第3節 国際競技力の向上

1.競技力向上方策の充実

(1)国立スポーツ科学センターの活用

 平成13年10月に開所した国立スポーツ科学センター(JISS:Japan Institute of Sports Sciences)(参照:http://www.jiss.naash.go.jp(※国立スポーツ科学センターホームページへリンク))は,我が国のトップレベル競技者の強化,優れた素質を有するジュニア競技者の発掘,一貫指導システムによるトップレベル競技者への育成など,我が国の国際競技力の向上に向けた組織的・計画的な取組をスポーツ科学・医学・情報の側面から支援することを目的とする機関です。
 JISSは,この目的の実現に向けて,科学的な分析に基づく効果的なトレーニング方法の開発やスポーツ障害などに対する医学的なサポート,スポーツに関する各種情報の収集・分析・蓄積・提供などを一体として行い,オリンピック競技大会をはじめとする国際競技大会における我が国のメダル獲得率の向上に寄与しています。

(2)ナショナルトレーニングセンター(NTC)の整備

 トップレベル競技者の強化に当たっては,競技ごとの専用練習場や宿泊施設等を備え,集中的・継続的にトレーニングを行うことができる拠点の整備が不可欠となっています。米国,ロシア,中国,オーストラリア,ドイツ,フランス,韓国など,オリンピックのメダル獲得上位国のほとんどで,既にこうした機能を有する「ナショナルトレーニングセンター」が整備されており,競技力の向上に大きく貢献しています。こうした状況を踏まえ,我が国においてもナショナルトレーニングセンターの整備が強く求められてきました。
 文部科学省では,平成13年7月から外部有識者による調査研究を開始し,16年6月に報告書を取りまとめました。その上で,中核拠点を整備するとともに,中核拠点では対応できない冬季競技などについては既存の施設を活用することとし,これらを競技別強化拠点として指定して,中核拠点とのネットワーク化を図っていくこととし,現在以下のように整備を進めています。

1NTC中核拠点

 文部科学省では,JISSが所在する東京都北区西が丘地区に,平成16年度からトップレベル競技者が同一の活動拠点で集中的・継続的にトレーニングを行うためのナショナルトレーニングセンター中核拠点施設を整備しています。本施設は,屋外トレーニング施設,屋内トレーニング施設,テニスコート,宿泊施設から成り,屋外トレーニング施設については,平成19年1月からトップレベル競技者のトレーニングに使用されています。
 また,屋内トレーニング施設,テニスコート及び宿泊施設は,2008年(平成20年)8月の北京オリンピックの直前合宿などのトレーニングに使用できるよう,平成19年中の完成に向けて整備を進めています。

▲ナショナルトレーニングセンター
屋外トレーニング施設

2NTC競技別強化拠点

 中核拠点では対応できない冬季競技,海洋・水辺系競技,屋外系競技及び高地トレーニングについては,既存のトレーニング施設を競技別のナショナルトレーニングセンターに指定するとともに,医・科学サポートや中核拠点とのネットワーク化を図るなど,強化拠点として機能させるための施設の高機能化に関する事業を実施することとしています(図表2-8-6)。

図表●2-8-6 我が国のナショナルトレーニングセンター(イメージ図)

○NTC中核拠点施設の概要
1屋内トレーニング施設

 屋内トレーニング施設は,地下1階,地上3階で,国際競技ルールに対応した競技ごとの専用の練習場や各競技団体が共同で利用できる共用コート,研修室及びコーチ室などを設置します。
 また,厳しいトレーニングを行う競技者のメンタル面への配慮として,安らぎの場としてのリラックス・リフレッシュスペースにも配慮するなど,トレーニングを行う場としてふさわしい環境を備えた施設です。

2屋外トレーニング施設

 屋外トレーニング施設は,屋根付きの全天候型400メートルトラック(6コース),天然芝のインフィールド,傾斜走路,砂場走路や投てき施設などを設置します。
 また,テニスコートは,屋根を設置して,雨天時の利用を可能にするとともに,国際規格に対応したコートになります。

