提出された記録によると、許諾を受けたコピーを購入する費用を節約するために、著作権のある著作物から無断コピーが反復して利得のために作成されていることが立証されることから、商業的使用が立証される。」
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「第107条 排他的権利の制限:フェア・ユース
第106条および第106A条の規定にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェア・ユース(コピーまたはレコードへの複製その他第106条に定める手段による使用を含む)は、著作権の侵害とならない。著作物の使用がフェア・ユースとなるか否かを判断する場合に考慮すべき要素は、以下のものを含む。 |
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(1) |
使用の目的および性格(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的かを含む)。
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(2) |
著作権のある著作物の性質。 |
(3) |
著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性。 |
(4) |
著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響。
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上記の全ての要素を考慮してフェア・ユースが認定された場合、著作物が未発行であるという事実自体は、かかる認定を妨げない。」 |
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(b)著作物の性質については、楽曲およびレコードが性質上創作的な著作物であると論じて、フェア・ユースの成立に不利であるとの連邦地裁の認定を肯定した。
(c)著作物使用の量と実質性については、MP3ファイルで交換されているのは著作物の全体であるからフェア・ユースの成立に不利であるとの連邦地裁の認定を肯定した。
(d)著作物市場への影響については、MP3ファイル交換は、レコード会社によるCD売上を減少させていることおよびレコード会社による有料音楽配信事業を困難にしていることにおいて、著作物市場に明らかに被害を与えているとの連邦地裁の認定を肯定した。
以上のように認定して、フェア・ユースの成立を否定した。
なお、107条に規定する4つの要素をどのように評価すべきかは規定せず、裁判所の判断に委ねている。ソニー・ベータマックス事件 やプリティ・ウーマン事件 の連邦最高裁の判例を通じて、4つの要素をどのように評価してフェア・ユースの成立を認定すべきかは、ほぼ固まっている。
フェアユースの判例法理
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1 使用の目的と性格 |
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(1)変形的使用 …損害不存在の推定 |
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(2)非変形的使用: |
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非営利目的…損害不存在の推定 |
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商業的目的…損害存在の推定 |
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2 著作物の性質 |
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・・・芸術的著作物か、事実的著作物か、機能的著作物か |
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3 使用の量と実質性 |
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(1)実質性 心臓部の使用
(2)目的に照らして合理的範囲内か |
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4 使用による著作物市場への影響 |
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(1)市場の範囲 …既存市場および潜在的市場
(2)影響の程度: |
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現実的損害 損害の有意的可能性 損害のおそれ |
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相対的評価 |
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立証責任 …非変形的・商業的目的では被告に立証責任がある。 |
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Sony Corp. v. Universal City Studios, 464 U.S. 417 (1984) |
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Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569 (1994) |
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寄与侵害の成否
(1)寄与侵害の法理
寄与侵害には、日本法の視点からみれば、二つの類型がある。一つは、侵害行為のみに使えるものを提供することによって侵害行為に関与するもの(間接侵害類型)である。たとえば、ソニー・ベータマックス事件ではこの類型の寄与侵害が問題とされた。もう一つの類型は、侵害行為を教唆・幇助するもの(教唆幇助類型)である。たとえば、ネットコム事件ではこの類型の寄与侵害が問題とされた。
連邦控裁は、寄与侵害の成立要件について、「情を知って他者の侵害行為を唆し、生じさせまたは重大な寄与を行う者は、『寄与』侵害者として責任を負いうる。」と定義した。すなわち、「知情」(knowledge)の要件と「関与」(contribution)の要件である。
(2)知情の要件
連邦控裁は、「知情」の要件として、直接の著作権侵害の存在を「知りまたは知るべきである理由のある」ことが必要であるとした。
