第1節 個性が輝く大学を目指して

2.大学の質の保証と向上のための制度改革の取組

(1)設置認可制度の的確な運用

 大学の設置や組織改編は,大学の質の国際的な通用性の確保や学生保護のため,設置審査などの所定の手続を経て行われます。公私立大学の場合,文部科学大臣による認可が必要です(学校教育法第4条)。国立大学については,国立学校であるため認可を必要としませんが(注1),公私立大学に準じて,設置審査を経ることとしています。
 文部科学大臣は大学の設置などの申請を受けると,申請内容が大学設置基準などの法令に適合しているかどうかについて,大学設置・学校法人審議会に認可の可否を諮問します(学校教育法第60条の2)。学識経験者などから成る審議会が専門的な見地から書面・面接・実地により審査を行い,一定の教育研究水準が確保されていると認めたものについて,文部科学大臣が認可を行います。
 他方,学問の発展や社会の変化・ニーズに適切に対応した大学の組織改編を促進し,大学間の自由な競争を促進することも重要な課題です。文部科学省では,「事前規制から事後チェックへ」という規制改革の流れを踏まえ,平成15年4月から,次のような設置認可制度の大幅な弾力化を進めました。

  • 1大学・学部などの新増設や収容定員の増加を原則として認めない取扱い(「抑制方針」)を,医師の養成など一部の分野を除いて原則として撤廃(注2)
  • 2大学が授与する学位の種類や分野を変更しない学部・学科などについて,届出による設置を可能化
  • 3これまで様々な形式で規定されていた大学の設置認可に関する基準について,一覧性を高め明確化を図るため,告示以上の法令で規定

 これらの一連の弾力化の結果,大学の新設や組織改編が活発に行われています(参照:本章第4節1(1))。
 なお,「事後チェック」の一環として,平成15年4月から,学校教育法や大学設置基準などの法令違反の状態にある大学に対し,学生保護のため,改善勧告,変更命令,内部組織の廃止命令,大学の閉鎖命令という段階的な是正措置を文部科学大臣が講じることができるようになりました。
 また,専門職大学院制度の創設などを契機に,申請内容の多様化が一層進んできていることから,文部科学省は,平成16年度の設置審査から,産業界の有識者などを「参考人」として委嘱し,審査の参考とする仕組みを取り入れました。
 さらに,平成17年1月の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」は,大学の質の保証を「国としての基本的な責務」として強調し,設置認可制度の的確な運用の必要性や事後評価との適切な役割分担と協調の重要性について提言しています(参照:本章第1節1(1))。

  • (注1)国立大学法人による国立大学の設置や組織改編は,法律の制定や中期目標・中期計画への記載等の手続によって行うこととなっている。
  • (注2)さらに,平成17年4月から,教員養成の抑制を撤廃した。

(2)認証評価制度

 平成16年度から,学校教育法において,すべての国公私立の大学,短期大学,高等専門学校(以下,「大学等」という。)が定期的に,文部科学大臣の認証を受けた第三者評価機関(認証評価機関)から評価を受ける制度を導入しました。
 この制度は,次のことを目的とするものです。

  • 評価結果が公表されることにより,大学などが社会による評価を受けること
  • 評価結果を踏まえて大学等が自ら改善を図ることによって,大学等の教育研究活動等の質が向上すること

 なお,この制度で実施する評価には次の2種類があります。

  • 大学等の総合的な状況の評価(7年以内ごとに実施)
    • 大学等の教育研究,組織運営及び施設設備の総合的な状況についての評価
  • 専門職大学院の教育研究活動の評価(5年以内ごとに実施)
    • 専門職大学院の教育課程,教員組織その他教育研究活動の状況についての評価

 この評価制度の特色としては,

  • 各認証評価機関が自ら定める評価基準に従って評価を実施すること
  • 大学等が複数の認証評価機関の中から評価を受ける機関を選択すること

 が挙げられます。これらにより,大学等の自主性・自律性に配慮しつつ,各大学等の個性が適切に評価される仕組みになっています。
 なお,文部科学大臣は,評価機関としての認証の申請があった場合,評価基準,方法,体制などが一定の基準(認証基準)に適合すると認められる場合に,中央教育審議会で審議した上で認証しています。これまでに5機関が認証評価機関として認証されました。これらの機関は平成17年度までに大学67校,短期大学32校,高等専門学校18校の評価を行い,その結果を公表しています。
 今後は,これら認証評価機関による評価によって,大学等の質が保証されるとともに,大学等の教育研究活動の活性化や個性輝く大学づくりがより一層推進されることが期待されています。
 また,大学がその社会的責任を果たしていくためには,自らの教育研究の理念・目標に照らして,教育研究活動の状況を不断に点検・評価し,自らの責任において自己改善へ努力していくことが基本となります。そのため,上記の認証評価制度とは別に,学校教育法において,すべての大学が自己点検・評価を行い,その結果を公表することを義務付けています。

(3)国際的な高等教育の質保証

 高等教育をめぐっては,学生や教員交流の進展,高度専門職業人等の各国間移動という国際的な人材流動性の高まりとともに,高等教育機関の海外分校の設置,外国の教育機関との連携による教育プログラムの開発・実施,eラーニングなどを通じた国境を越えた教育の提供など,国際的な大学間の競争と協働が進展しつつあります。一方で,学費の対価として安易に制度に基づかない「学位」を取得させる非正統的な教育機関(いわゆる「ディグリー・ミル」)が,一部の外国を中心として問題となっています。
 このような情勢の中,ユネスコ(国際連合教育文化機関)やOECD(経済協力開発機構)などの国際機関をはじめとした各国間の協力による高等教育の質保証に関する国際的な検討が進められています。平成17年秋には,ユネスコ/OECDにより,ディグリー・ミルや質の低い高等教育から学生などを保護するため,高等教育の質保証に関する国際的な協力の促進を目的とした,「国境を越えて提供される高等教育の質保証に関するガイドライン」が策定されました。
 我が国としても,高等教育の国境を越えた展開に対応できるよう,平成16年12月に所要の制度整備を行い,文部科学大臣が指定した外国大学等の日本校の課程を修了した者に,我が国の大学院等への入学資格を認めるなどするとともに,これらの課程において得た単位を我が国の大学等において認定できるようにしました。また,我が国の大学が外国において教育活動を行う場合,大学設置基準などを満たしているものについては我が国の大学の一部と位置付けることを可能としました。
 今後とも,上記ガイドラインも踏まえ,高等教育の質保証に積極的に取り組むとともに,高等教育の質保証に関する国際的な情報ネットワークの整備の在り方などについて検討を進めることとしています。

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