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3 体を丸ごと映し出す「分子イメージング」

 分子イメージングとは,生物が生きた状態のまま,生体内の遺伝子やタンパク質などの分子の量や働きをとらえ,可視化する技術です。例えば,がんを診断するときに,以下の図のように,がんに特異的に取り込まれる性質を持った化合物を放射化します。これを標識された分子プローブといいます。それを生体内に投与すると,分子プローブががんにたまり,その放出する陽電子によって発生するγ線をPET(陽電子放出断層画像法)装置で検出し,がんの画像が得られ,診断することができます。また,分子プローブを疾患の原因となる遺伝子・タンパク質に接合する化合物に付け,その動態を見ることによって,創薬にも寄与することができます。

 平成17年度から,文部科学省では,このような分子イメージング技術を活用した創薬プロセスの迅速化,低コスト化や疾患診断の高度化を目指し,競争的資金で「分子イメージング研究プログラム」を開始しました。これによって,理化学研究所が創薬候補物質探索拠点に,放射線医学総合研究所がPET疾患診断拠点に採択されました。
 理化学研究所では,世界最先端の化学−生物学−医学の融合により,分子プローブを高速・高効率かつ安定に化学合成する革新的な技術の開発を行っています。これにより,従来は一つの薬の開発に10〜15年かかり,成功率が約1/11,000だったものを,10年程度に圧縮し,成功率が1/1,000程度に効率化することを目指しています。また,オーダーメード医薬品開発や遺伝子治療・再生治療の実現化も推進しています。
 一方,放射線医学総合研究所では,分子プローブの開発,高性能化,自動合成の技術の開発によって,革新的疾患診断法や治療評価法を確立し,国民の医療水準の向上に貢献することを目指しています。
 さらに,両拠点では,大学と連携することによって大学の持つポテンシャルを有効活用するとともに,分子イメージング分野における高度専門人材の育成を推進していきます。

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