しかし、問題のものが適法行為にも使用し得るときには、著作権侵害の存在を現実に知っていることが必要である、と以下のように論ずる。
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「ソニー事件における裁判所は、被告が侵害にあたる使用および「侵害にあたらない重大な使用」の双方に使用できる機器を製造販売した場合に、寄与責任に必要となるレベルの知情を擬制しなかった。・・・ 当裁判所はソニー判決に従う必要があるところ、ピア・ツー・ピア方式のファイル・シェアリング技術が原告の著作権を侵害しうるというだけで、Napsterが寄与責任を負うに必要なレベルの知情を有していると擬制することはしない。・・・ 地方裁判所は、Napsterシステムが侵害にあたらない商業的に重要な行為に使用しうることをNapster社が立証しなかったと論じたが、当裁判所の論拠はこれとは異なる。・・・ 地方裁判所がシステムの将来性を無視して現在の使用のみを使用に関する分析の対象としたのは適切でない。」 |
その上で、以下のように論じて、Napster社には必要な知情があったと認定する。
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「当裁判所は、コンピュータ・システム運営者が侵害にあたる特定の素材がシステム上で使用可能になっていることを知りながら、これをシステムから除去しなかった場合には、運営者は直接侵害について認識しておりこれに寄与しているとすること(訳注:ネットコム事件の判示)に同意する。・・・ 逆に、侵害にあたる行為を特定する具体的な情報がなければ、システムの構造が著作権のある素材の交換を可能にするからといって、コンピュータ・システム運営者が寄与侵害責任を負うとはいえない。・・・ コンピュータ・ネットワークが侵害にあたる使用を可能にするからといって差止を行うことは、ソニーの判例法理に反するものであり、侵害にあたる使用とは関係のない行為をも制限する可能性がある。
しかし、当裁判所は、Napsterシステムの侵害的使用として示されたものとの関連においては、Napster社に寄与責任を負わせるに十分な知情があったと結論付ける。・・・ 侵害にあたる特定の素材がNapsterシステムを介して使用可能となっていること、侵害にあたる素材の提供者によるシステムへのアクセスを遮断することができたこと、および侵害にあたる素材を削除しなかったことについて、Napster社が現実の知情を有していたとする地方裁判所の事実認定は、記録が裏付けるものである。」 |
原審である連邦地裁は、Napsterシステムには「商業的に重要な」非侵害的用途がないと認定して、認識の有無を問わず違法ファイルの交換そのものの差止を認める仮処分命令を出したのであるが、連邦控裁は、上述の視点に立つので、後に述べるように仮処分命令の範囲をNapsterシステムそのものではなくNapster社が「現実の知情」を持った「特定の侵害行為」についてのみ差止を認めることとなる。
(3)「関与」の要件
連邦控裁は、「関与」の要件について、Napster社が直接侵害のための「場および便宜」を提供し、侵害行為に重大な関与を行ったとの連邦地裁の認定を支持した。
代位責任の成否
(1)代位責任の法理
代位責任の法理は、もともと雇用関係において発展した法理(使用者責任)であるが、著作権法など他の分野においても適用される一般法理として発展し、被告が「侵害行為を監督する権限および能力を有し、また、かかる行為に対して直接の経済的利得を有している」場合に適用される。
(2)直接の経済的利得
Napster社は、Napsterシステムを無償で提供しているが非営利団体ではない。連邦地裁は、Napster社には現在は収入がないが、その事業計画によればバナー広告などによる将来の収入を見込んでおり、将来の収入の大きさは「ユーザー層の増加」に直接依存していると認定して、直接の経済的利得を認めた。
連邦控裁は、「経済的利得は、侵害にあたる素材が利用可能になっていることが『顧客に対する“客寄せ”の役割を果たす』場合に存在する」と述べて、連邦地裁の事実認定を肯定した。
(3)監督の権限と能力
連邦控裁は、Napster社の監督権限について、そのウェブサイト上で「ユーザーの行為が適用ある法律に違反しているとNapster社が信じる場合・・・またはNapster社の独自の裁量においていかなる理由であっても、理由の有無を問わず、サービスの提供を拒否しまたアカウントを削除する権限」を明示的に留保していることに基づいて、Napster社がユーザーによる侵害行為を監督する権限を有していたと認めた。そして、「代位責任を免れるためには、留保された監視する権限は最大限に行使されなければならない」と判示した。
しかし、監督の能力について、連邦地裁はNapster社が違法なMP3ファイルの交換を監督可能であると判断したが、連邦控裁は、以下のとおり、連邦地裁よりも狭い見解を取ってNapster社が監視することのできる「範囲」はファイル名インデックスの監視にとどまる、と認定した。
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「地方裁判所は、Napsterがそのシステムを監視する権限および能力を有しており、著作権のある素材の交換を防止する権限の行使を怠ったと、正しく判断した。しかし、地方裁判所は、Napsterが『コントロールし巡回する』対象となるシステムの範囲が制限されたものであることを認めなかった。・・・ Napsterが留保した監視する『権限および能力』は、システムの現在の仕組みの範囲に制限されている。記録が明らかにするとおり、Napsterシステムは、リストに掲載されたファイルの内容を、適切なMP3形式であることを確認する以外に『読む』ことはしないのである。」 |
原審である連邦地裁は、違法なMP3ファイルの交換そのものを監督可能であると認定して、違法なMP3ファイルの交換そのものの差止を認める仮処分命令を出したのであるが、連邦控裁は、上述の視点に立つので、後に述べるように仮処分命令の範囲をNapsterシステムそのものではなくNapster社が監視し得るファイル名インデックスの範囲についてのみ差止を認めることとなる。
なお、Napster社は、ファイル名はユーザーが設定するものであり必ずしも正確ではないから、ファイル名インデックスによって違法なMP3ファイルを監視できないと反論した。しかし、連邦控裁は、ファイル名が合理的に正しく対応していなければ、ファイル名インデックスが検索機能を果たすことができないから、かかるファイル名インデックスから違法なMP3ファイルを監視することは可能であると判示した。
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