図書館経営

3  これからの図書館サービス実現のために必要な取組

 
1  図書館経営
 
(1) 図書館経営の基本
 
(1-1) 基本的な考え方
 
 これまで不十分であったレファレンスサービス,調査研究の援助,時事情報の提供,専門的資料の提供,有職者へのサービス等を充実させるには,図書館の経営方針,資源(人・物・資金)の配分の優先順位や比率の見直しが必要である。
 資源の配分のための枠組みとしては,図書館法で規定されている目的である「教養,調査研究,レクリエーション」,サービスの方法では「貸出・リクエスト,レファレンス・情報発信」が考えられる。これらの間で適切なバランスを計画し,計画通りに実行することが必要である。
 住民ニーズは多様化しているが,利用者は必ずしも専門的なサービスを意識しないため,多様なサービスを図書館側から提起することが重要である。
 図書館には,職員やボランティアなどの人の資産,蔵書などの物の資産,図書館の設置場所,多数の利用者など様々な資産があるが,これを洗い出し,関係者にアピールすることによって新たな利用や協力が生まれるようにすることができる。また,施設に多少の追加投資を行うことによって,利用者や他の機関にとっての価値を増加させることができる。
 図書館と他の機関がそれぞれ持つ資源を出し合い,共同で事業を行うことによって相乗効果を発揮できる(1プラス1イコール3になる)場合がある。例えば,多くの人が集まる図書館を会場として,各種のセミナー,公開講座を他の機関と共催したり,他の機関が主催する様々なイベントに図書館が参加し,図書館資料を展示したり,文献リストを配付したりすることは効果的である。
 予算の獲得方法や住民の満足を得るための取組など,図書館経営に関する具体的な行動指針を作成し普及させるべきである。
 文化施設の建設位置や利用しやすくするための工夫などを図書館も参考にするべきである。
 社会のニーズをとらえ,図書館の運営の参考資料を得るために,国,都道府県の政策指針,政策情報,先進的図書館の活動事例や関係資料などを積極的に収集することが必要である。そのためにも,情報技術の活用が求められる。

(1-2) 図書館予算の確保
 
 図書館の運営のための財源確保については,地方公共団体自らによる努力と工夫を求めたい。
 必要な予算を確保するためには,図書館への投資によってどのように社会がより良く変化するかを示すことが必要である。
 一定の図書館予算を確保することによって,高いレベルのサービスが実施でき,大きな成果が得られれば,予算を支出する意味がある。
 国のモデル事業は,国の支援の終了後も事業を継続させるとともに,その評価・普及を行うことが必要である。

(2) 図書館職員の職務内容と組織改革
 
(2-1) 職務分担と組織改革
 
 多様な種類の職員を,その資格,勤務経験,教育・研修歴,雇用形態等に応じて,適切な業務に配置することによって,業務の生産性を高めることが必要である。
 貸出業務の中の単純作業を非常勤職員の担当とすることによって,レファレンス業務に正職員の司書を充てることができる。
 個々の職員の能力を生かすとともに,全体でチームワークを発揮できるような組織運営を行う必要がある。
 利用者のニーズの変化や新しいサービスに迅速に対応できるように,チーム,グループ制などの柔軟性のある組織の導入について検討すべきである。

(2-2) 司書の職務内容と採用
 
 これまで,司書の専門的業務の内容が不明確だったので,業務内容を明確にする必要がある。
 司書の専門的業務としては,地域社会のニーズの把握,地方公共団体の施策の把握,図書館運営の企画立案,サービス計画の作成,地域の組織・団体との連携協力,地域の課題や要求に応える資料の収集とコレクションの構築,レファレンスサービスと情報提供サービス,貸出サービスの管理,リクエストサービス,利用者別サービス(児童・青少年,障害者,高齢者,多文化サービス等)の計画と実施,図書館の経営・管理など,専門的知識と一定の経験年数を必要とするものを挙げることができる。判断を必要としない単純な繰り返し業務は除くべきである。
 司書有資格者を確保するには,司書の専門的職員としての採用が望ましいが,当面,地方公共団体の職員で司書資格を持つ職員を優先的に配置すること,司書有資格者を地方公共団体の事務職員として採用し,図書館に配置することが望ましい。
 司書の専門職としての採用を進めるには,司書の職務内容,人事管理のあり方を明確化するとともに,養成教育の充実,体系的な研修を進める必要がある。
 職員採用の際,図書館勤務の経験や一定の学習歴などを求めることも考えられる。
 司書は,地方公共団体の行政施策や行政手法について認識を深める必要があり,人材育成の観点から,企画部門,調査部門などその能力を発揮できるような職場の業務を経験することも必要である。

(3) 図書館長の役割
 
 図書館を社会環境の変化に合わせて改革するには,図書館の改革をリードし,図書経営を中心となって担う図書館長の役割が重要である。
 図書館の運営の方向を定める図書館長の役割はもっと重視されるべきである。図書館長は,図書館の役割と意義を十分認識し,職員を統括し,迅速な意思決定を行うことが必要である。それには,実質的に経営を行うのに必要な勤務体制と権限を確保する必要がある。

