第2節 相互理解を進める国際交流

3.国際機関その他国際的枠組みにおける取組

(1)ユネスコ事業への参加・協力

 ユネスコ(国際連合教育科学文化機関,事務局長:松浦晃一郎氏)は,教育・科学・文化の分野における国際協力の促進を通じて平和に貢献することを目的とする国連専門機関です。2003年(平成15年)10月,米国が19年ぶりに再加盟するなど,現在加盟国は191か国となっています。また,ユネスコは,「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」に基づき,人類の共通財産である世界の文化や自然遺産の保護のための国際協力・援助を推進しています。
 我が国では,ユネスコの目的を実現していくため,国・地方公共団体・民間がそれぞれ協力して,あるいは独自に活発な活動を行っています(図表2-10-8)。特に,教育分野においては,我が国は,識字率の改善などを目標とした「万人のための教育」の実現や,2005年から始まった「国連持続可能な開発のための教育の10年」の実施を推進するため,信託基金の拠出などを通じユネスコと連携して事業を実施しています。また,科学分野では,国際水文学計画(IHP)をはじめとする持続可能な開発のための科学振興事業や,生命科学の倫理的側面に関する考察などのユネスコの諸活動に積極的に参加・協力しています。文化分野では,第32回ユネスコ総会で,採択された「無形文化遺産の保護に関する条約」が2006年(平成18年)4月に発効しました(参照:第1部第1章第1節5)。

図表●2-10-8 我が国が協力しているユネスコの主な事業

  • * アソシエート・エキスパート
     ユネスコ職員の指揮の下で職務に従事する,正規職員以外の行政官・研修者などの専門家。

(2)OECD(経済協力開発機構)教育事業への参加

 OECDは,先進30か国を加盟国として,様々な分野における政策調整・協力,意見交換などを行っています。教育分野に関しては,教育委員会と教育研究革新センター(CERI)を設置し,加盟各国における教育改革の推進や施策の実践に寄与することを目的として,教育政策の比較分析や調査・研究などの事業を行っています。
 平成14年からは,13年4月に,「万人のための能力への投資」をテーマに開催された教育大臣会合で合意された方針に基づき,教育統計や指標の開発と政策分析,生徒の学習到達度調査(PISA),学習科学と脳研究,高等教育政策調査,などのプロジェクトを実施しており,我が国も参加・協力しています。18年6月には,PISA2006年調査が実施されました。また,おおむね5年ごとに教育大臣会合を開催していますが,18年6月には,「高等教育:質,公平性,効率性」をテーマに開催され,高等教育改革について活発な議論が行われました。我が国からは小坂憲次文部科学大臣が出席しました。
 また,文部科学省では,平成4年度から,OECD加盟国の教育政策上の重要課題について専門家による意見交換を行うことを目的とした「OECD/Japanセミナー」を実施しています。18年11月には,OECD/CERIの「明日の学校」事業の成果を踏まえて,「教育の未来予測」をテーマに開催しました。

(3)APEC(エイペック)(アジア・太平洋経済協力)教育事業への協力

 APEC(エイペック)は,アジア・太平洋の21か国・地域が参加する地域協力の枠組みです。貿易・投資の自由化・円滑化などの経済問題とともに,人材養成などの分野に積極的に取り組んでいます。教育分野については,人材養成ワーキング・グループの下に,教育ネットワークを設置し,加盟国・地域の主導により,教育政策上の様々な課題に関する調査・研究活動,交流・協力プロジェクトを実施しています。2004年(平成16年)4月には,チリ・サンチャゴにおいて第3回教育大臣会合(全体テーマ:「来るべき時代に求められる能力」)が開催され,四つのサブテーマ「英語とその他の外国語教育」,「数学・理科学習の活性化」,「教授・学習のための技術(ICT)の活用」,「統治(ガバナンス)と制度改革」について,各国・地域が成功事例を共有することの必要性が再認識されました。我が国としては,大臣会合の提言を受けて,2005年(平成17年)11月に東京で国立教育政策研究所と共催で「理数科学習の最良事例に関する国際セミナー」を開催し,また,タイ政府との共同プロジェクトで2005年度(平成17年度)から筑波大学とタイ・コンケン大学が「異文化間における数学の教授と学習の革新のための共同研究」を実施しており,APEC(エイペック)域内の教育活動の活性化に貢献しています。

(4)国連大学への協力

 国連大学は東京(青山)に本部を置く国連機関で,人類の存続や発展,福祉に関する世界的規模の諸課題についての研究や研修,知識の普及を目的として,他の国際機関や世界各地の高等教育・研究機関とネットワークを形成し,国連の調査研究機関(シンクタンク)として,国際社会が直面する重要な課題に取り組んでいます。2006年(平成18年)は,「平和とガバナンス」及び「環境と持続可能な開発」の2領域を中心に活動を行っています。また,国連大学は,世界各地に附属機関である研究・研修センターを持っており,その一つである「高等研究所」は我が国(横浜)に設置されています。高等研究所では我が国の大学や研究機関と協力して,研究活動や研修プログラムを展開しています。我が国は,国連大学本部施設の提供や大学基金への拠出などの支援を行うとともに,国連大学本部と高等研究所に対して事業費の拠出を行っています。

(5)WIPO(World Intellectual Property Organization:世界知的所有権機関)との協力

 WIPOは,知的財産権の国際的保護の促進などを目的として1970年(昭和45年)に設立された国連の専門機関です。WIPOは,国際条約の作成・管理を行うとともに,各国の法令整備の支援や開発途上国に対する法律・技術上の援助,情報の収集・提供などを行っています。WIPOでは,デジタル化・ネットワーク化に対応して著作権,著作隣接権(注)を保護するため,1996年(平成8年)にWCT(WIPO Copyright Treaty:著作権に関する世界知的所有権機関条約)及びWPPT(WIPO Performances and Phonograms Treaty:実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約)を採択し,現在は視聴覚的実演や放送機関に関する新条約の策定に向けた議論を行っています。我が国はこれらの議論を推進させるため,積極的な役割を果たすとともに,アジア諸国を中心に,WCT,WPPTをはじめとする,著作権などに関する条約の締結を働き掛けています。我が国は,著作権分野において,1993年(平成5年)以来毎年信託基金を拠出しています。この拠出金は,WIPOの開発協力プログラムとして,アジア・太平洋地域における著作権保護のための諸活動(国際セミナーの開催,研修の実施,専門家の派遣など)に活用されています。

  • (注)著作隣接権
     著作物等を「伝達する者」(実演家,レコード制作者,放送事業者,有線放送事業者)に付与される権利。

(6)UNDESD(United Nations Decade of Education for Sustainable Development:国連持続可能な開発のための教育の10年)

 「持続可能な開発」とは,「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく,現代のニーズを満たすような開発」という概念です。
 2002年(平成14年)12月の第57回国連総会において,我が国の提案に基づき,2005年(平成17年)から始まる10年を「国連持続可能な開発のための教育の10年」とする決議案が採択されました。これを受け,2005年(平成17年)9月には,各国の具体的対応の指針となる国際実施計画が承認されました。我が国はこれを踏まえ,2006年(平成18年)に「我が国における『国連持続可能な開発のための教育の10年』実施計画」を策定しました。現在文部科学省は,この計画に基づいて,教育関係者への普及啓発や地位における実践の促進,高等教育機関における取組の支援などに取り組んでいます。

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