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6. グロックスター事件
  Metro-Goldwyn-Mayer v. Grokster, 380 F.3d 1154 (9th Cir. 2004)

【事案】
 Xらは,多数の作詞家,音楽出版社および映画会社であり,米国内の大半の音楽および映画の著作権を保有している。
 Yらは,非中央管理型ファイル・シェアリング・システムであるGroksterおよびMorpheusのプログラムを配布する会社2社である。
 Xらの調査によれば,Yらのプログラムを使ったファイル・シェアリング・システムによって交換されているファイルのうち90パーセント以上が著作権侵害物であり,うち70パーセントについてXらが著作権を保有しているものであった。
 そこで,Xらは,Yらのプログラムの利用者による著作権侵害について,Yらが寄与侵害責任および代位侵害責任を負うと主張して,カリフォルニア中部地区連邦地方裁判所に,著作権侵害訴訟を提起した。Yらが寄与侵害責任および代位侵害責任の不成立を認める事実審理省略判決を申し立てたのに対して,連邦地裁は,Yらの主張を認めて,寄与侵害責任および代位侵害責任は成立しないと判示した。
 これに対して,Xらは,第9巡回区連邦控訴裁判所に控訴したが,連邦控裁は,連邦地裁の判断を正当として,改めて寄与侵害責任および代位侵害責任は成立しないと判示した。

【争点】
(1) 寄与侵害責任の成立
(2) 代位侵害責任の成立

【判旨】
(1)P2P技術について
 まず,連邦控裁は,P2P技術とそこでのYらの行為の位置づけについて次のように判示した。

   「ピア・ツー・ピアの配信ネットワークにおいて,アクセスに供される情報は,中央サーバに常駐するのではない。どの一つのコンピュータも全ての利用者の利用に供される情報のすべてを保有するわけではない。むしろ,各コンピュータが,ピア・ツー・ピアのネットワーク上の他のコンピュータに情報の利用を可能にしているのである。言い換えれば,ピア・ツー・ピアのネットワークにおいては,各コンピュータがサーバであると同時にクライアントであるのである。
 ピア・ツー・ピアのネットワークにおいては情報が分散化されているので,そこでのソフトウエアは,利用者が情報にアクセスしうるように,利用可能な情報を分類整理する方法を提供しなければならない。当該ソフトウエアは,同一または類似のソフトウエアの利用者にインターネットを通じて接続することによって,作動する。どの一瞬においても,そのネットワークは,その時点において同一または類似のソフトウエアの利用者同士によって成り立つ。このように,シェア可能なファイルのインデックスは,ピア・ツー・ピアのファイル・シェアリング・ネットワークにおいては不可欠の要素を成している。
 現在,インデックスには異なる3つの種類がある。すなわち,(1)一つ以上の中央管理サーバに利用可能なファイルのリストを保持する中央管理型インデックス・システム,(2)完全に分散化されたインデックス・システムであって,各コンピュータが当該コンピュータ上の利用可能なファイルのリストを保持するもの,および(3)「スーパーノード」システムであって,選択された数のコンピュータがインデックス・サーバとして行動するものである。
 最初のナプスター型システムは,利用可能なファイルの総合的インデックスがナプスターの所有・運営するサーバに保持される,私有の中央管理型インデックス・ソフトウエア・構造を使用していた。録音物のデジタル・コピーを入手しようとする利用者は,当該ナプスター・サーバに検索を指示すれば,ソフトウエアが適合するファイルを集中されたインデックスからテキスト検索し,その結果が検索を指示した利用者に送信されるものであった。当該結果上,他のナプスター利用者が当該ナプスター・サーバにログ・オンしており検索された録音物のシェアを提供している場合には,当該利用者は,録音物のシェアを提供している利用者に直接接続し当該音楽ファイルをダウンロードできるというものであった。
 非中央管理型インデックスのピア・ツー・ピアのファイル・シェアリング・モデルにおいては,各利用者が他の利用者に利用させたいファイルのみのインデックスを保有するというものである。このモデルにおいては,ソフトウエアは,ネットワーク上のすべてのコンピュータに検索指示をまき散らし,個々のインデックス・ファイルの検索が実行され,その結果の総計が指示を出したコンピュータに戻ってくる。このモデルは,Gnutellaのソフトウエア・システムで用いられており,被告StreamCastが現在使用するタイプの構造である。Gnutellaはオープンソース・ソフトウエアであり,ソースコードが解放または一定の条件において改変を可能にするオープンソース・ライセンス下で権利化され配布されているものである。
 現在における第3のタイプであるピア・ツー・ピアのファイル・シェアリング・ネットワークは,「スーパーノード」モデルであって,ネットワーク上の多数の選択されたコンピュータがインデックス・サーバに指定されるものである。ファイル検索を始める利用者は,最も簡単にアクセスできるスーパーノードに接続し,当該スーパーノードがインデックスの検索を実行して当該利用者に検索結果を提供する。ネットワーク上のいずれのコンピュータも,処理速度のような技術的条件に適合する限り,スーパーノードとして作動することがありうる。この「スーパーノード」構造は,オランダの会社であるKaZaa BVが開発してものであり,「ファーストトラック」技術の名前でライセンスされている。
 YらGroksterもStreamCastも当初は,ファーストトラック技術を使用していた。しかし,StreamCastはKaZaaとライセンス上で紛争となり,現在はオープンソースのGnutellaコードを利用したバージョンである固有のMorpheusを使っている。」