(4) 図書館と他の機関との連携・協力
 
(4-1) 連携・協力の在り方
 
 近隣の地方公共団体が協力して,図書館間の連携を図り,サービスエリアを拡大して他の図書館のサービスも受けられるようにすることが望ましい。
 資料の保存,相互貸借,データベースの維持等を,周辺市町村の図書館及び他の機関の図書館との協力組織によって行うことを検討する必要がある。財政規模が小さな自治体であっても,一定程度のサービスが確実に保障できる仕組みがあることが望ましい。
 図書館は,広範な知識や情報を提供するため,他の公の施設とは異なり,ネットワークを前提に事業を行っている。この特徴を踏まえた運営管理が必要である。
 図書館間のネットワーク形成,運営の経費負担のあり方について検討が必要である。コンソーシアムの設置や協力協定などの工夫が必要である。

(4-2) 学校図書館,大学図書館,他の社会教育施設との連携
 
 公立,学校,大学等の館種を越えた図書館の間で情報や資料のネットワークの構築が必要である。図書館と他の社会教育施設(公民館,博物館等),その他の公的施設との連携が必要である。
 子どもの読書や授業での学習に学校図書館資料の利用が進んでいるが,学校図書館の資料だけでは十分ではないため,学校図書館への支援を積極的に行う必要がある。学校からの依頼に対して資料の貸出やレファレンスサービスを行うとともに,司書教諭,学校司書など学校図書館担当職員の研修への援助や情報提供が必要である。
 児童・生徒の読書習慣を育てるために,小中学校を中心に朝の読書や読み聞かせが行われており,図書館の協力が期待されている。児童・青少年向けの資料の充実,学校図書館や学級文庫等への資料の貸出が必要である。
 大学図書館との協力によって専門的なレファレンス質問への対応が可能になっているため,協力体制の拡充に努めるべきである。
 国立大学をはじめとして大学図書館の公開が進んでいるため,レファレンスサービスを通じ,住民が大学図書館の持つ専門的資料を利用できるよう案内すべきである。

(4-3) 行政部局,各種団体・組織との連携
 
 教育委員会や教育機関の枠を越えて,自治体の様々な部局や機関と連携するとともに,図書館の役割や効用をアピールすることが必要である。
 行政部局,商工会議所,市民団体,学校等と連携し,その組織を通じて,有職者にPRし,情報提供サービスを行うには,レファレンスサービスの確立が必要である。
 地方公共団体の庁舎内に行政資料室を設置し,自治体職員や住民に行政関係の資料を提供している例があるが,政策立案や自治体学習を支援する上で効果的である。図書館や議会図書館と連携協力すると,特に効果的である。
 地方公共団体の庁舎内に図書室をもうけ,図書館と協力して,各部局が共通して利用する専門書や雑誌,有料データベースなどを収集し,新聞・雑誌記事や論文に関する情報を司書が提供すれば,地方分権によってますます重要となる政策立案や事業の検討に役立つ。また,行政部局がそれぞれ専門的な図書・雑誌を購入しているが,その多くは部・課内での利用にとどまっており,整理・保存も不十分である。これらの資料には貴重なものも多いため,その所在情報をここで管理・提供すれば,他部局や住民も利用することができる。
 障害者・高齢者・多文化サービスについても,図書館だけの取組に終わらないように,他の部局と連携してサービスを進める必要がある。

(5) 著作権
 
 図書館が「地域の情報拠点」となることによって,社会全体の情報や知識の流通が促進される。それは,著作者にとっても著作物の利用者にとっても有意義である。そうした社会の実現に向けて図書館は大きな貢献ができる。
 「地域の情報拠点」となるためには,利用者の求めに応じて迅速かつ適切に資料を提供することが求められる。このためには,例えば,図書館におけるインターネット上の情報源のプリントアウト,相互貸借資料の借受図書館での複写,図書館資料のファクシミリ送信や障害者のための資料変換等に関する制度の見直しが必要である。

(6) 図書館活動の評価
 
 図書の貸出以外に,多様なサービスが提案され,実施されているため,評価の在り方を全面的に見直し,提案に対応した評価のあり方を考える必要がある。
 図書館の行政評価や政策評価の際にどのようなアウトカム指標を設定するべきかを検討する必要がある。
 図書館統計のJIS規格化の作業が進められており,評価プロセスが変更されることが考えられる。
 「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」注釈12や『2005年の図書館像』注釈13に示された新しい図書館をめざす取組に対する評価が必要である。
 図書館の地域情報拠点化のための取組の評価は,その内容から,図書館や教育委員会だけでなく,首長部局の関係者も含めて,行政全体で行うべきである。
 行政部局に対して支援サービスを行っている図書館は,職員が継続利用していることや予算要求に際して理解があることなどから,高い評価を得ていると評価できる。

注釈12  「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(文部科学省告示)(2001)
注釈13  文部省地域電子図書館構想検討協力者会議『2005年の図書館像-地域電子図書館の実現に向けて-(報告)』2000,37ページ.

(7) 広報・PR
 
 図書館は,図書館サービスが地域の発展に寄与していることについて広く理解を得るように努力すべきである。
 首長や自治体の幹部職員に対して,行政支援やビジネス支援などの取組を紹介することによって理解を深めてもらうことが重要である。
 図書館には,自治体広報誌のほかには効果的な広報手段がないため,学校,市役所,社会教育施設,商工会議所,市民団体等の組織・団体を通じて広報すると効果的である。特に有職者へのPRに際して効果的である。また,あらゆる機会を捉えて,マスコミに情報提供すべきである。
 「困ったときには図書館へ」,「分からなければ司書に聞け」というキャッチフレーズが住民の意識に浮かぶように,図書館の積極的なアピールが重要である。
 図書館のホームページによって,これまで図書館,特にレファレンスサービスを利用してこなかった人々に図書館とレファレンスサービスをPRすることができる。


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