第2節 科学の発展と絶えざるイノベーションの創出

3.地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり

(1)地域における「知的クラスター」の創成(知的クラスター創成事業)

 地域における科学技術の振興は,地域イノベーション・システムの構築や活力ある地域づくりに貢献するものであり,ひいては,我が国全体の科学技術の高度化・多様化やイノベーション・システムの競争力を強化するものであるので,国として積極的に推進することとしています。
 地域イノベーション・システム構築のための重要な取組として,地域における「知的クラスター」の創成が挙げられ,文部科学省では,平成14年度から「知的クラスター創成事業(注1)」を実施しています。
 「クラスター」という言葉には,「ひとかたまりに固まって,育ったり存在したりするものの集まり」という意味があります。「知的クラスター」とは,地域主導の下で,地域において独自の研究開発テーマと潜在能力を有する大学・公的研究機関などを核として,地域の内外から企業なども参画して構成される技術革新システムです。具体的には,人的ネットワークや共同研究体制が形成されることにより,核を成す大学・公的研究機関などが持つ独創的な技術シーズと企業の実用化ニーズが相互に刺激し合うことによって,技術革新とこれに伴う新産業創出が連鎖的に起こるシステムです。このようなシステムを持つ拠点を発展させることにより,世界水準での技術革新の展開が可能となります。
 この事業は,地方公共団体が指定する実施主体である中核機関(科学技術関係財団など)に対して補助するものです。具体的には,司令塔となる「知的クラスター本部」の設置,大学の共同研究センターなどでの企業のニーズを踏まえた新技術シーズを生み出す産学官共同研究,専門性を重視した科学技術コーディネーター(目利き)の配置や「弁理士」などのアドバイザーの活用,研究成果の特許化,研究成果の発表などのためのフォーラム(公開討論会)の開催,人材育成のためのインターンシップ(就業体験)などを実施します。
 事業の実施に当たっては,経済産業省が実施している「産業クラスター計画」などの関連事業との連携を密にして,研究成果の育成,事業化などを効果的に行っていく必要があります。このため,平成17年度から産業クラスター参加企業と大学等との新規共同研究を支援する「産業クラスター連携プロジェクト」を事業の中で実施しています。18年度は,全国18地域において事業を実施しています(図表2-7-8)。また,このうち15年度開始3地域においては,17年度に中間評価を実施し,評価結果に応じた事業計画の見直しなどを行いました。

  • (注1)知的クラスター創成事業
     地域における知的創造の拠点である大学等を核とした,国際競争力のある技術革新のための集積の創成を目指す事業。

図表●2-7-8 知的クラスター創成事業実施地域一覧

(2)地域における科学技術施策の円滑な展開

 文部科学省では,科学技術振興機構とともに,それぞれ状況が異なる地域に柔軟に対応できるように,以下のとおり様々な地域科学技術振興施策を進めています。

1都市エリア産学官連携促進事業

 知的クラスター創成事業が,「知的クラスター」の創成を目指す事業であるのに対して,都市エリア産学官連携促進事業は,地域の個性発揮を重視して,大学などの「知恵」を活用し,新技術シーズを生み出すことを通じて,新規事業などの創出,研究開発型の地域産業の育成などを目指す事業です。平成18年度は,31地域で事業を実施しています。なお,このうち4地域については,事業を終了した地域の中で,特に優れた成果を上げ,かつ,今後の発展が見込まれる地域を,18年度から新たに「発展型」として,これまでの成果を生かした更なる産学官連携活動を展開することとしたものです(図表2-7-9)。

図表●2-7-9 都市エリア産学官連携促進事業実施地域一覧

2地域イノベーション創出総合支援事業(科学技術振興機構)

 地域の独創的な研究成果を活用した新産業の創出,地域経済の活性化を目指して,科学技術振興機構(JST)では,全国に展開している研究成果活用プラザやJSTサテライトを拠点として,自治体,経済産業局,JSTの基礎研究や技術移転事業などとの連携を図りつつ,シーズの発掘から実用化に向けた研究開発まで切れ目なく行うことにより,地域におけるイノベーション創出を総合的に支援しています。

(ア)重点地域研究開発推進プログラム(注2)

 研究成果活用プラザ(全国8か所:北海道,宮城県,石川県,愛知県,京都府,大阪府,広島県,福岡県)及びJSTサテライト(全国4か所:岩手県,新潟県,高知県,宮崎県)において,地域に密着したコーディネート活動,地域の大学や公設試験研究機関等のシーズの発掘(シーズ発掘試験),実用化に向けた産学官共同の試験研究(育成研究)などを展開し,技術移転を強力に推進しています。また,平成18年度には,JSTサテライトを新たに4か所(茨城県,静岡県,滋賀県,徳島県)設置し,よりきめ細かい産学官連携活動を展開しています。

(イ)地域研究開発資源活用促進プログラム

 地域の科学技術振興事業の成果や産学による共同研究の成果で,地域への産業振興の貢献が期待される研究成果の地域企業への円滑かつ効果的な技術移転を実現し,地域におけるイノベーションの創出を目指します。

(ウ)地域結集型研究開発プログラム(注2)

 地域として企業化の必要性の高い分野の個別的研究開発課題を集中的に取り扱う産学官の共同研究事業です。大学等の基礎的研究により創出された技術シーズを基にした試作品の開発など,新技術・新産業の創出に資する企業化に向けた研究開発を実施します(図表2-7-10)。

図表●2-7-10 地域結集型研究開発プログラム等実施地域一覧

  • (注2)重点地域研究開発推進プログラム,地域結集型研究開発プログラム
     重点地域研究開発推進事業及び,平成17年度採択の地域結集型共同研究事業は,18年度から重点地域研究開発推進プログラム,地域結集型研究開発プログラムとして,地域イノベーション創出総合支援事業に統合。地域結集型共同研究事業は,17年度をもって新規採択終了。

3関係府省・各地域間の連携や各種交流の促進

 知的クラスター創成事業の実施に当たっては,経済産業省の産業クラスター計画との密接な連携を図っています。地域ごとに両省や地方公共団体による「地域クラスター推進協議会」や「合同成果発表会」を開催するなどして,情報交換や連絡・調整などを図っています。
 さらに,平成18年11月には,両省の主催で全国規模の成果発表会「地域発先端テクノフェア2006」や全国のクラスター関係者が参加する会議「全国知的・産業クラスターフォーラム」を開催しました。また,地域に特化したクラスター関係者が参加する会議「知的・産業クラスターセミナー」(浜松,高松,札幌)を開催し,クラスター間の連携・交流の促進を図っています。
 また,経済産業省以外の関係府省との協力については,連携施策群,関係府省連絡会議等を活用するなど,関係府省が一体となって活動できる環境を整備しています。

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