コラム

5.文化芸術振興による経済への影響

 「あなたは,今回の公演への旅行にいくら使いましたか。」,「あなたは,この文化財・施設を保全するためにいくら支払いますか。」これは,文化庁が政策研究大学院大学に委託して行った調査研究の中で,実際に行われたアンケート調査の一例です。
 この調査研究は,1文化会館などの文化施設において行われる文化芸術活動が,地域経済にどれくらいの「経済波及効果」をもたらすか,2文化的景観や文化財保護は市民にとってどれくらいの価値(社会的便益)を有しているのかについて,できるだけ定量的に分析しようと試みたものです。
 前者は,文化施設や文化財を訪れる方々への消費調査を行い,そこから産業連関表を用いて経済波及効果を推定しています。後者は,文化施設や文化財を訪れる方々へのアンケートで得た「仮に施設・地区の活動を維持するための基金が設立された場合の寄附金額」を「回答者の支払い意思金額」とみなす「仮想市場法(CVM)」という方法を用いて,社会にもたらす便益額を推計しています。
 今回の調査研究は,下の四つのエリアを対象として実施したもので,その結果として,文化施設,文化財ともに地域経済に一定の経済波及効果をもたらすとともに,社会的便益も大きいということが定量的に示されています。例えば,「新潟市民芸術会館りゅうとぴあ」の観客による新潟県内年内消費額は,13.2億円でしたが,約20.8億円の生産波及効果があったという結果などが出ています。
 もちろん,この調査研究は,対象とした文化施設や文化財の文化的価値のすべてを計るものではありませんし,また,得られた数値の分析についても,アンケートの内容や聞き方が回答に一定の影響を及ぼしている面があることも考えられますが,今後の国や自治体における政策形成や実施に当たって基礎となるデータが提示されたといえるのではないかと考えられます(詳しくは,参照:https://www.bunka.go.jp/h17seikendai_jigyo/(※文化庁ホームページへリンク))。

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