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4 南極地域観測と国際貢献―50年の歩み―

 1956年(昭和31年)のまだ敗戦の傷も癒えない時代に日本の南極地域観測は始まりました。世界の科学者コミュニティを代表する国際学術連合会議(ICSU)は,1957年(昭和32年)7月から1958年(昭和33年)12月の期間を国際地球観測年(IGY)と定め,地球物理学的な現象の解明のため,世界各国が協力して各地で観測する計画を決定しました。その観測計画の一環として南極地域における観測も計画され,我が国にも参加について勧告がなされました。国内においては,日本学術会議の要望に沿って,文部省(当時)をはじめ関係機関の協力の下にこれを一体的に推進するため,南極地域観測統合推進本部(本部長:文部大臣(当時))の設置について閣議決定を行いました。これを受けて1956年(昭和31年)11月8日に最初の観測隊を東京晴海から南極観測船「宗谷」に乗せて派遣し,1957年(昭和32年)1月29日に昭和基地を開設しました。以来,我が国は1962年(昭和37年)に国際地球観測年の終了などにより一時中断しましたが,1965年(昭和40年)の再開以降,海上自衛隊の協力のもと,現在まで継続して50年にわたり南極地域観測を実施しています。
 また我が国は,南極条約の原署名国として採択に加わり,現在も南極条約協議国の主要なメンバーとして南極条約体制(1南極地域の平和利用,2科学的調査の自由と国際協力の推進,3領土権主張の凍結などを基礎とする)の維持に貢献しています。
 南極地域観測は地球的規模での大きな科学的成果が期待でき,学術の水準を上げるための「研究観測」と,国際的観測網の一翼を担い継続性が第一義的に求められる「定常観測」に分けて実施しています。定常観測は気象庁,国土地理院,海上保安庁,情報通信研究機構がそれぞれに各観測を担当し,研究観測は極地科学に関する総合研究の中核拠点である情報・システム研究機構国立極地研究所が全国の大学等の研究者コミュニティと強く連携しつつ,推進しています。
 50周年を迎えた南極地域観測の成果としては,南極オゾンホール発見への貢献,南極でのいん石採取(約1万6,200個)による惑星進化過程解明への貢献,過去の地球規模の気候変動の復元への貢献などが挙げられます。特に,平成18年は南極のドームふじ基地での氷床掘削により深さ約3,029メートルの氷床コア(氷床から掘り出した筒状の氷)の採取に成功し,過去約72万年分の気候変動に関する情報を入手できました。
 地球環境問題を含め,地球システム全体を理解するためには,全世界的な協力体制が不可欠です。日本の国際貢献の一つとして,今後も南極地域観測事業を継続していきます。

▲南極条約原署名国(12か国)の国旗が立ち並ぶ南極点

▲氷床下3,028.52メートルから掘り出された氷床コア

(資料提供:国立極地研究所)

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