第1節 人材の育成,確保,活躍の促進

 人口減少・少子高齢化が進む中,科学技術創造立国を目指す我が国にとって,その担い手となる人材をいかに養成・確保していくかは極めて重要な問題です。若手研究者や女性研究者,さらには外国人研究者など,年齢,性別,国籍にかかわらず多様な人材が意欲と能力を発揮できる環境を整備することが必要です。
 第3期科学技術基本計画においても,その基本姿勢として,ハード面でのインフラ(社会基盤)整備など「モノ」を優先する考え方から,優れた人材を育て活躍させることに着目して投資する考え方に重点を移すこと(「モノから人へ」)が掲げられています。同基本計画を踏まえ,文部科学省では,「科学技術関係人材総合プラン2006」として,以下の取組を実施しています(参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/index.htm(※科学技術・学術関係人材の養成・確保についてへリンク))。

1.個々の人材が生きる環境の形成

(1)若手研究者の自立支援

 世界的に優れた研究成果を上げた研究者の多くは,30歳代に,その優れた研究成果の基礎となる研究を行っています。このため,大学などの研究機関においては,公正で透明な人事評価に基づく競争の下,若手研究者に自立性と活躍の機会を与えることを通じて,若手研究者の活躍を促進することが求められます。
 文部科学省では,平成18年度から,科学技術振興調整費による新規課題「若手研究者の自立的研究環境整備促進」を開始しました。本事業により,現在,9大学において,テニュア・トラック制(注1)を導入するとともに,自立した研究活動を促進するため,資金の提供や研究スペースの確保など研究環境の整備が行われています。
 また,科学研究費補助金において,柔軟な発想と挑戦する意欲を持った若手研究者が自立して研究できる体制を整備するための支援を行っています。平成18年度からは,新たに大学等の研究者の職に就いたばかりの者への支援も加えて,約278億円の研究費を計上するなど,若手研究者を対象とした競争的資金の拡充に努めています。
 さらに,ポストドクター(注2)などの若手研究者が,生活の不安なく研究に専念し,その能力を最大限に発揮できるよう,一定期間資金を支給する特別研究員事業(日本学術振興会)を行っています。本事業では,特に,将来の研究活動を担う優秀な博士課程学生に対する支援の拡充を図るとともに,支援対象者の選考審査や評価体制の充実を図るなど,質的な面での充実に努めています。

  • (注1)テニュア・トラック制
     若手研究者が,任期付きの雇用形態で自立した研究者としての経験を積み,厳格な審査を経てより安定的な職を得る仕組み。
  • (注2)ポストドクター
     博士課程終了後,研究者としての能力を更に向上させるため,引き続き大学などの研究機関で研究に従事する者。

(2)女性研究者の活躍促進

 我が国は,研究者数に占める女性の割合が国際的に最低レベルにあります(図表2-7-1)。男女共同参画の観点はもとより,今後の科学技術関係人材の質の確保の上で裾野を広げるためにも,女性研究者の活躍を促進することは重要な課題です。
 このため,第3期科学技術基本計画においては,各研究機関における,期待される女性研究者の採用目標として自然科学系全体で25パーセントが掲げられ,女性研究者の活躍を促進するために様々な取組を進めることとされています。
 文部科学省では,平成18年度から,出産・育児によりやむを得ず研究活動を中断した優れた若手研究者が,円滑に研究現場に復帰する環境を整備するため,研究奨学金を支給する特別研究員事業による支援枠を創設しました。
 さらに,平成18年度から,科学技術振興調整費による新規課題「女性研究者支援モデル育成」を開始しています。これは,大学などの研究機関が行う,研究と出産・育児との両立に関する支援のモデルとなる取組を公募し,優れた提案を支援するものであり,現在,10大学において取組が進められています。

図表●2-7-1 女性研究者の割合(国際比較)

(3)外国人研究者の活躍促進

 外国人研究者の活躍促進は,我が国の研究環境を活性化し,国際競争力を持続・発展させていくために重要です。このため,文部科学省では,「大学国際戦略本部強化事業」を通じて,外国人研究者の受入れのための事務局体制や対外情報発信力の強化を図っているほか,日本学術振興会の外国人特別研究員制度を通じたポストドクターレベルの若手外国人研究者の招へいなどを行っています。

(4)人材の流動性の向上

 創造性豊かで広い視野を有する研究者を養成し,競争的で活力ある研究開発環境を実現するためには,任期制の導入などにより,研究者の流動性を向上し,研究者が様々な研究の場を経験することが重要です。第3期科学技術基本計画においても,大学及び公的研究機関は任期制の広範な定着に引き続き努めることとされており,各機関において任期制の導入が進められています(図表2-7-2図表2-7-3)。

図表●2-7-2 大学の教員等の任期制の導入状況

図表●2-7-3 国の研究機関等の任期制の導入状況

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