コラム8 世界のトップレベル研究拠点の例

カーネギーメロン大学ロボット研究所

 ピッツバーグにあるカーネギーメロン大学は、他の総合大学と比較すると、メディカルスクールやロースクールを持っておらず、また歴史が浅いために財政基盤が決して豊かではない。このため、特定分野に戦略的に資源を集中して投資するという経営哲学を実践してきた。ロボット研究所は、1981年、カーネギーメロン大学の強みであるコンピュータ科学と人工知能研究を活かし、ロボット研究分野の研究拠点をつくる、とのビジョンの下に設立された。初代の研究所長ラズ・レディ博士は、この大学の強みを前面に打ち出し、資金と人材の獲得に精力的に動いた。研究所にロボット分野における世界クラスの優秀な研究者が集まり始めると、これらの研究者を慕って、次の世代の優れた人材が集まるようになり、「人が人を次々に引きつける好循環」が生まれたといわれている。人材の好循環は次に、トップレベルの研究拠点としての「人材のクリティカル・マス(研究人材の多様性、重層性とそこから生まれる創造性の高さ、ネットワーク、領域融合)」をもたらす。このようにして、ロボット研究所は、ロボティクス分野のトップレベルの研究拠点と目されるようになった。なお、ロボット研究所は、米国の大学には珍しく、研究者の内部昇進率が高いという特徴を持つ。これは、ロボット研究所が研究者を新規採用する際に、若い人材を優先する方針をとり、さらにその審査の際に、レターによる大学外同分野の著名な研究者のピア・レヴュー結果を反映するなど、相当に厳しいスクリーニングを実施し真に優秀な研究者を採用している結果である。


カーネギーメロン大学ロボット研究所

写真提供:第55回総合科学技術会議、2006年5月

アリゾナ大学カレッジ・オブ・オプティカルサイエンス

 アリゾナ大学の一部門であるカレッジ・オブ・オプティカルサイエンスは、1969年、アリゾナ州の中核都市ツーソンに設立された。光学を専門とするカレッジの設立に際しては、偵察衛星研究の第1人者だったマイネル・エイトン博士が、連邦政府に働きかけるなど中心的な役割を果たした。当時、米国内には光学専門の研究プログラムを持つ大学が1校あるだけであり、エイトン博士は「工学の研究を専門に行う大学が必要である」との明確なビジョンと強いリーダーシップをもって、連邦政府を動かしたといわれている。このエイトン博士のビジョンを、研究において実現する研究リーダーの役割を担ったのが、1973年にヘッドハンティングされたピーター・フランケン博士である。フランケン博士は外部から優秀な研究者をスカウトするなど、カレッジの組織確立に優れた手腕を発揮した。現在のカレッジの学部長ワイアント博士も、当時フランケン博士にスカウトされたメンバーで、フランケン博士、及び博士にスカウトされたほかの研究者と共に研究することに魅力を感じ、アリゾナ大学にやってきた。フランケン博士がカレッジに人材を集める際にとったのは、「優れた研究者をスカウトすることが、次の優れた人材のスカウトにつながる」という戦略である。アリゾナ大学カレッジ・オブ・オプティカルサイエンスは今や、この戦略の通りに、世界中から優秀な人材(研究者、学生)が集う研究拠点として成長している。


アリゾナ大学COSからキャンパスを見下ろす

写真提供:科学技術政策研究所

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