 (2)寄与侵害責任について
 つぎに,連邦控裁は,寄与侵害責任の要件が(1)直接侵害の存在,(2)直接侵害に対する知情,(3)直接侵害への実質的関与であるが,本件では直接侵害の存在には当事者間に争いがないので,第2と第3の要件を検討する。 連邦控裁は,第2の要件について,以下のように判示した。

 「著作権の寄与侵害の認定には,先例であるソニー・ベータマックス判決(Sony Corp. of America v. Universal City Studio, Inc., 464 U.S. 417 (1984))に従わなければならない。ソニーベータマックス判決において,連邦最高裁は,たとえ被告がビデオテープレコーダーが侵害行為に使用されると知っていても,当該ビデオテープレコーダーの販売が著作権の寄与侵害を生じないと判示した。著作権の寄与侵害の要件を分析するにあたって,連邦最高裁は,特許法から「汎用商品」の法理を導き出した。その法理においては,当該商品が「実質的または商業的に重要な非侵害的用途に利用できる」ことを被告が証明したときには,著作権の寄与侵害の請求を覆すに十分である。この法理の適用において,ソニーのベータマックス・ビデオテープレコーダーは商業的に重要な非侵害的用途に利用できたので,ソニーが抽象的に当該レコーダーを侵害に使用できることを知っていたとの事実によって,侵害行為に対する擬制知情が課されることはないと,連邦最高裁は認定した。
 ナプスター第1次訴訟(A&M Records v. Napster, 239 F.3d 1004 (9th Cir. 2001))において,当裁判所は,ソニー・ベータマックス判決を著作権の寄与侵害における知情の要件に当てはめて解釈した。被告の商品が実質的または商業的に重要な非侵害的用途に利用できることを被告が証明したときには,侵害行為に対する擬制知情は課されないと,ナプスター第1次訴訟判決は判示した。むしろ,実質的な非侵害用途が証明された場合には,著作権者は,被告が特定の侵害ファイルについて合理的な知情を有していたことを証明することが必要である。」

 そして,連邦控裁は,本件においてYらの非中央管理型ファイル・シェアリング・システムであるGroksterおよびMorpheusが実質的非侵害的用途に利用できることには当事者間に争いがないが,Xらは被告が特定の侵害ファイルについて合理的な知情を有していたことを証明する証拠を提出していないので,(2)直接侵害に対する知情を欠くと認定した。
 連邦控裁は,以下のように判示して,(3)直接侵害への実質的関与の要件を欠くと認定した。

 「記録によれば,Yらは侵害のための「サイトも設備も」提供していないし,その他直接侵害に実質的に関与する行為をしていない。侵害を構成するメッセージやファイルのインデックスは被告らのコンピュータに常駐するわけでも被告らが利用者のアカウントを差し止めることができるわけでもない。」

(3)代位侵害責任
 また,連邦控裁は,代位侵害責任の要件が(1)直接侵害の存在,(2)直接侵害からの直接の経済的利得,(3)直接侵害者を監督する権限と能力であるが,本件では直接侵害の存在および直接侵害からの直接の経済的利得には当事者間に争いがないので,第3の要件を検討する。
 連邦控裁は,以下のように判示して,(3)直接侵害者を監督する権限と能力の要件を欠くと認定した。

 「チェリー・オークション事件(Fonovisa, Inc. v. Cherry Auction, Inc., 76 F.3d 259 (9th Cir. 1996))において,当裁判所は,交換会の運営者が何らかの理由に基づいて売買を停止する権限を留保しており,交換会を推進し,顧客のアクセスを制限し,交換会を監視し,規則を通じて直接侵害者を管理した場合には,監督の権限と能力があると判示した。ナプスター第1次訴訟においても同様に,ナプスターが中央のファイル・インデックスを管理し,利用者にナプスターへ登録させ,利用者登録の有効性とシステムへのアクセスとを関連付けていたので,当裁判所は,ナプスターがその利用者を監督する権限と能力を保有していたと判示した。
 被告のいずれも個々の利用者へのアクセスを阻止する能力を持っていることは記録上からは明らかではない。StreamCastはMorpheusをダウンロードする利用者との間にライセンス契約を結んでいないが,Groksterは名目上アクセスを停止する権限を留保している。しかし,登録やログインの手続がないとすると,Groksterもファイルシェア機能へのアクセスを実際に停止する能力を持っていない。また,侵害物やそのインデックス情報が被告のコンピュータを通過しないので,被告と利用者との間に,侵害ファイルを除去または検索する接点が与えられていないことが明らかである。
 StreamCastの場合,そのXMLファイルを停止してもGnutellaネットワークの使用を防ぐことはできない。Groksterの場合,そのKaZaaやSharmanとのライセンス契約はルート・ノードを停止することを命じる権限を与えていない。さらに,運用を停止する能力があると主張されているが,それは,個々の参加者を排除する能力や通路を規制することやログイン時に直接個々の利用者を排除することや利用者のコンピュータから個々のファイルネームを削除することというよりもむしろ,交換会全体を閉鎖しまたはソフトウエアの配布そのものを停止することに近い。本件においては,代位侵害を認定する監視監督する関係が完全に欠如している。」

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