3宿泊施設

 宿泊施設は,地下1階,地上6階でナショナルチームの長期合宿が行える機能を持った施設です。約250名規模の人員が宿泊でき,宿泊室はホテルのようなバスルーム付きのシングル又はツインルーム,ジュニアの合宿に対応した和室など多様な宿泊形態に対応できるようにします。

(3)トップレベル競技者の強化活動の充実

 我が国の国際競技力の向上を図るためには,トップレベル競技者の強化活動をより充実させることが重要です。このため,文部科学省では,「ニッポン復活プロジェクト」として財団法人日本オリンピック委員会が行うナショナルチームの国内外での強化合宿や専任コーチの設置などに対して国庫補助を行うとともに,メダル獲得の期待の高い競技について重点的な強化を図るなど競技力の向上を図っています。

(4)指導者の養成・確保

 トップレベルの競技者の育成・強化を行うためには,優れた素質を有する競技者に対して適切な指導を行うことができる,高度な専門的能力を有する指導者の養成・確保が重要です。
 このため,文部科学省では,財団法人日本体育協会及び各競技団体が実施しているスポーツ指導者養成事業や,財団法人日本オリンピック委員会が競技ごとに配置しているトップレベル競技者を指導するコーチの専任化を支援しています。また,トップレベル競技者が,競技生活での経験や培ったノウハウを基に,引退後に,指導者等として活躍できる環境を整備するため,セカンドキャリア支援に関する調査研究事業を実施しています。
 また,トップレベルの競技者の育成・強化に当たるコーチ,スポーツ医・科学研究者や都道府県行政担当者などを対象とし,それぞれの分野における諸問題についての研究協議や情報交換を行うため,「スポーツコーチサミット」を開催し,関係者の相互理解や連携を促進する体制の強化を図っています。

(5)一貫指導システムの構築

 国際競技力の向上を図るためには,優れた素質を有する競技者に対し,ジュニア期から個人の特性や発達段階に応じて一貫した指導理念に基づく指導を行い,世界で活躍できるトップレベル競技者へと組織的・計画的に育成していく必要があります。
 このような観点から,スポーツ振興基本計画においては,各競技団体がトップレベルの競技者を育成するための指導理念や指導内容を示した競技者育成プログラムを作成し,このプログラムに基づき一貫指導を実施する体制を整備することとしています。平成18年度からは,作成された競技者育成プログラムを全国へ普及するための普及促進事業を実施しています。

(6)企業スポーツへの支援

 我が国のトップレベル競技者には,企業のスポーツチームに所属しながら競技活動を行っている者が多く,企業は,こうしたトップレベル競技者の生活を支援するとともに,安定した練習環境を与えるなど,我が国の競技力の向上について重要な役割を担ってきました。
 しかしながら,近年の厳しい経済状況の影響などにより,企業が所有するスポーツチームの一部が休廃部に追い込まれるケースが多くなっており,企業所属のトップレベル競技者の活動基盤に深刻な問題が生じています。
 こうした状況を受けて,文部科学省では,平成15年度から,国内トップレベルのリーグを運営する組織に対して,マネジメント(運営管理)能力のある人材を配置するなど,リーグ運営の安定化や活性化を図ることを目指した「トップリーグ支援事業」を実施しています。さらに,企業から独立した運営を目指しているトップレベルのスポーツクラブに対しては,財政基盤の強化やクラブが実施する地域貢献事業の強化など,今後,多くのクラブの参考事例となるようなモデルクラブを支援する「トップレベル・スポーツクラブ活動支援事業」を実施しています。

(7)プロスポーツの振興

 プロスポーツは「見るスポーツ」として幅広い年齢層に親しまれ,スポーツの裾野を広げる上で重要な役割を果たしています。また近年,世界的にアマチュアスポーツとプロスポーツの垣根が低くなる傾向にあることから,文部科学省においては「プロスポーツ選手等による技術活用事業」を実施し,プロスポーツ選手などが有する技術面などの合理的かつ効果的なトレーニング方法や考え方をアマチュアスポーツ選手,指導者などに伝授することにより,プロスポーツの振興はもとより,アマチュアスポーツとプロスポーツとの連携を図っています。

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